なぜ、香川県丸亀市でうどん作りが盛んなのか?― 食文化から地域を読み解く 【食×授業#4】
もし、1月にこの授業をするなら、私は最初にこんな問いを投げかけるでしょう。
「皆さん、年越しそばは食べましたか?」
多くの生徒が手を挙げます。理由を聞くと、
「細く長く生きられるから」
「切れやすいから、一年の厄を切るため」
といった答えが返ってくるでしょう。
そこで、もう一つ付け加えます。
「実は最近、“年越しうどん”を食べる地域もあるんです」
少しざわつく教室。
「そばじゃないの?」
「どこそれ?」
食文化は全国一律ではないことを確認したところで、今日の授業の本題に入ります。
なぜ、香川県丸亀市でうどん作りが盛んなのか?
その背景にある「地理」と「歴史」を紐解いていきましょう。
1.香川の“うどん愛”は、想像を超えている
まずは、香川県のうどん文化がいかに特別か、生徒たちの興味を引くエピソードを紹介します。
県庁ぐるみの「うどん県」PR
香川県は正式に「うどん県」を名乗り、観光ポスターや動画でもうどんを前面に押し出しています。行政がここまで一つの食を推すのは、全国的にもかなり珍しい例です。Jリーグチーム「カマタマーレ讃岐」
チーム名の由来は、もちろん「釜玉うどん」。スポーツチームの名前に郷土料理が入っているのです。高松空港の“蛇口をひねると出汁が出る”演出
観光客向けとはいえ、「蛇口=うどん出汁」という発想自体が、香川らしさそのものです。
ここまで話すと、生徒からはこんな声が漏れます。
「もう、うどんが生活の一部じゃん」
「好きとかじゃなくて、当たり前なんだね」
香川において、うどんは特別なごちそうではなく「日常」そのもの。この距離の近さを実感してから、メインの考察に入ります。
2.ヒントは『ブラタモリ』にあり
「なぜ、香川県丸亀市では、こんなにうどん作りが盛んなの?」
この問いに対し、生徒たちは地図帳や教科書を手に
「あーでもない、こーでもない」
と話し合い始めます。そして・・・
「海が近いから、だしの原料(煮干し)が取れる?」
「うどんの原料って小麦だよね。小麦が育ちやすいのかな?」
などど、根拠を持った自分たちの仮説を立てていきます。
ここで登場するのが、NHKの人気番組『ブラタモリ』の視点です。
「讃岐うどんはなぜ名物になった?」の回(2017年1月4日放送)では、
丸亀市でうどんが発展した理由を、以下の3つの視点で整理していました。
① 気候:雨が少なく、乾燥している
香川県は瀬戸内海式気候で、雨が少なく乾燥しています。これが「小麦栽培」に最適であり、同時に「塩作り」を発達させました。うどんに欠かせない小麦と塩が揃う条件があったのです。これは、地図にあるため池や塩田の跡地などからも読み取ることができます。
② 地形:水はけの良い「扇状地」
丸亀市周辺には、水はけの良い扇状地が広がっています。小麦作りに適した土地である一方、川が多く、粉をこねて麺を打つための「水資源」も確保しやすい場所でした。
③ 歴史:空海と金毘羅参り
歴史的な背景も見逃せません。弘法大師(空海)が中国から製麺技術を持ち帰ったという説や、金毘羅参りの参拝客に向けた「胃に優しく、手早く食べられる食事」としての需要。信仰と人の移動が、文化を支えてきました。
そして、地理の授業では、4つ目の視点も欠かせません。
それは、生徒たちも地図から見つけた瀬戸大橋の開通です。
近代。瀬戸大橋の開通により、「うどん目当て」の観光客が急増します。これにより、地元の食文化が「全国区の観光資源」へと進化を遂げたのです。
3.うどんは「偶然」ではなく「必然」だった
ここまで整理すると、一つの結論が見えてきます。
讃岐うどんは、単に「たまたまおいしかったから」広まったのではありません。
気候、地形、歴史、交通。
これら全ての条件が重なった結果、丸亀市を中心にうどん文化が根付いたのです。まさに「必然」の産物と言えます。
最後に、こんな問いを投げかけて授業を終えました。
「このうどん文化を、これからどう守り、伝えていくべきだろう?」
観光に頼りすぎて、地元の人の“日常”が壊れていないか?
伝統的な製法や味を、次世代にどう繋ぐか?
食文化は、当たり前にあるものだと思っていると、いつの間にか失われてしまうかもしれません。だからこそ、その背景にある「理由」を知ることが、守るための第一歩になるのです。
執筆後記
今回の「料理×授業」では、身近な食べ物から地理的条件や歴史的背景を読み解く試みをしました。生徒たちが地図帳を広げ、一杯のうどんの裏側にある「地球の営み」に気づく瞬間は、教師としても非常に面白いものです。
今日の話が、社会科の面白さを思い出すきっかけになれば嬉しいです。 このテーマを「中学社会科の視点」で読み解く授業は、メンバー限定でお届けしています。 土曜夜の社会科教室で、学びなおしを一緒に楽しみませんか。
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