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ハリウッドの現場で学んだ「キーイングの10ヶ条」:合成の質を分ける本質的な思考


お久しぶりです!!


仕事で少し・・いやだいぶ・・立て込んでおりました・・。Xでかろうじて情報発信系の投稿は続けていましたが、noteは完全にストップしてしまいました。
完全にストップはしたくなかったんだけど・・原因は、この子です・・(他責)

個人的に落ち着いたのでnote、少しずつ再開していきます!
今回は、X投稿で匂わせたコンポジットの「キーイング」に関してです。

私は直近10年以上、ハリウッド映画案件で「実写合成コンポジター」のみやってきました。そこで痛感したのは、キーイング(グリーン/ブルースクリーンバックの切り抜き合成)は「一言で解説できない」モノだということです。
しかし今、経験を経て、大きい「全体像」が見えてきたので「10ヶ条」としてまとめ、シェアします。

私の他の記事と同じく、基本的にソフトに依存しない考え方です。ベテランなら無意識にやっている、けれど初心者が陥りやすいポイントを整理しています。

初心者のうちは「どのツールを使えば綺麗に抜けるのか?」という答えを探しがちです。私も実際そう思っていましたし、そういう質問をされたこともあります。
しかし、ツール以上に「どう考えるか」という視点が重要になります。


第1条:「答え」を求めない


いきなり現実から入りますが、キーイングに「このやり方なら正解」という魔法のテクニックはありません。 素材がどのように撮影され、どんな背景と合わせるのか。その条件によって作業内容は大きく変わります。これからご紹介する普遍的な「注意点」はあっても、普遍的な「正解のツール」はないと心得ましょう。

例えば、下の画像の撮影素材を見てみてください。キーヤーツールひとつでは絶対うまくいかないであろうことが想像できます。そもそも全体がスクリーンでカバーされていません。これは、物理的/時間的/予算的な制約によるものが多く、これが現場の現実で、経験上綺麗なスクリーンよりもむしろこのようなツギハギパターンが多いです。

この例では、カメラがかなり上を向いているのが「ツギハギ」にせざるを得なかった大きな理由と推測できます。(天井は照明があるので天井にグリーンは貼れない。主人公を照らす照明をグリーンで隠しては本末転倒etc.)

引用:ILM: Behind the Magic of the Star Wars: The Force Awakens


引用画像の元ビデオはこちら:ILM: Behind the Magic of the Star Wars: The Force Awakens

第2条:RGBとAlphaの処理は「分ける」のがセオリー


キーイングする際、色(RGB)を整える処理と、切り抜き(Alpha)を作る処理は、できるだけ別々のラインで進め、最後に合流させましょう。 これを混ぜてしまうと、片方の調整がもう片方に悪影響を及ぼし、管理が複雑になります。シンプルで整理されたワークフローが良い結果を生みます。

第3条:「キーヤー」という道具に縛られない


例えば、「キーイング」と聞いたとき、Nukeなら「IBKGizmo」「Keylight」などのキーイング専用ノードを思い浮かべますが、それが全てではありません。 私はルマキー(明度からキーを取る)もよく使います。
時にはR, G, Bのチャンネル値を組み合わせてアルファを作る方が綺麗に抜けることもあります。定石としてキーヤーツールから入るのは良いですが、行き詰まったらキーヤーツール以外にも目を向ける柔軟さを持ちましょう。

過去の私のYoutube動画もご参考ください。Nukeを使用していますが、考え方は他ソフトにも当てはまります。


第4条:最終調整の前にライティングの不一致を見直す


合成の成否は、キーイングよりも「ライティング」で決まっています。 背景と前景(素材)の光の向き、強さがズレていれば、どんなに完璧に切り抜いても合成は馴染みません。「背景側を前景のライティングに寄せる」といった判断が時には必要です。
光が焼き込まれているので限度がありますが、「前景のライティングをコンポジットで背景に寄せる」こともあります。

このようなライティング調整はキーイングした後のエッジ処理に大きく影響を及ぼすので、ライティングを調整してからエッジ処理などの最終調整をしましょう

第5条:ライトラップで「ごまかす」のをやめる


なぜかコンポジットチュートリアルによくあるライトラップ(エッジに背景色を回り込ませる処理)
しかし、キーイングしたものが背景に馴染まないからといって、安直にライトラップを盛るのは禁物です。 特にチュートリアルで見かけるような過度なライトラップは、実写映像では不自然です。VFXスーパーバイザーが「ライトラップを外して(弱めて)。光学的にありえない。」とリテイクしているのを、ハリウッド現場で何度も見ました。

はっきり断言します!ぱっと見わかるほどのライトラップは実写合成では「フェイク」感が強く、嫌われます。

「むしろ使う方が効果的な状況」であれば、「広く、薄く、リアルな光の減衰」を意識しましょう。
私の過去ブログで光の減衰に付いて書いているので、こちらもどうぞ。


第6条:エッジ問題はalphaでなくだいたいrgb


エッジに黒ずみや白い浮き(エッジ問題)が出たとき、原因はアルファの切り抜き精度ではなくRGB側にある確率が高いです。 よくあるのはデスピル設定ですね。前景のエッジと背景の明るさが乖離しているほど問題が出やすいため、アルファをいじる前に、RGB側の色のなじみを疑ってみましょう。

全く同じアルファでも、デスピル処理でエッジの見え方が変わる

第7条:エッジを「削る」のではなく「修正」する


エッジが悪目立ちするからと、アルファを内側に削りすぎていませんか? これ、初心者さんあるあるです。それは撮影された貴重なディテールを捨てているのと同じです。映画案件だとクオリティチェックが厳しいので、「ディティールがなくなってる」と上司やクライアントに修正指示されます。映画案件でなくても、基本は「削って」細くするのではなく、エッジのカラーを背景に合わせて補正(エッジ処理)することで、情報を残したまま馴染ませましょう。

第8条:Merge(合成)のモードを使い分ける


例えば、Nukeでは、キーイングしたあと「Merge>Over」で重ねるだけが正解ではありません。 金髪か?黒髪か?モーションブラーの激しい前景プレートか?によってMergeノードのPlus(加算)やMultiply(乗算)、Max(最大値)、Min(最小値)などを使い分けるのは良くあります。背景のピクセル値が非常に高い場合、前景エッジが光に「食われる」現象が起こる場合もあります。そのような場合はログスペースで合成したり、合成前に背景の値を落とすといった工夫が必要です。

Nukeで使うMergeの仕方の例

第9条:ペイント・ロト(手作業)は避けて通れない


キーイングのノードを繋いで、パラメーターいじって、合成、完成!・・というのはむしろ稀なパターンです。 「モーションブラーの背後に不要なものが写り込んでいる」といった状況では、どうしても手作業のペイントが必要になります。複数のキーイングを場所ごとにミックスするのに、ロトを切るのは日常茶飯事。時間はかかりますが、クオリティを突き詰めるなら、最後は泥臭い手作業が避けられないことを念頭に。

以下画像、仕事で実際に組む感じに構成を近づけました。赤丸部分はフレーム単位でのペイント/ロト調整となります。

第10条:練習するときは必ず「背景」を用意する


「綺麗にキーイング抜けた!」とチェッカーボードの上で満足していませんか? それでは練習の10%しか終わっていません。キーイングの一番大事な部分は「背景と合わせた時にどう見えるか」です。常に合成後の画をイメージし、実際の背景素材と組み合わせて練習してください。


さいごに

第1条でご紹介したとおり、「あーキーイングはね、こうすればいいよ。」と一言で済むことは絶対ありません。その原因の多くは撮影されたグリーン/ブルースクリーン素材と、合成する背景に激しく依存するからです。こればっかりは、ケースバイケースで対処していくしかありませんが、今回ご紹介した10ヶ条がすこしてもヒントになれば幸いです!

おすすめ本


はっきり言って高いです。そして英語です。でも練習用データたっぷり、内容の質を考えたら値段に見合っている・・いやそれ以上かも、と私は思います。
キーを抜く作業とは数値的に何をしているのか、値のグラフとともに非常にわかりやすく解説されている、わたしのバイブルのうち1冊です。使用ソフトウェアを問わない知識が身につきます。本気の人におすすめ。


もしこの記事で「それってどういうこと?」「ここもう少し深掘りしてほしい」等ありましたら是非コメントをお願いします。

では!

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Shiz|元・海外VFXコンポジターの一生終わらない学び記録 ご支援いただけると大変励みになります。 いただいたご支援は本代など勉強に役立てて、知識として皆さんにお返ししていきたいと思っています。