【XG THE CORE 考察 #9】PS118 | メンバー自筆リリックに刻まれた、4人のリアルラッパーとしての証明
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XGの1stアルバム『THE CORE』の最後を飾り、ラップライン4名が自らペンを執った、ノーギミックで極めて硬派なストロングスタイルのHIPHOPナンバー"PS118"。
結論から言えば、この曲のリリックとラップの完成度は、世界で通用するレベルのクオリティです。
リアルガチです。
グランドマスター・フラッシュやビースティ・ボーイズへの深いオマージュ、5単語6音節を同時に繋ぐ高度なライムスキームの職人技、そして「外宇宙へと還っていく」アルバム全体の壮大な伏線回収まで。
HIPHOPのマナーと知識をベースに、メンバー4人のリアルな想いとスキルの凄まじさを、音楽オタクの視点から徹底的に深読み・解説します。
この記事は、僕が感じたこの曲の凄さをなんとか言語化したくて書きました。
この曲のリリックを読み解くにはHIPHOPのマナーと知識が必要ですが、HIPHOPにあまり詳しくない方でも分かるように心がけて解説しました。
この記事を読めば、メンバーの想いやリリックの凄さを知ることができ、この曲を数倍深く楽しめるようになります。
長いので、気になるところだけ流し読みしても大丈夫です。
曲の概要
アルバムの最後を飾るのは、ラップライン4名によるHIPHOPです。
この曲はもともと、Jurinのソロデビュー曲としてシングルリリースされ、シングル盤ではアメリカのフィーメール・ラッパーであるラプソディが共演でした。
ラプソディと共演するって凄い事です。
ちなみに僕は「2025年に聴いたベストアルバム」の1位にラプソディの"Please Don't Cry"を上げています。
今回は、ラップラインの4人により内容が再構成され、XGの曲となっています。
タイトルの"PS118"は楽曲制作時のファイル名です。
なんかカッコいいのでそのまま曲名にしてしまったと、Jurinが語っていました。
もしかして118番目の"Project Song"とかそんなファイル名のつけ方なのかな?
今回のアルバムでは使われなかった曲がまだたくさんありそうです。
歌詞の全文和訳と解説
この曲の作詞クレジットには、Jurin、Cocona、Maya、Harveyが記載されています。
つまりこの曲の歌詞はラッパー4名が中心になって書かれているということです。
もちろんXGクルーのサポートを受けてでしょうが、作詞においてクレジットに載るほどの貢献をしているということです。
そう思ってこの歌詞を読むと、メンバー各々のリアルな想いが浮かび上がってきて、非常に楽しめます。
Verse 1 [Jurin]
[Jurin]
Aight, lemme talk to 'em
よし、話させて
Destination out of this world, it's space travel
目的地はこの世界の外側、宇宙旅行
「自分たちはさらなる高みへ向かう」という
意味と、XGのコンセプトである
「地球外の存在」をかけて表現しています。
New heights, I'm seeing new lights, I change levels
新しい高み、新しい光が見える、レベルを変える
More space, this race an exhibition
もっと広い空間、このレースは展示会
このエンタメ業界での競争(レース)は自分たちに
とって展示会程度でしかないから2位以下に大き
な差(広い空間)をつける、ということです。
空間(space)は宇宙(space)とかかっています。
XG on an expedition, light speed go the extra distance
XG は探検、光速でさらに遠くまで行く
Shooting stars so when you blink, then I bet you miss it
流れ星だから瞬きしたら、賭けてもいいけどあなたは見逃す
"Shooting stars"(流れ星)は"Shooting star"(2023)の
セルフオマージュです。
I want the galaxy, baby, you want the recognition
私は銀河が欲しい、ベイビー、あなたは承認が欲しい
自分は高みを目指すがフェイクなアーティストは
承認欲求だけだ、ということです。
Everything is moving the way that I plan it
全ては私の計画通りに動いている
I'm cutting transmission
通信を遮断する
Verse 1はJurinのシングルと同じリックです。
HIPHOPらしい強いマインドで、自分の実力を誇示しています。
こうした自己顕示はHIPHOPでは「ボースティング」と呼ばれ、よく使われるリリックスタイルです。
Jurinは”PS118”のリリックについて、下記のように語っていました。
"PS118"は、最初は全く違うもので、歌詞もコンセプトも違っていましたが、ヨーロッパツアー中にレコーディングやビデオ撮影もしていたのですが、もっとシンプルで正直なものにする必要があると感じたので、コンセプトを変更しました。プロデューサーと密接に協力して、自分の考えを伝え、一緒に構成を構築しました。
ライムスキーム(韻の構造)を見てみましょう。
前半、"travel"、"levels"で立ち上がり、中盤から後半にかけて、
"XG"、"exhibition"、"expedition"、"distance"、"miss it"、"recognition"、"transmission"とリズミカルに進みます。
実に気持ちいいです。
このVerseで使われる単語は、XGのコンセプトである宇宙をイメージさせます。
"space"(空間、宇宙)、"light speed"(光速)、"distance"(距離)、"Shooting stars"(流れ星)"、”galaxy"(銀河)などです。
また、これらの単語はこの後リリックで使われる「レース(スピード)」や「物理表現」にも転用されます。
Verse 2 [Cocona]
[Cocona]
Off to the races, on to a spaceship
レース開始、宇宙船に乗る
XGの競争心と自信を表明しています。
自分たちはレース(競争)をする、そしてレースに使用
するのは人類最速の乗り物である「宇宙船」なので
ぶっちぎり、ということです。
また、「レース」は前のバースでJurinが言及して
います。
前のラッパーの使った言葉を活用するのは、
マイクリレーの暗黙のマナーです。
Breaking the boundaries, and all limitations
境界を打ち破る、そしてすべての制限
"Breaking boundaries"(境界を打ち破る)は、
XGとXGALAXが掲げる最も重要なグループ
アイデンティティです。"MILLION PLACES"
(2025)の歌詞にも登場し、XGが掲載された
タワーレコードのポスター
(NO MUSIC, NO LIFE.)にも登場します。
また、前のラインの"race"(競争のレース)は"lace"
(洋服のレース)にも聞こえます。
"Off the laces"(レースを外す)と「境界と制限を打ち
破る」とを合わせて、「服装や自己表現においても境
界と制限を打ち破る」という言葉遊びまで連想できま
す。
カッコいいぜ!
All indications point to the stars now
あらゆる兆候は今や星々を指し示している
「星々」は、XGのコンセプトである宇宙の星と、
トップアーティストとしての「スター」の
ダブルミーニングです。
All in your faces, point, blank, all out
目の前に突きつける、単刀直入に、全力で
"All in your faces"はスラングで「どうだ、見たか!」
といったニュアンスを持ちます。
"point, blank"は「単刀直入な」という意味の他". "
(ポイントとブランク)で「終わり」の意味も持ち
ます。
文の終わりは". "です。
よって、「自分たちは一切手加減しない。どうだ、
見たか?これで終わりだ」というダブルミーニング
です。
Don't waste time looking back at the shadows
後ろの影を振り返ってる暇なんてない
「過去のネガティブに捕らわれずに前に進む」
という意味です。
また、次のラインで「私達の存在感はあまりにも
大きく、影を落としている」と言っていますから、
「星(XG)の光が生む影(ヘイター)をかまっている
暇などない」という意味にもなっています。
Our stature so big that it's castin' a shadow
私達の存在感はあまりにも大きく、影を落としている
Back on the saddlе, and back on the wave
落ちても また這い上がる、また波に乗る
「落ちても また這い上がる」は、不屈の姿勢を
表します。
「波に乗る」は「また這い上がる」と同じ意味で
あるとともに、「電波の波に乗る」ことも意味して
います。
また、"back on the wave"(また波に乗る)はJurinが
ソロでコラボしたラプソディへのオマージュです。
Jurinソロ版の"PS118"では、ラプソディが
"Get off my wave"(わたしの波から降りな)とラップ
しています。
このラインはフェイクな連中に向けられた言葉
ですが、リアルであり不屈の精神を持つCoconaは
「また波に乗る」とアンサーしています。
カッケぇ!
Didn't mean to shakе the globe, it just happened to rattle(rattle)
世界を揺らすつもりはなかったけど、たまたまガタついただけ
このラインは、「電波の波に乗った結果、世界は
たまたまガタついてしまった」ということと、
「私達の存在感はあまりにも大きいので、その
つもりが無くても世界はガタついてしまう」
という二重の意味です。
"rattle(rattle)"と2回繰り返しているのは、
"(rattle)"が次のVerse 3 [Maya]に繋がっています。
詳しくはVerse 3 [Maya]で解説します。

Verse 2でもしっかりとボースティングが継承されています。
そしてライミング(韻。本来の意味は「脚韻」)です。
まず前半のインターナルライム(中間韻)が凄い。
"races"、"spaceship"、"boundaries"、"limitations"、"indications"、"faces"と踏みまくってます。
後半の
"shadows"、"shadows"、"saddlе"、"rattle"、"rattle"も良いです。
HIPHOP好きが「おぉ!」と感じるライムスキームです。
聴いていて気持ちイイ。
Verse 3 [Maya]
まずCoconaからMayaの繋ぎが凄いです。
Mayaは"That all Intergalactic…"で入りますが、この"That all"とCoconaの最後の"rattle"で韻を踏みつつ重なっています。
これにより、
"That all Intergalactic, Beastie Girl mashing"
(銀河間すべてをビースティ・ガールが押しつぶす)
と、
"rattle Intergalactic. Beastie Girl mashing"
(ガタついた銀河間をビースティ・ガールが押しつぶす)
の、
どちらにも聴こえる構造です。
なんですか、この離れ業は!?
素晴らしいライムスキームです!
[Maya]
That all Intergalactic, Beastie Girl mashing
銀河間すべて、ビースティ・ガールが押しつぶす
このラインはビースティ・ボーイズの
"Intergalactic"(1998)へのオマージュです。
さらに、"Beastie Girl"は直訳で「獣の様な女性」
ですが、スラングで「強気でカッコいい女性」
を指します、
そして、XGのコンセプトは"Wolf Squad"
(狼の部隊)、つまり獣です。
よってここは、「銀河間を強気でカッコいい
XGが押しつぶす」となります。
もちろん、XGのもう一つのコンセプトである
"Galaxy"(銀河)ともかかっています。
More flash than fashion, grand master blasted
ファッションよりもフラッシュ、グランドマスターが爆破
"More flash than fashion"は、「自分がフラッシュの
様に輝いている」という意味と、「イケてるので
フラッシュを焚かれる(写真を撮られる)」という
言葉遊びです。
"flash"と"grand master"は、「グランドマスター・
フラッシュ」へのオマージュです。
グランドマスター・フラッシュは、HIPHOPのパイ
オニアの一人で、ターンテーブルを楽器として操る
DJ技術(スクラッチ、ループ、ミキシング)を高めた
伝説的DJです。
Way past the atmos, laughing at these rappers
大気圏をはるかに超えて、これらのラッパーを笑う
「自分たちのラップ技術は遥か高み、いわば大気圏を
超えたレベルであり、地上レベルの凡庸なラッパー
たちをあざ笑う」という意味です。
Y'all ain't hip-hop, you lipsyncing with captions
お前らはヒップホップじゃない、字幕に合わせて口パクしてるだけ
HIPHOP風のフェイクなアーティストを挑発して
います。
Half of y'all backing tracks is trash, trash it
お前らのバックトラックの半分はゴミ、捨てな
Kill a verse, then drop back to back smash hits
完璧なヴァース、連続でヒット曲をリリース
"tracks is trash, trash it"と
"back to back smash hits"で、
5単語6音節の長いライミングをしています。
すっげぇ~!
Hoping that this message will be landing on the right ears
このメッセージがちゃんと理解できる人に届きますように
"message"は、グランドマスター・フラッシュ&
ザ・フューリアス・ファイヴの
"The Message"(1982)を指しています。
この曲は、ゲットー(貧困地域)の悲惨な状況を
リアルに描写し、HIPHOPが単なるパーティー音楽
から「社会的なメッセージ」を伝える芸術へと進化
するきっかけとなった、HIPHOPの歴史的名曲にして
超重要曲です。
リスナーのみなさんにもこの歴史的重要曲を知って
欲しい、ということです。
How many ideas? How many light-years? Uh
アイデアは何個ある? 何光年 先に行ってる?あぁ
"How many ideas"と"How many light-years"で綺麗
に韻が踏まれています。
グランドマスター・フラッシュへのオマージュが素晴らしい。
HIPHOPをリスペクトして良く勉強していることが伝わり、Mayaの「リアルさ」が強調されます。

この機材の手作り感!!
「お前らはヒップホップじゃない、字幕に合わせて口パクしてるだけ」というパンチライン(印象に残る強烈なフレーズ)はとても挑発的ですが、HIPHOPではむしろこの方が評価されます。
HIPHOPは競争することで高めあう文化であり、ビーフ(Disりあい)などの争いを恐れない姿勢がリスペクトされます。
この挑発の前後では、HIPHOPへの深い理解とリスペクトが表現されており、それによりMayaの「リアルさ」が強調されています。
リアルなMayaがフェイクな連中を挑発するから、「お前らはヒップホップじゃない、字幕に合わせて口パクしてるだけ」が、パンチラインとして説得力があるのです。
ここまで凄いリリックだと、「この(Verse全体の)メッセージがちゃんと理解できる人に届きますように」がめっちゃ刺さります。
HIPHOPはある意味、リスペクトをもってセオリーやレガシーを知り、謎解きを楽しむゲームです。
HIPHOPの5大要素は、DJ、MC(ラップ)、ブレイクダンス、グラフィティ、「知識」と言われます。
これは「知ってるやつが偉い」という特権的な意識ではなく、「皆で勉強して向上しよう、良くしよう、楽しもう」ということです。
「この(Verse全体の)メッセージがちゃんと理解できる人に届きますように」は、「みんなHIPHOPをもっと良く知って一緒に楽しもう。それを諦めたらフェイクな奴になっちゃうよ」ということだと、僕は思います。
MayaのVerseはHIPHOPへのリスペクトに溢れています。
同じHIPHOP好きとして、震えがくるほど素晴らしいVerseです。
Verse 4 [Harvey]
[Harvey]
When XG come by with raps
XGがラップでやって来たら
”raps”はラップとラプソディのダブルミーニング
です。
Jurinがソロでコラボした、ラプソディへの
オマージュになっています。
that'll slap you Into next week sometime
あなたを来週までぶっ飛ばしちゃう
XGのラップの実力を誇示するとともに、前の
Mayaの凄いVerseをアピールしています。
oh, now they get it
あぁ、彼らは今わかったの?
We been hit different
私たちは最初から別格だった
自分たちの凄さは前々から言ってたでしょ、
という意味です。
XGは過去の楽曲でも自分たちの実力を
アピールしていました。
thrift store garments and vintage lenses
古着屋の服とヴィンテージのレンズ
(Think big incentives, uh)
(大きな報酬を考えて、あぁ)
「古着屋の服」は、「自分たちは高級な服は
使わない」、つまり過度な編集やプロダクション
に頼らない「本物の実力」だ、ということです。
「ヴィンテージのレンズ」は、古いスタイルの
音楽を自分たちのフィルター(レンズ)を通して、
新しいX-POPというものを生み出している、
ということです。
よってここは、「本物の実力で古いスタイルを
活用して、X-POPという新しい音楽(=大きな報酬)
を生みだしている」ということになります。
In session with the best only
セッションするのは最高の人とだけ
一緒にスタジオワークするメンバー、つまり
XGクルーは最高級なんだということです。
また、ラプソディへのリスペクトにもなっています。
There's no stopping once we get going from the get go
最初から、私たちは一度動き出したら止まらない
XGのこれまでの快進撃を表しています。
Led a normal life, but just less boring
普通の生活を送ってた、だけど退屈じゃなかった
Nothing less than a success story, so check for me
サクセスストーリー以下の物ではない、だから私をチェックして
「自分のサクセスストーリーを見て」と「サクセス
ストーリーなんて自分にとっては普通」という
ダブルミーニングになっています。
このVerseのライムスキームが面白いです。
まず前半は、"raps"、"slap"、"sometime"、"now"、"get it"、"hit different"、"thrift”と、a,e,iの高速連射がリズミカルです。
ここは韻というよりは響きとリズムで聴かせます。
そして中盤は、"vintage lenses"、"big incentives"と4音節の長いライムが来ます。
後半は、”best only"、"get going"、"get go"、"boring"、"success story"、"check for me"と畳みかけるように韻が踏まれています。
こうしたライミングは、リリックの高度化と耳ざわりの良さに寄与します。
実に素晴らしいです。
Verse 5 [Jurin, Cocona]
[Jurin]
No place that I'd rather be
ここ以外に居たい場所はない
Team solid free-falling, no gravity
チームは固体、自由落下、重力なし
チームは(固体の様に)固い絆で結ばれ、自由で
とらわれず、(重力が無いから)上がるだけ」
という意味です。
"solid"、"free-falling"、"gravity"という物理用語を
使って言葉遊びをしています。
Me and my girls are co-pilots, all of us graduating from the academy
私と仲間たちは副操縦士、全員がアカデミーを卒業した
「副操縦士」は、AKOPS(サイモン)氏を中心とした
XGクルーを操縦士に見立て、「自分たちは乗客では
なく共に操縦するパートナーだ」と言っています。
ただのプレイヤーではなく、コンセプトや制作面
でも一緒に貢献しているということです。
また、自分たちを「主操縦士」ではなく「副操縦士」
と表現しているところに、XGクルーへのリスペクト
を感じます。
「卒業」は、厳しい研修期間と選抜を経て、
XGクルーは今や「先生たち」ではなく「尊敬すべき
対等なパートナー」となったことを表しています。
JAKOPS氏もインタビューで同じことを言っており、
「XGは尊敬するパートナーである」と表現していま
した。
XG, all of them wolves, all of them besties
XG、全員が狼、そして全員が親友
[Cocona]
All of us bosses, any challenges that come across us
全員がボスで、どんな困難にも立ち向かう
We like, "Yes, please," we been through so many things
「歓迎するよ」って感じ、私たちはたくさんのことを経験してきた
That you couldn't process, they tried to test me
あなたには想像もできないほど、私を試そうとした人もいた
Me and my girls stayin' stress free
私たちはストレスフリーでやるだけ
Jurinは仲間との固い絆を語っています。
そしてライムスキームです。
まず、"rather be"、"gravity"、"academy"で韻が踏まれています。
さらに、
"be"、"gravity"、"Me"、"academy"、"XG"、"besties"で、「イー」がロングトーンで強調されています。
この「イー」ロングトーンが効いてます、フローがリズミカルで気持ちいいです。
Coconaパートでは、自分と仲間たちがいかに困難を乗り越えてきたかが語られています。
Coconaのライムスキームを見ると、ちょっとずつ音の響きが変わりながら韻が散りばめられています。
前半は、"o"を主軸とした"bosses”、"across us"、 "Yes, please"、"process"で、響きが困難を耐え抜く印象。
後半は、"ee"を主軸とした"test me"、"stress free"で、響きが困難を跳ね返す印象です。
リリックの内容に合わせて音の印象が変わるように、言葉が計算されて選ばれています。
素晴らしいリリックです。
最後の"free"の部分で声を張りますが、普段のCoconaのフローとは異なるので違和感があります。
これはおそらく、Jurinがソロでコラボしたラプソディへのオマージュです。
Jurin&ラプソディ・バージョンの"PS118"では、ラプソディは自身のパートの最後のライン"From an legend MC rap"で声を張ります。(2:14くらいの所です)
"…free"はCoconaパートの最後のラインなので、ラプソディの締め方を想起させる様に声を張ったのではないでしょうか。
こういう隠れたリスペクトってグッと来ます。
流石Cocona、わかってるねぇ!
JurinとCoconaのVerse 5では、チームの固い絆と、XGクルーを含めたメンバーたちが壮絶な困難を乗り越えてきたことが語られています。
それは、この曲を通して行われた「実力と誇りの誇示」を支える部分です。
ただボースティングするのとはリアルさが違います。
Verse 6 [Maya, Harvey]
[Maya]
You can tell by the way that we walked in, we awesome
私たちの歩き方を見ればわかる、私たちは最高
Waltz in, flossin' with everything shining
ワルツで入り、輝くものすべてでフロスする
"Waltz in"はスラングで「自信ありげに、無遠慮に」
です。
"flossin'(歯を磨フロス)はスラングで「見せびらかす」
です。
よってここは、「自信ありげに入ってきて輝く自分を
見せびらかす」になります。
なお、フロスという言葉を使ったのは、Cocona
パートの"stayin'"(留まる)の響きが"stain"(歯の着色
汚れ)に似ているのを受けています。
Walk it, talk it, everything diamonds
行動、発言、すべてがダイヤモンド
They all in the comments, they get the assignment
みんなコメント欄にいて、任務を与えられる
「アンチはコメント欄にしかいないので現実には
ダメージを与えられない」という意味と、
「コメント欄にいるALPHAZがアンチを退けて
くれる」というダブルミーニングです。
[Harvey]
How many times must we tell 'em that we told 'em?
「ほら言ったでしょ」って何回言わなきゃならない?
Verse 4(Harvey)の「自分たちの実力についてずっと
言ってきた」ということです。
Gotta let it soak in, welcome to the wolf den
じっくり味わって、狼の巣窟へようこそ
「このアルバムをじっくり聴いてXGの実力を理解し
なさい」という意味と、「ここは狼の巣窟
(XGのコンセプトは『狼の部隊』)だから無傷では
帰れない」というダブルミーニングです。
Hittin' it with both ends, both hands wavin' 'til it's broken
両端から叩いて、壊れるまで両手を振る
"Hittin'"は「ヒット曲を生む」ということも表して
います。
ヒット曲を生むから、観客は「壊れるまで両手を
振る」わけです。
Both feet kickin' 'til it's open
それが開くまで両足で蹴る
「自分たちは目的を達成するまで諦めずに進む」と
言うことです。
このMayaパートはライムスキームが凄い。
"walked in"、"awesome"、"Waltz in"、"flossin'"、"shining"、"Walk it"、"talk it"、"diamonds"、"comments"、"assignment"と、多少変化するものの"oi"軸で踏みまくってます。
また、"flossin'"、"shining"、"diamonds"のワードセンスが良いです。
輝きと鋭さをイメージするワードが、ボースティングの強度に寄与しています。
このセンスと密度、職人技です!
Harveyパートもヤバいです。
"told 'em"、"soak in"、"wolf den"、"both ends"、"both hands"、"broken"、"Both feet"、"open"で、全編畳みかけるように韻が踏まれています。
リズミカルで実に気持ちイイ。
このVerse 6は圧巻です。
Verse 5の「チームの絆」と「血の滲む努力」を下敷きに、MayaとHarveyがライミングの嵐を見せつけます。
文脈的にもスキル的にも完璧です。
チルなトーンながら強烈な余韻をもって終わります。
渋すぎる!
歌詞全体について
歌詞全体を振り返ると、HIPHOPへの深いリスペクトを示しながら、自分達の実力をリアルに誇り高く誇示しています。
様式美とマインドがブレンドした素晴らしいリリックだと感じました。
僕の場合、HIPHOPのリリックを楽しむ優先度は、ライムスキーム、言葉遊び、内容の順です。
全て大事ですが、あえて言うならこの順番です。
もちろんこの順番は人によりますし、あくまでも参考です。
HIPHOPのリリックにも、韻や反復、言葉遊びなどを楽しむ詩的伝統と通じる楽しみ方があります。
リリックの楽しみ方は自由ですが、こういうのを知っておくとさらに楽しいのではないかと思います。
よってこの曲の歌詞解説では、ライムスキームに特に着目する様に試みました。
参考
HIPHOP文脈の英語詩を解説させたら右に出るものはいないShotGunDandyさんの解説動画です。
彼の解説は凄いです。
XG愛にも溢れています。
僕の解説のかなりの部分はSGDさんの動画を参考にしています。
大変面白いので、皆さんも是非見てみて下さい。
またこの曲は、HIPHOPへの理解が深まるとより一層楽しめます。
HIPHOPとはどういう文化なのか、どういう背景を持っているのか、どう楽しむのかについて、以前僕の視点で書いたものがあります。
もしご興味があればこちらも覗いてみて下さい。
サウンドとプロダクション
プロデュースはJAKOPS、Chancellor、Shintaro Yasuda。
作詞はJURIN ASAYA、Lyricks、JAKOPS、Chancellor、Shintaro Yasuda、HARVEY、MAYA、COCONA。
作曲はLyricks、JURIN ASAYA、JAKOPS、HARVEY、MAYA、COCONA、 Chancellor、Shintaro Yasuda、Jae Youngです。
曲調と姿勢
曲調はノーギミックのブーンバップです。
ブーンバップはHIPHOPのサブジャンルで、ジャズやソウルからのサンプリング・ループ感の強いサウンドが特徴です。
ブーンバップは1990年代に最も流行ったスタイルなので、この曲でもビンテージを再構築する意識を感じます。
ビートはジャジーで心地よく、ちょっとネオソウル感があります。
アダルトでアーバンなHIPHOPサウンドで、ちょっとカジュアル目のバーとかでかかってたら似合いそうです。
この曲にはフックとかコーラスとか呼ばれる部分がなく、Verseだけで構成されています。
キャッチーな部分をあえて排除し、リリックとフローだけで勝負する、いわばストロングスタイルです。
HIPHOPとしてもかなり硬派な部類になります。
これをやるにはリリックとフローに相当の実力が必要ですし、姿勢やHIPHOPに対するリスペクトが問われます。
この曲は、派手なスピードやギミックで押し切るタイプではありません。
むしろ、かなり抑制されたトーンの中で、リリック、ライム、フローの精度だけをじっくり聴かせる曲です。
その静かな強さが、かえって凄みになっています。
まさに激シブです。
素晴らしい曲です。
XGのラップラインは、この曲を名刺代わりにすべきだと思います。
アルバム"THE CORE"内での位置づけ
この曲を最後にもってくるところが素晴らしい。
アルバムの総括としてXGの姿勢を提示しつつ、落ち着いて力強い余韻が残ります。
歌詞的にも地球を離れ宇宙に旅立つイメージがあります。
1曲目"XIGNAL"で外宇宙から到来したXGが、6曲目"HYPNOTIZE"で深海から地球のコアを覗き、この最後の曲で宇宙に帰っていくイメージです。
このアルバムのベスト曲を選ぶのは難しいですが、あえて選ぶなら僕はこの曲です。
実はこの曲だけ何十回もループしちゃってます。
最後に
最後まで読んでいただきありがとうございます。
大変お疲れさまでした。
この『THE CORE』考察シリーズでは、アルバムを1曲ずつ深掘りしています。
続きはこちらです。
シリーズ全体はこちらから読めます。
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