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言えなかったガトーショコラと、ズルい女

「まだ寝ないの?」

オカンが眠そうな目をこすって、声をかけてきた。

「寝ないの! だって、先輩とメールが終わらないもん! 次の返事で、おやすみっていうから」

深夜のハイテンションのまま、私はオカンに言った。そうですか、とあきれた口調で笑いながら、オカンは寝室に引っ込んだ。

過去の一件があってから、すっかりバドミントン部の先輩に惚れこんだ私。その晩も、数か月かけてついに毎日のようにEメールのやりとりをするようになった彼からの返事を待っていた。

『───じゃあ、また明日、練習で! おやすみなさい(-ω-)/』

毎回、3つくらいの話題を同時並行し、1000文字近くなるEメールのやり取りの最後をようやく締めくくったあと。私はもう一度その箱の中身を確認した。

きっと大丈夫。
もう一度、私は心の中で唱えた。




「じゃあ、私があいつ等は呼び止めておくから、その間に駐輪場で待ってな!」

ひとつ上の女子の先輩が協力してくれ、私は先輩とふたりきりになれる時間を少しだけ確保した。チャンスは一度。彼が、自分の自転車にやってきたときだ。

そのうち、先輩が現れた。
作戦通り。先輩といつも帰る男子部員の姿はない。ひとりだ。


「せ、先輩」


私は彼に足早に近づいた。ジャージを脱いだ彼は、学ランに赤いバーバリーのマフラーをぐるぐる巻いていた。髪はいつも通りとんがっていた。

「これどうぞ……」

私が差し出した箱を見てから、先輩は私の顔を見て、箱⇔私、を視線で5往復くらいした。

「え!? 今日なの!? え! ありがとう!!!」

その日は2月15日。バレンタインはとっくに終わっていた。けれど私は、バレンタインに呼び出す勇気はなかったので、部活がある今日に渡そうと勝手に決めていたのだ。

その後、ひとことふたこと交わした後、私は自分の自転車に乗り込んでそそくさとその場を去った。
その、どう見ても本気だろうその箱に入ったガトーショコラの意味なんて、伝えることはできなかった。


その晩。

『すごくおいしかったよ』

先輩から律儀な感想メールが届いた。私は「よかったです」と言いながら、その先の言葉は出さずにいた。



我ながら、なんともズルい女である。





それら3日後の、2月18日。
先輩から、早朝にEメールが届いていた。


『部活の前に、話したいことがあります。2年〇組の教室にきてください』


いつもとは違う彼の口調から、私はすべてを察した。

「これってこれって……ひ、ひい……!」

よくわからない声が口から洩れて、慌てた私はパンを袋ごとトースターに入れてCO2を発生させてしまった。なにしてんのよ、とオカンがあきれてリビングを換気した。





誰もいない教室。
その一番前から2列目の席で、彼は受験勉強をしながら待っていた。
集中していて近づいても気づかない彼の肩を、とん、とつついた瞬間、
「わ!!!」
と大きな声をだし、その顔は一瞬で真っ赤になった。

私は、このあと訪れるだろうことを想像して、先んじて笑ってしまった。動揺した先輩は、「おせんべい食べる?」となぜかねじり揚げをさしだし、私は歯の矯正にねじり揚げの食べかすを詰めこんだまま、その先の言葉を聞くこととなったのだった。




誰もいない教室で。私の返事を聞いた先輩の
「やったー!」という高い声が、きんと響いた。
遠くで、吹奏楽部が練習している音が聞こえていた。


「吹奏楽部に聞こえちゃいますよ」

私が言うと、

「聞こえてもいいよ。うれしいんだから」

先輩はそう言って笑った。



2006年2月18日。
その日の部活がまったく練習にならなかったことはまあ、言うまでもないだろう。








お題がバレンタインということで、夫との懐かしい思い出を引き出してみました!

馴れ初め編?もそうですが、これも書いててめちゃくちゃ恥ずかしいです笑
でも、大切な思い出を記録することができ、勝手に満足しております。

後日譚をすると、彼は15日にチョコを渡された意味を考えて考えすぎて、2日間ご飯を食べられず、異変に気付いた母親と姉に相談した結果、「いいから悩んでねえでお前から言え」と背中をおされたそうです。マジ感謝☆

参加できうれしいです。
素敵な企画をありがとうございます!


先日、この日から20周年を迎えました🍀

おふたりの素敵な企画記事もどうぞ!

#みくまゆ会
#チャレがや
#バレンタイン

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髙塚しいも|5児の母 もしこのような記事をサポートしたいという稀有な方がいらっしゃいましたら、ぜひともよろしくお願いいたします。5児の食費・学費にさせていただきます!