【創作大賞:ホラー】短編集③「だからオフ会はやめておいた方がいい」
あらすじ
ソシャゲと呼ばれるネット上でのゲームで知り合った人などと実際に会うことを指す、オフ会。何年もやりとりしていたユーザーとのオフ会に初めて参加することになった私。緊張しながら会場に向かったのだが、どこかおかしい。顔の見えない相手とのやりとりから生まれる違和感、そして真実は一体?
廃課金とは大量の課金をする人のことを言う

息を切らせながら家に着くと、私はすぐにスマホをタップした。よかった、間に合った。Loading...の文字にそわそわしながら、ゲームの画面が起動するのを確認した。そしていつものようにチャット画面を開く。
武将髭:お待たせ! 今日もやっちゃうよ
そう急いで打つと、私の愛でているキャラクターを戦場に投入する。
ツバメ:髭さん来たぁーー!
猫太郎:待ってました!
そんな歓迎の声の中、私のエース、趙雲ちゃんが相手チームの武将をボコボコにやっつけていく。このゲーム、「三国闘争」は持っている武将でチームを組んで、相手のチームを倒すものだった。プレイヤー同士でギルドとよばれるチームを組み、ライバルのチームを倒すと報酬がもらえる。あと一歩で私のチームは負けるところだったが、私の参戦のおかげで逆転勝利だった。
piyo:髭さん(スタンプ:ぱちぱち)
私のプレイヤーネームは武将髭、通称「髭」と言われている。
ツバメ:やっぱり髭さんは強いなぁ
そりゃそうだ、私はこのゲームを初めて2年、毎月●十万円課金している、いわゆる廃課金者だ。彼氏もいなければ特に仲のいい友達もいない。エステもショッピングも興味がない私は、お給料のほとんどをこのゲームに注ぎ込んでいる。おかげでゲーム内では少し伝説的な存在となっている(たぶん)。
みとこんどりあ:髭さんの仕事、確かドラッグストアだったよね。マツモトヒトシだったっけ?
武将髭:そう、今日のお客さんクレームひどくてなかなか帰れなかった。あともう少しで今日の戦場に遅れるところだった。まじでふざけんなって感じ。
私が所属するチーム、通称「ぺんぎん隊」のメンバーは40名程度。実際チャットに参加するのは10名程度で、みんな顔も本名も知らない。ただ、2年も毎日のようにこうやって戦場で顔を合わせていると、下手な友人や家族より一緒にいる時間が長い。お互いのプライベートも遠慮なく話している。
ガイコツのすけ:髭さま、どんまいなり
この少し変わったプレイヤーは都内の大学4年生。趣味は釣りで、中身はおっさんっぽい。
みとこんどりあ:店員を不満の捌け口にするなってーの
このプレイヤーは配管業、子どもは小学生。私の家の近くの薬局の工事も請け負っていた。実際に工事をしている人を眺めていたときにはこの中に「みとこんどりあ」さんがいるのかも、なんて思ったこともある。
DFS:じゃあそろそろ本題に参りましょうか。
この落ち着いたプレイヤーは通称社長、話題の内容からは年はどうやら50代くらいで、かなりのお金持ちとのこと。よく高級車を買ったとか、話す話題にお金のにおいがぷんぷんする。テレビでたまに見かける著名人と会食したりすることもあるらしい。
シティ:オフ会ですね、楽しみ〜
いよいよ来たか、と私は思った。オフ会とはこのようにネット上で知り合った人たちと実際に会う事を言う。正直私は女性だし、トラブルに巻き込まれるのもごめんなのでそんなものには全く興味がなかった。
しかしここまで毎日顔を(チャットなので顔は合わせていないか)合わせていると、もうトラブルもなにも無いんじゃないか、そう思っていた。実際このギルドでのオフ会は初めてではない。もうすでに2回ほど開催されていたようで、私は両方とも様子見だった。しかし……
DFS:今回は武将髭様も参加です、楽しみですね。
猫太郎:(スタンプ:ナイス)
正直嫌な人たちではないし、嫌だったらすぐ帰ればいい、最初はそう思っていた。またDFSさんのようなお金持ちとつながることは悪いことではないし、あわよくばイケメンとの出会いなんてものも考えなかったわけでもない。
(まあこれも社会勉強ということで)
最初は軽い気持ちだった。
DFS:今回の参加者は8名、今までで最大の人数になります。会場は横浜、桜木町駅から徒歩5分の「とりきち」、19時に「ぺんぎん会」の名前で予約しています。では——。
無駄なく端的に大事な情報を伝える。仕事ができそうな感じ。少し楽しみになってきた。かくして私は初めてのオフ会に参加することになった。
オフ会での違和感

集合場所には予定より少し早く着いた。ひょっとしたら店の前で誰か待ってるかもと思って、わざと知らないふりして通り過ぎた。どうせこちらの顔は割れていない。
(まだ誰もいない……か)
他のメンバーはオフ会でお互い顔を知っている人もいる。私は1人も知らないので、少し待ってからぎりぎりで入ることにした。近くのタリィッスコーヒーでカフェラテを頼んだ。
この通りすぎる人の中に「みとこんどりあ」さんとか「猫太郎」さんとかいるのかな、とぼんやり考えていると約束の時間5分前になったので、高鳴る胸を抑えながら「とりきち」に向かった。
「へい、いらっしゃいませー」
「あの、7時にぺんぎん会で予約している者ですが」
「はい、ありがとうございまーす」
店員がねじりはちまきをしながら、威勢の良い声で予約帳をめくった。ぺんぎんとか恥ずかしいから、早く入ってしまいたい……。そんな思いとは裏腹に、店員は何度も何度も確認し、少し困惑した表情を浮かべた。
「えーと、ご予約は今日であってますか? 7時ですよね」
「はい」
私は急いでゲームを開き、チャットからもう一度確認した。間違いない、日にちは今日で、時間も19時だ。
「予約、無いですか?」
「申し訳ありません、見つかりませんね。何名様でしょうか?」
「8名です」
どういうこと? かなり焦ってきた。でもまあいい、このネタも後で話すことにしよう。
店員は何度も確認したが、申し訳なさそうに頭を掻いた。
「申し訳ありません、本日19時からのご予約は4名様と18名様のみですね」
えっ。喉が締め付けられる思いだった。私はわかりました、とだけ言って店を出た。
どういうこと? とりあえず、さきほどのタリィッスコーヒーに戻り、もう一度カフェラテを頼んだ。席について、もう一度ゲームを開いて、そこのチャットで確認しよう、そう思ったのだ。
ひょっとして今日じゃなかったっけ? さまざまな推測が頭を過る。はやる気持ちを抑えてチャットを確認すると、私は目を疑った。
DFS:今からオフ会始めまーす!
ツバメ:いえーい(スタンプ:かんぱい)
猫太郎:みとこんどりあさん、子どものお迎えで30分遅刻( ^ω^ )
うそ、始まってる、みんなどこ?
時間は間違ってない、あとは場所さえわかればいいのだ。私はチャットで確認することにした。
「着いたんですけど誰もいない(スタンプ:涙)場所どこですか?」
と打とうとして、私は止めた。
画面を見て指先から背筋まで一気に凍りつく思いがした。
piyo:髭さんも到着〜
猫太郎:美人さんでびっくり! わし、実は男だと思ってた(スタンプ:がくぜん)
(ちょっと待って、私ここにいるんだけど)
慌てて辺りを見回した。すっかり日も落ち、外は仕事帰りの人でごった返していた。カフェの店内も学生、サラリーマン風の男性、みな各々の時間を過ごしている。周りにはそれらしき人は誰もいない。ちらっと一瞬だけパーカーの学生風の男性と目が合いそうになったが、すぐ逸らされた。
DFS:それでは「みとこんどりあ」さん以外全員揃ったので乾杯します。
怖くなって画面を閉じた。そのまま頭を抱えて、机に突っ伏した。
「あの」
私ははっと顔を上げた。
「はいっ!?」
「カフェラテお持ちしました」
「あ、はい」
落ち着け私、事情が全く掴めない。私は何を間違っているのだろうか。頼んだカフェラテも全く喉を通らないまま、私はタリィッスコーヒーを後にした。
もう一度、とりきちの前を通ってみた。確認してみるか? いや、無い予約、しかも予約名「ぺんぎん会」です、を連呼するのは明らかに不審者だ、今日は帰ろう。私は電車に揺られながら、家路についた。
寝る前に一度だけギルドのチャットを開いてみた。そこにはやはりオフ会の楽しそうなチャットが並んでいた。
piyo:みとこんどりあさんが、飲むまで帰してくれません。
ツバメ:みとさん、酒豪(スタンプ:かんぱい)
シティ:髭さんが止めてくれなかったらガイコツさん逝ってたね(スタンプ:ニヤリ)
(私がいたことになってる。しかも行動もしている——)
私の顔からみるみる血の気が引くのを感じた。そんな中、個人チャットとよばれる、個人宛のチャットが届いていることに気づいた。通常であれば届いてもおかしくないだろう、だって参加するはずの私がいないんだから。
恐る恐るのチャットを見てみると、送り主は「ガイコツのすけ」だった。
ガイコツのすけ:髭さん、話通じる人なりか?
その後、違和感がないことによる違和感

話、通じる人なりか?
チャットはそれだけだった。どういう意味だろう? 私が何か大事なことを見落としているため、話が通じてないということを言いたいのだろうか。私は腹が立ってきた。
武将髭:どういうことですか? 一応人間として話はできますけど。
少し乱暴だっただろうか。返事はすぐには来なかった。それもそうだろう、これだけあからさまな怒りを個人チャットで送ったのだから。10分ほどして返事が来た。
ガイコツのすけ:髭さん、19時に桜木町にいたなりね。
気味が悪くなってきた。こいつは何を言いたいのだろう。
武将髭:いましたけど。だって約束はそうでしたよね? 違います?
また口調が荒くなってしまった。返事はまた10分程して返ってきた。
ガイコツのすけ:よかったなり。なんか怖くなってきたなり。念の為ここでのやりとりはギルドの人には言わないで欲しいなり。今までありがとうなり。
その直後、ギルドのチャットに重要アナウンスが流れた。
【重要アナウンス】ガイコツのすけが「ぺんぎん隊」を抜けました。
(え? うそ)
2年もやっているギルドでの脱会はある意味「死」に値する。ギルドのチャットも驚きを隠せないようだった。
ツバメ:(スタンプ:がくぜん)
猫打倒:ガイコツさん(スタンプ:涙)
みとこんどりあ:ガイコツさん、実は仕事が大変で色々悩んでたみたい。個チャ(個人チャット)で結構相談受けてた。
うそだ、「ガイコツのすけ」はきっと私と一緒でオフ会に来たのだ。ただ、同じように会場に辿り着くことができず、不安を覚え、脱会したのだ。ひょっとしたら話ができる唯一のプレイヤーかもしれない、そう思った私は個人チャットをガイコツのすけに送った。
武将髭:ガイコツさん、確認したいことがあります。
しかしその返事が返ってくることはなかった。それ以降ログインをしている形跡はなく、ガイコツのすけのゲーム内での存在意義は完全に消去された。
私はどうすればよいのだろう。
一応自分一人でやる毎日のゲームミッションをクリアし、夜の戦場にも参加はした。しかしチャットで発言することは止めた。髭さん来た! ありがとう、などと言ってくれることもあるが、スタンプを返すくらい。言葉を書くのは止めた。ここにいる人たちが何なのか、よくわからなくなっていたからだ。
考えれば考えるほどよくわからなくなり、私は落ち着いていた不眠症が悪化するようになった。仕事も休みがちになってきたのもあり、三国闘争をやめることにした。最後だけは一応チャットでメッセージを書いた。
武将髭:今までありがとうございました。体調がわるいので引退します。
そのまま「脱会」ボタンを押すと、それから私がそのゲームを開くことはなかった、あの日までは。
真実

それは冬の寒さが溶け始めた、春の予感を感じさせる朝のことだった。
ふと眺めたニュースに思わず目が釘付けになった。それは「三国闘争」という言葉が聞こえたからだ。
三国闘争の運営会社である「ネットピア」の運営方針にとある問題があったのだという。ネットピアは三国闘争で月間売り上げ5億円以上を稼いでいたわけだが、人気の秘訣はプレイヤー同士が団結してミッションをクリアする「戦場」にあった。
しかしネットピアはこのプレイヤーの中にダミーを混ぜていたのだ。今までもこの手のゲームでは多かれ少なかれいわゆる「サクラ」とよばれるダミープレイヤーがいるだろうことは囁かれていた。ところがいくら「サクラ」と言っても、大多数のプレイヤーを送り込むのはさすがに無理なため、少数に限られていた。
そこでネットピアが利用したのはチャットGPTだった。多数のプレイヤーと人工知能を用意し、それぞれに個性を与えたのだ。さらに実在するプレイヤーの課金意欲を刺激するよう、ほめたり、挑発したり、とAIを細工していたことも判明した。
課金の過程には問題はない。しかし、あたかも実在するヒトのように架空のプレイヤーを混在させたことが問題となった。ネットピアとしてはこれを踏まえ、今後はチャットGPTを利用した存在しない架空のプレイヤーについては「NPC」とつけて、存在しないプレイヤーということをわかるように対応することにした。
恐る恐る私は昔消去したアプリ「三国闘争」を再ダウンロードし、確認してみた。
「うそ……」
ぺんぎん隊にいたほとんどのプレイヤー、みとこんどりあ、DFS、猫太郎、などがみなNPCと書かれていた。みんな実在しないプレイヤーだったのだ。
だがニュースはそれだけでは終わらない。中には架空のプレイヤーに恋愛感情を抱き、関係を続けるために大量に課金してしまったプレイヤーや、チャットGPTに言われた儲け話をそのまま信じてしまって大損害を被ったプレイヤーなど、すでにゲーム内では留まらない被害が広がっていたそうだ。
私は……被害者?
確かにそれなりの課金はしていたけど、それはそれで生きがいだったし、全て嘘だったのは残念だけど、楽しめたのは事実。そもそも顔の見えない相手を信じすぎちゃいけない、というのは当然のことなのかもしれない。
それに良いこともあった。
「お待たせ」
待ち合わせ場所の桜木町にやってきたスタイルのいいイケメンに私はにっこり微笑んだ。そしてわざと意地の悪い表情を作って見せた。
「今日はあまり遅れなかったなりね」
私のセリフに、彼は私の額をこつん、と突っついた。
「おいおい、ガイコツのすけはもう過去の話だろ」
ネットピアのニュースが出てから私は「ガイコツのすけ」にコンタクトを取った。彼だけはNPCではなく、チャットに加わっていた中で唯一実在する人物だった。彼も同様にゲームを再ダウンロードしていたらしく、そこからやりとりが始まり、気づけば交際が始まって、今に至る。
今日は彼の希望で、あの時私たちが行けなかった、「とりきち」に行くことになっていた。
(まあ、大量課金も無駄じゃなかったかもね)
私がとりきに入ると、ねじりはちまきをつけた威勢の良い声が聞こえた。
「へい、らっしゃい!」
「2名で予約してまーす」
「ありがとうございま〜す」
予約名簿を見ると、彼がしてくれた私たちの予約が目についた。しかし、次の瞬間、私の目が丸くなった。
「はい、2名様、ごあんな〜い」
案内されながら、私はさっき見た名前をもう一度頭の中で整理していた。
「どうしたの?」
彼の声にはっとして、私は我に返った。
「いや、なんでもない。行こっか」
あれは見間違いではない。確かにあった、わたしたちの予約の下に予約名「ぺんぎん隊」で8名、と。
(おわり)
創作大賞参加作品
①メトロポリタン・フォトスタジオ (5571文字:9~14分)
②サンクチュアリ (9276字:15~23分)
③だからオフ会はやめておいた方がいい (6235字:10-16分)
④トイレの上から誰かが覗いている (3835字:6-10分)
⑤廃墟の奥に消えた君 (2000字:3〜5分)
⑥私のそばにいつもいる (10,210文字:17~25分)
⑦直感の女 (2581文字:4~6分)
⑧ツカマエタ (3963文字:6~10分)
⑨知っている男 (1755文字:3~4分)
