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ノカナのジャック【ダンジョン・第3話】 − 158

 旧市街は、いたるところに水路が巡らされていて、石造りの住居跡が多い。
 石と緑と水の廃墟だ。
 昼になると石が熱を溜め込み、気温が一気に上がる。
 カナクイドリや野犬の話は聞いていたが、ここには“大カナトコ”と呼ばれる、でかいトカゲもいる。
 肉が美味いらしい。

 大カナトコは、カエルや水辺の虫を食う。 
 水路には、ハクレンや鯉なんかも棲みついている。
 旧市街の西、かつて公園だった場所に池があり、そこが連中の住み家になっている。
 池には、オーロックスやイノシシが水を飲みにやってくる。

 ― ダンジョンと呼ばれるわけだ。
 ここは、ハンターにとっては、悪くない狩場なんだろう。
 城下で暮らす者の腹を満たし、ここで稼いでいる奴らもいる。
 そんな場所だ。

 早朝の散歩がてらダンジョンを見てきたが、道ですれ違う者たちは、魚網を手にしていたり、二人がかりで仕留めた大カナトコを運んでいたりした。

 確かに、そんな暮らしもありかもしれない。
 けれども、店に出て武具屋の仕事をしていると、世界はガラりと変わる。

 ◯◯の弓の腕が凄いだとか、
 一対一なら衛兵隊長が一番強いだとか、まあ、そんな話ばかりだ。
 衛兵隊長は槍の名手らしい。

 だが、この手の話が行き着く先は、決まっている。
 ― それでも、レドゥビアの武人なら、アルス姫が一番じゃないかって。
 ノカナ国では、美しい姫剣士でありながら、優れた武将だと評判だった。

 何か話が違う気がする。
 この国レドゥビアでは峠の戦で、一人で先頭に立ち、帝国兵をバッタバッタと切り捨てた、という話になっている。
 じゃあ、レンダ峠にバラ撒かれていた砲丸は、いったい何なんだ?
 弓矢すら落ちてはいなかったのも気になる。
 噂は何か変だ。
 そう思わずにはいられなかった。

 もう一つ気になるのは、
 確かに城内で間者が捕まった、あるいは衛兵に切られたらしいが、弓兵や一般の兵隊達には、その話がほとんど伝わっていないことだ。

 間者が何をしようとしていたのか、噂話だけでは、さっぱり分からない。
 バカルは、レドゥビア製じゃない武具がどうとか言っていたが……。

   *    *    *

 夕刻近いダンジョンで、俺はバカルに聞いた。
「間者ってのは、帝国の手の者なんだな?」

「俺はそう思っている。」群れからはぐれていた野犬の鼻先を、慣れた手つきで切り離しながら、バカルは答えた。

「レンダ峠の戦が関係していると思うか?」鼻先を袋に詰めながらそう言うと、
「そうなるよな、だがな……」とバカルは言いかけた。

「どうやって帝国軍に勝ったのか、だよな。」俺が先に言うと、バカルは満足そうに頷いた。
「確かに、レドゥビアの大将はアルス姫だ。 
 だが、姫が砲丸を撃ちまくる魔術師だとは俺には思えねえ。
 峠に大砲を運び込んだなんて話も、聞いてない。」バカルはそう言って黙り込んだ。

 俺達は考えた。
 ― 帝国は、魔法使いを探しているんじゃないか。

    *    *    *   

「しっ!」
 突然、バカルが身を屈め、唇に人差し指を当てた。
 水路近くに、ひょろっとした鳥の影が降りていく。
 バカルより背が高そうに見えた。
 カナクイドリ
 ― それも、大物かもしれない。

 自分の心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
 廃屋の壁沿いに、そっと近づく。
 水路に降りて水を飲んでいるのか、姿はまだ見えない。

 俺は例のナイフを取り出し、精霊に祈って “ 宝具 ” を起動させる。
 ナイフが、低い唸りを響かせ始める。
気づかれやしないかという不安と緊張で、額から汗が流れ落ちた。

 水路の縁に出た。
 バカルが迷わず剣を抜き、飛び込む。
 俺も続いた。

 ――!

 カナクイドリは、長い脚でバカルを蹴り飛ばし、間髪入れず、鋭い嘴で顔を突いた。
 バカルはそれをかわし、剣を真横に薙ぎ払う。

 カナクイドリの動きが、一瞬止まった。
 その隙に、俺は脚を狙った。
 理由なんかない、ただ必死だった。

 片脚になっても、カナクイドリは奇声を上げて突っ込んでくる。

 しぶとい。
 恐怖で喉の奥が張り付き、息が詰まるような気がした。
 「グェぇ……」
 呻き声と同時に、俺はバカルの剣が、深々とカナクイドリの胸に突き刺さっているのを見た。

「ジャック、野犬が来る前にトンズラするぞ!」
 バカルに言われ、すぐに起き上がる。

 カナクイドリは重い。
 遠くで、野犬の鳴き声が響き始める。
 仕留めた後、旧市街を抜けるまでが、今日一番きつかった。

「……死ぬかと思ったよ、バカル。」
 だが、バカルは答えず、カナクイドリの砂嚢から取り出した、それ。

 一枚のコインを見つめていた。

「帝国銅貨だ。
 滅多にお目にかかれない珍品だ。
 皇紀4456年 ― 去年だな。

 やっぱり、帝国の奴がいるのかもしれねえ。」

 日没が、すぐそこまで迫っていた。


             続きます。

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 ( タイトルカットは、優音先生作画の
  レドゥビア国 第3王女 アルス姫 )

 成り上がれジャック!
 ノカナのゴミ捨て場スラムから


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