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60代のリアル|第2幕、第25話【実録・介護の陰り】手を振り返す元気もない母へ、「また来週ね」と告げた日


前回までのあらすじ

退院調整看護師さんからの連絡がなく不安を抱えていた7月23日(木)。
翌日、事態は突然動き出しました。

特養からの着信に気づき駅のホームで折り返すと、電車の騒音の中で母の医療状況を聞き取る展開になりました。

「病院の付き添いは可能か」などの問いに必死で答えながら、私は自ら「一度見学にお伺いしてもいいですか?」と申し出ます。

トントン拍子に8月12日(水)の見学が決まり、止まっていた介護の時間が激しく動き始めた7月24日(金)の出来事でした。



急変の影と、弱々しい掌

7月25日(土)

特養の見学が決まり、どこか安堵した気持ちを抱えながら向かった7月25日(土)のお見舞いでした。 しかし、病室のベッドで横になる母の姿を目にした瞬間、私の胸は嫌な予感でキュッと締め付けられました。

母は静かに目を閉じて眠っていました。

「お母さん、きたよ」
声をかけても全く反応がありません。

肩を軽くポンポンと叩くと、母はビクッと体を震わせて、ようやく重い瞼を開けてくれました。

少しでも喜んでもらおうと持参したジュースを取り出します。

本当は母の好きなリンゴジュースを買いたかったのですが見当たらず、代わりに用意したリンゴ入りのミックスジュースでした。

しかし、ストローを口に含んだ母は、弱々しい声でこう呟きました。

「美味しくない……酸っぱい……」

一口、二口飲んだだけで、もうそれ以上口をつけようとしませんでした。

やっぱり純粋なリンゴジュースじゃないとダメだったのかな……と母のこだわりを思い知らされると同時に、どこか寂しい気持ちになります。

ふと枕元に目をやると、いつも置いているはずのティッシュペーパーの箱が、空箱すら見当たらず完全になくなっていました。

さらに歯ブラシを見ると、どうしたことか柄の部分が妙な方向へ曲がっています。

手が不自由な母にそれほどの握力があるとは思えません。

丈夫な自分の歯で強く噛みしめてしまうほど、口の中を触られるのを嫌がったのでしょうか?
曲がった歯ブラシに、母の強い拒絶の痕跡が見えた気がしました。

「ティッシュも歯ブラシも、次回新しいのを持ってくるね」

優しく声をかけながら母の手に触れると、手足が驚くほど冷たくなっていることに気づきました。

一方で首元に目をやると、冷たいアイスノンのようなものが当てられています。熱があり、体温調節がうまくいっていないのだとすぐに分かりました。

面会時間を終え、ベッドを後にする時間がやってきました。

「また来週来るね」

そう言って笑顔で手を振りましたが、母にはもう手を振り返すだけの力さえ残っていないようでした。意識がもうろうとしたまま、うつろな目でこちらを見つめるばかりです。

動くはずのない介護の時間が動き出した裏で、母の体は静かに変化していました。

ざわつく胸を抑えきれないまま、私は重い足取りで病室を後にしました。



🌿次回予告

アイスノンで冷やされた首元と、手を振り返す元気すらない母の姿に、胸が押しつぶされそうな思いで病院を後にしました。

体調の変調に不安を募らせながらも、季節は刻一刻と過ぎ、カレンダーは8月へと入ろうとしていました。

特養の見学日である8月12日(水)が近づくにつれ、私の心には新たな葛藤と準備が押し寄せていました。

次回も、どうぞお楽しみに!


▼ 第26話はこちらです。



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