60代のリアル|第2幕、第27話【実録・介護の崖っぷち】落ち着きを取り戻したと思った矢先、忍び寄る新たな手続きの通知
前回までのあらすじ
特養見学が決まった矢先、母の発熱で予定していた転院は一旦見送りに。
次々と押し寄せる事務手続きの中、焦りと孤独で押しつぶされそうになっていた私を救ってくれたのは、ケアマネジャーさんから届いた「娘様もお身体ご自愛ください」という温かい一文でした。
伴走者の存在に少しだけ前を向くことができた7月下旬。
しかし、ひと息つく間もなく、新たな試練の足音はすぐそこまで近づいていたのです。
学生さんが夏休みの朝、束の間の静寂
7月27日(月)朝
連日の猛暑と、相変わらず喉の奥に小さな骨が刺さっているような母の体調への不安を抱えながら、私はいつものように通勤電車へと足を向けました。
ホームで電車を待っていると、ふといつもと違う気配に気づきます。
いつもなら大きなリュックを前に抱え直し、スマホを見たり、手書きのノート、問題集に目を落としていた中高生たちの姿が、どこにも見当たりません。
「そうか、もう夏休みに入ったんだ……」
予備校の夏期講習や部活動はいつもの登校時間とはズレるのか?
あるいは時間が違うのか?
車内は明らかに人が少なく、すんなりと奥まで進むことができました。
流石に座るまではいかないものの、誰かの肩と接触することもなく、吊り革を掴む手にも自然と余裕が生まれます。
いつもなら混雑の熱気で紛れてしまうエアコンの風も、乗客が少ないせいか今日は妙に冷たく感じられます。
外の猛暑と車内の寒さという激しい温度差に体が思わず震えますが、毎朝の押し合いへし合いがないだけで、心にはどこか緩やかで落ち着いた時間が流れていました。
母の転院が延期になったのはショックだったけれど、ケアマネジャーさんとの温かいやり取りにも救われました。
特養の見学日程も決まり、一歩ずつではあるけれど、前に進めているはずです。
「この調子で、少しずつ日常の落ち着きを取り戻していけるといいな」
冷えた車内で吊り革に掴まりながら、私は久しぶりに小さな平穏を感じていました。この先に待ち受ける事態など、知る由もなく——。
ポストに眠っていた一通の通知
仕事を終え、足の裏に重たい疲労を感じながら帰宅した夜のことです。
いつものように鍵を開ける前にポストを覗くと、束になったチラシの中に、見慣れない自治体の封筒が一通混ざっていました。
「区役所から……? なんだろう」
嫌な予感が胸をかすめます。部屋に入り、着替えもそこそこに封筒の角をハサミで切り落とすと、中から出てきたのは一枚の文書でした。
——母のマイナンバーカード更新のお知らせ。
紙面に躍る文字を目にした瞬間、一気に血の気が引く思いがしました。
「え、カードの更新……? 今、このタイミングで!?」
母は現在入院中で、先日熱を出したばかり。
当然、本人を連れて区役所の窓口へ行けるはずもありません。
となれば、代理人である私が代わりに手続きへ行くしかない。
しかし、私の頭に真っ先に浮かんだのは、身を切るような切実な問題でした。
(仕事を、休めない……)
パート・派遣という立場上、直近で急な休みを取ることは非常に厳しい状況です。特養の見学や今後の手続きのために、有給や調整枠はこれ以上削りたくないのが本音でした。
「平日に区役所へ行く時間なんて、どうやって作ればいいの?」
申請の猶予期間を確かめると、期限は9月まで。まだ多少の猶予はあるものの、母の体調や自分の勤務シフト、区役所の混雑具合を考えると、頭の中はパニックになりそうでした。
朝の通勤電車で感じていたあの穏やかな時間は、一瞬にして吹き飛んでしまいました。
止まらない焦りと、重くのしかかる現実。9月というタイムリミットに向けて、私はまた一つ、大きな難題と戦うことになったのです。
🌿次回予告
手続きの課題を抱えたまま迎えた、7月も終わりを迎えようとしています。
ある日の夕刻、突如として激しい悪天候が街を包み込み、どこか不穏な空気が立ち込め始めます。
そして時を同じくして、職場の中で静かに動き出した「ある予期せぬ変化」。
止まない雷鳴と慌ただしくなる周囲の気配に、私は胸を騒がせることになります。
次回も、どうぞお楽しみに!
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