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60代のリアル|第2幕、第22話【実録・無謀な事務仕事】怒涛のリカバリー作業と同僚の笑顔に救われた日、「大丈夫ですよ」と言えたなら…パニックの裏の素顔


前回までのあらすじ

ホームページの本アップ直前に判明した、まさかの「日付誤りによる全差し替え」。 システムを7月17日の状態へと巻き戻し、ようやく届いた正しい原稿をもとに再作業へと着手しました。

本アップが大幅に遅れているからこそ、ここで新たなミスを出すことだけは絶対に避けなければなりません。

焦る気持ちを抑え、慎重に慎重を期して原稿の並べ替え、データの結合、PDFのプロパティ削除、スマホ用テキストデータの作成を一つひとつ確実に進めていきました。

仮アップをやり直し、責任者へのダブルチェックを依頼。 その確認を待つ間も、遅れに遅れていた本日の入金消込作業に急いで取りかかります。

「今日の支払証明書の発送は間に合わないかもしれない……」という強いプレッシャーのなか、頭の中は次々と押し寄せる業務でいっぱいに。

このとき、朝一番に持参した「産休に入る同僚へのお菓子」の存在は、頭から完全に吹き飛んでしまっていたのです——。



引き出しの奥のミルフィユ

7月21日(火)

お昼休みに入る少し前、ホームページ担当の責任者から「ダブルチェックが完了しました」と声がかかりました。

ほっと胸を撫でおろし、すぐに本アップ作業へと入ります。

この作業には時間がかかりますが、一度実行ボタンを押してしまえば、あとは処理が完了するのを待つだけです。 「どうかお昼休みの間に無事に終わってくれますように……」と祈るような気持ちで画面を見つめていました。

時計の針が12時を指し、ようやくお昼休みに入りました。 ほっと一息つこうと机の引き出しを開けた、その瞬間です。

目に入ってきたのは、朝一番に忍ばせておいた小さな紙袋。

「あ……!」

思わず小さく声を上げてしまいました。

怒涛のトラブル対応に追われ、今日産休に入る同僚へお菓子を渡すという大一番を、頭から完全に失念していたのです。

彼女がお昼を食べに出てしまう前に渡さなければと、私は紙袋を手に取り、急いで彼女の元へと向かいました。

「今まで本当にお世話になりました。あの、ミルフィユなんですが……お好きですか?」

少し息を弾ませながら渡すと、彼女は嬉しそうに微笑んで答えてくれました。

「チョコレート、好きなんです!」

「あ、すみません、チョコレートのミルフィユではなくて……」

「あ!ミルフィユ自体も大好きです!」

なんだか少し無理に言わせてしまったような格好になってしまいましたが、彼女は楽しそうに笑っていました。

「毎日食べますね!」
と言ってくれたので、私は思わずクスッと笑いながらアドバイスを添えました。

「4個入りなので……そんなにはありません。(笑)。食べる30分前に冷蔵庫で冷やすと、美味しいと思います。」

「えへへ、ありがとうございます!皆さんのデスクにも、あとでお菓子を配りに回る予定なんです。」

そう言ってまた笑った彼女の顔は、これから母になる幸せと優しさに満ちあふれていて、とても輝いて見えました。



落ち着いたあとに襲う、冷や汗

お昼休みが明けると、ホームページの本アップが無事に終了していました。

私はすぐに、日付の原稿を間違えた担当者とホームページ担当の責任者へ「本アップ完了」の報告を入れました。その後、責任者と一緒に課長の元へ向かい、一連のトラブルの経緯と無事に復旧したことを改めて報告しました。

大きな山を越え、ようやくオフィスに静けさが戻ってきます。

(あぁ、本当に大変な午前中だった……)

ひと心地つき、冷静になって「私は午前中、一体何をしていたんだろう」と自分のタスクを振り返った、まさにその時でした。

背中を冷たい汗がスッと伝いました。

(……入金消込の途中で止まってる!)

ホームページのトラブルにかかりっきりになっていたせいで、本日の入金消込作業が大幅に遅れていたのです。時計を見ると、消込作業が終わった時点ですでに14時を回っていました。

本日(7月21日)中に発送しなければならない「支払証明書」。

残された時間はあと2時間です。ここから消込を完了させ、書類を印刷し、主任のチェックを受けて封筒に入れて発送する——どう考えても物理的に不可能です。

一瞬パニックになりかけましたが、私はすぐさま頭を冷やして優先順位を整理しました。

「至急」で対応しなければならない取引先がないかを一通り確認。幸い、緊急を要する案件はありませんでした。

そこで本日は無理をせず、メールで送付できる取引先のみの作業に集中し、郵送分は明日一番で対応する決断をしたのです。



退勤の足音と、残された優しさ

すべての対応を終え、オフィスをあとにする頃には、全身から一気に力が抜け、どっと大きな疲れが押し寄せてきました。

「はぁ……本当になんて一日だったんだろう」

重い足取りで歩きながら、今日起きた出来事を静かに反芻します。

今回の件、私自身がミスをしたわけではありません。そこは本当に良かったと思いますし、事務方としてやるべきリカバリーは最大限に果たしました。

けれど、すっかり静まりかえった帰り道、ふと胸の中に小さなしこりのような思いが浮かんできました。

(あの時、私はパニックになっていて余裕がなかった……)

日付を間違えてしまった担当者も、きっと青ざめて、生きた心地がしていなかったはずです。

もしあの時、私がもう少し冷静でいられたなら。産休に入る同僚のあの「幸せオーラ全開」の笑顔のように、包み込むような温かさで「大丈夫ですよ」と声をかけてあげられていたら——。

そうしていれば、追い詰められていた担当者の不安も、少しは和らいでいたかもしれない……と、後になってそんな思いがこみ上げてきました。

デスクの足元で出番を待っていた「ミルフィユ」は、無事に同僚の元へ渡り、彼女を笑顔にしてくれました。 次にオフィスで嵐が来たときは、あの穏やかな笑顔を少しだけ思い出して、誰かに優しさを分け与えられる自分でいたい。

夕闇が迫る帰り道、疲れの残る身体に夕風を感じながら、心の中で静かにそう誓うのでした。



🌿次回予告

怒涛のトラブルをなんとか乗り越え、オフィスを後にしたあの夏の日。 職場の嵐が去ったのも束の間、我が家では大きな節目の時が近づいていました。

母が入院してから、早くも3ヶ月が経ちました——。

病院からの連絡はなく、そしてこれから待ち受ける選択とは?
果たして、母と私の日常はどこへ向かうのでしょうか?

次回も、どうぞお楽しみに!

つづく


▼ 第23話はこちらです。



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