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AIと電力網の時代に「職人」が足りなくなる——85兆ドルのインフラ投資が直面する労働市場の課題

世界は今、近代史上最大規模のインフラ整備サイクルに入りつつあるとも言われている。AIデータセンターの急拡大、電力網の更新、通信インフラの整備——こうした動きを支えるのは資本だけではない。実際にそれを建設し、維持する人材、とりわけ「技能職(スキルドトレード)」と呼ばれる職種の労働者が、静かに重要な変数として浮上している。

BlackRockのポッドキャスト「The Bid」では、同社グローバル・ソーシャルインパクト責任者でBlackRock Foundation会長のクレア・チェンバレンと、マネージングディレクターのサンドラ・ローソンが、インフラ投資と労働市場の交点について対話形式で語った。以下はその内容を整理したものだ。


1. 85兆ドルという数字の意味


BlackRockは、今後15年間に世界が必要とするインフラ投資額を約85兆ドルと推計している。ローソンはこれを「非常に大きく、非常に速いペースで必要とされている」と表現した。

その対象は多岐にわたる。AIデータセンターは、その一部に過ぎず、エネルギー、輸送、通信など、いわゆる「伝統的インフラ」も大規模な更新を必要としている。特にエネルギー需要については、「前世紀以来見られなかった速度で拡大している」という。

こうした需要は先進国・新興国の双方で発生しており、その経済的効果も広範囲に及ぶ。生産性の向上、経済成長、生活水準の改善、そして雇用の創出だ。

2. インフラを「建てる人」が足りない


2-1. 技能職への需要増と人材不足

インフラ投資の拡大に伴い、電気工事士、配管工、HVAC(空調・換気・冷暖房)技術者、溶接工といった技能職の需要が急速に高まっている。米国労働省の予測によれば、こうした職種の雇用は今後10年で約5%増加する見込みだ。これは全業種平均の3%を上回る数字である。

ローソンは、さらに、「この予測はAIデータセンターブームが本格化する以前のデータに基づいている。実際の需要はこれを上回る可能性が高い」と指摘した。

2-2. 供給不足の構造的背景

問題は、こうした職種の担い手が十分に育っていないことだ。電気工事士の資格取得には、一般に約4年間の実地訓練と座学が必要とされる。見習い制度(アプレンティスシップ)を通じた人材育成が主流だが、現状のプログラムへの参加者数は将来の需要に対して不十分だという。

なぜ若い世代がこうした職種を選ばないのか。背景の一つとして挙げられるのが、「大学進学こそが正解」という長年の社会的規範だ。ローソンは、「大学の費用対効果への疑問が高まるにつれ、働きながら学べるプログラムへの関心も徐々に高まっている」と述べた。

3. 技能職という「キャリアパス」の再評価


3-1. 見習い制度が持つ経済的メリット

チェンバレンは、技能職が「良い仕事(good jobs)」である理由を複数の観点から説明した。

まず、アプレンティスシップ制度では学びながら収入を得ることができる。大学の学費ローンを背負うリスクが低く、初年度から貯蓄を始める経路が開かれている。加えて、雇用が安定していることから、医療保険や退職金積み立てといった福利厚生も比較的充実しているという。

さらに重要なのは、これらが単発の「仕事」ではなく、継続的な「キャリア」であるという点だ。「電気工事士として資格を取り、上級資格(マスター・エレクトリシャン)を経て、独立して自分の会社を持つ——そういったキャリアの進展が現実として存在する」とチェンバレンは述べた。

3-2. 金融教育との接続

チェンバレンは、アプレンティスシップの最初の段階から金融教育を組み込むことの重要性にも言及した。「最初の給与が入る時点から、貯蓄の習慣と知識を持てるようにする仕組みを整えることが大切だ」という考えのもと、BlackRock Foundationはこの接続を意識した取り組みを進めている。

4. フィランソロピー、企業、政府の役割


4-1. フィランソロピーが担う「先行投資」

チェンバレンは、BlackRock Foundationのようなフィランソロピー(慈善的資本)が担える役割として、「市場リターンを求めずに、まだ試されていない新しいアプローチを試みること」を挙げた。

具体的には、地域単位ではなく州単位でのトレーニング容量を考える視点の提供や、農村部のデータセンター建設需要と都市部の労働力供給のミスマッチを橋渡しする取り組みなどが例示された。「こうした実験的な役割をフィランソロピーが担い、うまくいったモデルを広げていく」という考え方だ。

4-2. 多様なステークホルダーによる協働

ローソンは、この課題を解決するためには「フィランソロピーだけでなく、政府・雇用主・労働組合・学校・地域コミュニティカレッジなど、ほぼすべてのステークホルダーが関わる必要がある」と述べた。

すでに進んでいる協働の事例として、以下のような動きが紹介された。

地域の雇用主とコミュニティカレッジが連携し、現場で必要なスキルを持つ人材を育てるプログラムを共同運営する取り組みや、労働組合と大学が提携し、アプレンティスシップを通じた実務経験と大学単位取得を組み合わせたプログラムも登場している。高校段階での早期接触も重要な論点で、「中学生の段階からこうした職種のキャリアに触れる機会を作ることが、長期的な供給を確保するうえで欠かせない」という認識が共有されている。

BlackRockは、こうした議題を深掘りするため、政策立案者・労働組合リーダー・経営者らを招いたサミットをワシントンで開催する予定だ。

まとめ


AIや電力インフラへの投資が拡大するなか、「誰がそれを建てるのか」という問いはより現実的な課題になりつつある。技能職の育成は短期間で解決できる問題ではなく、教育制度・企業・政府・フィランソロピーが長期的に協力する必要がある。

一方で、技能職が提供するキャリアの可能性——安定した収入、資格の積み上げ、独立への道——は、大学進学一択だった時代からのパラダイムシフトとして、改めて評価される局面を迎えている。インフラ投資の議論において、「ヒト」の問いをどう位置づけるかが、次の10年の課題として浮上している。

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