AI特化ヘッジファンド「Situational Awareness」、資産93億ドルから450億ドルへ急伸後に大崩壊 ― 4倍レバレッジが招いた結末
2026年7月の米国株式市場は、まさに「荒れ相場」という言葉がふさわしい1カ月だった。人気金融ポッドキャスト「Animal Spirits」のホスト、マイケル・バトニック氏とベン・カールソン氏は、この月を「2022年を1カ月に圧縮したような」相場だったと振り返る。実際、S&P500指数自体は月間ベースで見ればわずか10ベーシスポイントの下落にとどまり、洞窟に住んでいて指数だけを見ていた人には「退屈な月だった」としか映らなかっただろうと2人は冗談交じりに指摘する。しかし指数の裏側では、驚くほど激しい値動きが繰り広げられていた。
中でも最大の話題となったのが、皮肉にも「Situational Awareness(状況認識)」という名の、24歳の天才投資家が率いるAI特化型ヘッジファンドの急騰と急落だ。本稿では、このファンドを軸にした7月相場の全体像、そこから得られる投資の教訓、そして市場を取り巻くその他の重要トピックまで、番組の内容をもとに厚く整理していく。
1. Situational Awarenessという「出来過ぎた」物語
1-1. レオポルド・アッシェンブレナー氏という人物
このヘッジファンドを率いるのは、レオポルド・アッシェンブレナー氏という24〜25歳の人物だ。ヨーロッパ育ちで、15歳でコロンビア大学に入学し首席で卒業したという経歴の持ち主で、以前はOpenAIに在籍していたが機密情報の取り扱いを巡って退職している。
その後、AI業界の将来を描いた「マニフェスト」を発表し、それをきっかけに資金調達に成功した。2年足らず前に数億ドル規模で立ち上げたこのファンドは、いまやビル・アックマン氏やダン・ローブ氏を上回る運用資産を抱えるまでに成長したという。投資家陣にはコリソン兄弟(Stripe創業者)やMeta・OpenAI関係者らが名を連ね、本人はAnthropicのチーフ・オブ・スタッフと結婚しているという、まさに「出来過ぎた話」の主人公だ。ある著名ポッドキャスターは彼を「AIのノストラダムス」と評したというが、番組ホストはこれを「死の口づけ(縁起の悪い賛辞)」だったと皮肉る。
さらに象徴的なエピソードとして、ちょうどファンドが崩壊した当日、本人は北カリフォルニアで結婚式を挙げる予定だったという逸話も紹介された。ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によれば、その結婚式の前夜祭では、パネルディスカッションやブレイクアウトセッションまで企画されていたとされる。番組ホストの2人は、この人物像を「フィクションよりも奇なり」と表現し、まさに「AIブームで暴走した若き天才」を体現するかのようなキャラクターだと語っている。マイケル・ルイス氏(『マネー・ボール』などの著者)がノンフィクションとして書いても、これ以上のキャラクターは作れなかっただろう、というのが2人の一致した感想だ。
1-2. マクロ予測は的中、しかし、ポートフォリオ管理で崩壊
アッシェンブレナー氏は、AIの今後10年を見通す構想を掲げ、その予測はかなりの精度で的中したとされる。番組ホストの一人は「彼は本当に言い当てた」と評価する。しかし問題は、マクロの見立てが正しかったことと、優れたポートフォリオマネージャーであることは全く別の能力だという点だ。同氏は最大4倍のレバレッジをかけていたとされ、これが今回の急落の直接的な原因となった。
番組ホストの2人は、金融史における教訓の書『天才たちの誤算(When Genius Failed)』(ロングターム・キャピタル・マネジメントの崩壊を描いた名著)や『The Smartest Guys in the Room』(エンロン事件を描いた作品)を引き合いに出し、「賢さがあっても、レバレッジをかければファンドは崩壊し得る」という古典的な教訓が繰り返されたと指摘する。IQの高さや知性は、レバレッジ運用における生存には直結しないというのが2人の共通見解だ。「彼はこの本(When Genius Failed)を必読書にしておくべきだった」とベン・カールソン氏は述べる。
興味深いことに、番組内ではLTCM崩壊とドットコムバブル(ネットスケープ〜ChatGPT登場までのタイムライン)の値動きグラフが、驚くほど似た軌跡を描いているというチャートも紹介されている。ホストの一人は「線というのはいくらでも当てはめられるものだが」と留保しつつも、この符合の面白さを認めている。
1-3. 「知性があれば二度目のチャンスは与えられる」という社会構造
番組ホストは、こうした「頭が良い人間には、たとえ大失敗をしても再挑戦の機会が与えられる」という社会の構造そのものにも言及した。「賢く、少し変わった人物がいれば、人々はお金を投げつける」というのがベン・カールソン氏の見立てだ。本来であれば24歳という年齢を踏まえて「もう少し時間を与えるべきだ」という慎重論もあり得るはずだが、実際には巨額の資金がすでに集まってしまっているのが実情だという。ホストの一人は「アメリカという国は、こういう賢い人間には二度目のチャンスを与える文化がある」と述べ、これは良くも悪くもアメリカ的な特徴だと評した。
2. 資産急増から崩壊までの時系列
2-1. 3カ月で93億ドルから450億ドルへ
具体的な数字を見ると、著名投資家マーク・ルーベンシュタイン氏が示したデータによれば、このファンドの資産規模は2026年3月時点で93億ドル、6月には200億ドル超、そして7月には450億ドルにまで急増したという。この急成長のペースは、番組ホストが「これまでほとんど見たことがない」と表現するほど異例のものだった。
2-2. 「押し目買いの好機」から一転、Citadelへの売却へ
しかし7月24日、アッシェンブレナー氏は投資家向けレターで、この時の下落を「押し目買いの好機」だと位置づけた。ところがわずか数営業日後の7月30日には、公開株式のレバレッジポジション全体を、10%のディスカウントでCitadelに売却することになったという。
一部では「ファンドの利益はすべてAnthropicへの投資から来ており、公開株投資はすべて実質ゼロになった」との見方もあるが、番組ホストはこれは正確ではないと指摘する。レターの内容によれば、ファンドはAI関連銘柄をロングし、Adobeのような銘柄をショートするポジションを取っていたとされ、レバレッジによって両サイドで痛手を負った、いわゆる「ワニの顎(alligator jaws)」のような挟み撃ちにあった可能性が高いという。皮肉なことに、彼が買っていた銘柄の多くは、購入時点からなお大幅な上昇を維持している。番組ホストは、SanDiskが過去1年で1000%を超える上昇を維持している例を挙げ、「もしレバレッジを使わずにただ保有し続けていれば、"30%のドローダウンだが生き残れる"という状況で済んでいたはずだ」と指摘する。
2-3. 年初来ではなお約80%高
同ファンドは月間ベースでは約70%下落したとされる一方、年初来のパフォーマンスはなお約80%高だという。これは、Anthropicが年初来で約400%上昇しているとされることを踏まえれば、非公開資産(Anthropicへの投資など)がこのファンドの成績の大部分を支えている可能性が高いと番組ホストは分析する。番組では「このファンドに投資できたこと自体が、Anthropicへのアクセスを得られたという意味で、投資家にとっては十分な価値があったのではないか」という見方も示された。このファンドは、いわば「ベルベットロープ」型の排他的なヘッジファンドであり、投資家は誰でも入れるわけではなかったため、一般的なリテールマネーのように即座に解約を求める動きにはなりにくいだろうともコメントしている。むしろ、もし既存投資家が資金の引き出しか追加投資かを選べと言われたら、追加投資を選ぶ投資家の方が多いのではないか、という見立ても示された。
3. レバレッジという古典的な落とし穴
3-1. 「利益による高揚感」がさらなるレバレッジを呼ぶ
番組ホストのベン・カールソン氏は、著書『Your Money and Your Brain』(ジェイソン・ツバイク著、同氏自身の著書『Risk Reward』でも引用しているという)の逸話を紹介し、投資で利益を出している際の脳の活動は、コカインやモルヒネによる高揚状態と区別がつかないという研究結果に言及する。資産が9億ドルから20億ドル、45億ドルへと急増する過程で、アッシェンブレナー氏は「無敵感」を覚え、その勢いを維持するためにさらに大きなレバレッジを必要としたのではないか、という見立てだ。同氏はこれを「コカイン脳」と表現し、その状態を維持するには毎回より大きな「ヒット」が必要になる中毒性のメカニズムと同じ構造だと説明している。
3-2. 「ヘッジファンドマネージャーにとって理想的な崩壊回数は1回」
著名投資家マーク・ルーベンシュタイン氏の指摘として、「ヘッジファンドマネージャーにとって理想的な崩壊回数は1回だ」という言葉が紹介された。1度大きな痛手を負った経験があるからこそ、その後は慎重になれるという考え方だ。2回・3回と崩壊を繰り返す人物にはもうチャンスは与えられないが、1回であれば「マリガン(ゴルフでのやり直しの1打)」として許容されるというのがこの考え方の核心だ。実際、著名投資家ジョン・アーノルド氏も、トレーダーを採用する際の哲学として「許容できる過去の崩壊回数は1回まで」と語っていたとされる。アッシェンブレナー氏はこの「マリガン」をすでに使い切った状態にあるといえる。
番組ホストの一人は、自身が子どもとフリースロー(バスケットボールのシュート練習)の対決をする際、「自分にはマリガンが1回ある。ただし"成功したところから"再開する」というルールを設けていると笑いながら語り、これと同じ発想で言えば、アッシェンブレナー氏はもう「成功したところから」再スタートすることはできない、と冗談交じりに評した。
3-3. 「Situational Awareness」という皮肉な名前
番組ホストは、このファンドの名前が「状況認識」であるにもかかわらず、まさにその状況認識(自己認識・リスク管理能力)の欠如によって崩壊したという皮肉を繰り返し指摘している。ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、ロブ・コープランド氏(著書『The Fund』でレイ・ダリオ氏を描いたことで知られる)の言葉として、「Situational Awarenessの物語は、ある意味でウォール街の古い教訓であり、あらゆる世代が学び、そして次の世代が忘れてしまうものだ」という指摘も紹介された。
ベン・カールソン氏はこれを受け、「歴史書を読んで過去の失敗から学べる人はおそらく人口の2%程度に過ぎない。大半の人は、自分自身の授業料を市場の神々に払って初めて学ぶことになる」と述べ、「自分はウォーレン・バフェットのような銘柄選定ができるのか」という誘惑は誰もが一度は試してみなければ気が済まないものだと語っている。「自分は市場のタイミングを計れる」と思い込むのも同様で、誰もが一度は自分自身で試してみる必要がある、という人間の性(さが)についての洞察も示された。
3-4. IQと「本当の賢さ」は別物
番組では、真に賢い人間の条件として、単なる高いIQだけでなく「実際の状況認識(自己認識)」と「常識」を併せ持つことの重要性が語られた。ロングターム・キャピタル・マネジメントの崩壊時、運用者だったジョン・メリウェザー氏(元ソロモン・ブラザーズの敏腕トレーダー)が「ファンドは50%下落したが、まだ数十億ドル残っている」と述べたところ、周囲から「もうサメが寄ってきている。あなたはもう終わりだ」と指摘されたという逸話も紹介されている。過度な知性による自信過剰こそが、こうした崩壊の根本原因になり得るという教訓だ。実際、LTCMのレバレッジ倍率は今回のファンド(4倍)をはるかに上回る10〜20倍規模だったともされ、固定利付債の裁定取引においてそのレベルのレバレッジをかけていたことが語られている。
4. 半導体株の乱高下と「ベイルアウト」論争
4-1. 1日で15〜25%の急変動
このファンド崩壊の余波で、7月末には半導体株を含むAI関連株に激しい乱高下が生じた。7月29日時点でMagnificent Sevenのうち6社が大幅な下落局面にあり、Microsoftは30%安となっていた。しかし、その2日後にはAppleが15%近く下落する一方、Microsoftは約20%上昇、Amazonも20%上昇、Metaも10%下落するなど、極端な値動きが続いた。
著名アナリストのウォーレン・パイズ氏によれば、このファンドの清算劇によって半導体個別株のボラティリティは75%まで上昇し、これは過去に2020年3月と2025年4月の2回しか到達したことがない水準だったという。番組ホストは「我々は完全に新しい値動きとボラティリティの世界に入っている」と評している。こうした株価の乱高下は、投資家に「自分は世界一賢い投資家だ」と胸を張らせたかと思えば、わずか1週間後には「自分は絶対的な馬鹿者だ」と感じさせる、そういう性質のものになっているという。
4-2. Citadelの介入は「ベイルアウト」か
Citadelがこのポジションを引き受けたことについて、番組ホストの2人は「ベイルアウト(救済)」という言葉が適切かどうかで意見が分かれている。もしCitadelが介入しなければマージンコールが発生し、さらなる連鎖的な下落を招いていた可能性が高いというのが共通認識だ。介入直後、SanDiskなど一部の銘柄は1日で25%上昇するなど、極端な反発を見せたという。
一方のホストは、「ベイルアウトというのは政府・納税者に関わる特別な用語であり、これは厳密にはベイルアウトではない」と主張し、もう一方は「実質的にはベイルアウトに近い」との立場を崩さなかった。「もしCitadelが介入していなかったら何が起きていたか」という問いに対しては、「マージンコールが発生し、それがさらに事態を悪化させていただろう」との認識で両者は一致した。この論争自体が、今回の出来事の異例さを物語っているといえる。
5. 韓国市場でも同様の乱高下
韓国のコスピ指数も、年初来で一時倍近くまで上昇した後、わずか5週間で40%下落するという極端な値動きを見せた。世界第6位規模とされる同市場で、こうした急落が起きたにもかかわらず、年初来では依然として約50%高の水準を維持しているという。
報道によれば、韓国の総人口の3.5%に相当する人々がマージンコールを受けたとされる。この局面では、個人投資家が投げ売りする一方、海外投資家がその押し目を積極的に買い向かったという構図が示された。番組収録時点(火曜日午前9時38分)には、S&P500がすでに史上最高値を更新して寄り付いていたことも紹介され、「マージンコールを受けた人々」と「史上最高値を更新する市場」という対照的な光景が同時に存在する現状が指摘された。番組ホストは、株式投資家として最も重要なのは「強制的な売り手にならない状況を常に維持すること」だと総括している。それは単純に聞こえるが、実際には多くの人が自ら陥ってしまう罠だという。
6. それでも史上最高値を更新する米国株
6-1. 「あなたの見ている恐怖」は市場には織り込まれていない
こうした一連の混乱を経てもなお、S&P500指数は、史上最高値を更新し続けている。番組ホストのマイケル・バトニック氏は、2つの戦争、ガソリン価格の高騰、根強いインフレ、長期国債利回りの上昇、ヘッジファンドの崩壊、ソフトウェア・半導体株の急落、そして「誰もが嫌っている」とされる新FRB議長の就任といった、あらゆるネガティブ材料が重なったにもかかわらず、市場は史上最高値圏にあると指摘する。同氏は、こうしたリスクを軽視しがちな自身の姿勢を「素朴すぎるかもしれない」と認めつつも、「市場自体が心配していないのに、なぜ自分が心配すべきなのか」と述べ、企業が依然として利益を上げ続けている実態を根拠に挙げた。
6-2. リテール投資家の投げ売りが「ミニ・キャピチュレーション」に
ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によれば、ある火曜日には個人投資家が単一銘柄を2億4300万ドル分ネットで売却したという。これはコロナショック以来最大の1日あたりの資金流出だったとされる。この「ミニ・キャピチュレーション(投げ売りの底)」の翌日から、市場は反発に転じたという。
6-3. 「弱気論の方が賢く聞こえる」という市場心理
番組ホストのバトニック氏は、興味深い個人的なエピソードも紹介した。友人との会食で半導体株の急落について話題になった際、「在庫不足など供給制約の話は本物であり、まだこの物語は非常に早い段階にある」と述べたところ、相手から「でも君はいつも強気だからね」と返され、少し動揺したという。同氏は、市場が悪材料に反応して下落したときにそれに応じて見方を変えるのは当然だとしつつも、「弱気の主張は常に賢く聞こえ、強気論者は単なる楽天的な馬鹿者に見られがちだ」という市場心理の非対称性を指摘する。Magnificent Sevenが崩れ、半導体が崩れても株式市場全体が史上最高値を更新し続けているという事実を前に、「では次にどんな弱気材料を持ち出すのか」と問いかけた。同氏はまた、「自分はリスクを軽視しているわけではなく、市場が下落する局面ではむしろ強い恐怖を感じる。だからこそ"この相場は結局悪い結末を迎える"と言い続けているが、それでも今のうちにこの上昇を楽しんでおくべきだ」とも付け加えている。
7. 行動ファイナンス的な教訓
7-1. 「3カ月ぶりの安値から3カ月ぶりの高値へ」というシグナル
番組では、こうした市場の値動きから見えてくる行動ファイナンス的なパターンにも言及している。投資家ジェイソン・ゴアプフォード氏の分析によれば、ナスダック100指数が上昇トレンドの中で「3カ月ぶりの安値」から「3カ月ぶりの最大の上昇」に転じるというパターンが過去に見られた際、その3カ月後のパフォーマンスは86%の確率でポジティブだったという(2000年4月のシグナルは例外だったとされる)。これは、強気相場の中での一時的な「振り落とし」の後に、通常は反発が訪れるという典型的なパターンを示している。ホストは、こうした行動パターンに基づくデータポイントは、それが2026年であろうと1949年であろうと変わらない「不変の人間心理」を映すものであり、信頼性が高いと評価している。歴史的なデータポイントの多くは「もはやほとんど意味をなさなくなった」とされる一方で、こうした行動ベースのデータは時代を超えて通用するとの整理だ。
7-2. リテール投資家の「行動ギャップ」
もう一つの興味深いデータとして、DRAM関連ETFの事例が紹介された。今年4月の設定以来7月末までに260億ドルの純資金流入があった一方、ファンド自体は同期間に102%という高いリターンを上げていたにもかかわらず、平均的な投資家は実際には16億ドルの損失を被ったという。これは、多くの資金が値上がりが進んだ後に遅れて流入し、その後の下落で損失を被った「行動ギャップ」の典型例だと番組ホストは指摘する。かつてのARK Investファンドでも同様の現象が見られたことにも言及があった。もっとも、こうした平均リターンの計算が「事実として正確だが、必ずしも全体像を語らない」場合があるという留保もあわせて示されている。仮にあるアドバイザーが早い段階でこのファンドをモデルポートフォリオに組み込んでいたとすれば、そのアドバイザーの顧客はこの「平均投資家の損失」には該当しないはずであり、260億ドルという規模の大きさを踏まえれば、この統計はおおむね真実に近いだろうというのが最終的な整理だ。
7-3. ETFへの記録的な資金流入
Todd Sohn氏が示したデータによれば、株式ETFへの年間累計資金流入額は、2017年以降毎年増加を続けており、2026年は過去最高だった前年をさらに50%上回るペースで推移しているという。番組ホストは、この背景にはDRAMやSMH(半導体ETF)などAI関連ETFへの資金流入に加え、確定拠出年金の投資信託からETFへの乗り換えが影響している可能性を指摘している。
8. AI業界の周辺で起きているその他の動き
8-1. トランプ・メディアの「有料データサービス」
トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループが、トランプ大統領のTruth Social投稿への高速アクセスを提供する有料APIサービス「Truth API」を8月1日に開始したことも話題に上った。同社の暫定CEOは、このサービスが企業に対して、市場を動かす可能性のある投稿へのリアルタイムかつライセンス化されたフィードを直接提供するものだと説明したという。番組ホストはこの動きに対し、「良い方向に少しでもスピンをかけようとする素振りすらない」ことに率直な驚きと違和感を表明している。もしAppleが同様に決算情報を数分早く有料提供するようなサービスを始めたらどう思うか、という仮定の問いも投げかけられた。
8-2. 新FRB議長への市場の反応
新FRB議長ケビン・ウォーシュ氏の記者会見への反応について、バンク・オブ・アメリカが「新興国が信認ショックに直面した際の反応に似ている」とコメントしたことも紹介された。イールドカーブのスティープ化、株安、ドル安という組み合わせが見られたという。マクロ系のアナリストたちの多くは、ウォーシュ氏がフォワードガイダンス(将来の政策見通しの事前説明)を廃止する姿勢を示したことに強く反発しているとされる。番組ホストは、FRBが実際に重要な役割を果たすのは「最後の貸し手」として機能する危機的局面のみであり、平時の政策金利の細かい上げ下げは「中年男性のための占星術のようなものだ」との持論を展開している。FRBの経済予測は常に外れ、実際のバブル局面でも救済に間に合ったことがなく、後手に回ってから駆けつけるだけだ、というのがこの持論の核心だ。
8-3. 住宅市場と実質金利
住宅ローン金利が、再び6.8%近辺まで上昇していることも取り上げられた。2022年秋に金利が初めて6%を超えた際、多くの人は、「これは一時的なもので、1〜2年で下がるだろう」と考えていたが、それから4年が経過した今もその水準に戻っていないという。番組ホストは、実質金利の上昇が政府債務危機よりもむしろ住宅市場への影響を通じて経済に効いてくるという見立てを示し、イールドカーブが、「教科書的に正常な形」に戻りつつある点についても言及した。一方で、「変動金利ローンを組んで、後で金利が下がったら借り換えよう」と考えていた層は、その戦略がもう5年近く機能していない現実に直面しているとも指摘した。
8-4. GLP-1市場の拡大
GLP-1(肥満治療薬)市場についても、バロンズの特集記事をもとに、モルガン・スタンレーが2035年の売上予測を、糖尿病・肥満領域だけで1500億ドルから1900億ドルに引き上げたことが紹介された。肥満人口に対する浸透率は、昨年の6%から2035年には30%まで拡大するとの見通しが示されている。番組ホストは、この普及の遅れの一因として、こうした新しい治療法に懐疑的な高齢の医師層が一定数存在する可能性にも言及し、より若い世代の医師層への世代交代が処方の広がりを後押しするだろうと予想した。またホストの一人は、体重減少薬に対する社会的なスティグマ(偏見)の問題にも触れ、「これは決して恥ずべきことではない」との見解を示している。
8-5. プライベートクレジット市場の不穏な兆し
プライベートクレジット市場では、大手資産運用会社Guggenheim Investmentsの創業者マーク・ウォルター氏の複合企業を巡り、内部告発をきっかけに司法省・SECが調査を行っているとの報道も紹介された。約160億ドル規模の融資が、第三者の事業体を経由して同氏が保有する保険会社の帳簿に計上されていた経緯が調査対象になっているという。番組ホストは、「もしソプラノズが現代に存在したら、こうしたプライベートクレジットを通じたマネーロンダリングに手を染めていただろう」とジョークを交えつつ、この分野が複雑で理解しづらいがゆえに、不正の温床になりやすい構造を指摘した。
また、資産運用会社Blue Owlが、2022年に立ち上げたテクノロジー特化型ファンドについて、調達資金の少なくとも60%がUBSのアジア圏顧客由来だったという興味深い事実も紹介されている。投資先だけでなく「他の出資者(LP)が誰なのか」も重要な検討事項であるという教訓が示された。なおこのファンドはBlue Owlの旗艦ファンドではなく、規模自体は数十億ドル程度だったともされる。
8-6. Appleの好調な決算とSiriの停滞
Appleの決算にも触れられ、iPhoneの売上高が過去3四半期にわたり前年比23%、22%、22%という力強い成長を続け、直近の6月期は過去最高の売上を記録したことが紹介された。一方で番組ホストは、AI機能(Siri)の実用性の低さについて改めて不満を表明し、音声入力の精度や基本的な操作の使い勝手が一向に改善されていない点を指摘している。「Nicks(ニックスの愛称)」と話しかけても正しく認識されない、家族の写真を送る簡単な指示すら実行できないといった具体的な不満も紹介された。
9. 個人投資家として大切にしたい視点
番組の後半では、7月23日が商用航空旅客数において史上最多となった日だったことも紹介された。番組ホストは、「経済はすべてK字型で、豊かな層だけが恩恵を受けている」という言説に対し、飛行機が満席で、レストランやバーが若者で賑わっている実際の光景を根拠に反論している。シカゴを訪れた際、火曜日の夜にもかかわらずレストランやバーがすべて満席だったという体験談も紹介された。「SNSで若者は苦しんでいる、住宅も買えないと言われ続けているが、実際に自分が見たのは、おそらくエントリーレベルの仕事に就いている若者たちが笑いながらお酒を楽しんでいる光景だった」と述べ、SNS上の言説と現実の間には大きな乖離があり、「SNSは奇妙な"第四の次元"のようなもので、人々は自分の目で見たものよりもSNS上の情報を信じるようになっている」との指摘もなされた。

