【先週のニュース】イラン戦争・プライベートクレジット・ソーラー急落
2026年3月第1週、市場は複数のリスクが同時に顕在化する局面に入った。週末に始まった米国とイスラエルによるイラン爆撃、英国系プライベート貸金業者での詐欺発覚、Blackstoneの私募ファンドへの解約集中、ソーラーセクターの追加急落、そしてBlockによる大規模人員削減。週を通じた市場の乱高下は、「ナラティブ(市場の支配的な物語)」がいかに投資家の行動を左右するかを改めて示した。スティーブ・アイズマンによる週次解説をもとに、各テーマを整理する。
1. イラン戦争と市場——ビットコインは再びリスクヘッジにならなかった
1-1. 週末から始まった地政学ショック
米国とイスラエルによるイラン爆撃が週末に報じられ、週明けの市場は波乱の幕開けとなった。金・銀・原油が大幅上昇する一方、ビットコインは下落。その後月曜日の市場が上昇に転じると、ビットコインも一緒に上昇した。
アイズマンはこの動きを端的に指摘する。「ビットコインは危機において、ヘッジではなくテック株と一緒に動く——これが改めて確認された」。金やシルバーが地政学リスクへの反応を示す中、ビットコインはリスクオフ資産としての機能を果たさなかった。
1-2. 原油高がインフレ懸念を呼ぶ
通常、地政学的不安時には米国債が買われて利回りが下がる。しかし今回は異なり、原油高がインフレ懸念を引き起こし、長期金利は上昇した。水曜日に原油価格が落ち着くと市場は反発したが、木曜日には再下落。韓国のコスダック指数が一時12%急落(翌日に10%反発)するなど、市場全体がイラン情勢の行方を測りかねて大きく揺れた。
旅行関連株(航空・クルーズ・旅行予約)は週初に大きく下落したが、週後半には軟調なソフトウェアセクターとともに回復。「米国が勝利し、中東が改善されるという期待が次第に織り込まれた」とアイズマンは分析する。
2. プライベートクレジット——4つの悪材料が重なる
2-1. 詐欺の発覚:6ヶ月で3件目
英国系の中規模プライベート貸金業者Market Financial Solutions(MFS)が清算手続きに入り、二重担保(ダブルプレッジング)と呼ばれる詐欺行為が明らかになった。ローン残高は約24億ドルで、バークレイズ・アポロ・ジェフリーズ・ウェルズ・ファーゴが焦げ付きリスクにさらされている。
アイズマンは強調する。「これは過去6ヶ月で3件目の貸付詐欺だ。二重担保は発見可能なはずであり、プライベート貸金業者が十分なデューデリジェンスを行っていれば防げた問題だ」。
2-2. 機関投資家も解約に動く
カナダの中規模プライベートクレジット運用会社Invico Capital(運用残高約30億ドル)が機関投資家からの大量解約請求に直面し、「構造的流動性管理計画」と称するゲート措置(解約制限)を実施した。プライベートクレジットへの懸念は個人投資家だけでなく、機関投資家にも広がりつつある。
2-3. Blackstoneが自社資金で解約に対応
Blackstoneの820億ドル規模の私募クレジットファンドBCREが、四半期の解約上限5%を超える7.9%の解約請求を受けた。Blackstoneは解約上限を一時的に7%に引き上げ、残り4億ドル分を会社・従業員資本で補填することで対応した。「Blackstoneが自社のお金を使って解約を止めなければならない状況になっているという事実は、状況がいかに切迫しているかを示す」とアイズマンは指摘する。
2-4. 公開BDCでローンがゼロ評価に
BlackRockが運営する公開BDC(Business Development Company)TCPCが、EC(Eコマース)アグリゲーター企業向けの2,500万ドルのローンを、わずか3ヶ月前の額面評価(100セント)からゼロに評価変更した。
年初来の株価パフォーマンスを見ると、プライベートクレジット・プライベートエクイティ大手は軒並み大幅下落している。Apollo▲24%、Blackstone▲26%、KKR▲26%、Ares▲28%、Blue Owl▲31%。「かつてすべてが強気だったナラティブが、今はすべて弱気に転じた。人々は最新のナラティブに飛びつく傾向がある」というアイズマンの観察は、市場心理の本質を突いている。
3. ソーラーセクター——底打ちはまだ先か
商業用・住宅用とも逆風が続くソーラーセクターで、Sunnovaが決算発表後に株価が35%下落した。
商業用太陽光はトランプ政権の再生可能エネルギー抑制政策の影響を直接受けており、First Solarの悪決算に続く打撃だ。住宅用太陽光は、金利上昇(3万ドル規模のシステム導入に借入が必要)と連邦補助金廃止が重なり、数年来の低迷が続く。「底打ちへの期待が毎四半期裏切られている」という状況は変わっておらず、セクター全体が引き続き軟調に推移している。
4. 医療保険・ソフトウェア・Block
4-1. ElevanceがMedicare Advantageで制裁
医療保険大手Elevanceが、2015〜2023年のリスク調整データの提出方法をめぐりCMSから制裁措置を受ける見通しとなった。Medicare Advantageへの新規加入停止や、星評価(Star Rating)への影響が予想される。星評価が4つ以上であれば収益に5%のボーナスが付与されるため、格下げは経営への実質的なダメージとなる。株価は発表後に8%下落、年初来では17%の下落となっている。
アイズマンはこれをウェルズ・ファーゴが2017年に連邦準備制度から資産拡大禁止の制裁を受けた事例になぞらえ、「銀行界での破門に等しい措置だ」と表現した。
4-2. MongoDB:良い決算でも株価は急落
データベース企業MongoDBは、第4四半期の売上高が27%増と好調だったにもかかわらず、第1四半期のガイダンスが市場予想を下回り、株価は23%下落した。その後木曜日にはナラティブが転換し、ソフトウェアセクター全体が反発。「過売り」観測が広がり始めているが、方向性はまだ不透明だ。
4-3. Block:40%の人員削減とAIによる代替
決済企業Block(旧Square)が全社員の40%にあたる4,000人の削減を発表した。CEOは「AIにより、より少ない人員で事業を運営できるようになった」と説明している。アイズマンはこれをホワイトカラー大量解雇の先駆けとなる可能性を示唆しつつも、「現時点では会社固有の問題か、業界全体のトレンドかは判断できない」と慎重な姿勢を示す。
まとめ——「ナラティブ」が変わる速度に注目する
今週のアイズマンの一貫したメッセージは「ナラティブの力と、そのナラティブが変わる速さ」への注意だ。数週間前に銀行決算で「クレジット品質は問題ない」と総括されたばかりのプライベートクレジットが、短期間のうちに「信用サイクルの懸念」という正反対の評価に変わりつつある。
投資家にとって重要なのは、支配的なナラティブに乗り遅れないことよりも、そのナラティブの転換点を構造的な視点で判断することだ。「入るのは簡単、出るのはまったく別の話だ」——この言葉はプライベートクレジットだけでなく、急速に変化する市場環境全体への警句として受け取れる。
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