Anthropic、AIスタートアップDecartを60億ドルで買収へ ― IPOを控え過去最大の買収に
Bloomberg Techの放送で、AnthropicがAIスタートアップのDecart AIを約60億ドルで買収する交渉を進めていると報じられた。実現すればAnthropicにとって過去最大の買収となる。本稿では、この買収報道を軸に、同日に伝えられたCoreWeaveやCerebras、Cisco、SpaceXなどAIインフラ関連企業の決算・市場動向、さらにミッドキャップ株や未公開株市場の話題まで、Bloombergの放送内容をもとに整理する。
1. Anthropic、Decart AIを60億ドルで買収へ
1-1. 買収の狙い:コンピュート効率化
Bloombergの取材によれば、Anthropicは、Decart AIを約60億ドルで買収する交渉を進めている。BloombergのAI担当記者とディール担当記者によれば、この買収にはモデル技術そのものに加え、Nvidia製チップだけでなくTPUやAmazon製チップなど、複数の種類のチップから効率を最大限引き出す技術がAnthropicにとって魅力的だという。AI各社が需要に見合うだけの演算資源を確保しようとしのぎを削る中、こうした効率化技術の価値は大きいと分析されている。
1-2. IPOを見据えたタイミングと非公開ならではのメリット
60億ドルという金額は、近年報じられてきた大型ディールの規模感からすれば控えめに映るが、注目すべきはタイミングだとBloombergの記者は指摘する。Anthropicは、早ければ10月にもIPOを予定しているとされ、非公開企業のうちにこうした買収を実施する方が、公開企業として行うよりも進めやすい面があるという。すでにSECへ非公開で書類を提出済みだが、今回の買収は現時点のその書類には反映されない。Decartは直近で評価額40億ドルの資金調達を行ったばかりで、その際の調達ラウンドにはNvidiaも出資していた。SNS上では、Anthropic自身がNvidiaに似た、いわば競合のような存在になりつつあるとの指摘も出ているという。
1-3. これまで慎重だったAnthropicのM&A戦略
Anthropicは、リサーチから生まれたフロンティア研究所として、これまで比較的規律あるM&A戦略を取ってきたとBloombergの記者は説明する。CEOのDario Amodei氏は、コンピュートへの投資において「無闇に突っ走る(YOLOする)」ことは望まないと発言しており、OpenAIによるJony Ive氏のスタートアップ買収のような派手な大型ディールとは一線を画してきた。今回の買収が実現すれば、これまでで最大の買収となり、IPOを控えて必要な領域でより大型の取引に踏み出し始めている可能性を示すものになるという。Anthropicは、年初来ですでに2度のメガラウンドを通じて1000億ドル超を調達しており、その大半はバランスシート上に積み上がっているとみられる。なお、Decartを巡っては、SpaceX(現SpaceXAI)による買収検討も一部で報じられたが、Elon Musk氏はこれを否定している。
2. 株式市場は最高値、けん引役はチップ・ストレージ株
この日、S&P500は史上最高値を更新した。ストレージ・メモリ関連や一部の値がさ半導体銘柄が相場をけん引する構図だ。
3. ミッドキャップに広がるAI投資機会 ― Parnassus Investments
3-1. バリューチェーンの拡大:電力・水
Parnassus InvestmentsのポートフォリオマネージャーLori Keith氏は、AIブームの恩恵を受けるためにメガキャップ株を保有する必要はないとの見方を示した。同氏によれば、投資機会はコンピュートやメモリといった分野を超え、電力や水資源といった、AI・データセンターの成長を支えるうえで欠かせない分野にまで広がっているという。
3-2. バリュエーションの魅力
Keith氏は、大型株指数では上位銘柄への集中度が約40%に達する一方、ミッドキャップ指数では最大の構成銘柄でも比率は0.7〜0.8%程度にとどまり、はるかに分散された構成になっていると説明した。バリュエーション面でも、大型株が約21倍、小型株が約25倍で取引される一方、ミッドキャップは約17倍にとどまっており、今後数年の想定利益成長と比較して魅力的な水準にあるという。
3-3. 具体的な銘柄例
具体例として、Keith氏は送配電網向け機器を手がけるHubbell(ハベル)を挙げた。同社の事業機会はAIブーム以前から存在していたが、電源の多様化や送電網の近代化ニーズの高まりにより、データセンター向け需要の増加という追い風を受けているという。また利用者側の事例として、Robinhood(ロビンフッド)にも言及し、同社は現在、カスタマーサービス対応の約75%をAIで処理しており、具体的な収益改善につながっていると説明した。ストレージ分野の代表銘柄であるWestern Digitalについても、すでに「混雑した(crowded)トレード」になっているとしつつ、AIが生み出す膨大なデータ量とコンピュート需要を支える重要なイネーブラーとして、長期的な成長余地があるとの見方を示した。
4. Cisco決算:AI売上高予想は「保守的」との評価
Ciscoの第4四半期決算は、AIデータセンターブーム関連の売上高について75億ドルという見通しを示したものの、これは過去1年間の受注残高93億ドルと比較して保守的な数字と受け止められ、投資家の失望を招いた。Bloomberg IntelligenceのWoo Jin Ho氏は、AI売上高そのものの水準自体は妥当だとしつつ、投資家が気にしているのはむしろ粗利益率の側面だと説明した。第4四半期の粗利益率は、66%で、第1四半期も66%を見込むが、通期で見ると想定されていたほどの収益力の強さが確認できていないという。Cisco株は年初来で50%超上昇しており、決算発表前の期待値が高まっていたことも、今回の反応の背景にあるとHo氏は指摘した。同社は光関連製品で150%の成長を遂げ市場シェア首位を維持しているほか、ネットワーキング半導体でも浸透が進んでおり、AI関連の主要分野で存在感を強めている。
5. CoreWeave:Nvidia依存脱却の代償
CoreWeaveは投資家に対し、Nvidia製チップの独占的な利用から脱却することには「時間、投資、リソース」のコストが伴うと説明した。この変化は強い顧客需要を見据えたものだという。BloombergのBrady Ford氏は、多くの人がCoreWeaveのようなネオクラウド企業を、Nvidiaの意向に従う「属国」のような存在と見てきたと説明し、大手ネオクラウドとNvidiaの間にわずかでも距離が生まれる兆候は非常に興味深いと述べた。NvidiaはCoreWeaveの株式の10%を保有しているが、CoreWeave自身はこれまで、Nvidiaが提供するものをそのまま使い続けると繰り返し説明してきた経緯があり、今回の発言のトーンの変化は注目に値するという。なお、CoreWeaveの決算自体は好感され、利益率の改善が確認されたことで、ネオクラウドに対する弱気な見方はこの週でやや後退したとされる。
6. SpaceX、ロックアップ解除の初関門を通過
6-1. 株価の動き
BloombergのCarmen Reinicke氏は、SpaceXが最初の大型ロックアップ解除という関門を通過したことを報告した。インサイダーによる大量売却への懸念が広がっていたが、それは実現せず、株価は前日終値までで35%上昇し、時価総額を約5000億ドル押し上げたという。決算発表がロックアップ解除のタイミングと重なった水曜日には株価が下押しされる場面もあったが、それが結果的に当面の底値となり、その後5営業日で35%上昇したとされる。
6-2. 今後のロックアップ日程
もっとも、ロックアップ解除は今回で終わりではない。8月にもさらなる解除が控えており、10月、そして来年にも追加の解除が予定されている。中でも最大の節目とされるのが来年の夏で、Elon Musk氏保有株式が市場に出てくるタイミングだという。IPO後1年間は特にボラティリティが高くなりやすく、大きな下落も珍しくないとされる。
6-3. 1兆ドルの時価総額急落
実際、SpaceXはIPO直後の高値から先週の底値までの間に、時価総額にして1兆ドルを超える下落をすでに経験しているという。Musk氏は決算説明会で、2030年までに売上高1兆ドルを目指すという目標を掲げており、これを楽観的に捉える強気派と、その数字を厳しく精査する弱気派とで見方が分かれているとReinicke氏は説明した。
7. アジア市場・SpaceXAIのGrok Bot発表など小粒ニュース
このほか、中国のCXMT(長鑫存儲技術)が中国で最も時価総額の大きい企業となったことが報じられ、メモリチップ需要の高さが改めて確認された。これは、投資家の関心が従来のインターネット大手からAIハードウェア関連銘柄へとシフトしていることを映すものだという。また、中国最大の配車サービス企業は、2四半期連続の赤字から一転して黒字転換し、純利益1億2800万ドル、売上高11%増を達成した。Elon Musk氏率いるxAI・SpaceXの統合体「SpaceXAI」も、新たなAIエージェント製品「Grok Bot」の発表を受け、株価がこの1カ月で最大の日中上昇率を記録した。Grok Botはアプリやウェブサイトへのログイン、コーディング、長時間にわたるタスクの遂行など、幅広い業務をこなすことを目指した製品だと紹介されている。
8. Databricks評価額1900億ドルに、プライベート市場の勢い
この日のもう一つの大きな数字として紹介されたのが、データ分析企業Databricksの評価額1900億ドルだ。同社はシリーズEラウンドで50億ドルを調達し、これは今年に入って2度目の資金調達となる。SnowflakeやAlphabetと競合する同社は、売上高ランレートが70億ドルを突破したことも明らかにしている。
9. IVP Cack Wilhelm氏が語るAIインフラ投資
9-1. 買収か自社構築か
ベンチャーキャピタルIVPのジェネラルパートナーCack Wilhelm氏は、AnthropicによるDecart買収について、Decartが持つ「ワールドモデル」による最適化技術が、いまやAIインフラのスタックの中でも極めてホットなコモディティになりつつあることの表れだと分析した。同氏は、IVPが投資先企業をシリーズBから上場(SVP)まで育て上げることを理想としつつ、一部の投資先については大企業への売却という出口もあり得ると説明した。
9-2. お気に入りの投資先:Perplexityなど
Wilhelm氏は、パブリック市場の上位取引銘柄トップ10のうち、8番目か9番目までは従来型の意味での「ソフトウェア企業」ではなく、Palantir、CrowdStrike、Palo Alto Networks、Snowflake、Cloudflareといった名前が並ぶと指摘し、こうした企業群が高く評価される理由は、収益が利用量に応じて複利的に拡大する構造にあると説明した。自身のお気に入りの投資先としてPerplexityを挙げ、2023年9月の投資判断当時、同社の評価額はまだ低かったが、CEOの卓越した技術力と製品を素早く出荷する力を評価して出資を決めたと振り返った。同社を単なる「回答エンジン」と見るのは、Anthropicを単なる「モデル企業」と見るのと同様の過小評価だとし、Perplexityがブラウザや「Deep Research」機能、コンピュータ操作エージェントなど、次々と新機能を「最初に」打ち出してきた点を強調した。
9-3. AIバブル論への反論
現在のAI市場が「バブル」なのではないかという問いに対し、Wilhelm氏は、自身が投資する企業群に共通する特徴として「飽くなき需要」があると答えた。ある企業関係者は、機会さえあれば2027年分の受注をすべて今日売り切ることもできると話していたという。同氏は、「技術の黄金時代」にあることと、資本市場の「調整」が同時に起こり得るとしつつ、これはトレンドそのものが偽物だからではなく、単に「タイミングのミスマッチ」に過ぎないとの見方を示した。MITのノーベル賞経済学者ロバート・ソロー氏が1987年に「コンピュータの時代はあらゆる場所に現れているが、生産性の統計にだけは現れていない」と述べた、いわゆる「ソローのパラドックス」を引き合いに出し、汎用技術が長期的な成長数値に反映されるまでには時間がかかるものだと説明した。現状はまだ個人の生産性向上という段階にとどまっており、これが企業のワークフロー全体、さらには企業そのものの変革へと広がっていく必要があるという。
9-4. VCとしての規律
Wilhelm氏は、IVPが46年間一貫して守ってきた方針として、年間10社程度の「意義のある」企業への投資に絞り込むことを挙げた。ベンチャー投資はインデックス投資とは異なり、意図的な絞り込みが必要だという。損失を出す投資先についても、感傷的になる必要はなく、「負け組は勝ち組に奉仕するために存在する」と述べ、ポートフォリオ全体のリターンの大部分は1〜2社の突出した成功によってもたらされるのが常だと説明した。この傾向はAI時代においてさらに強まっており、5年前と比べて5倍ほど顕著になっているとし、この日発表されたLovable(130億ドル評価額での調達、報道によれば400億ドル規模のラウンドも協議中とされる)のような「勝者総取り」型の企業の存在を例に挙げた。
10. Cerebras決算:レンタル型コンピュート事業が急成長
10-1. ファーストパーティクラウド事業が281%増
半導体企業CerebrasのCEO、Andrew Feldman氏は、決算発表後の株価下落(13.4%安)を受けて番組に出演し、事業の内訳を説明した。同社は自社でデータセンターを保有し顧客に演算資源を貸し出す「ファーストパーティクラウド」事業と、ハードウェアを顧客に直接販売するハードウェア事業の2本柱を持つ。ファーストパーティクラウド事業は前年同期比281%増という大幅な成長を遂げており、非常に収益性の高い事業だという。第2四半期には、データセンターを持たない一部顧客に対してこうした演算資源をレンタル形式で提供できたことも、この事業の拡大を後押しした。
10-2. 254億ドルのバックログ
Feldman氏は、受注残高(バックログ)が254億ドルに達していることを明らかにし、直近の決算説明会では、6〜7カ月で600メガワットの容量を追加したことに言及した。来年の売上高は3倍超になる見通しだといい、これは既存のガイダンスやコンセンサス予想を上回るペースだという。サプライチェーンの観点では、製造委託先Rocket EMSとの提携拡大により製造能力を10倍以上に拡大する計画に加え、ファウンドリーパートナーであるTSMCからも成長を支える供給の確約を得ているとした。
10-3. AMDとの提携の進捗
数週間前に発表されたAMDとの提携についても、Feldman氏は進捗を説明した。両社のエンジニアリングチームがすでに緊密に連携しており、ラボでは統合ソリューションが稼働しているという。第4四半期には実際の展開を予定しており、発表後には顧客からの強い需要が寄せられているとのことだ。同氏は、GPUはスループットに優れる一方で速度面に課題があり、Cerebrasの技術がその速度面を補完することで、経済性(スループット)と顧客体験(速度)の両方を実現できると説明した。
11. Meta、最大1.4兆ドルの制裁金リスクを抱えた裁判へ
BloombergのMadlin Mekelburg氏は、Metaが来週カリフォルニア州で始まる裁判において、最大1.4兆ドルの制裁金リスクに直面していると報じた。29州の司法長官連合は、Metaの事業慣行が数百万人の若年ユーザーに影響を及ぼし、メンタルヘルス危機を引き起こしたと主張している。この金額はMetaの時価総額(約1.5兆ドル)に迫る規模であり、実現すればこれまでで最大級の制裁金となる。今週は陪審員選定が行われ、来週から双方の冒頭陳述が始まり、約1カ月にわたる証言が予定されている。CEOのMark Zuckerberg氏を含む同社幹部の証言も見込まれている。今回の訴訟は、これまでの個別ユーザーへの被害を争う訴訟とは異なり、より広範な人口集団への被害を主張するもので、たばこ産業を巡る訴訟との類似性が指摘されており、Metaが「公共の迷惑(パブリック・ニューサンス)」に該当するかどうかが争点になるという。Metaはこれまでの姿勢を維持し、若年ユーザーの安全確保に向けた取り組みは十分だと主張している。
12. OpenAI、CRO(最高収益責任者)を1年足らずで再び交代
番組の最後には、OpenAIが1年足らずで2度目となる最高収益責任者(CRO)の新任を発表したことが伝えられた。ウォール街デビュー(IPO)を控え、販売成長をさらに強化する狙いがあるという。同社の社長兼COOが、新たなCROへの移行期間を担うとされる。
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