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半導体の鬼才・ガビン・ベイカーが語るAI投資の構造——バブルを防ぐもの、次の勝者、宇宙コンピュートの現実

フィデリティで170億ドルを運用し、同期の99%(本人曰く「実際は100%」)を上回ったガビン・ベイカー氏。現在は自身のヘッジファンドをボストンで運用しながら、28万8千人のフォロワーに向けて半導体・AI投資の洞察を発信し続けている。

ブラックストーンのAI戦略トップであるJess氏との対談で、ベイカー氏は、メモリサイクル、Traniumの可能性、ネオクラウドの耐久性、そして「軌道コンピュート」という未来の話まで幅広く語った。投資家・ビジネスマンが今押さえるべき構造的洞察を本稿で整理する。


1. 投資家としての思考回路——フィデリティのDNAと課題


1-1. 受け継いだもの——「製品を好きになれば株を好きになれる」

ベイカー氏がフィデリティで叩き込まれたのは、ピーター・リンチ的なアプローチだ。「好きなお店があれば、その株も好きになれる」という発想——つまり、消費者・ユーザーとして製品に深く関わることが投資の起点になるという考え方だ。「それは間違いなく今も自分に埋め込まれている」と語る。

1-2. 課題として抱え続けていること

一方で、プロとしてのキャリア全体を通じて取り組み続けている課題も率直に明かした。「勝者を持ち続け、敗者を手放す」というマーケットの鉄則が、自分にとっては難しいという。「私はバリュエーションに非常に敏感で、かなりコントラリアンだ。52週安値リストの中に一番居心地がいい」と述べた。

この自己認識の明確さは、優れた投資家に共通する特徴の一つといえる。

1-3. 失敗から学んだこと——「未知のリスク」と「レバレッジ」

ベイカー氏が挙げた過去の痛い経験は二つだ。一つは、医療IT企業の株が90〜95%下落した経験で、「どれだけ機会を精緻に分析しても、未知のリスクは常に存在する」という教訓を得た。もう一つは、Nextel Internationalへの投資で、財務レバレッジが高い企業が価格競争に巻き込まれ破綻した経験だ。「取締役会に自社株買いを求める手紙を書いた15か月後に倒産した——これは一生の黒星だ」と笑いながら語った。

2. メモリサイクルとバブルの回避——TSMCの「守護者たち」


2-1. 歴史から見れば「今は売り時」——だが今回は違うかもしれない

メモリ株の現状について、ベイカー氏は、過去25年間のサイクルを踏まえれば「今は100%売るタイミング」と言い切る。しかし、すぐに但し書きを加える。「ただし、過去に一度だけ絶対に売ってはいけないサイクルがあった。1990年代半ばの真の供給能力サイクルだ。今回はそれに近い可能性がある」。

発表されたあらゆる数字に対して「実際はもっと大きくなる」という立場を取っており、構造的な需要の強さに強い確信を持っている。

2-2. バブルを防いでいるのは「TSMCの老齢の守護者たち」

AI投資において最大のリスクの一つは、バブルだが、ベイカー氏は、「今回は回避できるかもしれない」と述べる。その理由が興味深い。「ワット(電力)とウェーハ(半導体製造能力)の根本的な不足が、物理的な制約として機能している」というのだ。

TSMCについて、ベイカー氏はこう語った。「TSMCを動かしているのは70代の頑固な人々だ。彼らは台湾で最も重要な人物であり、モリス・チャンの遺産の守護者だと自認している。バブルと崩壊はTSMCと台湾にとって災厄だ——だから、彼らはジェンスン(ファン)が望むほど能力を拡張しない」。

Nvidiaは、来年1〜1.5兆ドル分のチップを売れる需要があると彼は見ているが、TSMCが供給を抑制することで業界全体のバブル化が防がれているという逆説的な構造だ。

3. Traniumは最も過小評価されたチップ


3-1. なぜTransmiumが見落とされているのか

NvidiaのGPUに対抗する選択肢として、GoogleのTPU、AmazonのTrainium、NTIAなど複数の選択肢が存在する。ベイカー氏が「最も市場に過小評価されている」と断言するのは、Amazon Traniumだ。

理由は技術的なものだ。「現在の最先端AIモデルは、ほぼすべてMixture of Experts(MoE)モデルだ。このモデルを推論するには『Switched Scale-up Network』と呼ばれるネットワーク構成が必要で、現在それが実用化されているのはNvidiaのGPUとAmazonのTrainium、この二つだけだ」。

GoogleのTPUについては、「優れたチップだが、設計において保守的な選択をした。NvidiaとTrainiumは積極的な設計をした」と評価した。さらに、GoogleがMlPerfというMLベンチマークを自ら作っておきながら、自社のTPUをそのベンチマークに提出しない点も指摘した。

4. ネオクラウドの耐久性——Formula 1の比喩


4-1. CoreweaveやCrusoeは「一時的な裁定取引」ではない

CoreweaveやCrusoe、Nebusといったネオクラウド(GPU特化クラウドプロバイダー)の持続性について、ベイカー氏は、明確に「耐久性がある」と判断する。Blackstoneが75億ドルをCoreweaveに投じた判断に直接関与した経験を持つJess氏との対話で、この見解を示した。

4-2. GPUクラスターの運用は「Formula 1を運転するようなもの」

ベイカー氏が用いた比喩が分かりやすい。「Formula 1のレースを見ていると、誰でも運転できそうに見える。でも実際に乗ったら死ぬだろう。自分にとっても周囲にとっても危険だ。GPUクラスターの運用もそれと同じだ」。

CoreweaveのGPUが高いプレミアムで取引される理由は、単に需給の問題ではない。「CoreweaveのGPUは、低品質のプロバイダーと比べて1時間あたり2〜3倍の稼働率を達成している。同じGPU時間でも質が全く異なる」と述べた。

「1,000店舗を50州で運営できる小売業者が$500億の時価総額を作れた。歴史上それができたのは10社程度だ。GPUクラスターの運営はそれよりもさらに難しい」という観点は、ネオクラウドの参入障壁を理解する上で有用な視点だ。

5. トークン消費とAI普及——「まだ0.1%しか使っていない」


5-1. 使量課金への移行が意味すること

AI企業は現在、定額制から使用量課金への移行を進めている。ベイカー氏は、この変化を携帯電話のデータプランや長距離通話の歴史と重ねて説明する。「月250ドルで最高のフロンティアモデルにアクセスできた時代は終わった。最高の能力はエンタープライズプランの使用量課金の裏側に隠されている」。

これはAI企業にとって強気のシグナルであり、フロンティアトークンの価格設定に上昇圧力をかけるという見方だ。

5-2. 世界人口の0.1%——需要の天井は見えない

「世界人口の0.1%しか、これらのモデルを本来使うべき方法で使っていない。それなのにすでに深刻な供給不足が生じており、業界は累計で兆ドル規模の設備投資をしている」とベイカー氏は述べた。「5%の人口が同じレベルで使うようになったら何が起きるか、想像すらできない」。

コーディングについては、「コーディングは、AIのキラーアプリであるだけでなく、最終的にはあらゆるものを包含するアプリになるかもしれない。コーディングはAGIへの最短経路の一つだ」と述べた。

6. 軌道コンピュート——宇宙データセンターという次の地平


6-1. 電力は太陽、冷却は宇宙の闇

ベイカー氏が「必然」と表現するのが、軌道コンピュート(宇宙に設置したコンピューティングインフラ)だ。地上データセンターにおける二大制約——電力と冷却——が宇宙空間では根本的に解決されるという考え方に基づく。「宇宙では電力は太陽から得られ、冷却は衛星の暗部が担う」。

具体的なイメージとして、「長さ100〜120メートルのラジエーターを持つ衛星が、太陽同期軌道で地球を周回する。衛星はデータセンターではなくラック——高さ約2.4メートル、幅75センチ、奥行き1.2メートル——であり、複数のラックがレーザーで結ばれて仮想データセンターを形成する」と描写した。

6-2. 商業的に意味を持つのはいつか

「2年以内に実現可能かつ経済的に成立することが明らかになる。今後5〜7年でシェアを取り始める」という見通しを示した。

一方で「今後7年以内に地上データセンターをゼロにする日は来ない。トレーニングと強化学習は地上で行い続ける」とも述べており、軌道コンピュートは補完的なインフラとして位置づけている。ただし、地上データセンター向けの電力・冷却関連企業にとっては、長期的に需要の頭打ちリスクがあるという点は注意が必要だ。

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