2026.08.07 注目の海外スタートアップの資金調達3選
2026年8月7日、ライブコマース、データセンターの電力管理、AIエージェントの監視という3つの異なる分野で、注目のスタートアップが相次いで資金調達を発表した。本記事では、Whatnot、Emerald AI、Lemmaの3社の発表内容を整理する。
1. Whatnot ― 評価額200億ドル、「AI一色」の市場で異彩を放つライブコマース
1-1. シリーズGで5.45億ドル、評価額は1年足らずでほぼ倍増
ライブコマースプラットフォームのWhatnotは、ICONIQ、Lightspeed、Avraが主導する5.45億ドルのシリーズG資金調達を完了し、評価額が200億ドルに達したことを発表した。これは2025年10月のシリーズF(評価額115億ドル)からわずか10カ月足らずでほぼ倍増したことになる。新規投資家としてKleiner PerkinsやWellington Managementが参加し、既存投資家のAndreessen Horowitz、DST Global、CapitalGも継続参加した。同社は2019年の創業以来、累計約15億ドルを調達している。
1-2. ライブコマース市場の6割を占有、GMVは前年を上回るペースで成長
Whatnotは、毎週65万人超の新規ユーザーが加入しているといい、2026年上半期の時点で総流通額(GMV)は既に80億ドルを超え、2025年通年のGMVを上回るペースで成長している。CNBCの報道によれば、ライブコマース市場全体の規模は220億ドル超と評価されており、Whatnotは、そのうち約60%を占めているという。過去1年間で、生涯売上100万ドルを超えるセラーの数は2倍以上に増加し、プラットフォーム上で生計を立てる専業セラーの比率も25%増加したとされている。
共同創業者兼CEOのグラント・ラフォンテーン氏は、今回の資金についてブログ投稿で「より良いツールを構築し、販売体験のより多くの部分にAIを導入し、セラーがより多くのバイヤーにリーチできるようにし、新市場に展開し、世界最大かつ最も信頼されるマーケットプレイスを築き続けるために活用する」と説明した。Fortuneの取材に対しては、「シリコンバレーを見渡せば、今は99.99%がAIの話題だ」と述べ、ほぼすべてのベンチャー資金がOpenAIやAnthropicに向かっているように見える市場環境の中で、消費者向け実取引ビジネスとしての継続的な成長は異例だとの見方を示している。上場については「できるだけ長く非公開のままでいたいが、状況が変われば準備はしておく」と述べた。
競合については、eBay、Fanatics、そしてTikTok Shop Liveといったライブ・ソーシャルコマース分野への参入が相次いでおり、競争は今後も激化する見通しだ。
2. Emerald AI ― データセンターを「電力網の資産」に変える技術に評価額10億ドル超
2-1. NVIDIAやJeff Dean氏が支援する電力オーケストレーションソフトウェア
データセンターの電力管理ソフトウェアを開発するEmerald AIは、約1億ドルの新規資金調達を進めており、評価額は10億ドルを超える見通しだと報じられている。Axiosの報道によれば、これは前回のシード拡張ラウンド(2500万ドル)からわずか3カ月後、評価額を4倍に引き上げる形での調達となる。同社は2024年にVarun Sivaram氏によって創業され、現在までに合計約7500万ドルを調達済みで、NVIDIAのベンチャー部門であるNVentures、Radical Ventures、そして、Googleの幹部として知られるJeff Dean氏、元米国務長官のJohn Kerry氏など、著名な個人投資家も名を連ねている。
同社が開発する主力製品「Emerald Conductor」は、AIのワークロードをオーケストレーションし、オンサイトのエネルギー資源を統合し、電力網とのインターフェースを担うソフトウェアプラットフォームだ。電力網の状況に応じて動的にエネルギー消費を調整できる「電力柔軟型」のAI運用を実現することを目指している。
2-2. 米国で計画中のデータセンター容量、半分しか電力網に接続できない現実
Emerald AIが取り組む課題は、AIインフラの急速な拡大と、限られた電力網容量との間に生まれつつあるミスマッチだ。業界の予測によれば、今後数年で米国内に新設されるデータセンター容量は最大50ギガワット近くに達する見通しだが、現在の制約下では、そのうちの約半分程度しか電力網に接続できない可能性があるという。
同社は、これまで、アリゾナ州、イリノイ州、バージニア州、オレゴン州、そしてロンドンの複数の商用データセンターで技術実証を行ってきた。これらの実証では、性能やレイテンシの要件を損なうことなく、電力網が負荷を受けている期間に電力使用量を大幅に削減できることが示されているという。直近のロンドンでの実証では、1分足らずで電力需要を3分の1以上削減できたと報告されている。同社は、NVIDIAや大手電力事業者(AES、Constellation Energy、Invenergy、NextEra Energy、Vistraなど)との連携も進めており、バージニア州で96メガワット規模のNVIDIA「Vera Rubin AIファクトリー研究センター」の稼働を計画しているという。
3. Lemma ― 「静かに失敗するAIエージェント」を捕まえる監視基盤に230万ドル
3-1. Y Combinator 2025年秋バッチ出身、100万件超のエージェント実行を処理
AIエージェントの信頼性に特化したスタートアップLemmaは、230万ドルのプレシード資金調達を発表した。ラウンドには、Matrix、Y Combinator、Liquid 2 Ventures、Vermilion Cliffs Ventures、Irregular Expressions、Cervin Ventures、Comma Capital、Position Ventures、Eight Capitalに加え、OpenAI・xAI・Meta・DoorDashの現役社員・元社員によるエンジェル投資家が参加した。
Jerry Zhang氏とCole Gawin氏によって創業された同社は、Y Combinatorの2025年秋バッチ出身で、AIエージェントの本番環境における監視に特化している。同社のプラットフォームは既に100万件を超えるエージェントの実行トレースを処理しているという。
3-2. "タスクは完了したように見えるが、結果が間違っている"問題への対処
Lemmaが取り組むのは、従来の監視インフラでは検知しづらい「意味的な失敗(semantic failures)」と呼ぶ問題だ。従来のソフトウェア監視は、クラッシュやエラーコード、レイテンシの急増など、明示的な失敗の兆候を前提に設計されている。一方で、AIエージェントは、ワークフロー上のすべての技術的ステップを正常に実行しながらも、ユーザーが本当に望んでいたことを誤解したり、間違ったツールを呼び出したり、非生産的なループに陥ったり、一見妥当だが実際には誤った回答を返したりすることがある。従来の監視インフラの観点からは、こうしたリクエストは"正常"に見えてしまうという。
同社が挙げる具体例には、カスタマーサービス用エージェントが誤った返金ポリシーを引用してしまう、監査用エージェントが古い情報でレポートを生成してしまう、エージェントが自ら作り出した情報を使って外部システムを呼び出してしまう、といったケースが含まれる。
Lemmaのトレーシングシステムは、各エージェントの実行を、背後で行われた大規模言語モデルの呼び出し、ツールの呼び出し、入出力、タイミングデータ、検索ステップ、発生したエラーを含む構造化されたトレースに変換する。エンジニアリングチームはこれにより、エージェントの最終的な応答だけでなく、実行ツリー全体を検査できるようになる。同プラットフォームはさらに、本番環境のトレースをエージェントの指示内容と照合して分析し、繰り返し発生する問題を"イシュー"としてグループ化することで、数千件の個々のやり取りの中に埋もれがちな失敗パターンを特定できるようにするという。問題の優先度付けや、Slackを通じたアラート送信機能も備えている。
3-3. 修正案の提示から、Cursor・Claude連携によるデバッグ支援まで
Lemmaは、問題の発見から修正までの距離を縮めることにも取り組んでいる。プラットフォームが繰り返し発生する失敗を特定すると、周辺のトレースとコンテキストを分析して根本原因を推定し、プロンプトやアプリケーションロジック、エージェントのワークフローに対する変更案を提示できるという。この仕組みはModel Context Protocol(MCP)サーバーを通じて開発環境にも拡張されており、開発者はCursor、Claude Desktop、Claude CodeといったツールからLemmaのトレースを直接参照できる。修正が本番環境に反映された後は、その本番環境での失敗を「オンライン評価」に転換し、再発を監視する仕組みも備えているという。
創業者のZhang氏は、「CoreとColeがLemmaを立ち上げたのは、AIエージェントを構築する苦しみを実際に経験したからだ。同じ問題に何度も遭遇した。エージェントは動いているように見えるが、本番環境では結果が十分に信頼できないという問題だ」と述べている。両氏は南カリフォルニア大学在学中に知り合い、その後別々のAIネイティブ企業でAIシステムに携わった経験を持つ。Lemma創業前には、医療分野にAIを応用するTandem、半導体設計向けAIエージェントを開発するChipStackでそれぞれ勤務していたという。
