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RAISE Summit 2026、パリで開催 ― Applied Intuition CEO「LTCM崩壊」になぞらえAIバブルへの警戒感

2026年夏、パリで開催されたAIカンファレンス「RAISE Summit」に、業界を代表する経営者・投資家・技術者が集結した。真夏の猛暑にもかかわらず会場は熱気に包まれ、AI業界の現状と今後の展望について率直な意見が交わされた。本稿では、Applied Intuition、SemiAnalysis、Nebius、Glean、Altimeterなど、登壇者たちが語った「ホットテイク(今最も注目すべき見解)」を整理して紹介する。


1. Applied Intuition CEO Qasar Younis氏 ― 「LTCM的崩壊」への警戒


自動運転・物理AI企業Applied Intuitionの共同創業者Qasar Younis氏は、自身の出身大学であるKettering大学(旧General Motors Institute)での卒業式スピーチが話題になったことに触れつつ、AI業界全体に対する率直な懸念を語った。

Younis氏は、現在のAI業界のコスト構造について「モデルの訓練・開発費から人件費に至るまで、製品そのものよりも企業の"贅沢さ"が話題になるようなバブル局面にある」と指摘し、今後何らかの調整局面が訪れる可能性があるとの見方を示した。

同氏は、1990年代後半に破綻したヘッジファンド「LTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)」を題材にした書籍『天才たちの誤算』を引用し、「LTCMは、著名な天才たちが集まったファンドで、レバレッジを使って運用していた。それが突如として崩壊した。AI業界にも同様の状況が起こり得るのではないか、と就寝前によく考える」と語った。LTCMの破綻は、ロシアやアジアの市場で誰も予期しなかった動きが連鎖したことが引き金になったといい、AI業界においても「周辺的な何かがドミノ効果を引き起こす可能性」を常に警戒すべきだと述べている。

一方で、同社の物理AI(自動運転・国防・産業機械向けAI)事業については、大規模言語モデルの世界と比較して「安全性が絡むため、普及のスピードはより緩やかで直線的だ」と説明。同社は、自動車・トラックだけでなく、造船大手Huntington Ingalls社や資源大手企業とも提携し、船舶や港湾、鉱山にもAIを導入する取り組みを進めているという。エンタープライズ側の予算意識についても言及し、「12ヶ月前は"何でも試したい"という空気だったが、今は"何を提供してくれるのか、いくら払うのか"という費用対効果の意識(reconciliation)が強まっている」と指摘した。

2. SemiAnalysis Dylan Patel氏 ― 「オープンソースは急速に死につつある」


半導体・AIインフラ専門アナリストのDylan Patel氏(SemiAnalysis)は、複数の中国系モデルラボが、「次期モデルはオープンソースにせず、ライセンス供与に切り替える」と推論プロバイダー各社に伝えていることを明かし、「残念ながら、オープンソースは急速に死につつある」と述べた。

Patel氏は、また、データセンター投資の現状について懐疑的な見方を示した。「多くの企業が、6ヶ月前にラボで何が起きたかという"後ろ向きの視点"に基づいてインフラを最適化しようとしている。柔軟性や汎用性ではなく、現時点での特定用途に最適化したインフラを3年計画で構築しようとしており、これは今後の無駄な投資につながる」と指摘した。

メモリコストの価格転嫁については、「B200やB300のようなサーバー価格は、量産開始前からすでに値上げが発表されている。メモリコストの上昇は、確実にエンドユーザーに転嫁されていく」と説明。また、「トークン・マキシング(トークンを積極的に使う姿勢)」についても持論を展開し、「トークン予算を厳格に絞り込む企業は、新しいワークフローを学ぶ機会を失い、取り残される。トークン予算主義は"敗者のメンタリティ"だ」と述べた。

3. Glean CEO Arvind Jain氏 ― 「2年以内にAI推論のほぼ全てがオープンソースに」


エンタープライズ検索・コンテキストプラットフォームGleenのCEO、Arvind Jain氏は、AIをエンタープライズで機能させる上での2つの重要課題として「コンテキスト」と「投資対効果(ROI)の可視化」を挙げた。同社は、複数のクローズド・オープンソースモデルを併用しながら最適なモデルをタスクごとに選定することで、顧客のトークン使用量削減に貢献しているという。

最も注目すべき発言は、オープンソースモデルの将来性についてのものだ。「オープンソースモデルが、AI推論を支配するようになるだろう。今後2年で、ほぼオープンソースが存在しない状態から、ほぼ全てがオープンソースになるという状況に転換すると見ている」と、大胆な予測を披露した。

4. Nebius Marc Boroditsky氏 ― データセンター「20拠点」のポートフォリオ戦略


クラウドインフラ企業NebiusのMarc Boroditsky氏は、同社が現在「20のデータセンター」を運営しており、今後もその数を増やしていく方針だと明かした。同氏は、多くの競合他社が、単一の大型プロジェクトに依存する「シングルスレッド」の状態に陥っている点を課題として指摘し、「本来は並列処理産業にいるにもかかわらず、単一プロジェクトに依存してしまうのは奇妙なことだ」と述べ、同社は分散型ポートフォリオ戦略を採用していると説明した。

同氏はまた、業界の関心がAIネイティブ企業による構築段階から、「エンタープライズによる導入」段階へとシフトしていることを最大のトレンドとして挙げ、資本支出や電力、株価をめぐる議論は「これはマラソンであることを考えると、多少の目くらましだ」とし、エンタープライズ導入こそが業界にとって次の重要な局面だと強調した。

5. Altimeter Apoorv Agrawal氏 ― 「AIの四季」理論


投資会社AltimeterのApoorv Agrawal氏は、スタンフォードでの講義がバイラルヒットしたことで知られるが、今回のRAISE Summitでも独自の理論を披露した。「AIには"四季"がある。それがOpenAI、Anthropic、SpaceX、Googleだ」と述べ、CIOやCEOが数百万〜数十億ドル規模の投資判断を下す際には、「天気ではなく気候のために計画すべきだ」と提言した。

これは、単一のモデルベンダーに依存するのではなく、マルチモデル・ルーティングや評価(eval)、独自のポストトレーニング済みカスタムモデルを見据えた戦略を組むべきという意味だという。同氏は、実際のワークロードの一部はオープンソースを通じて処理されるべきであり(Decagon社の事例では全体の約90%がオープンソース経由だという)、一方で、コーディングなど新しいユースケースを開拓する領域では、引き続き最も高性能なフロンティアモデルが使われ続けるだろうと分析した。

6. Turbo Puffer Nikhil Benesch氏 ― 検索コストは「数百ペタバイト」規模へ


AIワークロード向け検索エンジンTurbo PufferのNikhil Benesch氏(同社はCursor、Notion、Anthropicなどの検索基盤を担う)は、顧客が扱うデータ規模がかつてのギガバイト・テラバイト単位から、「数百ペタバイト単位」に拡大していることを明かした。「現時点で、当社の最大規模のワークロードは、検索コストだけで数千万ドルに達している。これはテラバイト規模のウェブスケール事例の話であり、ペタバイト規模の検索となれば、さらに1〜2桁コストが上乗せされるだろう」と述べた。

同社は、オブジェクトストレージ(S3やGoogle Cloud Storageなど)を基盤にキャッシュ機構を独自に構築することで、低コストと高速性を両立させているという。Benesch氏は、「検索はまだ1桁高すぎる」とし、コスト削減が実現すれば、これまで検索コストの高さゆえに存在し得なかった新たな製品カテゴリが生まれる可能性があると指摘した。

7. Wonderful AI Barak Kaufman氏 ― 「地理」がAI展開の鍵に


エンタープライズ向け実装AI企業Wonderful AIのBarak Kaufman氏(同社は米国外の大企業を主要顧客とする)は、「AIにおいては、業種(バーティカル)よりも地理(ジオグラフィー)の方が今後より重要になる」と述べた。労働市場や労働代替の実態を踏まえると、業種特化よりも国・地域ごとの展開戦略の方がはるかに注目に値するといい、同社は現在30カ国以上で事業を展開し、この半年で大半の国に進出したという。

8. Legora Max Junestrand氏 ― 「消費量ベース課金」で先行する法律AI


法律AI企業Legora(欧州拠点)のMax Junestrand氏は、法律AI分野において業界で初めて「消費量ベース課金(トークン使用量に応じた課金)」モデルを導入した企業であると説明した。「もし月額固定料金を200〜300ドルに設定し、顧客が2,000ドル相当のトークンを消費したら、事業として成り立たなくなる」とし、この価格モデルが、今後、法律AI分野を含む他の業界にも広がっていくとの見方を示した。

同氏は、また、欧州のスタートアップに対して率直な苦言も呈した。「欧州のスタートアップからは、グローバル市場で勝負するのではなく、不満ばかり述べる声が多い。ある種の怠惰さがある」と述べ、米国や中国と本気で競争するには、それに見合う努力が必要だと強調した。

9. MongoDB CJ Desai氏 ― 「データが復活した」


MongoDBのCJ Desai氏は、AIアプリケーションにおけるデータ基盤の重要性を強調した。「データこそが"縁の下の力持ち"であり、データは復活している。優れたデータ層なしにAIアプリケーションを構築することはできない。あなたのAIアプリケーションの質は、あなたのデータの質と同程度でしかない」と述べた。

10. Merge CTO Gil Feig氏 ― 「トークン・マキシングは機能していない」


統合API企業MergeのCTO、Gil Feig氏は、Dylan Patel氏とは対照的な見解を示した。「トークン・マキシングは機能していないと考える人が増え始めている。より多くのトークンを使っても、ゼロの結果しか得られない」とし、生産性と本当に相関しているのは、AIを使ってサイクルタイムを短縮し、フィードバックを得て素早く反復することだと指摘した。

また、AIシステムのセキュリティについても言及し、「LLM単体は、せいぜい失礼な発言をする程度の危険性しかない。しかし、それが外部にデータを送信できるようになった瞬間から、本当の問題が始まる」と述べ、企業のAI導入において「主権(sovereignty)」、すなわち自社システムに対するコントロールを維持したいというニーズが今後さらに強まるだろうとの見方を示した。

11. Navan Ariel Cohen氏 ― 「人間中心」であることの重要性


法人向け出張管理プラットフォームNavanの創業者Ariel Cohen氏は、旅行分野におけるAIのハルシネーション(誤情報生成)問題の深刻さを強調した。「間違ったフライトに案内したり、アップグレードしたと伝えて実際にはしていなかったり、間違った部屋に通してしまったりすることは絶対に許されない。旅行において、人はとても感情的になるものだ」と述べ、同社は独自のAIプラットフォームを構築し、ハルシネーションを防ぐ仕組みを整えているという。

業績については、「前四半期は、利用量ベースで50%成長、売上は40%成長し、キャッシュフローも黒字化・収益化を達成した。年間ブッキング総額は100億ドルを超えている」と明かした。同氏は、対談の締めくくりとして「人間に対して強気(bullish on humans)」という姿勢を強調し、AIインフラがどれほど進化しても、最終的に人間であることを忘れてはならないと述べた。

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