【3/7 - 3/13】注目の海外スタートアップの大型資金調達
今週(2025年3月7〜13日)の米国スタートアップ資金調達は、「AI・ロボティクス・Eコマース」が上位を占める展開となった。1位には3社が同率で並び、それぞれ5億ドル(約750億円)を調達した。
注目すべきは、グローバルでは英国のNscaleが20億ドル、パリのAdvanced Machine Intelligence(共同創業者:元Meta AI責任者Yann LeCun)が欧州スタートアップ史上最大のシードラウンドとなる10.3億ドルを調達している点だ。AIインフラへの大型資金は、地域を問わず継続している。
本稿では米国内トップ10の各案件を整理し、投資家として押さえるべき論点を抽出する。
1. 同率1位の3社——AI・ロボット・ECが並立
1-1. Quince(5億ドル・Eコマース)——評価額101億ドルのアフォーダブルラグジュアリー
サンフランシスコ拠点のQuinceは、Series Eで5億ドルを調達し、ポストマネー評価額は101億ドルに達した。リードはIconiq Capital。
Quinceは「手頃な価格の高品質ファッション・ホームグッズ」を直販するECプラットフォームで、創業8年。今週の顔ぶれの中で唯一のEC企業だが、その調達額はAI・ロボット系と肩を並べた。消費者向けプレミアム体験の需要が根強いことを示す案件といえる。
1-2. Nexthop AI(5億ドル・AIインフラ)——オープンソースでAIネットワークを変える
カリフォルニア州サンタクララのNexthop AIは、Series Bで5億ドルを調達した。リードはLightspeed Venture Partners、a16zも主要投資家として参加している。
同社はAI・クラウドネットワーキング向けのオープンソースOSベースのスイッチング技術を開発する。AIデータセンターの急速な拡張に伴い、ネットワークインフラの性能と柔軟性が問われる場面が増えており、このセグメントへの関心が高まっていることを示す案件だ。
1-3. Mind Robotics(5億ドル・産業ロボット)——RivianスピンアウトがSeries Aで5億ドル
パロアルト拠点のMind Roboticsは、電気自動車メーカーRivianのスピンアウト企業だ。Series AとしてAccelとa16zが共同リードで5億ドルを調達した。
AI対応の産業ロボティクスプラットフォームを開発しており、製造・工業現場の大規模自動化を目指す。Series Aで5億ドルという規模は、産業ロボット分野への期待値の高さを示している。
2. 4位〜6位——ロボット・AIインフラが続く
2-1. Rhoda AI(4億5,000万ドル・ロボット)——数億本の動画でロボットを訓練
パロアルトのRhoda AIは、ステルスから登場しSeries Aで4億5,000万ドルを調達した。リードはPremji Investとされる。
同社の特徴は数億本の動画を学習データとして活用し、複雑・変化する環境下で動作するロボットの知能モデルを構築するアプローチだ。人間の動作を大量の映像から学ぶという手法は、汎用ロボット開発において近年注目されている方向性と一致する。
2-2. Replit(4億ドル・AIソフトウェア開発)——半年で評価額3倍
フォスターシティのReplitは、Series Dで4億ドルを調達し、評価額は9億ドルに達した。半年前の評価額は3億ドルであり、わずか6ヶ月で3倍になった計算だ。Georgian主導で、ベンチャー投資家のほか著名人投資家も参加している。
Replitは「誰でもソフトウェアを作れる」エージェント型AIプラットフォームとして知られ、非エンジニアによるアプリ開発を支援する。前週のBloomberg Tech放送でもCEOが「2026年に10億ドル収益を目指すペースにある」と述べており、成長軌道の裏付けとなる調達といえる。
2-3. Eridu(2億ドル超・AIネットワーク)——AIデータセンター向け高性能スイッチ
カリフォルニア州サラトガのEriduは、ステルスから出てSeries Aで2億ドル超を調達した。Socratic Partners、John Doerr、Hudson River Trading、Capricorn Investment Groupなどが参加している。
NexthopAIと同様、AIデータセンター向けの高性能ネットワークスイッチを開発する企業だ。同週に同セグメントで複数社が大型調達を実現したことは、AI計算インフラの「配線」部分への投資が本格化しているサインとして注目に値する。
3. 7位〜10位——コード検証・家庭用ロボット・サイバーセキュリティ・調達管理
3-1. Axiom Math AI(2億ドル・AI)——コード自動検証で評価額16億ドル
パロアルトのAxiom Math AIは、Series Aで2億ドルを調達し、評価額は16億ドルに達した。Menlo Venturesがリード、MadronaやB Capitalなどが参加。
同社はAIが生成したコードの自動検証システムを開発する。AIコーディングが普及する中、生成されたコードの正確性・安全性をどう担保するかという課題は現実的な問題として浮上しており、そのソリューションに市場が形成されつつある。
3-2. Sunday(1億6,500万ドル・ロボット)——家庭用ロボット「Memo」の実用化へ
マウンテンビューのSundayは、Series Bで1億6,500万ドルを調達し評価額は11億5,000万ドルとなった。Coatueがリード。今年後半に家庭用ロボット「Memo」のベータ版を一般家庭に展開する計画だ。前週のBloomberg Tech放送でCEOが登場し、「3,000人以上がウェイトリストに登録済み」と述べていた案件と同一企業だ。
3-3. Kai(1億2,500万ドル・サイバーセキュリティ)——エージェント型AIで防御を自動化
サンノゼのKaiは、エージェント型AIサイバーセキュリティプラットフォームを開発し、Evolution Equity Partnersのリードで1億2,500万ドルを調達した。イランとの地政学的緊張が高まる中、企業のサイバー防御需要が高まっていることとも文脈が一致する。
3-4. Oro Labs(1億ドル・調達管理)——年300%収益成長が示す企業向けSaaSの底力
テキサス州オースティンのOro Labsは、企業向け調達管理プラットフォームでSeries Cを1億ドル調達した。Brighton Park CapitalとGoldman Sachs Growth Equityがリード。同社は前年比300%の収益成長を背景に今回の調達に至ったと述べており、エンタープライズSaaSの中でも需要が高い領域であることを示している。
グローバル動向——欧州でも大型AI調達が相次ぐ
米国外では今週、英国のNscaleが20億ドル(AIインフラ超スケーラー、評価額146億ドル)を調達。パリのAdvanced Machine Intelligenceは、Yann LeCunが共同創業した「世界モデル(物理世界から学習するAI)」開発企業として、欧州スタートアップ史上最大のシードラウンドとなる10.3億ドルを調達した。
AI開発の中心が依然として米国にある一方、欧州での大型調達も着実に増加していることは、AIインフラへのグローバルな資金流入の構造的な持続性を示唆している。
