ナスダック+15%でも警戒感——アイズマンが語る、今の相場が怖い本当の理由
2026年春、米国株式市場は急速に回復した。3月末に底を打ったS&P500は、約1か月でプラス9%、ナスダックに至っては15%上昇している。数字だけを見れば「強気相場の再来」と喜びたいところだが、著名投資家スティーブ・アイズマン(Steve Eisman)は、今週の「ウィークリー・ラップ」でこう述べた——「この上昇は泡立っているように感じる。それが私を不安にさせる」。
本稿では、アイズマンが指摘する市場過熱の兆候、インフレ再燃の気配、そして個別企業の決算状況を整理し、投資家が現在の局面でどう考えるべきかを解説する。
1. 急反発する市場——「メルトアップ」の兆候
1-1. 驚くほど速い回復
3月末時点では、S&P500は年初来マイナス4%、ナスダックはマイナス7%と低迷していた。それがわずか1か月余りで逆転し、ナスダックは年初来プラス15%まで上昇した。これほど急速な反発は、通常の業績改善や経済指標の好転だけでは説明しにくい。
アイズマンは、「相場の一部は、戦争が終わったという市場の思い込みを反映している。しかし、私はそれが正しいとは確信できない」と述べ、楽観的な前提に対して警戒感を示している。
1-2. 過熱を示す4つの数字
アイズマンが挙げた「過熱の兆候」は具体的だ。
半導体セクターがS&P500の18%超を占める(2026年初時点では14%)
NvidiaはS&P500の全ヘルスケアセクターより時価総額が大きい
メモリ大手のMicronがS&P500トップ10入り
ヘルスケア・生活必需品・エネルギー・公益の防衛4セクターを合算してもS&P500の19%にすぎない(2022年末は31%)
防衛セクターの縮小は、市場参加者がリスクを軽視し、成長株に資金を集中させていることを示唆する。
1-3. 個人投資家の強気な動き
CBOE(シカゴ・オプション取引所)のデータによれば、個人投資家による「MAG10銘柄(マグニフィセント7+AMD、Palantir、Broadcom)」へのコール買いが、過去10営業日ベースで2021年以来最高水準に達した。新規ポジションの52%がコール買いという構成は、短期的な強気センチメントの偏りを示している。
2. インフレ再燃の懸念
2-1. PPIが予想を大幅に上回る
5月14日に発表された4月の生産者物価指数(PPI)は、前月比で季節調整後1.4%上昇。市場コンセンサスの0.5%を大きく上回り、3月の修正値0.7%と比べても加速している。前年同月比では6.0%上昇と、2022年12月以来最大の伸びとなった。
2-2. 長期金利の動向
10年米国債利回りは、4.5%付近で推移している。アイズマンが「過去においてはルビコン川だった水準」と表現するこの閾値は、株式市場の割高感を際立たせる可能性がある。金利が上昇すれば、特に収益が出ていない成長株の評価額に下押し圧力がかかりやすい。
3. 個別企業の決算——「ダイス(さいころ)を振るような投資」
3-1. 決済セクター:明暗が分かれる
アイズマンは、以前からVisaとMastercardを除く決済株の難しさを指摘してきたが、今週の決算はその見解を裏付けた。
Toast(レストラン向け決済):EPSは予想を上回ったが、第2四半期のEBITDA見通しが市場予想を下回り、株価は金曜日に17%下落。年初来では約半値圏にある。
Bill(B2B決済):EPSは予想を上回り、通期ガイダンスを引き上げ。ただし従業員を最大30%削減するリストラを発表。株価は金曜日に7%上昇したが、年初来ではまだ26%安。
Block(旧Square):EPSは予想を大幅に上回り、従業員の40%超を削減後の業績として堅調。年初来プラス13%だが、2022年中頃からほぼ同じ価格帯で推移している。
「決済セクターへの投資はサイコロを振るようなものだ」というアイズマンの表現は、このセクターの予測困難さをうまく表している。
3-2. 旅行・広告テクノロジー
Expedia:実際のEPSは予想を超えたが、地政学的不確実性を理由に第2四半期の予約が弱いと予測。マクロ環境が悪化した場合には通期ガイダンスを下方修正するリスクも示唆し、株価は9%下落。
The Trade Desk(広告テクノロジー):Amazonの参入により競争が激化し、2年前に20%だった収益成長率が現在は8%への鈍化を見込む。成長投資家が離れつつあり、バリュー投資家はまだ手を出さないという「はざま」状態。年初来46%下落と苦戦が続く。
3-3. AIインフラと暗号資産
CoreWeave(AIデータセンター):収益は前年比2倍以上と爆発的成長だが、採算が取れておらず、第2四半期のガイダンスが市場予想を下回り株価は8%安。「赤字企業はいかなる指標も失望させてはならない」とアイズマン。
Coinbase:1株当たり損失17セントと、前年同期の利益24セントから大幅悪化。暗号資産価格の回復により第2四半期は黒字転換が期待されるが、今年の利益は昨年比49%減が見込まれている。年初来18%安。
3-4. 注目の2社
Constellation Energy(独立系電力):米国最大の原子力フリート保有。EPSは前年比28%増とビートしたものの、2025年の通期EPS見通しを据え置いたため株価は下落。AIデータセンター向け電力需要の恩恵を受けている企業として今後の動向が注目される。
Cisco:AIによる受注増を背景にEPS・売上高ともに予想超過。売上高は前年比12%増と近年では高水準の成長率を達成。株価は木曜日に2桁の上昇を見せた。
4. 民間信用(プライベートクレジット)市場の不安
4-1. FSK問題が示す亀裂
KKR傘下の上場BDC(Business Development Company)であるFSK(FS KKR Capital)は、今年に入りMoody'sから投機的格付けに引き下げられ、株価は年初来27%下落している。
今週、KKRが合計3億ドル(約450億円)規模の支援策(出資1.5億ドル+株式買い取り1.5億ドル)を発表した一方で、JPモルガンを筆頭とする銀行団はFSKへの融資枠を6億5,000万ドル(約14%)削減し、残存融資の金利を引き上げた。
「金融サービス企業が融資枠を削減されることは、常に非常に悪い兆候だ」とアイズマンは述べる。
4-2. MSCI調査が示す損失の広がり
MSCIのデータによれば、プライベートクレジットファンドの保有ローンのうち10分の1以上が少なくとも50%以上の評価減を受けている。アイズマンが近日公開予定のマスタークラス「Conspiracy of Credit(信用の共謀)」では、この問題をGFC(グローバル金融危機)との比較を交えて詳細に分析する予定だ。
5. FICOスコア独占問題——短売りポジションへの考え方
5-1. 誤解への反論
アイズマンは、FICO株に対してショート(空売り)ポジションを取っている。一部のリスナーから「モーゲージ市場に弱気なのに、ホームビルダー(Meritage Homes)に強気なのは矛盾では」という指摘があったが、アイズマンはこれを明確に否定した。
「私はモーゲージセクターに弱気なのではない。FICOのスコアリング独占に着目しているのだ。独占が崩れれば住宅ローンコストは下がる可能性がある」
また、「ショートを持っているから偏っている」という批判に対しては、「調査の結果として意見を持ち、それをポジションで表現しているに過ぎない。誰かにショートを勧めているわけではない」と述べた。
5-2. FICOの現状
FICOは、過去5年間で価格を約1,500%引き上げており、独占的地位への規制・競争圧力が高まっている。この問題については別途、専門家インタビューの形で詳細が公開されている。
まとめ:過熱感を認識しつつ、根拠を持って動く
今週のアイズマンのメッセージは「リセッションを予測しているわけではないが、この急騰相場の持続可能性には懐疑的だ」というものだ。彼自身は今週、特にハイグロース銘柄を一部売却したと明かしている。
市場が強いときほど、「なぜ強いのか」の根拠を冷静に問い直すことが重要だ。半導体セクターへの集中、防衛セクターの縮小、個人投資家のオプション買い増加、PPI上振れ——これらの数字を並べると、楽観だけでは説明しきれない歪みが見えてくる。
市場予測は誰にとっても難しい。しかし、過熱のシグナルを知り、自分のリスク許容度と照らし合わせることは、どんな投資家にとっても有益な習慣だろう。

