「遠くから革新はできない」——JPモルガンとFranklin Templetonが語るブロックチェーン実装の現在地
資産運用と金融インフラの分野でブロックチェーン技術の実装が加速している。JPモルガンのデジタル資産部門責任者Scott Lucas氏と、Franklin Templeton のイノベーション担当エグゼクティブバイスプレジデントSandy Cole氏が、JPモルガンのポッドキャスト「Making Sense」に登場し、規制環境の変化、機関投資家向けユースケースの成熟、そして、今後10〜15年の展望を語った。両氏はCFTCのデジタル資産小委員会の共同議長も務めており、業界の最前線にいる立場からの証言だ。
1. Franklin Templetonの8年間——「デジタルネイティブ」への道
1-1. 2018年から始まった試行
Sandy氏は、Franklin Templetonのブロックチェーンへの取り組みが2018年に遡ると説明する。「まずデジタル資産チームを組成し、2019年からSEC(米証券取引委員会)とブロックチェーンの運用上の可能性を探る協議を始めた」。
目的はシンプルだった。同社が運用する数千本のミューチュアルファンドの株主記録を管理するトランスファーエージェント機能を、ブロックチェーンで効率化できないか検証することだ。その試金石として選ばれたのがマネーマーケットファンドで、「日々取引が発生するマネーマーケットファンドは、ブロックチェーンをテストするのに最適な環境だった」とSandy氏は言う。
1-2. SECとの並行パイロットで得た許可
2021年4月に同ファンドを正式ローンチ。その前後、Franklin Templetonは、SECに対して従来のメインフレームベースのシステムと新しいブロックチェーンベースのシステムを並行稼働させる4ヶ月・5万件のトランザクションに及ぶパイロットを実施した。「大幅なコスト削減と記録精度の向上が確認され、SECから許可を得た」。
この結果として同社は、「オンチェーンでデジタルネイティブ製品を運用できる唯一の資産運用会社」となったとSandy氏は述べる。現在は、10のパブリックチェーンと1つのプライベートチェーンにまたがってシステムを展開しており、ルクセンブルクでの第2世代トランスファーエージェントの立ち上げを経て、2026年初頭には、トークン化マネーマーケットファンドの運用残高が10億ドルを突破した。
2. 規制環境の転換——「トーン」の変化がもたらすもの
2-1. 過去4〜5四半期の変化
Scott氏は、この動きの背景として規制環境の転換を挙げる。「過去4〜5四半期で、特に米国主導で規制のトーンが大きく変わった。従来、銀行は、プライベートブロックチェーンに事実上制限されていたが、パブリックブロックチェーンへの参加が現実的になってきた」。
「本当に機能する金融市場インフラを構築するには、すべての市場参加者がパブリックからプライベートまでフルスペクトラムにアクセスできる必要がある」とScott氏は強調する。この規制トーンの変化により、JPモルガンは、パブリックブロックチェーン上でのウォレット運用、セキュリティ管理、リスク報告のオペレーション整備に本格的に取り組み始めた。
2-2. クライアント需要の高まり
規制の変化は、クライアントの声を引き出す効果もあった。Scott氏によれば、現在の需要は、まだ小売・個人投資家主導だが、ハイネットワース個人、ヘッジファンド、資産運用会社へと「スタックを上がっていく」動きが確認されている。「供給をいくら整備しても、需要側の条件が整わなければ実行には至らない。今ようやくその条件が揃いつつある」。
3. ユニバーサル流動性レイヤー——機関投資家向けインフラの核心
3-1. 「50〜60%」が完成した基盤
Sandy氏は、機関投資家向けの本格展開に向けた基盤整備について、「ユニバーサル流動性レイヤー」という概念で説明する。ステーブルコインのような現金類似手段、マネーマーケットファンドのような利回り付き商品、イントラデイレポのような資本効率向上サービス、そして、コマーシャルペーパーのような融資商品——これらを統合したオンチェーンの基盤だ。「このレイヤーの構築は、まだ50〜60%の段階で、今後1年で大きな進展があるだろう」とSandy氏は見る。
3-2. マネーマーケットファンドの具体的な変化
実装済みの事例として、Sandy氏は、トークン化マネーマーケットファンドの運用上の変化を説明する。従来システムでは、「トレード日+1」での帳簿処理が標準だったが、ブロックチェーン上ではブロック生成のたびにリアルタイムで株主記録が更新される。
これにより実現したのが「日割り利息の正確な計算」だ。「取引日の途中でファンドを売却した場合、その時点までの利息を正確に受け取れる。従来システムでは不可能だった」。また利回りの配分も月次から日次に変わり、毎日の利回りがトークンとして直接ウォレットに入金されるようになった。
Scott氏も同様に「レポ取引では同じ取引をより短い期間でより精緻に実行できるようになった。これは既存市場にとって付加価値的なものだ」と述べる。
4. TradFiとDeFiの架け橋——「内側から設計する」
4-1. RWA(現実資産)トークン化の現状と限界
Sandy氏は、現在進行中のTradFi(伝統的金融)とDeFi(分散型金融)の統合について、率直に現状の課題も認める。株式、債券、プライベートファンドがSPV(特別目的事業体)を通じてトークン化され、DeFiの流動性プールで担保として使用されるモデルが登場しているが、「規制上の観点からはまだ対応できていない部分がある。DeFiプールに入ると資産の所有者が実質的に存在しなくなり、それは規制された空間では機能しない」。
しかし、同氏はこれを否定的には捉えていない。「そこに参加することで、スマートコントラクトの内側に入ることができる。外側から解決策を設計しようとするより、システムの内側で動きながら設計する方が遥かに有効だ」。
4-2. 新興アセットクラスとしてのクレジット
注目すべきトレンドとして、Sandy氏は、クレジット(信用)領域への関心を挙げる。「トークン化は、これまで株式側に集中してきたが、新製品の多くはクレジット側で動いている。パブリックとプライベートクレジットを組み合わせた目標利回り商品の需要が高まっており、ホームエクイティローン、プライベートクレジット、ストラクチャードクレジットが続々と市場に出てきている」。
ただし、非流動性のプライベート資産のオンチェーン化については慎重な見方を示す。「流動性のミスマッチを生むリスクがあり、過去にもその問題は繰り返されている。流動性の高い商品から始まり、プライベート資産は少し後になる」。
5. 今後10〜15年の展望——「クラウド移行の次」
Sandy氏は最後に長期的な展望をこう語る。「今後10〜15年で業務の大半がブロックチェーンレールに移行すると考えている。かつてメインフレームからクラウドへの移行を経験したように、これが次の移行だ」。
「プログラマブルなファンドラッパーが生まれたことは大きい。契約を資産に組み込めば、運用上の機能が自動実行されるようになる。これは業界規模の自動化だ」と同氏は言う。
Scott氏はより実践的なメッセージで締めくくる。「実際にリスクを取らなければ、この技術が自分の組織にとって何を意味するかは分からない。小さなファンドレベルでもいいので、とにかく何かをやってみることが大事だ」。
「遠くから革新はできない」——Sandy氏がインタビューの冒頭と末尾に繰り返したこの言葉が、議論全体のトーンを象徴している。規制の中で、顧客とともに、実際に動きながら設計する——それが機関投資家向けブロックチェーン実装の今の姿だ。

