Microsoft好調、Meta苦戦 ― スティーブ・アイズマン氏が読み解く「複雑化するAI論争」
著名投資家スティーブ・アイズマン氏が、週間まとめ番組「The Weekly Wrap」で、7月最終週の決算シーズンとAI関連銘柄を巡る論争の変化について解説した。なお、本内容は情報提供を目的としたものであり、投資助言には当たらない旨が番組内でも明記されている。
1. Charter株を「売却する」― テーゼの誤りを認める
アイズマン氏はまず、今年1月にCharter Communications株を推奨した自身の判断について、率直に「間違いだった」と認めた。同社の第4四半期決算では、ブロードバンド契約の減少ペースが改善するように見えたが、2026年第1四半期には悪化に転じ、第2四半期には、さらに悪化(17万2000件の契約減、予想を大きく下回る結果)したという。経営陣は、「最悪期は過ぎた」と説明し、負債の一部返済も行ったが、同氏はこれに懐疑的な立場を示し、「2四半期連続の悪い決算で十分だ」として売却する意向を明らかにした。同氏は、皮肉にも決算発表後に株価がむしろ15%上昇した点にも触れつつ、これはAI関連銘柄からの資金シフトによるものであり、Charter自体の改善を反映したものではないと説明している。
2. イラン情勢とFOMC ― 原油90ドル超え、10年債利回り4.7%に接近
イラン情勢について、週末の小康状態は既に終わり、イランが米軍基地を攻撃し米国が報復するという展開となり、原油価格は90ドルを超えたという。FOMCは、今週の会合で金利を据え置いたが、直近の原油価格急騰を一因に、FRBが対応に後れを取っているのではとの懸念から、水曜日には市場がある種の調整局面を迎え、10年債利回りは4.7%に迫る水準まで上昇したと説明されている。
3. AI論争の変化 ― 「ハイパースケーラー」と「LLMプロバイダー」を区別する
アイズマン氏は、AIを巡る論争の様相が明確に変化していると改めて強調した。「AIは資本集約的だ」「AIには濠(モート)がないかもしれない」「中国のAI企業が安価な優れたモデルを作り、価格競争を引き起こす可能性がある」という懸念が広がっているという。同氏は、投資には理性だけでなく感情も伴うため、「AIは全て良い」から「AIは全て悪い」への転換は感情的にはあっという間に起こりうるとしつつ、AIの最終的な結末を自信を持って予測できると考える者は自分を欺いているに過ぎないと述べた。
その上で同氏は、「ハイパースケーラー」と「LLMプロバイダー」を明確に区別すべきだと説明した。ハイパースケーラーとは、LLMモデルを収容する巨大データセンターを建設する企業(Google、Amazon、Microsoft、Oracleなど)を指し、ハイパースケーラーであるための支出額自体が巨大な「モート」になっており、その担い手はごく少数に限られるため、これらの企業は、「実体のある事業」を持っているとの見方を示した。一方、AnthropicやOpenAI、そして、部分的にGoogleやMicrosoftが手がける大規模LLMモデル事業については、より問題含みだと指摘した。企業がコスト抑制のためにモデルを切り替えたり、より安価な中国製オープンソースモデルを利用したりする傾向が広がっており、モートが存在しないか、あってもごく浅いという論争が起きているという。
4. オープンソースとクローズドソース ― 「価格戦争」のリスク
アイズマン氏は、オープンソースモデル(コードを自由に改変できる)とクローズドソースモデル(改変できない)の違いを整理した上で、現時点では、中国製オープンソースモデルの方が明らかに安価であり、これが将来的な価格戦争を招く可能性があると説明した。AnthropicとOpenAIは、GoogleやMicrosoftのような多様な既存収益源を持たない点でも問題含みだといい、GoogleとMicrosoftは複数の確立された事業からの収益に加え、ハイパースケーラー事業も持つためリスクバランスが取れている一方、これら2社のLLM事業自体は依然として不透明だとの見方を示した。
同氏は、市場の本格的な調整局面の引き金になりうる要素として、AnthropicとOpenAIの経営状態を注視すべきだと述べた。ハイパースケーラー各社が抱える受注残の多くが、この2社に由来しており、例えば、Oracleの6000億ドル超の受注残のうち約半分がOpenAI一社に由来するとされる。モートの欠如がこの2社に問題を引き起こし始めれば、AIエコシステム全体が調整局面に入りかねないという。
5. 「AIが雇用を破壊するという物語はプロパガンダかもしれない」― アイズマン氏の私見
一方で、アイズマン氏は、AIが既存のソフトウェアや技術をはるかに安価に構築できるようにしている点は、若い起業家がこの変化を活用する「大規模なスタートアップの時代」を生み出す可能性があるとし、AI全体が経済全体の雇用を破壊するとは考えていないと述べた。同氏はこれを、雇用の「転換期」であり、正味では雇用創出につながる可能性が高いとの見方を示している。
同氏はさらに踏み込み、「AIが雇用を破壊するという考え自体が、AnthropicとOpenAIによって広められたプロパガンダである可能性がある」という自身の見方を披露した。これは、連邦政府がAIを規制に踏み切り、その規制が結果的にAnthropicとOpenAIに有利に働くようにするための策略ではないかというもので、虚偽の物語に基づいて規制を求めることは、濠を作る手段として非常に憂慮すべきものだと指摘している。なお、これはあくまでアイズマン氏個人の見解であり、異なる見方をする専門家も存在する点には留意が必要だ。
6. Nasdaq・半導体指数の下落 ― AI関連クレジット市場にも選別
アイズマン氏は、投資家がテック株・AI関連銘柄全般を売却することで神経質さを露呈していると指摘し、Nasdaqは、1月2日につけた過去最高値から7%下落、半導体指数(iShares Semiconductor ETF)は、6月22日のピークから23%下落、今週だけでも4%下落したと説明した。
同氏はまた、AI論争の変化が債券市場にも波及している点に言及した。AIデータセンター企業CoreWeaveが、追加の計算能力確保のため26億ドルの負債調達を進めており、その利回りは9%を超える水準に設定されているという。同氏は、これを「非常に高コストな負債」だとし、Googleのような返済能力が確実視される大企業と、CoreWeaveのようなよりリスクの高い新興企業とを、債券投資家が明確に選別し始めている、ある種の「信用サイクル」が生じつつあると分析している。
7. 決算ラウンドアップ ― Visa・Mastercardは好調、P&Gは低調
決済関連では、Visaが、1株利益(EPS)3.31ドル(前年比+20%、予想上回る)、純収益116億ドル(前年比+14%)、決済総額+10%と力強い決算を発表し、消費者支出の減速は見られないとされた。Mastercardも、同様に好調な決算(EPS 5.04ドル、前年比+21%)を報告している。一方で、Procter & GambleのEPSは、前年比3%減、オーガニック売上高成長率は0%にとどまり、いわゆる「K字型経済」の兆候があらゆる場所に見られると指摘された。
Bloom Energy(データセンター向け発電技術企業)は、EPS78セント(前年比+680%)、売上高10億ドル超(前年比+166%)という驚異的な決算を発表し、今年だけで株価が90%以上上昇しているという。同氏は、2026年予想PERは、73倍と割高に見えるものの、急成長率を踏まえれば2027年・2028年予想PERはそれぞれ37倍・23倍まで低下する見込みであり、AIの物語が続く限り同社株のパフォーマンスも続くだろうとの見方を示している。
PayPalについては、EPS・売上高ともに市場予想を上回ったものの、依然として業績は低調だとし、StripeとAdventからの1株60ドルでの買収提案を同社が「価格が低すぎる」として拒否している点に触れ、AppleやGoogleのような大手からの攻勢を受ける同社は「売却すべきだ」との私見を示した。
8. Microsoft好調、Meta苦戦 ― 明暗を分けたハイパースケーラー事業の有無
水曜夜に発表された決算のうち、Microsoftは、好決算を記録した。EPS4.74ドル(前年比+30%)、総売上高+18%、そして、最も重要な点として、Azureの売上成長率が、前四半期の40%から43%へと加速したという。フリーキャッシュフローは、196億ドルで前年比23%減となったものの、全体としては「非常に良い決算」だったと評価され、時間外取引で株価は大幅に上昇した。
一方で、Meta決算は、「かなり悪かった」と評された。EPSは、6.18ドル(前年の7.14ドルから13%減、予想未達)、売上高は608億ドルで予想通りだったが、費用が28%増収に対し55%も増加した点が問題視された。研究開発費は前年の130億ドルから220億ドルへと急増し、AI競争参加のコストが利益率とキャッシュフローを圧迫しているという。フリーキャッシュフローは、わずか7億8400万ドルで、これはAIというゲームがいかに資本集約的になっているかを示すものだと指摘された。同社は次四半期の売上高見通しも予想(630億ドル)を下回る625億ドルとし、通期設備投資見通しの下限を1250億ドルから1300億ドルへ引き上げた。さらに、バランスシートにまだ反映されていない、AI関連を中心とした将来のリース契約総額279億ドルは、わずか3か月で53%も増加したという。Meta株は時間外取引で9%下落した。
アイズマン氏は、MicrosoftとMetaを比較すると、Microsoftのクラウド事業(Azure)が好調で会社全体を牽引しているのに対し、Metaは、そうした事業を持たず、コストがかさむ割にまだ十分な収益性を発揮していないLLM領域だけで勝負しようとしている点が明暗を分けたと分析している。
9. その他の決算 ― Starbucks回復、Amazon好調、Apple・FICOは失望
Starbucksは、EPS85セント(前年比+70%)、既存店売上高+約8%と、ターンアラウンド戦略がようやく機能し始めている兆候を示した。Robinhoodは、仮想通貨収益が38%減少した一方、オプション・株式・予測市場での取引が伸び、全体の売上高は+32%となった。Quanta Servicesは、電力インフラ建設需要の高まりを受け、EPS(前年比+71%)・売上高(+41%)ともに市場予想を大幅に上回る決算を記録し、通期見通しも引き上げている。住宅建設のMeritageは、増益率こそ前年比マイナスだったものの、フリーキャッシュフローが予想を上回り、自社株買いを積極化させている。
Fair Isaac(FICO)は、EPSこそ前年比+42%だったが、これは主に長年の値上げによるもので、売上高は市場予想を下回り、通期見通しも弱含みとなり、株価は木曜日に17%下落した。Appleについては、EPSは前年比+29%だったものの、サービス部門の売上高が予想に届かず、中国売上高も失望材料となり、時間外で株価は約4%下落した。対照的に、Amazonの決算は、市場に好感され、AWSの成長率が37%まで加速したことが評価され、株価は時間外で7%超上昇している。
10. ヘッジファンド「Situational Awareness」、強制清算に
アイズマン氏は最後に、元OpenAI従業員のLeopold Aschenbrenner氏が設立した運用資産200億ドル規模のヘッジファンド「Situational Awareness」を巡る動きに言及した。同ファンドは、直近のAI関連株急落を受け、多額のマージン(信用取引の担保)を使っていたため大きな損失を被り、新規資金の調達を試みていたという。同氏は、かつて優れた運用実績を上げ、天才ともてはやされていたが、アイズマン氏は、「ヘッジファンド運用には、知識と賢さ以上のもの、すなわちリスク管理が不可欠だ」と指摘し、投資家の資金を預かる立場である以上、下振れリスクの管理は、上振れの追求と同等かそれ以上に重要だと述べた。同ファンドは、木曜日、マージンコールに対応するため強制的に清算されたという。

