Metaのクローズドモデル転換とAnthropic年間売上300億ドル突破——AIマネーの流れから"次の投資機会"を読む
AIをめぐるマネーの流れが、新たな局面を迎えている。Metaは、初のクローズドモデル「NewSpark」を発表し、長年堅持してきたオープンソース路線からの転換を鮮明にした。Anthropicは、年間売上ランレート300億ドルを突破し、評価額3,500億ドルでのセカンダリーセールでは"売り手不足"という異例の事態が発生した。Bloomberg Techの報道を起点に、AI投資の最前線を整理する。
1. MetaのAIモデル戦略転換——NewSparkとクローズドモデルへの舵切り
1-1. オープンソースからの"大転換"
Metaは、長らくオープンソースモデルLlamaシリーズを旗艦に据えてきた。しかし、Bloomberg Techによれば、2025年初頭以降、Llamaは、OpenAI・Anthropic・Google Geminiといったフロンティアモデルとの性能差を指摘されていた。
新モデルNewSparkは、Metaの「Super Intelligence Labs」が開発した初のクローズドモデルであり、開発者がバックエンドコードにアクセスできない設計だ。これは収益化(monetization)を意識した明確な戦略転換と受け止められている。
レポーターのRiley Griffin氏は、番組内でこう伝えている。
「アナリストの評価を聞くと、『Metaはゲームに復帰した』と言っている。これは非常に重要な展開だ」
同ラボを率いるAlex Wang氏はInstagramに投稿し、MetaのAIモデルを「業界4位」と位置づけた。1位を主張するのではなく、「ゲームに復帰した」という自己認識を示した格好だ。ニュースを受けたMeta株は一時約10%上昇を記録した。
1-2. 中国モデルで訓練——Alibaba「Qwen」の利用が意味するもの
NewSparkの注目点は、訓練にAlibabaのQwenを含む複数のサードパーティ製オープンソースモデルを使用した点にある。米中間のAI覇権競争が激化する中、米テック大手の多くは中国企業が自社モデルで訓練することを阻止する方向に動いている。
Griffin氏はこう指摘した。
「米中AI競争の中で、複数のテックリーダーが、国家安全保障の観点から優位性を守る必要があると発言し、中国企業が自社モデルで訓練するのを阻止する動きも見せている。今回のMetaのアプローチは『中国モデルから学ぶ』という逆方向であり、それ自体が注目に値する」
Metaはセキュリティ対策を講じたうえでの決定としているが、業界内で議論を呼ぶ可能性がある。
2. Anthropic——年間売上300億ドル突破と"売り手不足"の二次売出し
2-1. 評価額3,500億ドル時代の到来
Bloombergの報道によると、Anthropicは、従業員向けの二次売出し(セカンダリーセール)を完了した。新規資金ベースの評価額は3,500億ドルに設定された。
しかし、結果は意外なものだった。投資家側は、約60億ドルの購入枠を用意していたが、従業員の売却意欲が低く、需要を満たしきれなかった(undersubscribed)。
Bloomberg記者のRebecca氏はこう分析した。
「Anthropicの今年の成長は驚異的だ。同社は今週、年間売上ランレートが300億ドルを超えたと発表している。従業員にとって3,500億ドルの評価額は『まだ十分に高くない』と映ったのだろう」
2-2. HumanXカンファレンスでの"Anthropic一色"
サンフランシスコで開催されたHumanXカンファレンス(参加者約7,000人)では、Anthropicが事実上の話題の中心だった。Rebecca氏は次のように述べている。
「ほぼすべての会話で、聞かれてもいないのにAnthropicの名前が出てきた。多くの投資家やスタートアップにとって、自社を測る基準(ベンチマーク)になっている」
Anthropicは、AIコーディング領域で支配的な地位を確立しつつあり、今後は金融サービスなど他領域への拡大も見込まれている。今週リリースされた新モデルについては、「一般公開するには強力すぎる」との判断が示され、一部の創業者に危機感を与えているという。
3. AIインフラ投資の見通し——J.P.モルガンの視点
3-1. "計算力不足"は続いている
J.P. Morgan Asset ManagementのStephanie Aliaga氏は、Bloomberg Techの番組内でAI設備投資の見通しについて次のように語った。
「成長見通しは需要と不可分に結びついている。今期の決算で、すべてのハイパースケーラーが、『今日もっと多くの容量があれば、売上はさらに高かったはずだ』と述べた。私たちは、依然として、深刻な計算力不足(deeply compute-constrained)の環境にある」
3-2. 地政学リスクがAIハードウェアコストに波及する経路
Aliaga氏は、中東情勢がもたらすリスクについても言及した。
「石油に最も依存する経済圏——台湾、韓国——は、AIハードウェアの最も重要なサプライヤーでもある。原油価格の高止まりが長期化すれば、そのコストは米国のソフトウェア企業に転嫁される」
中東の停戦交渉は、進行中だが、イランと米国の双方が相手側の違反を非難し合う状況が続いており、市場にとって不透明感は残る。ただしAliaga氏は、紛争が数日〜数週間で収束するシナリオの蓋然性のほうが高いと見ている。
3-3. テクノロジー株のバリュエーションは"歴史的に割安"
一方で、同氏は、テック株のバリュエーションが生活必需品セクターよりも割安な水準まで収縮していると指摘。主要銘柄の一部はAIブームが始まった時点より安い倍率で取引されており、「堅調な利益に対し、投資家はより安い価格を支払っている」構図だと述べた。
「地政学的な逆風にもかかわらず、利益予想はむしろ上方修正されている。その要因はAIナラティブの強さだ」
4. NVIDIAテクニカルブレイクアウトと半導体vsソフトウェアの明暗
4-1. 9カ月の横ばいからの脱出
Bloombergのマーケット記者Ryan Vlastelica氏によると、NVIDIAの株価は、約9カ月間ほぼ横ばいで推移していたが、直近6セッションで10%超の上昇を記録し、テクニカル面で注目すべき動きを見せている。
「株価が185ドル水準を維持すれば、投資家が、この銘柄に戻ってきていることを示す。200ドル台、さらには史上最高値に向けたブレイクアウトの兆候と見ることもできる」
4-2. 半導体vsソフトウェア——ゼロサムの構図
年初来でチップ株は、20%超の上昇を見せる一方、ソフトウェア株は大幅に下落している。Aliaga氏は、この格差について「市場はAIの波をゼロサムとして見ている」と指摘。
AIが既存ソフトウェアを陳腐化させるとの懸念がソフトウェア株に重くのしかかる一方、AIインフラ——GPUだけでなくメモリ、CPU、カスタムシリコンを含む幅広い半導体——への需要は拡大が続くとの見方を示した。
ただし、Aliaga氏は、「ソフトウェアの基礎的なファンダメンタルズが悪化しているわけではない。市場の慎重姿勢がバリュエーションに反映されているだけで、ソフトウェアが自らを再発明する余地はある」とも付け加えた。
5. その他の注目トピック
5-1. Amazonのチップ事業:200億ドルのランレート
Amazon CEOのAndy Jassy氏は、年次株主書簡で、同社のチップ事業が年間売上ランレート200億ドル超に達し、前年比3桁成長を遂げていると明らかにした。外部への販売が本格化すれば500億ドル規模に達する可能性にも言及している。
5-2. OpenAI、英国Stargateプロジェクトを一時停止
OpenAIは、エネルギーコストの高さと規制上の課題を理由に、英国でのデータセンター建設プロジェクトを一時停止した。英国は欧州でも有数のエネルギーコスト高が課題であり、計画許可の取得にも困難が伴う。
Bloomberg Techの記者Shona Ghosh氏はこう述べている。
「発表されたインフラ投資のすべてが実現するわけではない現実が見えてきた。エネルギーコストの問題は、OpenAIだけでなく、英国内の他のデータセンタープロバイダーにも影響する」
5-3. Nico Rosbergが語るAIベンチャー投資の勝ち筋
元F1世界チャンピオンで現在はベンチャーキャピタリストのNico Rosberg氏は、HumanXカンファレンスで次のように語った。
「いまのイノベーションの速度は、F1カーを運転するよりも速く感じる。傍観していてはいけない。投資し、関与する必要がある。ただし分散——セクター横断的にも、時間軸的にも——が不可欠だ」
同氏は約35社に直接投資するポートフォリオを持ち、AI時代のベンチャーキャピタルでは大手マルチステージファンド上位10〜12社にリターンが集中する傾向が強まっていると指摘。特にベンチャーキャピタルは、IPO前のプライベート段階で多くの価値創造が起きる現在、最も効果的なエクスポージャー手段だとの見解を示した。

