米イラン停戦でテック株急騰——AI半導体・サイバーセキュリティ・Apple折りたたみiPhoneまで
2026年、米国とイランの間で2週間の停戦合意が成立したとの報道を受け、グローバルなテック株が大幅に反発した。S&P 500は、約2.5%上昇し、ブレント原油は一時17%もの急落を記録するなど、市場は劇的な動きを見せた。
しかし、この停戦は極めて脆弱であり、地域では攻撃が継続しているとの報道もある。テック投資家にとって重要なのは、目の前のラリーに一喜一憂することではなく、AI投資サイクルの構造的なトレンド、サプライチェーンの地政学リスク、そしてサイバーセキュリティの新局面を冷静に見極めることだろう。
本稿では、Bloomberg Techの報道を基に、停戦がテック市場に与えたインパクト、ゴールドマン・サックスのファンドマネージャーが語るAI投資の現在地、Anthropicの未公開モデル「Mythos」が示すサイバーセキュリティの転換点、Appleの折りたたみiPhoneの最新動向、そしてデータセンター投資と地政学リスクの交差点を整理する。
1. 米イラン停戦とテック株ラリー——市場は何に反応したのか
1-1. 停戦合意の概要と市場の即時反応
パキスタンの仲介により、米国とイランは2週間の停戦に合意した。この報道を受け、エネルギー価格は急落し、テック株を中心にグローバル株式市場が大幅に上昇した。
S&P 500は、約2.5%高、ブレント原油の国際価格は、一時17%の下落を記録し、これは歴史的な変動幅となった。特にテクノロジーセクターでは、半導体関連銘柄(メモリ、ロジック、ストレージ)が最も大きく上昇し、一部の銘柄はイラン戦争開始前の水準にまで株価を回復させた。
1-2. 停戦の脆弱性——楽観は禁物
ただし、停戦合意は極めて脆いものだ。ホワイトハウスのタイラー・ケンダル記者の報道によれば、ピート・ヘグセス国防長官は、「米軍は再展開し、軍事作戦を再開する準備ができている」と述べ、JD・バンス副大統領も停戦を「注視すべきもの」と表現した。
実際、停戦合意後もサウジアラビアのパイプラインがドローン攻撃を受け、UAE・クウェートへの攻撃も報じられている。パキスタン外相は、「レバノンに対するイスラエルの作戦が続けばイランが停戦から離脱するリスクがある」と警告した。さらに、イラン国営メディアは、イスラエルのレバノン攻撃を受けてホルムズ海峡の通行が停止されたと報じており、航行の自由が停戦維持の条件とされるなか、予断を許さない状況が続いている。
2. ゴールドマン・サックスが語る「AI投資は初期〜中期サイクル」
2-1. AIインフラ支出の方向性は変わらない
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのブルック・デイン氏は、Bloomberg Techのインタビューで、AIインフラ投資に対する強気の見通しを明確にした。
「投資家は、このシフトの規模と大きさに注目すべきです。私たちのベースラインの見通しでは、AI関連支出は加速し、かなり長期間にわたって持続すると見ています」
デイン氏によれば、Mag 7(巨大テック7社)の経営陣との定期的な対話を通じて確認している限り、「AI投資への意欲に揺らぎは一切見られない」という。コンピュート(演算能力)は現在、市場で最も入手困難なリソースであり、AIモデルの性能向上にはコンピュート、電力、メモリが不可欠な要素として需要が引き続き増加している。
2-2. 地政学リスクはリスクプレミアムを上げたが、方向性を変えていない
デイン氏は、地政学的な不確実性が4カ月前より高まっていることを認めつつも、「リスクプレミアムは上がったが、投資の方向性と規模は変わっていない」と指摘した。
サプライチェーンについても、パンデミック初期と比較して半導体製造のサプライチェーンは回復力が増しており、今回の地政学的危機を通じても「サプライチェーンへの重大な影響はなかった」としている。ただし、より多くの地域でチップ製造能力を構築するなど、レジリエンス向上に向けた取り組みは今後も続くとの見方を示した。
2-3. 注目銘柄:Marvellの「見過ごされた成長性」
具体的な投資先として、デイン氏は、Marvell Technology(MRVL)に言及した。「市場はまだMarvellが何をしているかを十分に理解していない」と述べ、Amazonなどの大口顧客との関係を軸に、関連製品の拡販で大幅な成長が見込めるとの見解を示した。
半導体名全般(いわゆるピックス・アンド・ショベルズ銘柄)についても、マージン構造は歴史的に高い水準にあるが、コンピュートを設置しクラウドベンダーの収益を生み出すという需給の密接な関係が維持されている限り、持続可能だとの見方を示した。
3. Anthropicの未公開モデル「Mythos」とサイバーセキュリティの転換点
3-1. Mythosとは何か——「公開できないほど強力」なモデル
Anthropicは、一般にはリリースされていない強力なAIモデル「Mythos」へのアクセスを、限定的に約40社のテック企業に提供するプログラムを発表した。これはサイバー攻撃への備えを目的としたものだ。
Bloombergの報道によれば、Mythosはオープンソースソフトウェアに存在するバグや脆弱性を発見する能力に長けているだけでなく、それらを自動的にエクスプロイト(悪用)する能力も持つ。そのため、一般公開すれば悪用されるリスクがあると判断し、まず影響を受ける可能性の高い企業に限定アクセスを提供することにしたという。
Anthropicの自己報告によると、Mythosは、「数千の脆弱性」を発見しており、これは既存のサイバーセキュリティ製品の検出能力を上回るペースだったとされる。
3-2. サイバー防衛の「武器庫」が変わる
元ホワイトハウスCIO(ジョージ・W・ブッシュ政権時代)で、Fortalice SolutionsのCEOを務めるテレサ・ペイトン氏は、Mythosの意義について次のように述べた。
「これはアポカリプス(破局)か、それとも限られたスキルセットしか持たないサイバーセキュリティ実務者をはるかに強力にするツールの誕生か。見方による」
ペイトン氏は、AIがサイバー防衛者にとって強力なアシスタントになる可能性を評価しつつも、「適切なガードレールがなければ、犯罪目的を持つサイバー工作員の手に渡るリスクもある」と警告した。さらに、停戦が成立してもイランのサイバー工作員が「キーボードから手を離した」わけではないと強調し、重要インフラへの攻撃に対する警戒を継続すべきだと述べた。
3-3. 投資家にとっての示唆——サイバーセキュリティ銘柄の構造的追い風
デイン氏もまた、「自分はソフトウェア投資家としての『改宗者』だ」と述べ、ソフトウェアセクター全体には逆風があるものの、サイバーセキュリティ分野には巨大な機会が広がっているとの見方を示した。Palo Alto Networksなどの次世代セキュリティ企業は、AIモデルの能力向上に伴い、新たに露呈する脆弱性への対処需要という構造的な追い風を受けるポジションにある。
4. Appleの折りたたみiPhone——9月発売は予定通り
4-1. 製造遅延報道を否定
日経が報じた「重大な製造・エンジニアリング上の問題による数カ月の遅延」との報道に対し、Bloombergのマーク・ガーマン記者は反論する形で最新情報を報じた。
ガーマン記者の取材によれば、折りたたみiPhoneは、9月の通常のサイクルでiPhone 18 ProおよびPro Maxと同時に発表される予定であり、今週時点では出荷も同時期になる可能性が高いという。量産はまだ開始されていないが、「現時点で重大なエンジニアリング上の問題はない」と複数の関係者が確認している。
4-2. 製品の特徴と市場へのインパクト
Appleの折りたたみiPhoneについて、以下の特徴が報じられている。
耐久性:既存の折りたたみスマートフォンに共通する砂やホコリによる画面破損リスクに対し、高い耐久性基準を設定
折り目の軽減:Samsungとの共同開発による新しいディスプレイ技術で、開閉時の折り目(クリース)を大幅に低減
ワイドスクリーン設計:ノートブック型のフォームファクターで、動画視聴やゲームに適したワイドな画面を実現
価格は、「非常に高額」になると見込まれ、当初はニッチな製品となる見通しだ。しかし、Samsungが2019〜2020年から、中国メーカーやGoogleもすでに折りたたみスマートフォンを展開しているなか、Appleの参入は市場全体の拡大を促す可能性がある。
5. データセンター投資の最前線——OracleのPIMCO融資とウィスコンシン州住民投票
5-1. Oracle、PIMCOから140億ドルのデータセンター融資へ
ミシガン州で建設予定のOracleの大規模データセンターに対し、PIMCOが140億ドル(約2兆円)の債務融資を行う交渉が進んでいる。実現すれば、過去1年で2番目となるジャンボ・ファイナンス案件となる。
Bloombergのブロディ・フォード記者によれば、この融資は、Oracleの直接の債務ではなく、建設を担う中間事業者「Related Digital」の帳簿に計上される構造だ。Oracleはエクイティ発行や借入額の明示、さらにSchneider Electric出身の新CFO任命など、「ソフトウェア企業がGEやボーイングのような重工業企業のように振る舞う新時代」を象徴する動きを見せている。
5-2. ウィスコンシン州で全米初のデータセンター規制住民投票
一方、ウィスコンシン州の自治体では、全米で初めてデータセンター建設を制限する住民投票が可決された。同地域では1.3ギガワット規模のプロジェクトが進行中であり、今回の投票の影響は受けないものの、AIインフラ建設の拡大と地域住民との間に生じる緊張関係を示すシグナルとなっている。
6. 地政学リスクとテック・サプライチェーン——「パンドラの箱」は開かれた
6-1. 湾岸のデータセンター資産が標的に
地政学アナリストのレヴァ・グジョン氏は、停戦を受けた楽観ムードに対して冷静な分析を提示した。
「ペルシャ湾のパンドラの箱は開かれた。たとえ長期的な停戦が実現しても、イランが重要インフラを攻撃する能力と政治的意志を示したという事実は変わらない」
具体的には、UAEにあるOpenAIのStargateプロジェクトへの明確な脅迫、バーレーンとUAEにあるAWSのデータセンターへの攻撃がすでに発生しており、この地域における投資環境は根本的に変化したとの認識を示した。
6-2. 半導体サプライチェーンの地域分散が加速
ヘリウム(チップ製造の冷却・安定化に必要な希少ガス)は、湾岸地域から供給される部分が大きく、エネルギー価格の変動もテック産業に影響を与える。こうした背景から、Appleをはじめとする企業は、台湾への集中リスクと中国での製造リスクの両方を踏まえ、西半球を含むより分散化された製造基盤の構築を模索している。
6-3. 米中関係への波及——北京は「より自信のあるポジション」に
グジョン氏はさらに、イラン問題が米中関係にも影響を与えていると指摘した。次回の北京サミットに向けて、中国は、「関税の引き下げだけでなく、米国の技術規制の撤回」を明確に要求する立場にあり、イラン戦争における米国の「誤算」が交渉力の低下につながっているとの分析を示した。
7. Snowflake CEOが語る「AIエージェント」の現在地
7-1. エージェントは「答えを出す」から「仕事をする」へ
サンフランシスコで開催されたHumanXカンファレンスに登壇したSnowflakeのスリダール・ラマスワミーCEOは、同社のAIエージェント戦略について語った。
第一世代の「Snowflake Intelligence」は、データに基づく洞察を提供するものだったが、新たな「Snow Work」プロジェクトでは、ブラウザで開いている100のタブを統合し、情報取得だけでなくメール送信や推奨アクションの実行まで行える環境を目指している。
「コーダーが24時間体制でエージェントにコード作成を任せ、朝確認する——そういう使い方がすでに始まっている」とラマスワミー氏は述べた。
7-2. AIのROIは「十分に見合う」
AI導入のコストについて問われたラマスワミー氏は、「以前は数日かかっていた問題が10〜15分で解決できるようになった」と具体例を挙げ、リターンがコストを大きく上回っていると述べた。顧客企業のUnited Rentalsは1,600の支店にAIアプリを展開し、各支店がビジネスの現状についてインタラクティブに質問できる環境を実現しているという。
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