AI関連株、「勝ち組」と「負け組」はどこか ― ベテランアナリスト2人が読み解く2026年後半の勢力図
著名投資家スティーブ・アイズマン氏が配信するポッドキャスト「The Real Eisman Playbook」に、テックアナリストのダン・アイブズ氏(元Wedbush、現在は、自身の投資銀行を設立)と、D.A. Davidsonのギル・ルリア氏が出演し、AI関連銘柄を巡る「勝者と敗者」について議論した。両者は、チップからソフトウェアまで幅広い領域をカバーするアナリストとして知られ、対談ではAI投資の収益性、企業間の優劣、そして、政治的リスクまで、多岐にわたるテーマが取り上げられた。なお、本ポッドキャストは情報提供を目的としたものであり、投資助言には当たらない旨が番組内でも明記されている。
1. AI投資を巡る2つの大論争
ルリア氏は、現在のテック業界における大きな論争として、2つを挙げた。1つ目は、巨額の設備投資がデータセンター建設企業にとって十分なリターンを生むかどうかという論争だ。同氏は、この支出規模について「異例だ」という点は誰もが認めざるを得ないとした。2つ目は、AIがソフトウェア企業、とりわけSaaS企業にどう影響するかという論争で、いわゆる「SaaS黙示録(すべてのSaaS企業が5年以内に消滅する)」論への評価だ。
ルリア氏は、Microsoftのような企業がこの2つの論争の「両方から悪い側面だけを突きつけられている」と指摘した。大量のデータセンター投資が、「無駄遣い」だと批判される一方、AIが優れているからこそ既存のソフトウェア事業を破壊するとも言われる、矛盾した立場に置かれているとの見方を示した。同氏はこれに対し、投資リターンは今後改善していくとの見立てを示すとともに、5年後も人々はOutlookでメールを開き、Teamsを使い、PowerPointやExcel、Wordを使い続けるだろうとし、その裏側でエージェントが動くようになったとしても、そのモデルの手前に立つのは結局Microsoftだろうと述べた。
2. 「8〜10年規模のAI建設期」という視点
アイブズ氏は、現在の状況を、AI革命の8〜10年にわたる構築期のうち3年目に位置づけ、これを「1955年のラスベガス・ストリップの建設」になぞらえた。同氏は、こうした大型建設期には当然、設備投資がいつ収益化に向かうのか、Anthropicが、他社の評価額を食い荒らすのか、あるいは、これはドットコムバブルの再来なのか、それとも本物の「第四次産業革命」なのか、といった疑問が年に3〜4回のペースで浮上するものだと説明した。同氏は、最近のアジア出張で、チップの需給比率が15対1(需要が供給の15倍)だったと明かし、こうした需給実態を踏まえれば、AIはより多くの雇用を生み、初めて過去30年間で米国が対中国でAI分野において優位に立ったとの見方を示した。
3. 反論その1 ― 「無借金経営だった企業が資本集約型に」
アイズマン氏は、3つの反論を提示した。1つ目は、Google、Microsoft、Metaといった企業が創業以来ほとんど外部資金を調達したことがなかったにもかかわらず、AI関連の支出増加によって突如として「資本集約型のビジネス」になってしまった点だ。これについてルリア氏は、「公正な指摘だ」と同意した。
4. 反論その2・3 ― 「濠(モート)の不在」と「価格競争」
2つ目の反論は、AI業界には、参入障壁(濠)が乏しいように見える点だ。かつてGoogleの検索事業には突破困難な濠があったが、AIの世界では毎週のように新しいモデルが登場し、利用者が乗り換えていく。3つ目は、価格の問題で、中国のAIモデル「Kimi K2」が、既存モデルの5分の1程度の価格でトークンを提供している事実を挙げ、これが価格競争を招くのではないかとの懸念を示した。
これに対し、ルリア氏は、モデルそのものは今後ますますコモディティ化し安価になっていくとの見方に同意しつつも、価値の源泉は、データと導入基盤(インストールベース)にあると反論した。企業や個人がAIを導入する際、実際に選べる相手はごく限られた大手数社(Microsoft、Alphabet、Oracleなど)に絞られていくため、現時点では濠が見えにくくとも、各社は着実にエコシステムを構築しつつあると説明した。同氏はこれを、Netflixが、多額の投資により最終的にコンテンツという濠を築いた例になぞらえている。
5. OpenAIとAnthropicの合算収益、2年でゼロから750億ドル超に
ルリア氏は、さらに、AIが単一の「業界」ではなく、チップ製造装置企業(ASML、TSMC)、チップ企業(Nvidia、AMD、Micron)、計算資源を提供するハイパースケーラー(Microsoft、Amazon、Google)、そして、モデル企業という、複数の階層からなるバリューチェーンだと説明した。その根拠として、OpenAIとAnthropicの合算年間経常収益が現在750億ドルを優に超えており、Geminiや一部のMeta・xAIの収益も含めればすでに1000億ドルを超えているとの見方を示した。同氏は、この数字を、AIに実際にお金を払う意思のある企業・消費者が存在するという「本物の経済活動」の証拠だと位置づけている。
同氏は、また、オープンソースモデルについても言及し、これがAnthropicやOpenAIの脅威になるという見方に対しては、モデルがオープンソース化されても、チップ・データセンター・計算資源を提供する企業にとっては同等かそれ以上の価値が生まれると説明した。オープンウェイト(パラメータの公開)とオープンソースコードの両方が公開されて初めて真の「オープンソースモデル」と呼べるとし、こうしたモデルはオフラインでも利用可能になるため大幅なコスト削減につながるとした。ルリア氏は、これまでオープンソースモデルに積極的だったのは主に中国企業だったが、Nvidiaが「Neotron」と呼ばれる無償モデルの提供に動くなど、米国発のオープンソースモデルも今後台頭してくるとの見通しを示している。
6. Palantirのアレックス・カープCEOが警告する「2つのリスク」
対談ではPalantirについても取り上げられた。ルリア氏は、同社CEOのアレックス・カープ氏がCNBCで語った内容を「翻訳」する形で、同氏の主張を2点に整理した。1点目は、企業が自社データをAnthropicなど特定のモデル企業に直接渡すことで、相手企業が単にデータを保有するだけでなく、自社のビジネスの動き方そのものを把握し、将来的に競合相手になり得るリスクだ。2点目は、特定のモデルに依存してビジネスを構築した場合、そのモデルに何かあれば事業自体が立ち行かなくなるリスクで、実際に数週間前、米政府が、Anthropicに対し「Fable」モデルの提供を制限するよう求めた事例が、その最初の警鐘になったと指摘された。カープ氏の立場は、特定モデルに依存しない「モデル・アグノスティック」な姿勢こそが重要であり、価値の源泉はデータや自社が構築する技術にあるという考え方だという。
7. Google ― 「AIの勝者」から「距離を置かれた勝者」へ
Googleについては、1年前には検索事業消滅論やAIによる敗者論が強かったものの、直近では「AIの勝者」と評価される局面があったと振り返られた。モデル・チップ・クラウドを垂直統合し、検索広告の成長も加速したことが評価の背景だという。しかし、直近では、同社のモデルが必ずしも最先端ではなくなりつつあること、OpenAIやAnthropicのようなスタートアップと異なり組織的な官僚制の課題を抱えていること、AI研究の重要人物の一人であるノーム・シャジール氏がOpenAIに移籍したことなどが指摘され、評価がやや後退したとの見方が示された。それでも1年前と比較すれば依然として大きな改善だとの評価で一致している。
8. Apple ― 「消費者向けAIハイウェイのETC」
Appleについては、大型設備投資競争に参加していない点がむしろバランスシートとキャッシュフローの強さにつながっていると評価された。同社は独自のAIモデルを持たない代わりに、最良のモデルを取り込んで「新しいSiri」として提供する戦略を取っており、これにより15億台のiPhone・25億台のiOSデバイスという巨大な消費者基盤を、どのモデルが勝者になっても収益化できる立場にあるとの見方が示された。
9. Oracle ― OpenAI依存が生んだ乱高下
Oracle株については、2025年第3四半期決算発表時に一時330ドル台まで急騰した後、直近では約140ドル台まで下落するという極端な値動きが話題になった。ルリア氏は、2025年9月10日の決算発表で受注残が1500億ドルから4500億ドルへ急増したと報じられた際、市場は「Oracleが単独のAI勝者だ」と一斉に評価したが、その大部分がOpenAI一社との契約であり、当時OpenAIには実質的な資金がなかったことを踏まえ、その熱狂に懐疑的な立場を取っていたと明かした。
その後、OpenAIが1220億ドルという史上最大規模の資金調達を実施し、資金繰りへの懸念が和らいだことで、Oracleの評価は再び見直されつつあるという。ルリア氏によれば、現時点でOracleの受注残6300億ドル相当の計算資源収益は、市場評価上「実質ゼロ」で織り込まれているとの見方を示した。
10. Micron対Intel、Microsoft対Salesforceの「評価の矛盾」
ルリア氏は、市場が抱える「評価の矛盾(ディスロケーション)」の具体例として、メモリー企業Micronと半導体企業Intelを対比した。同氏によれば、Intelやサイバース(Cerebras)、その他多くの半導体・半導体製造装置関連企業の株価は、このAIサイクルが2030年まで続くことを前提とした水準にある一方、Micronの株価収益率(PER)は、わずか6倍程度で、まるでサイクルが既に終わったかのような評価になっているという。ルリア氏は、歴史的にはCPU市場の方がメモリー市場より好調だったが、現時点ではむしろメモリー市場の方が好調だと指摘し、この評価の矛盾こそが投資機会だとの見方を示した。
同様の矛盾は、MicrosoftとSalesforceの対比にも見られるという。ルリア氏は、企業がAI関連支出を捻出するために既存のソフトウェア予算を見直す中で、顧客に価値を提供し続けられていないSalesforceのような企業が真っ先に削減対象になる一方、Azure事業やOffice事業でAIが追い風となっているMicrosoftは、成長が加速しているにもかかわらず、両社とも低い株価収益率で取引されている点に矛盾があると説明した。
11. アイブズ氏が選ぶ「3つの勝ち組」
アイブズ氏は自身が考える勝ち組として、まずNvidiaを挙げた。同社製チップは、中国のHuawei製チップに対して1年半〜2年先行しているとし、Nvidiaのチップ1ドルの支出に対し、テック業界全体で8〜10倍の経済波及効果があると試算していると説明した。次に、消費者向けAIの収益化において最も有利な立場にあるとして、Appleを挙げ、最後にサイバーセキュリティ分野全体を挙げた。同氏は、エージェントの数が増えるほど保護すべき対象(攻撃対象領域)も増えるため、今後2〜3年でサイバーセキュリティ予算は倍増するとの見通しを示し、投資家がこの点を過小評価していると指摘した。個別銘柄としては、CrowdStrikeやPalo Alto Networksを、経営陣の先見性という観点で高く評価している。
12. ソフトウェア業界の「二極化」 ― 非公開企業のリスクにも言及
両氏は、AIによってソフトウェア業界内で明確な二極化が起きると予想した。アイブズ氏は、Adobeやintuitのように既存の強固な顧客基盤を持ちながらAIによるビジネスモデルの変化を見誤った企業のリスクに言及した。一方ルリア氏は、上場ソフトウェア企業の多くが実質無借金経営である点を踏まえ、真のリスクは、プライバシーエクイティ(未公開株式投資)に買収され、製品への再投資を絞られてきた非公開の中小ソフトウェア企業に集中しているとの見方を示した。こうした企業では、既に解約や業績の悪化が表面化し始めているとし、前週に決算前に業績下方修正を発表したIBMや、非公開企業Medalliaの事例を挙げている。
13. 政治とデータセンターを巡るリスク
対談終盤では、データセンター建設を巡る政治的リスクについても議論された。アイブズ氏は、地域レベルでのデータセンター建設モラトリアム(一時停止)の動きに強い懸念を示し、米国がAIで対中優位を失う唯一のシナリオは、こうした政治的な建設停止措置だと指摘した。同氏は、AI企業自らが、「18か月でホワイトカラーの雇用が失われる」といった過度な発言をしてきたことが、AIに対する世論の反発(PR上の問題)を招いていると分析した。
一方、ルリア氏は、この点についてより踏み込んだ見方を示し、サム・アルトマン氏やダリオ・アモデイ氏のような業界リーダーが「雇用が失われる」という物語を強調するのは、政府に対し自分たちに有利な規制、すなわちオープンソースモデルや中国企業を締め出す規制を求めるための戦略ではないかとの見方を語った。同氏は、生産性向上は歴史的に雇用の増加につながってきたとし、過去100年のどの技術も純粋な雇用減少要因になったことはないとの立場を示した。

