DeepMind CEO Hassabis「AGIまで75%」──残り25%は何か、投資家は何を見るべきか
2026年4月29日、Google DeepMindの共同創業者兼CEOであるDemis Hassabisが、SequoiaパートナーのKonstantine Buhlerとの対談(Sequoia AI Ascent 2026)に登壇し、「私たちはAGIまでの道のりの75%(4分の3)まで来ている」と語った。2024年のノーベル化学賞受賞者であるHassabisが、Sequoia AI Ascentで現在地を明言した形だ。
同時期にY Combinator × Google DeepMind Startups Dayでも講演し、現在のモデルがAGIの達成にまだ及ばない領域を率直に語った
この2つの講演は、AI業界のトップランナーが「何ができるようになったか」と「何がまだできないか」を同時に正直に示した点で注目に値する。本記事では、Hassabisの発言を軸に、AGIまでの技術的ギャップ、DeepMindの最新プロダクト、そして投資家が注目すべきポイントを整理する。
1. Hassabisが定義するAGIとは何か
1-1. 「すべての認知能力を持つシステム」
Hassabisは、一貫して、AGIを人間が持つすべての認知能力を発揮できるシステムと定義している。「AGIとは、人間が持つすべての認知能力を示すことができるシステムだ」と述べている。
この定義は、単にチャットボットとして賢いだけでは不十分だということを意味する。AGIには、発明や創造性を含む人間のすべての認知能力が必要であり、現在のモデルにはそれが欠けている。
1-2. 「碁を打つのではなく、碁を発明できるか」
Hassabisが好んで使う思考実験がある。「AGIのベンチマークとして常に持っていたのは、既存の仮説を証明するだけでなく、独自の仮説や推論を発明できる能力だ。世界チャンピオンレベルで碁を打つことはできる。しかし、碁そのものを発明できるだろうか? アインシュタインが当時持っていた情報で相対性理論を導き出せるだろうか? 今日のシステムは、そうした創造的・発明的能力からはまだかなり遠い」──この問いが、Hassabisの考えるAGIの本質を端的に示している。
1-3. 「Jagged Intelligence(ギザギザの知能)」
Hassabisは、現在のAIの状態を「Jagged Intelligence(ギザギザの知能)」と呼んでいる。「現在のモデルはかなり有能だが、推論、階層的計画、長期記憶などの属性がまだ欠けている。ある分野では非常に強いが、他の分野では驚くほど弱く、欠陥がある。AGIには、すべての認知タスクで一貫した頑健な振る舞いが求められる」と述べている。
つまり、現在のAIは一部のタスクで超人的な能力を見せる一方、基本的な問題で失敗する──この不均一さこそが、AGI達成の最大の障壁だ。
2. "残り25%"──AGIに欠けている4つの技術課題
Hassabisは、複数の講演を通じて、AGI到達に必要な技術的ブレイクスルーを具体的に列挙している。
2-1. 継続学習(Continual Learning)
AIが壊滅的な忘却(catastrophic forgetting)なしに、時間とともに適応・改善していく能力が必要だ。現在のモデルは数か月ごとの再学習でしかアップデートできず、人間のように毎瞬間から学び続けることができない。
Hassabisは「継続学習」と「長期記憶」を時に同義で使うが、最近のポッドキャストでは継続学習を明示的に挙げている。
2-2. 世界モデル(World Models)
2026年2月のIndia AI Impact Summitで、Hassabisは現在のモデルにはAGIに必要な継続学習、長期計画、タスク間の一貫した推論が欠けていると述べた。
物理世界の直感的な理解──重力、因果関係、空間認知──を持つ「世界モデル」の構築が不可欠だとHassabisは考えている。DeepMindが開発したGenie 3は、この課題に取り組む具体的なプロダクトだ。Genie 3は、汎用ワールドモデルであり、テキスト記述からフォトリアリスティックな環境をリアルタイムで生成・探索できる。エージェントが世界の変化を予測し、自分の行動が世界にどう影響するかを理解できるようになる。
2-3. 長期推論と階層的計画(Reasoning & Planning)
「短期的には計画を立てられるが、人間のように何年もかけて計画を立てるような、長期的な能力はまだ持っていない」とHassabisは指摘する。
現在のモデルは高度な数学問題を解く一方で、複数ステップにわたるタスクの一貫した遂行には課題を残す。AGIに到達するには、Transformerレベルの1〜2個の主要なブレイクスルーが、特に推論と計画の領域で必要だ。
2-4. 創造性と科学的発見能力
AGIのもう一つのテストは創造性だ。AlphaFoldのようなブレイクスルーにおいてAIは科学の補助として有用であることが証明されたが、高次の創造性はまだ欠けている。「正しい問いと正しい仮説を立てることは、既存の推測を解くことよりもはるかに難しい」とHassabisは述べている。
2-5. メモリのボトルネック
YCポッドキャストでは、メモリの問題が特に詳しく語られた。メモリのボトルネックは深刻で、1,000万トークンのコンテキストウィンドウでさえ、生の動画約20分しか保持できない。これは、ユーザーの生活を数週間や数か月にわたって理解する必要がある永続的なデジタルアシスタントには笑えるほど不十分だ。現在のモデルは無関係な情報や誤った情報を含むすべてをコンテキストウィンドウに格納している。
3. 「スケーリングだけでは不十分」──Hassabisのアプローチ
3-1. 50/50の確率で「あと1〜2個の発明」が必要
Hassabisは、現在の主要なAIパラダイム(事前学習、RLHF、Chain-of-Thought推論)では50/50の確率で1〜2個の根本的なブレイクスルーを見逃している可能性があると警告している。
この発言は、「データとコンピュートを増やせばAGIに到達する」というスケーリング万能論に対する明確な反論だ。「AGIのようなものに到達するには、もう1つか2つの新しいブレイクスルーが必要かもしれない」。
3-2. スケーリング"と"アルゴリズム革新の両輪
ただし、Hassabisは、スケーリングを否定しているわけではない。「私は常に両方が必要だと考えてきた。知っている技術を最大限にスケールさせる必要がある。データでもコンピュートでもスケールでも、限界まで活用したい」。
Hassabisや他のAIリーダーは、次の大きなAIの進歩とAGIへの道は、継続学習、メモリアーキテクチャ、世界モデル、推論/計画、ハイブリッドシステムといった領域でのターゲットを絞ったアルゴリズムのブレイクスルーから生まれると見ている。
3-3. 蒸留(Distillation)の威力
Hassabisは、モデルの蒸留技術にも注目している。蒸留技術により、フロンティアの能力の90〜95%を約10分の1のコストで「フラッシュ」モデルに詰め込むことが可能であり、蒸留にはまだ情報理論的な限界が見えていないと述べている。
これは、フロンティアモデルの能力が小型モデルを通じて民主化される可能性を示唆しており、エッジデバイスでのAI活用を加速させる要因になり得る。
4. DeepMindの最新プロダクト──「75%」の証拠
Hassabisが「75%」と言い切る背景には、DeepMindが実際に送り出してきたプロダクトがある。
4-1. AlphaFold → Isomorphic Labs
AlphaFoldは、数十年にわたって科学者を悩ませてきたタンパク質構造予測の問題を解決する画期的な成功を収めた。Hassabisは、この知見をIsomorphic Labsでの創薬に応用し、2030年までに100の新しい治療法を目標としている。
4-2. Genie 3──インタラクティブな世界モデル
Google DeepMindは、2026年1月29日にProject GenieをGoogle AI Ultraサブスクライバー向けにリリースした。このプロトタイプはテキストプロンプトと画像からインタラクティブな仮想環境の作成・探索を可能にする。Genie 3は110億パラメータの自己回帰型Transformerで、720p解像度・24fpsでリアルタイムにナビゲート可能な世界を生成する。
これはAGIへの道における重要なステップストーンであり、推論、問題解決、現実世界での行動が可能なAIエージェントを実現する基盤となる。
4-3. Gemma 4──オープンモデルの新世代
2026年4月2日に発表されたGemma 4は、DeepMind史上最も知的なオープンモデルだ。高度な推論とエージェンティック・ワークフローに特化して構築され、パラメータあたりの知能で前例のない水準を実現している。
パフォーマンスの向上は劇的だ。Gemma 3と比較して、AIME 2026数学ベンチマークは20.8%から89.2%へ、LiveCodeBenchコーディングは29.1%から80.0%へ、GPQAサイエンスは42.4%から84.3%へと跳躍した。
4-4. 2026年:自動化ラボの設立
DeepMindは、2026年に英国に初の自動化研究所を設立し、材料科学研究に注力する。この研究所はゼロから構築され、Geminiシステムを完全に統合し、世界クラスのロボットに指示して毎日数百の材料を合成・特性評価することで、変革的な新材料の発見に要する時間を大幅に短縮する。
5. タイムラインと他のリーダーとの見解比較
5-1. Hassabisの予測:2030年頃、確率50%
Hassabisは以前の予測を改めて述べ、2026年はAIにとってもう一つの転換点であり、AGIは今後5年以内に到達する可能性があるとした。2030年までにAGIを達成する確率は50%と見積もっている。
そのインパクトについては、「AGIの到来で起きることを定量化しようとすれば、それは産業革命の約10倍のインパクトが、10倍の速度で──おそらく1世紀ではなく10年で展開されるだろう」と述べている。
5-2. Dario Amodei(Anthropic CEO)との対比
AnthropicのDario Amodeiは、「ノーベル賞受賞者レベルで、あらゆる分野で人間にできることすべてができるAIモデルが2026年か2027年に実現するだろう」と予測している。
これに対し、Hassabisは、「大きくは食い違わないが、タイムラインはもう少し長いと思う」と控えめな見解を示した。
5-3. 懐疑派の視点
一方で、AGIタイムラインには慎重な見方も多い。専門家の予測中央値は、2040年前後に集まっており、2030年までの達成確率は10%とする見方もある。Hassabisの50%という予測はかなりアグレッシブだ。
Hassabisが語る残りの研究ブレイクスルーや欠落能力の議論は、それらがこれほど短期間で達成されるという予測とは矛盾するように見える。Hassabis自身、欠けているものの完全なリストをまだ把握していない印象を受けるという批判もある。
6. 投資家が注目すべき5つのポイント
6-1. 「75%」は技術的進歩であり、ビジネス機会はまさに「残り25%」にある
Hassabisが列挙した4つの技術ギャップ(継続学習、世界モデル、推論/計画、創造性)は、それぞれが巨大な市場機会を内包している。これらの課題を解決するスタートアップやプラットフォームは、AGI時代のインフラとなり得る。
6-2. 「スケーリング+アルゴリズム」の両輪は投資テーマの二極化を意味する
ハイパースケーラー(Alphabet、Microsoft、Amazon、Meta)のcapexが$7,250億に達する一方で、「スケールがすべて」という物語は不完全であり、メモリ、継続学習、内省的推論におけるアルゴリズムの真の進歩が必要だ。投資家は「インフラ(GPU・データセンター)」と「アルゴリズム革新(AIリサーチ企業)」の両方に目配りする必要がある。
6-3. 蒸留技術の進展は「モデルの民主化」を加速する
蒸留により、フロンティアレベルの能力が小型モデルで利用可能になることで、エッジAI・オンデバイスAIの市場が急拡大する可能性がある。蒸留経済学とオープンソースのエッジモデルの組み合わせにより、消費者ユースケースでのAIアクセスはコモディティ化し続け、純粋なソフトウェアプレイの防御力はますます困難になる。
6-4. 「AI × 物理世界」が最も高いリターンを生む
最も重要なことは、長期的な資本配分における最も高価値なベットは、AIと物理世界の交差点──創薬、材料科学、細胞生物学、ロボティクス──にあり、問題の組み合わせ的複雑さが、モデルのアップデートでは消せない自然なモートを生み出す。
6-5. AGIへの「CERN」構想と地政学リスク
Hassabisは、「AGIのCERN」のような国際研究協力体制を構想している。しかし現実には、米中の競争激化やAI輸出規制の強化が進んでおり、国際協力と国家間競争のバランスが今後の投資環境を大きく左右する。
