Cerebras IPO、Anthropic ARR 300億ドル、ブロックチェーン決済覇権
2026年4月20日、テクノロジーと金融の世界で複数の大きな構造変化が同時に進行している。AIチップメーカーCerebrasのIPO再挑戦、Anthropicの驚異的な売上成長、JPモルガンとシティグループによるブロックチェーン決済の覇権争い、デジタルバンクRevolutの1,500億ドルIPO構想、そして、SpaceX・OpenAI・Anthropicの3社が合計2,400億ドル超を調達する可能性のあるメガIPOラッシュ——。
本記事では、Bloomberg Techの報道と最新データをもとに、これら5つの動きを整理し、ビジネスマン・投資家が押さえるべきポイントを解説する。
1. Cerebras IPO再挑戦――AI半導体市場の試金石
1-1. S-1の数字が語る成長と課題
Cerebrasは、2025年に5億1,000万ドルの売上高と8,790万ドルの純利益を計上した。売上高は、前年比約76%増となっている。同社は、NASDAQにティッカーシンボル「CBRS」でIPOを申請した。
注目すべきは、受注残の規模だ。S-1ファイリングでは、246億ドルの受注残が開示されており、その大部分は、OpenAIとの契約(2028年までに750メガワットのAIコンピューティングを供給し、2030年までにさらに約3ギガワット分のオプション付き)に紐づいている。
ただし、利益の質には注意が必要だ。Cerebrasの収益性の一部は、ペーパーゲインによるものである。2024年にG42との株式取引で4億100万ドルの損失を計上していたが、2025年にその契約が米国安全保障審査を経て再構成され、負債をバランスシートから除外できたことで3億6,300万ドルのペーパーゲインが計上され、2025年の財務が改善して見えている。
1-2. 顧客集中リスクとOpenAIの存在
もう一つの課題は、顧客集中だ。UAE関連の売上が、全体の86%を占めており、MBZUAI(Mohamed bin Zayed University of Artificial Intelligence)が62%、G42が24%を占めている。
一方で、新たな大口顧客の獲得も進んでいる。Cerebrasは、AWSとの提携でAmazonデータセンターへのチップ導入を発表し、OpenAIとは100億ドル超と報じられる大型契約を締結している。
1-3. IPO評価額の焦点
Cerebrasは、直近の評価額230億ドルから、IPOでは、350億ドルの評価額を目指していると報じられている。さらに、同社は、最終的に2,500億ドルの評価額到達を目標としており、CEOのAndrew Feldman氏とCTOのSean Lie氏には、平均評価額が750億ドル・1,500億ドル・2,500億ドルに達した場合に追加株式が付与される仕組みとなっている。
市場のAI半導体銘柄への意欲を測る「リトマス試験紙」として、Cerebras IPOの成否は他のAI関連IPOにも大きな影響を与えるだろう。
2. Anthropicの驚異的成長――ARR 300億ドルの衝撃
2-1. 前例のない売上成長スピード
Anthropicの成長スピードは、テック業界の歴史においても異例だ。Anthropicの売上軌跡はさらに急勾配で、2024年1月のARR 8,700万ドルから、同年12月に10億ドル、2025年末に90億ドル、2026年2月に140億ドル、3月に190億ドル、4月に300億ドルに達した。
この数字がどれほど異例かは、Salesforceが、年間売上300億ドルに到達するまで約20年かかったのに対し、Anthropicは、ゼロから3年弱で同規模に到達したという比較で明らかだ。
2-2. エンタープライズ戦略とClaude Codeの威力
この急成長を牽引しているのはエンタープライズ顧客だ。Anthropicの売上の約80%がエンタープライズ顧客からの収入である。年間100万ドル以上を支出する顧客は、Series G発表後2カ月未満で500社から1,000社に倍増した。
特にClaude Codeの貢献が大きい。Claude CodeのARRは25億ドルを超え、2026年初頭から倍増以上のペースで成長している。GitHubのパブリックコミットの4%がClaude Codeによるもので、2026年末には20%超に達するとの予測もある。
2-3. 評価額3,800億ドルと「安全性」の価値
Anthropicは、2026年2月12日、GICとCoatueが主導する300億ドルのSeries Gラウンドをクローズし、ポストマネー評価額は3,800億ドルに達した。
安全性重視の姿勢が商業的にマイナスになるという見方は過去のものとなりつつある。Anthropicの慎重で予測可能なモデルに対する評判は、取締役会レベルでのセールスポイントとなっており、弱点ではない。
3. JPモルガン vs シティ――ブロックチェーン決済の覇権争い
3-1. 二大銀行の異なるアプローチ
金融業界では、伝統的な決済インフラの上にブロックチェーン技術を重ねる動きが本格化している。JPモルガンとシティグループは、グローバル決済フローをブロックチェーンベースのシステムに移行させることで長年のライバル関係を激化させている。
両者のアプローチは、対照的だ。シティグループは、ステーブルコインに対してオープンな姿勢を示しており、暗号資産取引所Coinbaseと提携して決済機能を構築する一方、独自のトークン化預金サービスも運営している。一方、JPモルガンは、自社内のインフラ構築を中心に据え、ステーブルコインについてはホールセール顧客の需要がまだ限定的として慎重な姿勢を取っている。
3-2. 規模感――1日50億ドル超の処理
JPモルガンの自社ブロックチェーン基盤「Kinexys」の処理規模はすでに無視できないレベルに達している。シティグループの幹部は、その目的を「大手多国籍企業やフィンテックが24時間365日シームレスに資金移動できるようにすること」と説明しており、JPモルガンは、自社のKinexysプラットフォームでJPMコインなどのデポジットトークンを使い、1日50億ドル超の取引を処理している。
JPモルガンは、2025年11月にJPMコインを機関投資家顧客に提供開始した。このデポジットトークンは、大規模な機関決済向けに即時・24時間対応・ドル裏付け・利回り付きのオンチェーン送金を実現するよう設計されている。
3-3. トークン化の未来とリスク
Bloomberg Techの番組内で記者のIsabelle Lee氏が指摘したように、IMFは、「この分野に過度に投資すれば大暴落を招く可能性がある」と警告している。理論的には、モルジブの午前2時にニューヨークの友人へトークンを送ることができるが、実際にはまだ課題が多い。各社が独自のブロックチェーンを構築すれば、現在よりもさらに断片化が進むリスクもある。
Javelin Strategy & ResearchのJames Wester氏は、「規模を問わず、銀行にはステーブルコイン戦略が今すぐ必要だ。すべての技術的な答えが必要というわけではないが、次世代の資金移動にどう関わるかという明確なビジョンが不可欠だ」と述べている。
4. Revolut――評価額750億ドルから1,500億ドルIPOへの階段American Banker
4-1. デジタルバンクの急成長
Revolutの成長は、欧州フィンテック史上最も圧縮された軌跡を描いている。2024年の売上高は40億ドル(前年比72%増)に達し、2025年にはさらに46%増の45億ポンドに成長した。CEOのNik Storonsky氏は、個人で29%の株式を保有しており、2026年の売上目標は90億ドル、利益目標は35億ドルとしている。
4-2. IPO目標は1,500億ドル
Bloomberg Techでのインタビューで、Storonsky氏はIPOについて「2年後に準備が整う」と述べた。Storonsky氏はロンドン本拠のデジタルバンクを上場させたいとしつつも、少なくとも2028年までは行わないとし、欧州で最も期待されるIPOの一つのタイムラインを延長した。
その目標評価額は驚異的だ。同社の検討関係者によれば、最終的なIPO評価額の目標は少なくとも1,500億ドルで、これはバークレイズ、ドイツ銀行、ソシエテ・ジェネラルの時価総額合計を上回る。
4-3. 「スーパーアプリ」戦略と米国進出
Revolutは現在、70カ国以上で7,000万人超の顧客にサービスを提供するファイナンシャル・スーパーアプリとして、銀行口座、株式取引、暗号資産、融資、法人向け銀行業務などを展開している。
Bloomberg Techの番組でStoronsky氏は、米国市場について「JPモルガンで法人口座、別の会社で請求書管理、また別の会社で給与計算、といった状況を、一つのプロダクトですべて提供する」というビジョンを語った。同社は2026年3月にOCC(通貨監督庁)とFDICに米国銀行免許を申請し、元Visa上級幹部のCetin Duransoy氏を米国CEOに任命している。
5. 2026年メガIPOラッシュ――SpaceX・OpenAI・Anthropicが市場を変える
5-1. 史上最大のIPOウィンドウ
2026年の米国IPO市場は、SpaceX、OpenAI、Anthropicの3社が合計2,400億ドル超を調達する可能性がある、歴史的に最も混雑した上場ウィンドウを迎えようとしている。
個別に見ると、SpaceXは、6月のロードショーを計画し、750億ドルの調達を目指しており、最大30%をリテール投資家に割り当てる予定だ。OpenAIは、第4四半期の上場を目指し、1兆ドルの評価額をターゲットとしている。一方、Anthropicは10月のデビューを計画し、600億ドル超の調達を見込んでいる。
5-2. 市場流動性への影響
この規模のIPOが集中することで、市場全体の流動性に影響が出る可能性がある。CrunchbaseのGené Teare氏は、「大企業が上場すれば、他の企業にもエネルギーが生まれる」としつつも、3社が「非常に巨大で外れ値的存在」であるため、広範なIPO市場を活性化するのか、それとも「資金とエネルギーを吸い尽くす」のかが問題だと指摘している。
5-3. 投資家が注目すべきポイント
S&P Global、FTSE Russell、NASDAQは、SpaceX・OpenAI・Anthropicを上場直後に主要インデックスに「ファストトラック」で組み入れるルールを積極的に検討している。これが実現すれば、約12兆ドルのインデックス連動資産(S&P 500、Russell 1000、NASDAQ 100をミラーリングするパッシブファンド)が、上場から数日以内に事実上の強制買い手となる。
Bloomberg Techに出演した投資家のAnna Rathbun氏は、AIは「一度離陸すると追いつくのが難しいストーリー」だとしつつ、投資を続けることが重要だと述べた。ただし、地政学リスク(米イラン停戦の行方、ホルムズ海峡の封鎖リスク)がテック株全体のバリュエーションを複雑にしている点にも注意が必要だ。
6. 地政学リスクとテック株――不確実性のなかで投資家はどう動くか
6-1. 停戦崩壊シナリオと半導体サプライチェーン
Bloomberg Techの番組では、トランプ大統領が、米イラン停戦の延長について「可能性は極めて低い」と発言したことが報じられた。停戦期限は、水曜日とされ、JD・ヴァンス副大統領がパキスタンで交渉に臨む見通しだ。ホルムズ海峡が封鎖されれば、半導体サプライチェーンへの影響は避けられない。
Rathbun氏は、「テクノロジーのバリュエーションは現時点では非常に難しい」としつつ、「ハイパースケーラーに投資しているなら、データセンターへのエクスポージャーも大きい。製造業やインダストリアルも視野に入れるべきだ」とアドバイスしている。
6-2. NASDAQ 100の13連騰が途切れた意味
NASDAQ 100は、13日間の連続上昇後に反落した。しかし、その前にはGoldman Sachsのプライムブローカレッジデータが示すようにヘッジファンドが米テック株(特にソフトウェア)を大量に売却した大幅な調整があった。Rathbun氏は、「投資家は底値感が出たところで買い戻した」との見方を示しており、今週から本格化するテック決算がAI関連需要の持続性を確認する重要な機会となる。

