SpaceX初決算の「増収でも複雑」な内容、Meta・Amazonのキャッシュフロー急減 ― Steve Eisman氏が読む決算シーズンの深層
米著名投資家スティーブ・アイズマン(Steve Eisman)氏が毎週配信するポッドキャスト「The Weekly Wrap」。2026年8月7日を締めとする今週号では、上場後初となるSpaceXの決算、software業界の「勝ち組」と「負け組」の分岐点となったPalantirの決算、そして、AI投資の裏側で進む主要ハイパースケーラーのフリーキャッシュフロー(FCF)悪化が主なテーマとして取り上げられました。ビジネスマン・投資家にとって、決算シーズンを通じて見えてきた「AI投資の負荷」を整理する好機になりそうです。
1. SpaceX、上場後初の決算 ― 「増収は良いが、資本支出が重すぎる」
今週最大の注目イベントは、SpaceXの上場後初めての決算発表でした。アイズマン氏は、この結果を「良くてせいぜいミックス(まちまち)」だったと評しています。
決算発表前の火曜日、SpaceX株は9%上昇し125ドルまで戻したものの、これはIPO価格の130ドルにはまだ届いていない水準でした。決算内容自体は、売上高が78億ドルで前年比92%増と市場予想を上回り、1株当たり損失も9セントの損失にとどまり、予想されていた24セントの損失より小幅で済んだと紹介されています。ここまでは好材料に見えます。
しかし、問題は資本支出(CapEx)です。四半期の資本支出は184億ドルに達し、3月期の101億ドルから大きく跳ね上がったとされ、その主因は、AI部門への想定を上回る支出だったと説明されています。さらに、イーロン・マスク氏自身が、今後も資本支出をさらに拡大させる方針を示したとされています。
もう一つの懸念材料として挙げられているのが、唯一の収益事業である衛星インターネットサービス「Starlink」の契約者数です。契約者数は1,200万人に達したものの、市場予想の1,219万人には届かなかったとされ、株価は決算後の取引で二桁%の下落を記録したと紹介されています。
1-1. 「SpaceXは一体何の会社なのか」という根本的な問い
アイズマン氏は、SpaceXの企業としての本質そのものに疑問を投げかけています。第2四半期の売上高78億ドルを年率換算すると312億ドルとなり、これに対し、SpaceXの市場価値は、1.6兆ドルとされているため、市場価値÷売上高の倍率は54倍に達すると指摘されています。「多少割高」との評価です。
同氏は、SpaceXが独占的な性質を持つ衛星・ロケット企業なのか、それともAnthropicやOpenAIに大きく後れを取るAI企業なのか、あるいは、その奇妙な組み合わせなのかという本質的な問いを提起しています。通常であれば企業の性格づけによって市場の評価軸が変わるはずですが、イーロン・マスク氏には「彼の個性そのものが作り出す堀(モート)」があるため、この区分自体が意味を持たない可能性があるとの見立てが示されています。同氏の印象的な言葉を借りれば、マスク氏には「信者」がいるのであって、「投資家」がいるわけではないというのです。
なお、今週木曜日には、9億1,100万株のSpaceX株がインサイダーのロックアップから解除されたことも触れられており、これが市場にどう消化されるかが注目点として挙げられています。
2. Palantir、「ソフトウェア勝ち組」の証明となった決算
今週の決算で特に重要な意味を持ったのがPalantirです。アイズマン氏は、この決算の重要性を理解するための前提として、月曜夜の決算発表前にPalantir株が29%下落していた事実を挙げています。同社は、「SaaS終焉論(SaaSアポカリプス)」の議論に巻き込まれていた最中でした。
ここで重要な視点が示されます。AIがすべてのソフトウェア企業に等しく影響を与えるわけではなく、企業に深く組み込まれた本物のフランチャイズを持ち、実質的な付加価値サービスを提供している企業と、そうでない脆弱な企業とでは、影響が大きく異なるはずだという指摘です。しかし、これまでの市場はソフトウェア企業を「一律に」売り込んでいたとされ、ここに変化の兆しが見え始めているとの見立てが語られています。
実際、前週には強い決算を出したMicrosoftとAmazonが好意的に評価され、マージン圧縮を見せたMetaが罰せられたことも紹介されており、Palantirの決算は、市場がソフトウェア企業の「勝ち組」と「負け組」を選別し始めているサインになるかもしれないとされています。
2-1. 具体的な決算内容
Palantirの決算内容そのものは非常に強力だったと紹介されています。1株当たり利益(EPS)は41セントで前年比156%増、売上高は19億3,000万ドルで93%増、米国商業部門は149%増、米国政府部門も90%増だったとされています。同社は年間の調整後利益見通しを10%上方修正し、株価は引け後の取引で12%上昇したと説明されています。
ただし、アイズマン氏はこの株価水準に一定の慎重さも示しています。2026年、2027年の予想PER(株価収益率)はそれぞれ85倍、60倍とされ、これが現在の価格帯における主な懸念材料だとしています。
3. Meta・Amazon・Microsoft ― AI投資が蒸発させるフリーキャッシュフロー
今週特に強調されていたのが、大手ハイパースケーラー3社のフリーキャッシュフロー(FCF)の急減です。前週に決算を発表したMeta、Microsoft、Amazonについて、いずれもクラウド事業の力強い成長を市場は好感していたものの、Metaが数字を下回りつつ資本支出を拡大させたことは嫌気されたと振り返られています。
ここで追加された重要な視点が、3社ともフリーキャッシュフローが「蒸発」している点です。Metaのフリーキャッシュフローはわずか7億8,400万ドルにとどまり、Amazonは、6月に終了した会計年度でマイナス76億ドルという赤字を記録したとされています。最も良かったのは、Microsoftで、四半期で196億ドルの正のフリーキャッシュフローを確保したものの、前年比では23%減少したと紹介されています。
アイズマン氏は、MicrosoftとAmazonが強い増収を示した一方で、AI構築にかかる負荷が明確に表面化していると指摘し、特にMetaについては売上高が28%増加した一方で費用は55%増加したと説明しています。増収を費用の伸びが上回るこの構図は、AI投資サイクルの負担がどの企業に最も重くかかっているかを示す重要な指標として位置づけられています。
4. その他の主要決算 ― AMD・Apollo・Caterpillar・Arista・Disney
半導体企業のAMDは、EPSが1.66ドルで前年比246%増と実際の数字自体は悪くなかったものの、ガイダンス(業績見通し)が市場予想に「一致するだけ」にとどまったため、株価は決算発表後に下落したとされています。Nvidiaとの競争において、AMDが厳しい立場にあることが改めて浮き彫りになった形です。
オルタナティブ資産運用のApolloは、調整後純利益が2億1,100万ドルで前年比9.9%増となったものの、市場予想の2億1,500万ドルにはわずかに届かなかったとされています。運用資産(AUM)は、1兆500億ドルに達し、手数料関連収益は25%増加した一方、スプレッド関連収益は7%増にとどまり、スプレッド圧縮の影響が続いていると説明されています。
建設機械大手のCaterpillarについては、「AI銘柄ではない」と思われがちだが実はそうではないとの指摘がなされています。EPSは8.17ドルで前年比73%増、売上高は24%増加し、発電機やエンジン、ガスタービンをデータセンター向けに提供する電力・エネルギー部門がこの成長を牽引していると説明されています。
クラウドネットワーキング機器を手掛けるArista Networksは、EPSが前年比40%増となり市場予想を上回り、売上高も30億ドルで前年比12%増だったとされ、株価は年初来45%上昇していたところからさらに5%上昇したと紹介されています。アイズマン氏は同社を長期保有していると明かし、四半期ごとの値動きを予測して取引しようとするのは自分にとって「不可能な試み」だとしつつ、長期投資の視点でこの銘柄を保有し続ける姿勢を示しています。
Disneyについては、EPSが2.06ドルで前年比28%増と強い決算だったものの、現在の株価水準(約100ドル)は10年以上ほとんど変わっていない点も指摘されています。ストリーミング事業とパーク事業の強さが決算を支えた一方、売上高25億ドルは前年比7%増ながらわずかに市場予想を下回ったとされています。
5. ヘッジファンド消滅の教訓 ― 「ロングとショートの相関」という罠
今週の解説の中で特に印象的だったのが、「シチュエーショナル・アウェアネス」というヘッジファンドの消滅を巡る分析です。アイズマン氏は、このファンドが破綻した原因として、レバレッジが4倍だったことと、ロング(買い持ち)とショート(売り持ち)のポジションが完全に相関していたことの2点を挙げています。
同氏はこれを分かりやすい例で説明しています。ゴールドマン・サックスをロングし、フェア・アイザック(FICO)をショートするポートフォリオを考えた場合、両社の業績は互いに無関係であるため、このロング・ショートは「無相関」なポートフォリオになります。一方、自動車が馬車を駆逐すると信じて、上場している自動車・自動車部品企業をすべてロングし、馬車企業をすべてショートする場合、このロングとショートは完全に相関してしまいます。自動車が上がれば馬車は必ず下がるという関係性のためです。
このファンドは、AIの恩恵を受ける企業群をロングし、AIによって打撃を受けると見込んだソフトウェア企業群をショートしていたとされ、これは実質的に「一つの取引」にすぎなかったと説明されています。ある1ヶ月間で、ロング側の銘柄群が20%超下落し、ショート側の銘柄群が20%超上昇するという事態が同時に発生し、すべての取引が同時に不利な方向へ動いたとされています。
具体的な数字での説明も示されています。ロング1億ドル、ショート1億ドル、資本5,000万ドルのファンドを想定すると、ヘッジファンドのレバレッジ計算方法ではロングとショートを合算するため、総ポジションは2億ドルとなり、レバレッジは2億ドル÷5,000万ドルで4倍になります。ここでロング全体が20%下落し、ショート全体が20%上昇したとすると、ロングで2,000万ドル、ショートでも2,000万ドルの損失が発生し、合計4,000万ドルの損失となります。資本がわずか5,000万ドルしかなかったため、ファンドは実質80%の損失を被ったことになるという計算です。アイズマン氏は、ヘッジファンド運用における教訓として、ロングとショートの相関度に常に注意を払うべきであり、過度な相関は災厄を招く可能性があると強調しています。
6. プライベートクレジット市場の落ち着きと、イラン情勢
プライベートクレジット市場については、当面落ち着きを見せているとの報告がありました。Galib Capitalの100億ドル規模のプライベートクレジットファンドでは、解約請求が四半期の上限である5%を下回ったとされ、前四半期には8.5%の解約請求があり上限の5%でキャップされていたことと比較すると改善が見られたと説明されています。ただし、アイズマン氏はプライベートクレジット市場が依然として「初期段階」にあるとみており、より大きな論点はソフトウェア関連ローンへの過度なエクスポージャーであり、その借り換えが本格化するのは来年以降になるため、業界全体の信用力の実態が見えてくるのはまだ先だと指摘しています。
地政学面では、トランプ大統領がイランへの空爆を取りやめ、協議が再開したと報じられたことが紹介されています。週末にかけては、当事者間で海峡の開放に近づいているとの報道があったものの、核関連の物質については依然として進展が見られないとされています。市場はこれを受けて過去最高値圏まで回復し、原油価格は1バレル80ドルを下回ったと説明されています。
オススメ記事
Next Big Wave——成長株・アイデアの種・トレンド深掘り
いいなと思ったら応援しよう!
この記事は noteマネー にピックアップされました

