物語のような日常エッセイ#4 [もしも、洗濯機がしゃべったら]── 我が家の世話焼きなおばさまは、今日もゴシゴシと歌う
「はいはい、汚れたものは全部わたしがキレイにしてあげるわよ!」
我が家の洗濯機は、いつもそんな威勢のいい声で迎えてくれる気がする。
頑固な油汚れも、泥だらけの靴下も、果てはデリケートなウールのおしゃれ着まで。
「ほら、ため込んでないで、全部まとめて持ってきなさいな」
その佇まいは、まるで下町の面倒見のいい、世話好きなおばさまそのものだ。
対する私はというと、なかなかにがさつな性格をしている。
一日着てクタクタになった服を、脱いだそばからポイポイポーイと、カゴも通さず彼女の懐へ投げ入れてしまうのだ。
すると、洗濯機のおばさまはすぐに気づいて腰をあげる。
「あらあら、今日は随分と山盛りじゃないの。出しがいがあるわね!」
ジャブジャブと景気よく水の音を響かせながら、どこか楽しそうにゴシゴシと歌い出す。
「ちょっと、柔軟剤はちゃんと切らさずに入れるのよ? 仕上がりがぜんぜん違って、ふんわりするんだから!」
また、別の日。
カゴの底に少しだけ服が残っているようなときには、こうだ。
「今日はこれだけ? 少ないわねぇ。もう一度家中を回って、脱ぎっぱなしの靴下でも探してきなさいな。まとめて一気に洗っちゃったほうが、水道代もおトクよ!」
私はスイッチを前に、思わず一人で吹き出してしまう。
本当に、細かいところまでよく見ている。
「ほら、ぼさっと突っ立ってないで! 少ないなら時短ボタンを押し忘れないの。時間がもったいないじゃない!」
とにかく、いつでもよくしゃべる。そして、実によく世話を焼いてくる。
けれど不思議なことに、彼女の小言(駆動音)をBGMに他の家事をしていると、気づけばあっという間に洗濯が終わっているのだ。
脱水時の力強い回転音を遠くで聞きながら、ふと思う。
もしこのおばさまが家にいなかったら、私の暮らしはもっと適当で、荒れ放題だったかもしれないな、と。
ピピッ、ピピッ。
(あるいは、お馴染みのメロディ)
「ほーら、綺麗に洗い上がったわよ!」
手招きされているような気がして、私は慌てて丸いドアを開ける。
中から現れるのは、すっきりと洗い流された服たち。
そして、部屋いっぱいに広がる、優しくてふわっとした洗剤の匂い。
本当は、ただの静かな機械のくせに。
私の代わりに、いちばん面倒な仕事を全部引き受けてくれている。
カゴに洗濯物を移しながら、私はぽつりと呟いてみる。
「おばさま、いつも本当にありがとうね」
洗濯機は、もう何も言わない。
けれど、すっかり空っぽになったそのお腹の奥で、「さあ、次の洗濯の準備もバッチリよ」と、もう明日を見据えている気がするのだ。
きっとまた明日も、私はこのおばさまに甘えて、全部丸投げしてしまうんだろう。
心地よくて、ちょっとうるさい我が家に、今日も優しい風が吹き抜けていく。
良かったら#1.#2.#3.も読んでみて下さい↓
#1 もしも、ソファがしゃべったら
#2 もしも、電子レンジがしゃべったら
#3 もしも、冷蔵庫がしゃべったら
この家の中で、静かに、でも愛おしくおしゃべりをしているモノたちの物語を、ひとつのマガジンに全部まとめてあります。
家事の合間に、あるいは夜眠る前のひとときに。
いつでもこの扉を叩いて、彼らに会いにきてくださいね。
