【推し活小説】『We love Thai actors. ~タイ沼民はみんな主人公~』Case 4: Tomoko ーーKrist & Singto opened my world
※作中に実在する俳優さんの名前や作品名が出てきますがこの物語はフィクションです。イベントの描写も実在のものとは関係ございませんのでご留意ください。
###憧れの輪
私はいつも輪の外から輪を眺めていた。
私の推しはタイ俳優の
Krist & Singto
二人のビジュアルが圧巻なのはもちろんだけど、
それだけではない。
彼らの代表作
タイドラマ『SOTUS』の世界観にたまらなく惹かれる。
二人の愛が育まれるメインストーリーはドキドキがとまらない。
だけどそれだけではない
最終的に学生たちの絆が強まるのがうらやましい……。
雨降って、地固まる
私はいつも地が固まる前に……
雨降って、土砂崩れが起きて、流されて……
気付けば一人、輪の外にいる。
『SOTUS』で共演してから、もう10年近く経つ。Krist & Singto。
作品の中では、ぶつかり合いながらも、最後には分かり合う先輩後輩を演じていた二人が、画面の外でも、ずっと一緒にいるらしい。
もちろんSNSの情報が全て本当だとは思ってない。
だけど、二人は親友同士だという情報は信じたい。
作られた関係じゃない。演じることをやめても、まだ隣にいる。
本音をぶつけても、離れていかない相手が、本当に存在する。
Krist & Singto 私の眩しい光。
中学の時。
帰りのHRの後、廊下の隅に呼び出された。
隣のクラスの男子、健太だった。名前と顔は一致するけど、それだけの男子だった。
「知子のこと、ずっと気になってて」
好きじゃない。
それははっきりしていた。でも、健太は別に悪い人ではなかったし、勇気を出して言ってくれたことも分かる。傷つけたくない。でも期待させたまま曖昧にするのはもっと残酷だ。
私は必死に、角の立たない断り方を探した。考えて、考えて、出てきたのは、
「健太くんは、私なんかよりもっと合う人がいると思う」
謙遜半分、遠回しな断り文句のつもりだった。
健太は「そっか」と笑って去っていった。それだけで済んだはずだった。
翌日、登校すると私の席に里美が座っていた。里美との関係はただのクラスメイト。
里美はあきらかに怒っていた。私は恐る恐る挨拶をした。
「おはよう……」
「……」
無視された。数分の沈黙がこわかった。里美は私の席に座ったまま。思い切って聞いてみた
「あの……どうしたの?」
「はあ?」
里美のしり上がりの強い口調に背筋が凍った。
「健太くんに、もっと合う人がいるって言ったんだって? それって、私のことじゃないよね」
「え?」
「私が健太君のこと好きなの知ってるでしょ?」
知らなかった。知っていて同然のように言われた。
「ご、ごめん……」
「思わせぶりなこと言うの、やめてくれる? 健太くん、まだ諦めてないみたいだし」
断ったつもりの一言が、健太の中では「今は無理だけど……」という含みとして残ってしまっていたらしい。後から聞いた。その時は何がなんだか分からなかった。
「健太君がかわいそうじゃない」
好きでもない相手を傷つけないように断っただけなのに、知らないところで、嫌な女子にされていた。
クラスで仲良くなっていた、美紀も真由美も、里美には逆らえず、私から離れていった。そして、私じゃない人と輪を作った。
高校の文化祭前日。
文化祭の軽音部のライブ。友人の美智子がボーカルを務めるバンドの、最後の通し練習に付き合わされた。
音程は怪しいし、緊張のせいか声も震えている。何より、選曲が完全にバンドの実力を超えていた。
「どうだった?」
美智子の目が期待に輝いている。ここで「大丈夫」とだけ言えば、丸く収まる。でも本番でズタボロになったら、美智子はもっと傷つくんじゃないか。かといって「音程やばいよ」なんて、直前に言えるわけがない。
私は必死に、傷つけない言い方を探した。考えて、考えて、出てきたのは、
「美智子、緊張してるとき、いつもより声、震えるタイプだよね」
美智子の顔から表情が消えた。
「……それ、下手ってこと?」
「違う、そうじゃなくて、緊張しなければ大丈夫って意味で」
「じゃあ今、緊張してるって言いたいんだよね」
何を言っても、後から後から墓穴を掘っていく気がした。
本番、美智子のバンド演奏はそれなりに無事に終わった。
けれど、その日を境に、美智子は私と目を合わせなくなった。
「知子ってさ、なんか、言い方きついよね」
美智子が由紀恵に言っているのを聞いてしまった。
私はまた、輪から追い出された。
そんな感じで中学、高校と女子の輪に入れなかった。
社会人になって、職場の人間関係の方が私には楽だった。
適切な距離感で、報告、連絡、相談をすれば仕事は回る。
余計なことを考えずにすんだ。
仕事は順調だったけどさびしかった。
大人になってから友達を作るのは難しい……。
短大で出来た数少ない友達も結婚や仕事で離ればなれになった。
そんな寂しさを埋めてくれたのがドラマだ。
世の人が交際費に充てるお金をサブスク代にした。
女子がつるむ話は最初から見る気がしなかった。謎解き系サスペンスばかり観ていた。
ドロドロの恋愛ドラマは20代のころは楽しかったが30歳を過ぎた頃から、自分より若くて可愛い女がイケメンと最終的に結ばれる話は見る気がしなくなった。
女じゃなくて
イケメン同士なら良いかもと思い、BLドラマを見出したらハマってしまった。
日本、韓国を見まくって、タイドラマを見出したら、私の憧れの学生生活がそこにはあった。
タイBLは大学を舞台にしたお話しが多い。
いつメンとテーブルを囲み、菓子を食べながら課題をしているシーンに釘付けになった。イケメン達が輪を作っている。私が入れなかった輪を。
サブスクで見られるタイBLを上から順番に見あさった。
「SOTUS」に出会ってKrist & Singtoを推そうと決めた。
このドキドキを共有したくなった。思い切って、SNSのコミュニティーに参加した。オフ会イベントのお知らせを見つけた。
オフ会の当日。会場のレストラン個室に辿り着く。すでにメンバーの3人が座っていた。全員女性だった。
想定の範囲内ではあったが、女子トークをこれからするかと思ったら、脳裏に過去のトラウマが蘇る。緊張で身体が硬直していくのが分かった。
企画者のタンポポさんが話し出した。
「今日はオフ会参加ありがとうございます。タンポポです。推しはパース・ナクンです。よろしくお願いします」
タンポポさん、推しはパース。
頭にたたき込んだ。
「次いいですか」とタンポポさんが隣の女性に振った。
この周りだと私は最後か。
緊張が高まっていく。
「ギャザーです。推しはブライト君です。よろしくお願いします」
ギャザーさん推しはブライト君。
「マンゴーです。推しはミューです。よろしくお願いします」
マンゴーさん、推しはミュー。次私……。
「ソ、ソムタムです。推しはクリシンです。よ、よろしくお願いします」
自己紹介を終え少しだけ緊張が和らいだ。
「ソムタムさんはタイBLにハマったきっかけって、何かあるんですか?」
私から? どうしよう、えーと、何というのが正解? 絶対に間違えちゃダメ。イケメンが好きだから。それじゃあ、タイBLでなくても良い、どうしよう……。
「自分より若くて可愛い女がイケメンと最終的に結ばれる話は見る気がしなくなって」
言った瞬間、また、やってしまったと思った。私はいつも言葉選びを間違える……。
場が凍る。そう覚悟した。
「わかる」
「めちゃくちゃわかります」
「私もそれです、それ」
「イケメンの恋人はイケメンじゃないと」
テーブルを囲んでいた全員が、口々に頷いていた。
「すきなシーンとかありますか?」マンゴーさんがきいた。
「私はやっぱり、イケメンがイケメンのために企画して準備する、サプライズかな」
ギャザーさんが答えた。
「いいですよね。サプライズ成功からのハグ」タンポポさんが同調した。
「リアルじゃ絶対ありえない。ハプニングキスもいいよね、ソムタムさん」
ギャザーさんに急に振られて、ついまた本音をこぼしてしまった
「いいですよね。相手が女だったら、きっと、『そううまくいくはずないだろ』って突っ込むと思う」
さっきから私、何言ってるんだろ……。
「だよね……イケメン同士だからいいのよね。なんの違和感もなく感情移入出来る」
すぐにタンポポさんがキャッチしてくれた。
「看病シーンとかも良い。ドラマ見ててどちらかが熱だすと、きたーって思う」
「分かる。献身的なイケメン絵になる」
「絆創膏貼ってくれるやつも」
「食べさせ合うのも好き。あーん」
「それも、イケメン同士だから良いのよね。相手が女子だったら、赤ちゃんじゃないんだから、自分で食えって言いたくなる」
私の毒舌にその場にいた全員が、笑った。
「ソムタムさんおもしろい」
「楽しい」
「いいね、こういうの。会社じゃ、こういう話ぜったい出来ない」
「分かる、私、お休みの日はヨガ教室に行ってることにしてるけど、本当はドラマ見ながら、ダラダラしてる」
「私も、料理教室に行ってることにしてるけど、ウーバーして、ドラマ見てる」
分かる
分かると言って笑う。
私は今、輪の中にいる。
自分も入りたいと指をくわえて見ていた輪の中に
おとぎ話なら
沼から女神が出てきて聞かれるのかもしれない
「あなたが落としたのは銀の斧ですか?それとも金の斧ですか」と。
私は答える
「いいえ、そのどちらでもありません。傷だらけで、錆だらけ、斧のように武装して、生きてきた私です。今から飛び込みます」と。
タイ沼の底には女神様はいなかった
その代わり、傷も錆も持ったまま繋がれる民がいた。
新しいワールドが広がっていた。
(私にとっては転生しなくたっていける異世界だ)
このすばらしい世界に導いてくれたのは……
Krist & Singto opened my world.
『We love Thai actors.~タイ沼民はみんな主人公~』
END
読んで頂きありがとうございます。
Case1~3 書きリンクから読めます。良かったら、よろしくお願いします。
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