それでも人は歩き出す〜「月光花」から聴こえる旅人たち
「月光花」という名前の花は存在しません。
それでも、この言葉には確かに意味があります。
届かない光に照らされながら、それでも咲いて、やがて散っていくもの——
この曲が教えてくれるのは、そんな失われていく美しさだと思います。
命や喪失を扱う「ブラック・ジャック」という作品の空気と、この曲のテーマはどこか重なっているようにも感じます。
悲しげに咲く花に君の面影を見た
花を見ただけなのに、
そこに「君」を重ねてしまう。
それはもう、隣にいないからこそ起こる感覚なのだと思います。
失恋なのか、それとも、もう二度と会えない別れなのか。
はっきりとは語られていないのに、どちらにも取れてしまうのが、この曲の不思議なところです。
大好きな雨なのに、なぜか今日は冷たくて
雨は、静かになれる時間をくれる。
感情を少しだけ遠ざけてくれるような、そんな存在だったはずなのに。
今日はなぜか、冷たく感じてしまう。
いつもなら忘れさせてくれるものが、今日は逆に、忘れられないものを浮かび上がらせてしまう。
そんな違和感が、この一行には込められているように感じます。
淡く儚く、夜に揺られて、
ため息一つ、落ちた花びら
掴めそうで掴めない、
そんな曖昧な感情や記憶が、夜の中で揺れている。
そして、ふとこぼれたため息とともに、
何かがひとつ、静かに離れていく。
それは記憶なのか、想いなのか。
はっきりとは分からないまま、ただ少しずつ失われていく——
そんな切なさを感じさせるフレーズです。
月のかけらを集めて、夢を飾り眠る
バラバラになった記憶のかけらを、
ひとつひとつ集めるようにして、夢の中を飾っていく。
現実ではもう触れられない時間を、
せめて夢の中だけでも繋ぎ止めようとしているように感じます。
このフレーズを聴いたとき、過去に大切な人を失ったときの感覚が、ふと重なりました。
時の砂散りばめても、
あの頃へ還れない
どれだけ過去の記憶をかき集めても、
あの時間そのものを取り戻すことはできない。
楽しかった瞬間も、
一緒にいられた時間も、
すべてはもう過去になってしまっている。
それが分かっているのに、
それでも思い出してしまう——
そんなやるせなさを感じるフレーズです。
2番では、これまで描かれてきた感情が、形を変えずに繰り返されていきます。
同じ想いを、何度もなぞるように。
その中でも印象的なのが、
「いくつ夜を超えれば、涙は強さになる?」というフレーズです。
どれだけ時間を重ねれば、
この痛みは「意味のあるもの」に変わるのか。
そんな問いが、そのまま投げかけられているように感じます。
それでも、頭では分かっていても、気持ちは簡単に追いつきません。
逢いたくて、愛おしくて、触れたくて、苦しくて
届かない、伝わらない、叶わない、遠すぎて、今はもう君はいないよ
いろんな感情が混ざったまま、
整理されることなく、そのまま溢れている。
届かないと分かっているのに、それでも消せない想い。
そのどうしようもなさが、この曲にはあります。
そして、
散りゆくと知る花はそれでも、強く生きてる、色鮮やかに
というフレーズは、
終わりがあると分かっていても、
それでも強く、美しく生きていける——
そんな意味が込められているように感じます。
それは、どこか人の生き方とも重なって聴こえました。
変わることを受け入れること。
すべてが移り変わっていくという前提で生きること。
この感覚は、まさに「諸行無常」という考え方に近いのかもしれません。
以前、この諸行無常についても自分なりに考えたことがあります。
もしよければ、そちらも読んでみてください。
そう考えると、この曲は「受け入れること」だけでなく、
「その後どう生きるか」まで描いているようにも感じます。
実は「月光花」には、アニメで使われた別バージョンが存在します。
生きる意味、探している、誰も皆旅人
このフレーズは、「ブラックジャック」という作品と強く重なっているように感じます。
例えば、余命わずかな患者。
そして、芸術のような手術で命を繋ごうとする医者。
立場は違っていても、どちらも同じように答えを探しながら進んでいる。
だからこそ、この「旅人」という言葉が、強く心に残るのかもしれません。
ブラックジャック自身も、幼い頃に事故で命を救われた側の人間でした。
だからこそ彼は、ただ命を延ばすのではなく、
「どう生きるのか」という部分にまで向き合い続けていたのかもしれません。
また彼自身も、
命への執着、法外な金額を取る理由、無免許でも人を救い続けること。
その答えを、ずっと探し続けている人物でもあります。
だからこそ、
「生きる意味、探している、誰も皆旅人」という言葉が、この作品と強く重なって聴こえるのだと思います。
立場は違っていても、人は皆、それぞれの形で生きる意味を探しながら苦しんでいる。
裕福な人も、そうでない人も。
善人も、悪人も。
抱えているものは違っていても、
誰もが何かに迷いながら生きている。
この歌詞には、
そんな人間そのものの姿が込められているように感じました。
遥かなる、旅路辿り、僕は今歩き出す、いばらの道の向こうへ
遥かなる旅路という言葉からは、
ここまで歩いてきた長い時間や、苦しみの積み重ねを感じます。
辛いこと、悲しいこと、しんどかったこと。
それでも「歩いていく」ではなく、「歩き出す」と歌っています。
気が遠くなるような道のりを越えてきた上で、
それでも、もう一度前へ進もうとしている。
いばらの道の先に何があるのかは分からない。
それでも人は、生きる意味を探しながら歩き出していく。
この歌詞には、そんな人間の強さが込められているように感じました。
その姿は、どこか不器用で、だからこそ人間らしく聴こえました。
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