塩分補給が本当に必要なとき、そうでないとき
暑くなると「塩分補給をしたほうがいい」と言われる一方で、減塩も気になる。どうしたらいいんやろう…と迷うことはありませんか。
私は管理栄養士として、「塩は減らすべきもの」と思って仕事をしてきました。でもこれまでの仕事の中で、塩分が足りない方にも出会ってきたんです。この記事では、塩分が本当に必要な場面と、そうでない場面についてお話しします。
塩を減らしたほうがいい人と、足りない人がいた
管理栄養士の仕事で患者さんや利用者さんにお伝えするのは、塩分を減らす話がほとんどでした。でも、逆に塩分を積極的に摂ってもらわないといけない場面もありました。それは、高齢者施設で働いていたときのことです。
その施設に、重い認知症の方がいらっしゃいました。甘いものしか受け付けない状態で、液体の栄養剤(経腸栄養剤)や甘いおやつはなんとか召し上がるのですが、塩分をほとんど摂れていない状態が続いていたんです。
塩分が足りない状態が続くと、血液中のナトリウム(塩分の主成分)の濃度が下がります。これを「低ナトリウム血症」といって、食欲がなくなったり、体に水を保っておけなくなって脱水症状につながったりすることもあるんです。
この利用者さんに塩分を摂ってもらおうと、おかゆや甘いおやつに塩を入れてみたんですが、まったく食べてもらえませんでした。介護士さんや看護師さんと一緒に悩んでいたとき、調理師さんが「みたらし団子のたれなら食べてもらえるはず」と提案してくれたんです。
おかゆにみたらし団子のたれをかけたら、よく食べていただけました。みたらし団子のたれは、材料に醤油が入っているので、塩分が摂れるんですよね。それからは毎食このたれをかけるようになって、低ナトリウム血症にならず、穏やかに過ごされていました。
水だけを飲んでいたボクサー
塩分の不足については、ボクサーの栄養サポートをさせていただいたときのことも思い出します。
長時間のトレーニングで大量の汗をかきながら、水をたくさん飲まれていたんです。汗をかいて水だけを補給し続けると、血液中のナトリウム濃度がどんどん薄まってしまいます。低ナトリウム血症になるかもしれないと心配になって、トレーニングが長時間になる場合は、塩分の含まれているスポーツドリンクを飲むようにお願いしました。
「暑いから塩飴」は、多くの場合いりません
でも、これらは特殊な状況の話です。食事がしっかり摂れていて、日々の生活の中で少し汗をかく程度であれば、塩分を積極的に足す必要はありません。コンビニや売店に塩飴が並んでいると、暑いから塩分を摂らないといけないんじゃないかと思う方もいるかもしれませんが、食事がきちんと摂れている場合には必要ないことが多いです。
高血圧学会も、3食きちんと食事をしている方の多くは必要な塩分をすでに摂れているので、熱中症予防のために日常的に塩分を増やす必要はない、と書いています※1。
塩分が本当に必要なのは、炎天下での長時間の農作業や部活動など、服が絞れるほど大量の汗をかいた場合や、すでに熱中症の症状が出ているときです。
食べる量が減ると、塩分も一緒に減っています
気をつけたいのが、食欲が落ちてあまり食べられていない方や、食べられるものが偏っている方です。塩分は食事から入ってくるものなので、食べる量が減ったり内容が偏ったりすると、そのぶん入ってくる塩分も減ります。介護施設で暮らす高齢の方では、5人に1人ぐらいに血中ナトリウムの低下がみられるという報告もあります※2。施設でお会いした利用者さんも、甘いものは召し上がるのに、塩分だけは摂れていない状況でした。
厚生労働省などの高齢の方向けのリーフレットにも、のどが渇いていなくてもこまめに水分と塩分を補給しましょう、と書かれています※3。高齢になると、暑さやのどの渇きを感じにくくなるからなんですね。
同居している父は狭心症のため、塩分制限が必要なのですが、そのような方の場合は、かかりつけのお医者さんに聞いてみるのが安心です。
塩分を足すのは、特殊な場面だけ
積極的に足したほうがいいのは、ここまでお話ししたような特殊な場面です。読んでくださっているあなたに必要かどうかは、今日3食食べられているか、服が絞れるほど汗をかいたか、で判断できます。どちらも当てはまらなければ、いつもどおりの食事が、そのまま塩分補給になっています。
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参考文献
※1 日本高血圧学会 減塩・栄養委員会「減塩しながら酷暑を乗り切る!!熱中症を防ぐ6か条:熱中症予防と高血圧管理の観点から」 https://www.jpnsh.jp/general_salt_01.html
※2 Mannesse CK et al. (2012) "Prevalence of hyponatremia on geriatric wards compared to other settings over four decades: a systematic review" Ageing Research Reviews 12(1):165-173. https://doi.org/10.1016/j.arr.2012.04.006
※3 厚生労働省・経済産業省・環境省「高齢者のための熱中症対策」(2023年5月版) https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/pdf/heatillness_leaflet_senior_2022.pdf
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