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「陰謀という神話」(上) チャールズ・アイゼンスタイン

訳者より:新型コロナウイルスへの政府の対応をめぐって、それに疑念を抱く人々の中には、ビル・ゲイツ財団が操るディープ・ステートが、人々を監視するためナノチップをワクチンに混入しているというような陰謀論に流れていく人もいます。チャールズ・アイゼンスタインはこれを肯定も否定もしませんが、むしろ陰謀論は社会の病理を表す症状だと見ます。チャールズが『コロネーション』に続いて2020年に発表していたエッセイ。今回はその前半。

陰謀という神話

チャールズ・アイゼンスタイン著
2020年5月

先日のこと、私は『コロネーション』への批評を楽しく読みましたが、その筆者は私が隠れ陰謀論者だと確信していました。彼の主張には非常に説得力があったので、私自身がそれを信じてしまうところでした。

陰謀論とはいったい何でしょう? 権威を疑問視したり、主流のパラダイムに異議を唱えたり、隠された利害が指導的組織に影響を与えていると考えたりする人に対して、この言葉が使われることもあります。そのため、異論を封じ、権力の乱用に対して立ち上がろうとする人たちを脅すための手段ともなります。批判的思考を捨てたから、権力を持った機関が時には結託し、陰謀を企て、隠蔽し、腐敗すると信じるのではありません。それが陰謀論という言葉の意味するものなら、陰謀論の中に真実があるのは明らかです。エンロン事件を覚えている人はいますか? イラン・コントラ事件は? コインテルプロは? バイオックスは? イラクの大量破壊兵器は? [訳註]

コロナ禍の間、共謀や腐敗という具体的な物語を遥かに超えた、別のレベルの陰謀論が注目を浴びるようになりました。そこでは、世界がどのように動いているかを説明する中心的な原理が陰謀だとします。パンデミックへの権威主義的な対応に煽られて(正当かどうかは別にして、ロックダウン、隔離、監視と追跡、偽情報の検閲、集会の自由など市民的自由の停止などは、実際に権威主義的なものでしたが)、この陰謀論の親玉が主張するのは、権力に飢えた邪悪なインサイダーの秘密結社がパンデミックを故意に作り出したとか、永続的な医療戒厳令の下、大衆を脅して全体主義の世界政府、ニュー・ワールド・オーダー(新世界秩序)を受け入れさせるため、パンデミックを少なくとも冷酷に利用しているということです。さらに、この邪悪な集団、上から目線の啓蒙主義者が、あらゆる主要な政府、企業、国際連合、世界保健機関、疾病管理予防センター、メディア、諜報機関、銀行、非政府組織の糸を引いているのです。言い換えれば、私たちが聞かされていることは全て嘘で、世界は邪悪な人々の手中にあるのだと彼らはいいます。

ならば、その説のことを私はどう考えているのでしょう? 私はそれを神話だと思います。では神話とは何でしょう? 神話は空想や妄想と同じものではありません。神話は真実を伝える手段で、その真実は文字通りのものであるとは限りません。たとえば古典的なギリシャ神話は、各々の神を心理社会的な力と関連付けて読み解かなければ、単なる娯楽小説のように見えます。このように、神話はものごとの影に光を当て抑圧されてきたものを解放します。精神や社会についての真実を取り上げて、それを物語にします。神話の真実はそれが客観的に確かめられるかどうかとは関係ありません。それが一つの理由となって、私の目的は陰謀説に賛成して推し進めたり反対して誤りを暴いたりすることではなく、それが照らし出すものに注目することだと『コロネーション』に書いたのです。結局それは、正しいと証明することも誤りを立証することもできないのです。

陰謀という神話の何が真実なのでしょう? 文字通りの解釈の下から、私たちが大きな危険を知りながら無視している重要な情報が伝わってきます。

それは第一に、権威を持つ制度から大衆が衝撃的なまでに疎外されているということのあかしです。第二次大戦後のあらゆる政治闘争では、少なくとも基本的な事実と、事実をどこで知るかということについて、幅広い合意がありました。知識生産の最も重要な制度である科学とジャーナリズムは、大衆から広く支持されていました。北ベトナムがトンキン湾で米国を攻撃したとニューヨーク・タイムズやCBSの晩のニュースが言えば、多くの人々はそれを信じました。原子力とDDTは安全だと科学が言えば、多くの人々はそれも信じました。ある程度まで、その信用は根拠のあるものでした。時にジャーナリストは権力者の利益に逆らい、シーモア・ハーシュがソンミ村虐殺事件を暴露したり、ウッドワードとバーンスタインがウォーターゲート事件を報じたりしました。科学は、文明の前進を牽引する先駆者として、従来の宗教的権威に逆らって客観的知識を追求することでは定評があり、政治経済的な動機を気高く拒否することでも高く評価されていました。

現在、科学とジャーナリズムへの広く合意された信頼はズタズタになっています。高い教育を受けた人々の中に、地球は平らだと信じる人を私は何人か知っています。地球平面論者やそれほど極端ではない(歴史、医学、政治、科学の)異端説を支持する何千万人もの人々を無知だと片付けることで、私たちは症状を原因と取り違えてしまいます。彼らが信頼を無くしたのは、「信ぴょう性」が無くなったことを示す明らかな症状です。私たちの知識生産の制度は、政治制度と同じように大衆の信頼を何度も裏切ってきました。いま、それが真実を語っているときでさえ、多くの人々は信じようとしないでしょう。実直な医師や科学者、公務員にとって、これはもどかしいことに違いありません。彼らにとってこの問題は、大衆の気が狂って、公衆衛生を危険にさらす反科学の不合理な考えが台頭していると映ります。その観点から見れば、問題の解決は無知と戦うことでしょう。無知はウイルスだと言うようなもので(じっさい、私はその言い方を以前に聞いたことがあります)、コロナウイルスに使うのと同じような隔離(たとえば検閲)によってコントロールすべきなのです。

皮肉なことに、別の種類の無知がこの両方の勢力には充満しています。それは素地に対する無知です。無知というウイルスが足掛かりを得る病んだ組織とは何でしょう? 科学やジャーナリズム、政府への信頼の喪失は、そこでの長きにわたる腐敗を反映しています。傲慢さとエリート意識、企業利権との同盟関係、制度化された異論の抑圧です。陰謀という神話が体現しているのは、指導者が大衆に向ける態度と本当の動機や計画との間に深い断絶があることへの気付きです。それが表す政治的文化は、普通の市民には見ることのできない、秘密やイメージ、宣伝、曲解、色眼鏡、流行りの話題、認識管理、情報戦の世界です。陰で動いている別の現実があると人々が疑うのも無理はありません。

第二に、陰謀という神話は非人間的な力が世界を支配しているという確かな直感に物語の形を与えます。その力とは何なのでしょう? 陰謀という神話はその力の在処ありかを悪意ある人間の集団に求めます(そして彼らは地球外生命や悪魔的存在から命令を受けているとする説もあります)。そう考えれば心理的には楽なのですが、それは慣れ親しんだ我ら対彼らの図式、被害者・加害者・救済者の心理の中に、非難すべき人がいるからです。そうする代わりに、私たちは「非人間的な力」を首謀者の集団ではなくシステムやイデオロギーの中に位置づけることもできるでしょう。すると心理的な満足感は少ないのですが、それはもう簡単に善悪の対決と見ることができないからであり、結局は私たち自身がそのようなシステムの一員であり、それが社会全体に行き渡っているからです。負債に基づく貨幣制度や、家父長制度、白人至上主義、資本主義のようなシステムは、その管理者と戦って廃絶することができません。システムは悪人が果たすべき役割を作り出しますが、悪人は家来であり、あやつり人形であって人形つかいではありません。すると陰謀論の基本的な直感は正しいことになります。権力を持っていると私たちが思っている人々は、この世界の本当の権力の操り人形に過ぎないということです。

数週間前に私はオバマ政権で要職に就き今もエリート組織を運営している人と電話で話しました。「このバスに運転手はいない」と彼は言いました。じつのところ私はちょっとがっかりしました。それは私の中のある部分が、問題なのが卑劣な首謀者の集団であればと願っているからです。なぜでしょう? もしそうなら私たちの世界の問題は、少なくとも原理の上では至って簡単に解決できるからです。ただ悪人を暴いて抹殺するだけです。それは世界の悪を正すための、よくあるハリウッドの公式です。ヒーロー戦士が悪人と対決し打ち負かすと、それからずっとみんなは幸せに暮らすのです。うーん、これと同じ基本公式が使われるのは、不健康を細菌のせいにして、医薬品を駆使して殺せば、それからずっと私たちは安全で健康な生活を送れるとか、テロリストを殺し移民を締め出し犯罪者を閉じ込めれば、またもや私たちはそれからずっと安全で健康な暮らしができるというような話です。同じひな形から作られた陰謀論は、無意識の正論へと入り込みます。陰謀論はそれが立ち向かっている社会悪と同じ神話の神殿から発しています。その神殿は「分断」と呼ばれるもので、その主要なモチーフの一つが「他者」との戦争なのです。

細菌、あるいは陰謀などというものが存在しないということではありません。ウォーターゲート事件、コインテルプロ、イラン・コントラ事件、メルク社の医薬品バイオックス、フォード社のピント爆発事故の隠蔽、ロッキード・マーチン社の贈賄事件[訳註]、バイエル社がエイズウイルスに汚染されていると知りながら血液製剤を販売した事件、そしてエンロン事件が、権力を持ったエリートの絡む陰謀は実際に起きるということを実証しています。でもこれらは全て神話ではありません。神話とは世界を説明するもので、不思議なことにそれ自体より大なものです。したがって、ケネディー暗殺の陰謀論は(告白すると、恐らく私自身の信ぴょう性を落とすでしょうが、私は文字通り正しいと認めます)、神話の領域への入口です。

しかし、ここで私が言っている陰謀という神話は、このような具体例のどれよりもずっと大きなものです。それは、私たちの知る世界が陰謀の結果として作られたもので、その悪の神はイルミナティや支配者たちだというものです。これを信じる人たちにとって、それは全てを丸め込む話法となり、あらゆる出来事をその言葉に流し込みます。

その神話には輝かしい系譜があって、少なくとも1世紀のグノーシス派の時代まで遡ります。グノーシス派は邪悪な執政官がもともと存在した神の本質を使って物質世界を造り出したのだと信じます。執政官は自分の歪んだイメージに合わせて世界を造り、自分が本当の神で支配者だと想像します。

これを文字通り信じたり、世界を支配する邪悪な秘密結社のことを文字通り信じたりしなくても、この神話から洞察を引き出すことはできます。たとえば権力者の傲慢さや、私たちが体験する世界を色付ける歪みの本質に対する洞察です。

地球と人類を滅亡へと追いやっているシステムに、人類の大多数が従うよう仕向けているものは何でしょうか? どんな力が私たちを縛っているのでしょう? 神話のとりこになっているのは陰謀論者だけではありません。社会全体もそうなのです。私はそれを「分断の神話」と呼びます。私とあなたは別、物質と精神は別、人間と自然は別。そこでは、私たちは個別ばらばらの自己で、それをとりまく客体的な宇宙は力と質量、原子と真空からできていると主張します。私たちは(この神話で)他の人々や自然とは別なので、競争相手を打ち負かし自然を征服しなければなりません。従って、進歩は私たちが他者をコントロールする能力の増大にあります。この神話は人類の歴史を次から次へと上昇していく勝利の物語として語ります。火から家畜化へ、産業、情報技術、遺伝子工学、社会科学へと、コントロールの楽園が到来することを約束します。その同じ神話が自然を征服し破壊する動機となり、地球全体をお金に換えるよう社会を組織します。そこに陰謀は必要ありません。

分断の神話こそ、私が『コロネーション』でコントロールへと向かう「文明の偏向」と呼んだものを生み出す張本人です。問題解決のひな形は、何か問題に直面したら、コントロールすべきものを見つけることです。隔離し、追跡し、投獄し、締め出し、支配し、殺す対象を見つけるのです。コントロールに失敗したなら、もっとコントロールすれば解決するでしょう。社会と物質の楽園を達成するためには、あらゆるものをコントロールし、あらゆる動きを追跡し、あらゆる言葉を監視し、あらゆる取引を記録します。そうすれば犯罪はなくなり、感染症はなくなり、偽情報はなくなります。支配階級全体がこの公式とビジョンを受け入れたら、彼らは自分たちのコントロールを強化するよう自然に協力するでしょう。それが大義のためなのです。大衆もそれを受け入れたら、抵抗はしないでしょう。これは陰謀ではありませんが、陰謀のように見えるかもしれません。これが陰謀という神話に含まれる第三の真実です。出来事は実際にコントロールをますます強化する方向へと画策されますが、 それを画策する権力それ自身が時代精神ザイトガイストでありイデオロギー、…神話なのです。

後半につづく)

原文リンク:https://charleseisenstein.org/essays/the-conspiracy-myth/


訳註:
エンロン事件:かつて存在したアメリカの大手エネルギー会社が起こした巨額不正会計事件。同社は2001年12月に破綻。
イラン・コントラ事件:アメリカ合衆国のレーガン政権が引き起こした政治スキャンダル。レバノンでシーア派テロリスト集団に捕らえられているアメリカ人の解放を目的としてイランと裏取引をした上に、アメリカ国家安全保障会議から同国へ武器を売却し、さらにその代金をニカラグアの反共右派ゲリラ「コントラ」の援助に流用していた。
コインテルプロ:FBI(アメリカ連邦捜査局)が反国家的活動をする人や組織に対して行った謀報活動。
バイオックス(Vioxx):痛みと炎症を軽減するCOX-2阻害薬。心不全や脳卒中を引き起こすことが指摘され、2004年に市場から回収された。
イラクの大量破壊兵器:米国が2003年にイラク戦争を開始する理由として、サダム・フセインが大量破壊兵器を蓄えているという報告書を採用したが、これは捏造された情報だった。
フォード・ピント:1972年、米国フォード社の「ピント」が後続車に追突されて炎上し運転者が死亡、同乗者が重度の火傷を負う事故が発生。ガソリンタンクの配置の悪さが直接の原因で、他社との競争のための開発期間短縮と安全軽視のポリシーが起因と考えられる。
ロッキード事件:アメリカの航空機製造大手のロッキード社による、主に同社の旅客機の受注をめぐって1976年2月に明るみに出た世界的な大規模汚職事件。


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