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砂漠の中に生まれた韓国の村、そのすぐ隣にワールドカップがやって来る

先日、メキシコのモンテレイに仕事で行ってきました。テキサスとの国境に近い、北東部の街です。

主な目的は、南米の起業家たちが集まるリトリートに参加することでした。このリトリートは年に3回開かれていて、メンバーとその家族を合わせると、100人ほどの規模になります。

3日間のうち半分は、経営者同士で悩みを打ち明け合うセッションです。残り半分は、現地の文化を学んだり、社会貢献の現場を訪ねたり、成功している企業を視察したりする時間に充てられます。

今回、僕がどうしても見ておきたかったのが、モンテレイの郊外にある巨大な工場でした。

観光の目的で訪れることは、ほぼないでしょう。仕事だからこそ、足を踏み入れられた場所で出会った不思議な風景。今回は、そんな話をさせてください。

圧倒されるほどの巨大な工場

僕の目的地は、韓国の自動車メーカー、起亜(KIA)の工場でした。モンテレイから南東へ車を走らせた、ペスケリアという町にあります。

着いてみて、その規模のすごさに圧倒されました。乾いた大地のなかに、未来都市のような工場が突如として出現。

「でっ、でかい!」
サッカー場700面分にあたる広さがあるのだと、教えてもらいました。

工場の中に入ると、今度はあまりの静けさにびっくり!生産ラインのかなりの部分が、ロボットアームで自動化されているんです。工場内には、人の姿がほとんど見当たりません。整然と並んだアームだけが、黙々と動き続けています。

ここで組み上げられた車が、近くの港からアメリカへと運ばれていきます。国境を越えれば、すぐテキサス。最短ルートで巨大な市場へ送り込める立地なのだと、地図を見て納得しました。

工場のまわりにコミュニティ誕生

もうひとつ、強く印象に残ったことがあります。この巨大な工場エリアの周辺に、韓国から来た人たちの町ができあがっているんです。

ペスケリアはもともと、静かな農村だったとのこと。それが2014年の起亜の進出をきっかけに、わずか10年あまりで人口が何倍にも膨れ上がりました。今や、世界でも有数の工業の町へと姿を変えたのです。

大規模工場ができると、そこで働く人が集まります。母国から家族を呼び寄せ、暮らしが生まれ、店ができ、学校ができる。ひとつの工場が、町の風景そのものを作り変えていくわけです。

地元の人たちは、この町を「Pes-Corea(ペスコレア)」と呼んでいます。ペスケリアと、韓国を意味するコレアを掛け合わせた愛称です。この呼び名だけで、なんとなく雰囲気が想像できるんじゃないでしょうか。

ひとつの看板上にハングルとスペイン語

この町のいちばんおもしろいところは、メキシコと韓国の文化がそのまま混ざり合っているところにあります。

街なかの看板には、スペイン語(メキシコの公用語)と韓国語が並んで書かれているものが多い印象。タイヤ修理店、薬局、コンビニ、それに地元の大手スーパーまで、案内表示にハングルを入れ始めています。

韓国料理店の数も、年々増えているのだとか。なかには、韓国の習慣にならって、チップを受け取らない店もあると聞きました。本来のメキシコでは、考えられないことです。

逆に、地元メキシコの味つけを取り入れた、新しい韓国料理も生まれているんだとか。どちらかがどちらかに染まるのではなく、お互いに少しずつ歩み寄って、第三の味が育っているのが、なんかおもしろいなと感じました。

サッカーが結んだ、思いがけない友情

文化の融合は、食べものや看板だけではありません。

地元の教会では、週に一度、韓国語だけのミサが行われているそうです。遠い異国で暮らす韓国の人たちにとって、きっと心の支えなんでしょうね。

そうそう、僕の大好きなサッカーにまつわる話もあります。

2018年のワールドカップ。韓国が強豪ドイツを破ったおかげで、メキシコが決勝トーナメントに進めたという流れがありました。

そのとき、地元のメキシコ人たちが韓国領事館に押しかけて、こう叫んだそうです。

「韓国の兄弟よ、お前はもうメキシコ人だ」

なんだか、いい話だなあと思いました。仕事で隣にやってきただけの相手が、いつのまにか同じ町に暮らす仲間になり、家族のように呼び合っている光景。

聞けば、韓国特有のせっかちで完璧主義な気質も、家族をなにより大切にするメキシコのおおらかな時間のなかで、少しずつゆるんでいくそうです。

自分のことを、韓国人でもメキシコ人でもない「メキシコレアーノ」と呼ぶ若者まで現れているとのこと。

ひとつの工場から始まった出会いが、新しいアイデンティティまで生み出しているって、けっこうすごいことじゃないでしょうか。

ワールドカップ2026の関連情報

さらに、このエリアとサッカーの、おもしろい巡り合わせについて。

今年の夏、メキシコはワールドカップの開催国のひとつになっています。

メキシコ国内の会場は3つ。首都のメキシコシティ、西部のグアダラハラ、そして北部のモンテレイです。どれも別の州に属する街で、車なら何時間もかかるほど離れています。

このうち、ペスケリアのすぐ近くにあるのが、モンテレイの「エスタディオBBVA」スタジアムです。ペスケリアと同じヌエボ・レオン州にある、いわば地元の会場ですね。

その地元の会場で、なんと韓国代表が試合をするんです。

韓国 VS 南アフリカ:6月24日(水)19:00/日本時間 25日(木)10:00

そして同じ会場では、日本代表も1試合を戦います。

日本 VS チュニジア:6月20日(土)22:00/日本時間 21日(日)13:00

工場とともにやってきた韓国の人たちが暮らす町。そのすぐそばで、母国の代表がボールを追いかける。小さな町が、いつにない熱気に包まれるのは必至でしょう。

ワールドカップ情報追記(6月14日)

この記事を公開したのが6月7日のこと。そのあと、「ワールドカップ2026」が開幕しました。

6月11日。グループリーグA組の初戦。メキシコはメキシコシティの会場で、韓国はグアダラハラの会場で、そろって白星スタートしています。

そして来週、ふたつの「兄弟」が正面からぶつかります。会場は、地元モンテレイではなく、西部の街グアダラハラの「エスタディオ・アクロン」。

メキシコ VS 韓国:6月18日(木)19:00/日本時間 19日(金)10:00

8年前のあの夜は、韓国がドイツを破ってメキシコを助けました。今度は真剣勝負の相手として、ピッチの上で向き合うわけです。

上記の一戦の数日後、いよいよ地元モンテレイ会場の番がやってきます。先ほどふれた、6月24日の韓国 VS 南アフリカの対戦です。

その日、あの町ではきっと、スペイン語とハングルの歓声が入りまじって響くことでしょう。

世界には、まだ知らない景色がある

工場の視察そのものは仕事ですから、それなりにシリアスな時間でした。でも、工場を中心に新しい町が広がっていると知って、僕はすっかり心を奪われてしまいました。

人が新しい土地にやってきて、母国の文化を持ち込む。それが、もともとあった文化と混ざり合い、やがてどこにもなかった新しい景色が生まれる。

考えてみれば、世界のあちこちで、きっと同じことが起きてきたのでしょう。歴史の教科書には載らない、こうした小さな町の営みのなかにこそ、人が生きるということの本当の手触りがある気がします。

仕事で訪れるのは、観光パンフレットやガイドブックには載っていない場所が多いです。だからこそ、思いがけない景色に出会えます。

ペスケリアという、たぶん多くの人が一生行くことのない町。そこに芽生えた「異国の中の異国」のイメージが少しでも伝わったならうれしいです。

世界には、まだまだ僕の知らない魅力的な街や場所があります。そして同時に、その魅力が生まれる背景があるんです。これからも自分の足で、いろいろな土地を歩いていきたいと改めて思いました。



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