「タケシ、タケシ!」僕の名前がメキシコでは一瞬で覚えられる理由─W杯2026 スピンオフ
2026年の夏。僕はワールドカップを追いかけて、ダラス、メキシコのモンテレイ、再びダラス、そしてヒューストンと応援遠征をしました。
今回はワールドカップ2026観戦中に生まれた、いわば「スピンオフ」みたいな記事です。
記者に聞かれて、答えられなかったこと
チュニジア戦の記事と少し重複しますが、モンテレイのスタジアムで、オーストラリアの報道局の人から質問を受けました。
「なぜメキシコ人は、こんなに日本人のことが好きなのか」と。
急にそんなこと聞かれても、僕もよくわかりません。だから「共通点があるからじゃないかな」と、お茶を濁していました。
でも、メキシコに来てからずっと、僕も不思議で仕方なかったんです。スタジアムだけじゃなく、街中でもみんなが日本を応援してくれるのはどうしてなんだろう。あの過剰なまでの好意の源は、どこにあるんだろうと。
家に帰ってから調べてみて、ようやく腑に落ちました。鍵は、テレビの中にあったんです。
海を渡っていた、日本のコンテンツ
メキシコでは、「日本のコンテンツ」の人気がすごいことは前にも書きました。
古くは、『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』『マジンガーZ』などから始まって、『ドラゴンボール』で人気が沸騰!
『ポケモン』『ナルト』『ワンピース』『キャプテン翼』なども、メキシコの地にたくさんのファンがいます。
社会現象にまでなったドラマの存在
ただ、メキシコにはもうひとつ、決定的に愛されているコンテンツの存在があったのです。
僕も子どもの頃に観ていましたが、妖精といたずらっ子兄弟が登場するホームコメディを覚えていませんか?
正解は『コメットさん』です。
魔法少女の代表作品
『コメットさん』は、日本で制作された特撮テレビドラマ。
宇宙のかなたから地球にやってきたヒロイン・コメットさんが、人々の困りごとを魔法で解決していくという設定でした。
原案・脚本を手がけたのは、『ウルトラQ』『ウルトラマン』など円谷特撮の初期を支えた名脚本家・佐々木守さん。
漫画版の作画を担当したのは、『魔法使いサリー』『三国志』『バビル2世』で知られる漫画界の巨匠・横山光輝さんです。
実写の中にアニメーションを合成するという、当時としては画期的な手法も取り入れられていました。佐々木氏と横山氏という二つの稀有な才能のフュージョンで、質の高い作品が誕生したのです。
実写版は、以下のとおり二度つくられています。
【第1期】
1967年(昭和42年)から1968年(昭和43年)にかけて九重佑三子さんの主演で全79話。
【第2期】
1978年(昭和53年)から1979年(昭和54年)にかけて大場久美子さんの主演で全68話。
現在54才の僕と同世代の人が観ていたのは、第2期ですね。僕らより、ひとまわり上の世代の人なら、第1期を観ていたんじゃないでしょうか。
セニョリータ・コメット
このコメットさんがスペイン語に吹き替えられ、『セニョリータ・コメット』のタイトルで、1970年代から80年代にかけてメキシコで繰り返し放送されたそうです。
人気は社会現象と呼べるほどに高まり、主演の九重佑三子さんは、いまでも現地で「メキシコで最も有名な日本人」と紹介されるといいます。
半世紀以上前の番組が、地球の反対側でここまで愛されていたと知って、正直びっくりしました。
メキシコ限定でウケる僕の名前

僕にとっては、ここからが重要です。
劇中には、「たけし」と「こうじ」という兄弟が登場します。コメットさんが住み込みで働く家の、いたずら盛りのちびっ子たちです。
メキシコのみんなにとって、この兄弟はスッカリおなじみ。だから僕が「のぶはら たけし」という名前を名乗ると、「タケシ、タケシ!」と、速攻で覚えてくれました。
「タケシ」って、ふだん海外では、なかなか覚えてもらえない名前なんです。でも、メキシコは例外でした。
ただ、自分の名前がメキシコ限定でウケる理由が、まさか60年近く前のドラマ『コメットさん』のおかげとは、思わず笑ってしまいました。
コンテンツの威力は、国境を越える

政治でも経済でもなく、一本のテレビ番組が、国と国の距離をこんなに縮めていることに、あらためて驚かされます。コンテンツの威力って、本当にハンパないものです。
ワールドカップのスタジアムを埋めた、青いユニフォーム姿のメキシコの人たち。あの中の何割か、あるいはほとんどが、コメットさんを通じて日本びいきでいてくれるのかもしれません。
子どもの頃に「セニョリータ・コメット」に夢中になった世代、その子ども世代、さらにその子どもの世代へと、連綿と続くコメット愛。それはそのまま日本への愛となって、スタジアムで日本選手に声援を送ってくれているなんて。
なんか、泣きそうだ……
あの日、オーストラリアの記者さんの質問に「共通点があるんじゃないかな」と適当に答えた僕。だけど、いまなら少しだけ胸を張って答えられます。
「地球の両側に離れている国だけど、同じ番組を見て育った人たちがいるからですよ。これって、立派な共通点でしょう。」と。
