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【小さな活版印刷機】で「モモ」の世界に浸る

こんにちは、花を撮ったり染めたりしているタキツネです。

今回は【小さな活版印刷機】シリーズ第4弾。
ミヒャエル・エンデの「モモ」を読み返しながら、活版印刷でいろいろ刷ってみました。
(※作品のネタバレを多分に含みますのでご注意を)


◾️「モモ」の世界に浸る活版印刷7枚

読みながら思いついたものを印刷してみました

◾️少しだけ「モモ」の本のこと

ペーパーバックはずっと持ち歩いていたのでボロボロ

日本語は大島かおり訳(岩波少年文庫版)、英語はペーパーバック版から引用しています。

日本語版は岩波から愛蔵版やハードカバー版も出ています。それぞれ素敵な装丁で欲しくなってしまうんですが、今回は個人的に馴染みのある文庫版を読み返しています。(訳は同じはず)

いきなり余談ですが、岩波少年文庫版に掲載されてる挿絵ってエンデご本人のイラストなんですね、今回初めて知りました。

↑「M.E.73」、エンデのイニシャル+1973年というサインですね

◾️1枚ずつ見て行きましょう

①タイトル

まずタイトルは、ペーパーバックのイメージで、赤に金文字風で。
↓以前にもやったことがある組み合わせですが、これゴージャスな感じがして好きです。

再掲)「ダンジョン飯」でやってみた一枚

えんじ色の画用紙に不透明インキ(VersaMagic061)。

日本語版も、愛蔵版は真っ赤な背景が印象的なんですよね。児童文学で真っ赤な表紙っていうのは攻めてる気がするんですが、これはドイツ語原書の装丁が真っ赤だったとか・・・?
ご存知の方がいたら教えてください。

②カメのカシオぺイアの「ツイテオイデ!」

カシオペイアと言えば、このカタカナセリフ!

私のなかでは、カタカナセリフと言えばカシオペイアです。
甲羅に浮かび上がるセリフは不思議なものが多く、印象に残りますよね。

今回、英語版のセリフと一緒に印刷してみたら、やっぱり良い感じでした。
かわいい。

英語版では、カシオペイアのセリフは全てこの“FOLLOW ME”のように大文字表記になっていて、やはり目立っています。

実は今回の企画は「カタカナで活版印刷しておもしろい題材ってなんだろう?」と考えたときに、この「ツイテオイデ!」を思い出して「モモ」を読み直したところからスタートしています。

「小さな活版印刷機」でちょこっと作るのにベストマッチな1枚ですね。
かわいい。

そういえば英語版を読んでいて気づいたんですが、カシオペイアって、彼女(She)なんですね。日本語版ではモモと再会したときの「コマルワ ヤメテ!」くらいしかカシオペイアの性別を想起させるシーンがないので、英語版だと少しイメージが違いました。

③「観光ガイドのジジ」と「TVスターのジローラモ」

どちらも本当の自分

「観光ガイドのジジ(“Guido Guide”)」は大成功して「TVスターのジローラモ(“Girolamo”)」になったけれど、彼はモモとの再会を喜ぶ時間さえなくなってしまっていた。彼は後悔しつつも、目の前の成功を捨てることもできず苦悩し、モモとは離れ離れになってしまう。

※ジジは英語版では“Guido”に変更されています。ドイツ語原書でも"Gigi"だそうですが、英語圏では女性名としての印象が強いことなどから名前を変えたんだとか。

このシーン、昔読んだときにはなんとも思わなかったんですが、今回読み直してみたら胸に迫るものがありました。

ジローラモがもし芸名だったなら、彼は仮初めの成功を捨ててモモの手を取ることができたかもしれない。でも、皮肉なことにジローラモは彼の本名なんですよね。本名でスターになったあとで、それが灰色の男たちの謀略だったと気づいたからといって、彼は自分の本名を簡単には捨てられない。その名前自体が嘘なわけではないから。

灰色の男たちの謀略は子供向けとは思えないほど高度で嫌らしいものが多いですが、ジジに仕掛けられたものは特に陰湿ですね。

ということで、印刷としてはジジとジローラモ、ふたつの名前を上下ひっくり返して印字してみました。彼にとってはどちらも本当の自分(どちらかが嘘というわけじゃない)という点を表現したいと思ったんです。

④「灰色の男」の名刺

「時間節約銀行」の名刺があったら、こんな感じ?

「モモ」の敵役といえば、時間節約銀行からやってくる灰色の男たちです。何もかも灰色の彼らは神出鬼没で、彼らの暗躍で特に大人たちは大変なことになってしまう。

作中で彼らが名刺を出すシーンはないんですが、持っているとしたらやはり灰色なんだろうなと思って作ってみました。

「灰色の男」が立ち去ると、この名刺も煙のように消えてしまうんでしょうね

BLW/553/cはモモに秘密を話してしまって同胞から追求される可哀想なヤツですね。

物語後半で、昔は一緒に遊んでいた子供たちが<子どもの家>に入れられてしまい、そこで灰色の男のようなコードネームを与えられていることが語られるシーンがあります。

「みんながひとりひとりのパンチ・カードをつくるんだ。どのカードにも、いろんな記入事項がいっぱいある。身長とか、年齢とか、体重とか、まだまだいっぱい。でももちろん、ありのままのことを記入しちゃだめだ。それじゃ、やさしくなっちゃうものね。ときには名前のかわりに長ったらしい記号だけのこともある。たとえば、MUX/763/yってなふうにね。(中略)これをいちばんはやくやったのが、勝ちさ」
(略)
「そんなのがおもしろいの?」モモはいぶかしそうにききました。
「そういうことは問題じゃないのよ。」マリアがおどおどして言いました。
それは口にしちゃいけないことなの
「じゃ、なにがいったい問題なの?」
将来の役に立つってことさ」パオロがこたえました。

モモ 岩波少年文庫版(大島かおり訳) 16章 「ゆたかさのなかの苦しみ」より
(強調はタキツネ)

「人間」が「灰色の男たち」という敵に侵略されている話だったはずなのに、いつの間にか、私たち自身、しかも被害者だったはずの子供たちまでもが「灰色の男たち」になっていくような話になっている。
これはゾッとしますね。

この物語は『灰色の男たちに時間を奪われないように気をつけなきゃね!』という感想ではまったく甘いのかもしれない。
『考えなしに生きていると、大人だろうが子供だろうが、あなた自身が灰色の男の1人になって、自分と大切な人の心まで貧しくしてしまうんだよ』というメッセージかもしれないと思ったら、私は作中のモモのように寒気がしました。

さて、寒気を振り払って印刷の話に戻ると、ここでは"/"(スラッシュ)の活字がないので、"-"を斜めにして使ってます。

2度刷りで"/"を実現。
(隣に活字があると斜めにすることができない)
小細工としてはなかなかうまくできてるでしょう?

⑤「マイスター・ホラ」と「カシオぺイア」

「モモ」の名コンビと言えばこの2人

マイスター・ホラは英語版では“Professor Hora”なので短縮系に。あと、“&”は活字がないので、スタンプを押してます。“&”の活字ほしいなあ。

この2人の会話ってそう多くはないんですが、全部盛り上がってる場面なのもあって、全部良いんですよねえ。古馴染みでずっと一緒にいるんだろうけど、なんかカシオペイアがマイスター・ホラに素っ気ない。カシオペイアは明らかにモモの方を気に入ってますよね。

マイスター・ホラのセリフも印象的なものが多くて引用して印刷したいと思ったんですが、全部長いもんだから諦めました。ほら、お爺ちゃん先生の話は長いから・・・(笑

台紙は今回もダイソーのメッセージカードが良い味を出してます。これ、「小さな活版印刷機」に合うんですよ。サイズもぴったりで気軽に試せるのがありがたい。

⑥「どこにもない家」

NO WHERE ?
NOW HERE ?

<どこにもない家>は、そのマイスター・ホラとカシオペイアが住んでいる場所ですね。その前に出てくる<さかさま小路>なんかも含めてこのあたりは完全にファンタジー空間なので、どんな景色なのか想像するのが楽しいところ。

印刷としては、今回唯一のひらがな印字です。印刷してみたい日本語はたくさんあるんですが、なにせ「小さな活版印刷機」では漢字が使えないので、ひらがな表記した時の印象を考えながら選定するのが難しいですね。

漢字の活字を使ってみたいなぁと思っていますが、こればっかりは無理な話ですね。もし買えるとしても、自室の壁面を活字棚にする覚悟はできない。

⑦キーメッセージ「時間とは」

「モモ」のキーメッセージ

(前略)時間とは、生きるということ、そのものなのです。
そして人のいのちは心を住みかとしているのです。

モモ 岩波少年文庫版(大島かおり訳)6章「インチキでひとをまるめこむ計算」より

「時間とは、生きるということ、そのもの」(“Time is life itself.”)というメッセージは、明らかに「時は金なり」(“Time is money.”)への反論として書かれています。

時間をお金と同じ資産だと考えるから「節約しよう」とか「増やそう」という発想が生まれてきますが、時間を「節約」しても人生は痩せ細っていくばかり。

時間とは人生、生きるということそのものであり、先送りも貯蓄もできないもの。だから毎日その日を周りの人と一緒に生きていかなきゃいけないんだよ、というエンデの声が聞こえてくるようです。

さて印刷の話ですが、「引用するならこの文章でしょ!」と選定したまでは良かったんですが、いざ印刷しようとすると思ったより文章が長い。タイトルまで入れるとなると全部で7行も必要だということに気づきました。これは通常の名刺サイズの紙にはどうレイアウトしても入り切りません。

でも、どうしてもこのメッセージを印刷したい。しょうがないので、あれこれ考えた末に、正方形っぽいサイズの紙を用意して4度刷りという手法でなんとか作りました。

↑印刷1度目
↑2度目
そして失敗する
  • ✖️:3行目の開始配置が半角左にずれてしまった

  • ✖️:2行目と3行目の行間も不自然に狭い。紙のサイズから調整しなおし

↑3度目の印刷が終わり、本文が完成。

3枚の活字台を使ったんですが、"i","e","s"が大量に出てくるため、どのみち活字自体が足りません。印刷が終わった台から次の台へ活字を写しながら印刷を繰り返します。

適当な設計メモで始めたせいで、あらゆる落とし穴にハマる。
こういうのは始める前にちゃんと設計をやりましょう

やり直すこと数十回、ようやく問題のない本文印刷が完了し、4度目でタイトルを下に加えて完成です。

4度目の印刷をするときは「これを失敗したら、また紙を切って用意するところからやり直し・・・!?」と不安になり本当に手が震えました。

7行の印刷をするだけで、めちゃくちゃ頭を使います。機械のクセや調子まで加味して綺麗に印刷をしようと思ったら、技術力もそれなりに要求されますしね。(うちのは、どうも上の方で印字すると掠れてしまうみたいなので、なるべく真ん中以下で印字するようにしています)

活版印刷を何回かやってみた限り、活版印刷で新聞を作ってた時代があるなんて、とてもじゃないけど信じられないですどういう訓練とチェック体制があれば実現できるの、そんなこと・・・?

薄紫のインキは不透明インキ(VersaMagic036)。

◾️反省がてら締め

さてさて、長々とお付き合いいただきありがとうございました。

本当は他にも、道路掃除夫のベッポじいさん、床屋のフージーさんとダリア嬢、左官屋のニコラや酒場の店主ニノにおかみさんのリリアーナ、モモと一緒に遊んだ子供たちや<時間の花>にまつわるカードなんかも作りたかったんですが、具体的に印刷で表現するイメージが湧かず断念。(特にベッポじいさんは主要人物だし好きなんですが、今回は引き出し方を思いつかなかった、悔しい・・・)

秋の夜長に「モモ」をあれこれ読み比べながら「小さな活版印刷機」で遊ぶのは楽しい体験でした。こういうことを楽しんでいられるうちは灰色の男たちと無縁でいられるんだろうなと割と本気で思いました。

あなたが近ごろもしも灰色の男たちの気配を感じているようだったら、ぜひあなたが大切に思っている物語を読み返してみてください。あの時にあなたの心が共鳴した物語は、今のあなたにもまた別の音色で美しく響くはずです。

 見ているうちにモモにだんだんとわかってきましたが、新しく咲く花はどれも、それまでのどれともちがった花でしたし、ひとつ咲くごとに、これこそいちばん美しいと思えるような花でした。
 池のまわりをなんども行きつもどりつしながら、モモは花がつぎからつぎへ咲いては散ってゆくのをながめました。いつまで見ていても見あきないながめです。

モモ 岩波少年文庫版(大島かおり訳)12章「モモ、時間の国につく」より

◾️おまけ:本物の活字ケースを導入しました

ちらちら写真に写っていたので気になったかたもいたかもしれませんが、先日、フリマで本物の活字ケースを見つけて入手しました。

仕切り板の位置を変えて「小さな活版印刷機」の活字用にカスタム

間隔は狭く指は入らないので、ピンセットで1文字ずつ摘んで取り出します。
よく使うひらがなと英大文字、英小文字がこの1枚にすべて入りました。すばらしい収納効率で、活字を組むのもとても早くなりました。

基本的に1文字ごとに3つの活字があるんですが、すぐ足りなくなる

どうやら活字ケースは流通があるようなので、欲しい方はフリマやアンティークショップなどで探してみるといいかもしれません。
私、眼鏡屋さんで度数合わせをするときに出てくるレンズがたくさん入った箱とか(分かります?)が大好きな人なので、こういうの見てるだけでテンション上がります。

1枚で充分だと思ってたけど、もう1枚買ってきてカタカナとかも全部収納しようかな、ふふふ。

それでは今回はこの辺で。
読んでくれて、ありがとう!

カメの甲羅っぽく並べてたんですが、伝わりました?

◾️小さな活版印刷機のエントリシリーズ

↓作ってみた、いろいろ刷ってみた

↓たてがきで俳句を刷ってみた


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