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#15自分を捨てて騎士になる男と、理解できない相手の話―ラクリマ・ディアの連結子―

守るために距離を選び続ける男と、
その意味を知らないまま受け取り続ける相手。
伝わらないことが、壊れない理由になっている関係の記録。

◻️あらすじ

王都へ向かう旅路の中で、
二人は一定の距離を保っていた。

だが、その均衡は唐突に崩れる。

離れれば不安になる――
そんな不完全な状態の中で、
二人は距離を縮めることを選んだ。

関係は成立しない。
それでも距離だけは、確かに近づいていく。


◻️王都への旅路――選択の距離

朝食を済ませ、次の街へ向かう。

ハルモンが疲れきってしまわないよう、ハルモンの歩幅を意識して歩くようにした。

今日のハルモンは、なんだか調子が良さそうだ。

「実は今日、『歩く速度が“合ってるかどうか”だけ分かる薬』を飲んでみたんだ。……今、完璧」

「……だから何だ」


次の街へは、昼頃には到着した。

昨日とほぼ同じくらいの距離だったように思う。

昼食の後、宿を取って一休みしていると、ハルモンが口を開く。

「昨日より疲れてないかも。きっと、速度が完璧だったからだね」

「それはよかったな。……少し散歩でもするか?」

「賛成ー!」

宿に旅の荷物を残し、俺とハルモンは部屋を出た。


街の中を散策していると、ふと、静かな歌声が聴こえてきた。

歌声の聴こえる方へ歩いて行くと、そこには石造りの礼拝堂があった。

眺めていると、歌声は止み、少しすると礼拝堂からたくさん人が出てきた。

礼拝が行われた後らしい。

香に引かれて礼拝堂へ近づくと、扉が開けられた出入り口から、中の様子がよく見えた。

ステンドグラスごしに差し込む光が、光沢のある床材に反射して、とても美しい。

ハルモンが中に入って行くので、俺も後ろから続く。

上の方を見ようとしたハルモンが、深く被っていた頭のフードを外した。

外した瞬間、空気が変わった。

俺はようやく、ハルモンが周りの視線を集めていることに気がついた。


「……失礼ですが、貴方はセレノア様のご子息様では?」

司祭がこちらに近づき、ハルモンに話しかけてきた。

「そうですが……。母を知っているんですか?」

「ええ、もちろん。その髪、その瞳……女神様の祝福を最も色濃く受け継いでいらっしゃる。……こうしてお会いできたこと自体が、奇跡でございます」

司祭はそう言うと、胸の前で手を組み合わせ、深々と頭を下げた。

「これもきっと、女神様のお導きなのでしょう。……よろしければ、あちらで少しお話しをさせていただいても?あなた様の王都でのご活躍、ぜひお聞かせいただければと……」

ハルモンは少し黙った後、こう言った。

「……わかりました。僕は、薬のことでしたら相談に乗れますよ」

「ありがとうございます……。では、お付きの方もご一緒に、どうぞこちらへ」


そのまま、奥の応接間に通された。

部屋の真ん中に、高さのないテーブルと、高価そうな一人掛けソファーが二脚、置かれていた。

司祭にソファを勧められたハルモンは座り、俺はその斜め後ろに立った。

後ろで、戸が閉められる音がした。


二人は、しばらく王都の話や、ハルモンの作る薬を話題に雑談をしていた。

司祭は話しが上手く、場は和やかな空気に包まれている。

そんな中、一瞬間を置いて、司祭が「実は、貴方様にお願いがございます」と切り出した。

「現在、こちらでは女神様の血を継ぐ方を二名、保護という形でお預かりしております。ですが……その力は不安定でして。同じ血を引く方の存在が、心身の安定に寄与する可能性があると考えております」

「……それは、そうだと思います。心身が安定していなければ力を行使できないのは、僕たち魔導士も同じです」

「ええ。……それで、もしご協力いただけるのでしたら、今後の在り方についても、教会として最大限の配慮をお約束しましょう」

その言葉を聞いた瞬間、理解した。

いつの間にか、ハルモンの選択が奪われている。

「……それは、誰が決める話だ」

俺がそう口にした瞬間、場が静まり返った。

司祭は言葉を失っていたが、再び口を開く。

「……ですから、ご協力いただけるのであれば、こちらとしても配慮をすると……」

「それは、本人が“選べる”場合の話だ」

俺は前へ進み出ると、座っていたハルモンの腕を掴み、その場に立たせた。

「俺は、こいつが“選ばされる”話を聞きに来た覚えはない。……行くぞハルモン」

後ろから静止の声が聞こえたが、俺は構わずハルモンの腕を引き、閉められた扉を開ける。

そのまま、足早にその場を後にした。


礼拝堂を出た俺とハルモンは、宿へと急ぐ。

道中、周囲を警戒した。

幸い、礼拝堂から追っ手が出てくることはなく、周囲にも怪しい人間はいなかった。


宿へ到着し、部屋に戻ると俺はすぐに扉に鍵をかけた。

窓から外を見て、怪しい人間がいないことを確認した後、装備を外した。

ハルモンの方に目を向けると、ベッドの端に座ったまま、視線を落としている。

「……さっきの話だが」

俺が口を開くと、視線を上げた。

青い瞳が、ほんの少し揺れている。

「あれは、“協力”の話じゃない。お前に、選ばせないための話だった」

そう言うと、ハルモンはまた視線を落とす。

「……そうなんだ」

部屋の中に沈黙が流れる。

少しして、またハルモンがゆっくりと顔を上げて、視線が合う。

「……怖い顔してたよ」

その顔には、どこかずれた笑みが浮かんでいた。









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