「小説 組織風土改革推進委員会」第22話:三社合同役員層ワークショップ(1)
第22話:三社合同役員層ワークショップ(1)
先日終了した課長層ミーティングのサマリーも完成した。実作業は、各社の人事部門が請け負うことで進んだ。途中、俺にも、みんなにも確認依頼があったが、実にポイントをおさえた内容となっていた。
三社合同課長層ワークショップの目的と全体スケジュール
· 課長層自身の当初の期待
· 課長層自身のワークショップ終えての感想
· 課長層からの今後についてのコミットメント
· 各社から見たコメント一覧と、今後について
サマリーを見ながら、加藤さんがたずねた。狭い会議室に俺と加藤さんと二人だけだ
「二人を見ていてどうでした?」
「いや、実は大谷商事さんもマイケルジャパンさんからも、あの二人のリーダーシップやコミュニケーションはいいですね、と称賛されていたんですよ。私が気がついた中では、Aグループの大谷商事の今永さんや、Jグループのマイケルジャパンの松坂さんもチームを上手くまとめていたことを伝えました」
加藤さんは、今永さんと松坂さんと名前をメモしていた。
「そこまでわからなかったな。自分の会社しか見ていなかったかな。村田さんは、やはり人を見る目がありますね」
「いえいえ、私なんか」
と答えつつ、加藤さんの役割って各社の人材をじっくりと確認することが、このプロジェクトの意味合いではなかろうのか?と思った。確かに加藤さんは、そのことしかたずねてこない。自分だけの視点ではなく、人事や組織開発にたずさわる我々みたいな各社のメンバーがどう感じているかを確認しているようだ。私だけではなく、ほかの会社のプロジェクトメンバーにも声をかけていたようだった。グループで議論されていたこと、今後のコミットメントの内容よりもそちらが優先のようだ。今回の目的が他にあったのかもしれないと感じていた。なんとなく俺がこの部屋にいること自体、加藤さんとこんな話をしていること自体、何かしらの違和感を覚えた。
三社の経営層には加藤さんがサマリーをもとに報告することとなった。実際は今後の三社合同の役員層ミーティングについての話が半分の議案だった。この時は、我々も参加を除外されており、実際の内容はわからない。何が議論されていたかなど・・・。会議が終わって、事務局ミーティングか開催された。加藤さんは、経営層への報告とともに、今後の役員層ミーティングについて語った。
「『なぜ、こんな場を会社はつくったのか?』『課長や部長ならわかるが我々に何を求めるんだ?』『三社で集まるのはよいが、今更何を・・・・・・』というような感覚を持って参加される役員層もいるかもしれない。皆さんへのファシリテーションの負荷も大きいかもしれないし、事前にいろんな問い合わせも入るかもしれない。いや、すでに問い合わせは個人的にきていますよね、どうです?」
「ええ、来てますが、しっかり今回の目的を伝えています」
と荻野が答えた。
「しかし、荻野さん、役員は腹落ちしていますかね。なかなか難しいのだろうと私も理解しています」
「そうですね、本当の意味での組織をいかに変革していくかという部分は、表面上は理解されたような感じですが、そのための行動が見えないですね。それは実際の部下、社員側がもっと感じているかもですね」
「なかなか自分事するのはむずかしいと私も思います。そこで、三社の経営層から提案あったのだが、自分たちがどう見られているかを評価したアンケートを社員にとることとなりました。勿論、匿名のアンケートでのフィードバックとなります。そのくらいしなければ、意識が変わらないだろうということです。ただ、『なぜこういう評価となったのか、このようなアセスメントとなっているのか』を議論する場としていこうとなりました。よろしいでしょうか。『今から設問作成していくことや、アンケートのまとめに時間要するのではないか?』という不安が皆さんの頭に浮かんだのではないかと思いますが、既に、設問、アンケートフォーム、集計後のフィードパックの形も決まっております」
加藤さんが言う、既に決まっているとか、どういうことなのかと思った。大谷商事の古賀さんが、
「質問ですが」
と手を挙げた。古賀さんも質問するということは、彼女も知らなかったのだろうか?
「加藤さん、既に出来ているってどういうことなのでしょうか?」
「すまない、皆さん。実は役員層へのフィードパックアセスメントは、マイケルジャパンさんが使用しているもので非常に面白いものだ。面白いと言ってはいけないのですが、貴方は周りからこう思われていますよ!という、そこまでのフィードバックをもらうと、みんな変わらざるを得なくなるようです。マイケルジャパンさんのものを、三社でアレンジしたものを今回は使用します。マイケルジャパンの皆さんも社長、副社長しか知らない内容です」
「結構、辛い内容が披瀝されませんか?少し不安に感じました」
青山も、昔、パワハラ疑惑を向けられたので、そう感じたのだろう。フィードバックの内容が一人歩きするのはどうなのだろうという話となった。
加藤さんは説明を続けた。
「このフィードバックは勿論、完璧なものではないのかもしれないが、『そう思われていますよ』というファクトなんですね。だから、それを考えてもらう一日にしたいと思っています。周りの他の会社の役員からは、また別の視点でフィードバックをもらえます。自分が部下との間で距離感を感じていたならば、答えを出すヒントの機会にもなるでしょう」
青山は再度たずねた。
「これは、各社の内部で、評価にはつながるものですか?」
加藤さんは丁寧に
「いや、今回は、それはないですね。でも、この結果、つまりはよろしくないスコアが出ても、変わらないのは問題なので、経営側は半年後も同じアンケートをとろうとなっています。半年後も変わらない、悪化しているとしたら、問題なのでしょうから、何かしらの評価につながるかと思います。評価のウェートは各社違うでしょうが、そんなに大きくない範囲、例えば10パーセントくらいかもしれません」
そこで俺は、
「変に評価に使うと、管理職側が周りに阿ることも出てくるので、当初のスタートはうちであれば10パーセントあたりですかね。それにしても思い切った感じですね」
と口を挟んだ。
「村田さんの言うとおり、うちの会社だとそのあたりかもしれない。役員評価となるならば、実際は社外取締役の意見も聴きながら、取締役会で決まることになるでしょう」
マイケルの野間さんは現在のマイケルの評価について話した
「以前もお伝えしたとおり、業績と、他者への貢献度合いなどで評価しております。これは全社一律です。フィードバックアンケートは管理職全員に行っており、これについては、現在は評価には使っておりません。しかし、こういうものも、評価軸に入れたらどうかという話は上がっていたことは事実です。今後は我々も再度検討していきたいと考えます」
井尻さんも、マイケルのものを使うと聞いて少し驚いていたが、野間さんに付け加えて
「野間さんが話したとおりですが、このアンケート内容が、どう役立っているのかという声があるのも事実で、その点で評価に使ったがよいのではないかという声があるのも事実ですね」
加藤さんは頷きながら
「メリット、デメリットをおさえながら各社で考えていってもらうとして、今回の進め方を少し投影しますね。箇条書きですが、ご勘弁を」
加藤さんの資料には、
目的 役員層自らが組織を変えていくことで新たな価値創造へと向かうきっかけの場とする
概要 フィードパックアセスメントをもとに自身の在り方の見直し、組織をいかにしていくかの課題に向き合う
進め方 三社各一名のグループでアセスメントの披瀝と、自身の問題点をフィードバック受けて、明日以降に心がけること、やることをコミットメントする
と記載があった。加藤さんは、
「これで変わらなければ、手はないのでは?」
とも語った。多分、経営陣から託された何かがあるのだろう。
大谷商事の末次さんから質問があった。
「我々の今回のプロジェクトのゴールは半年後なのでしょうか?もっと何か急ぐことが求められていれば、半年後と言えないかもですが」
「まずはワーク終了した翌日からですね。課長層は既にこのワークを終えているので変化度合いを7月中にヒアリングすることとなっておりますが、手挙げの方々なので大丈夫と思っています。役員層は、ある意味、強制参加なので、ちょっと意識的に変化していこうという思いが小さいかと思います。しかし、ここで経営陣に登場していただき、最後のコミットメントは三社の社長に向けて語ってもらうこととしています。だから次の日からのアクションは大切になるでしょう。評価制度など準備するよりも確実に成果があるのではないかと思います」
俺は、「加藤さん、ここまでやって大丈夫なのか」と思っていたが、社長、専務といった経営陣からの後押しがかなりあることがわかった。加藤さんは、穏やかな優しい口調ではあるが、「やるんだ」という意志も強く感じられた。俺たちにとって、これは大きなチャレンジであったが、逆に、今回は全体失敗できないという気持ちが高まってきた。良い意味でのプレッシャーが関わっているプロジェクトメンバーの肩に大きくかかっていた。
