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「小説 組織風土改革推進委員会」第21話:三社合同課長層ワークショップ

第21話:三社合同課長層ワークショップ

 三社合同という、初めての大研修イベントであった。というか、本気のワークショップイベントであった。イベントと言ってしまうのはおかしいが、みんなで議論、検討してきた熱いものがあった。ここに、まだ初々しくも見える三十歳ジャストの課長、少し老け顔の課長、いかにもスタートアップの社長かというスタイルで髭を蓄えた課長。いろんな方々が集合してきた。
もう朝の電車に乗る前から汗をかきまくっていたのではないかという、少し大柄の男性も走ってきて、10時ジャストにホールに飛び込んできた。「こういう人は、一人くらいはいるよな」と思っていたら、俺の後ろで八木沢がクスクス笑っていた。
「あれ、私の元上司の安藤なんです。村田さん、知っていましたか」
「いや、顔だけ見たことありそうな。安藤君、そうか、八木沢の元上司か。お前から逆に上手く指導しとけよ」
と告げた。

 ここ、大谷商事が研修で使用しているこのホールには、各社から10名、計30名の合同ワークが集っていた。本日も大谷社長は、ホールにチラッと顔を出すと、古賀さんに向かって
「俺は挨拶しないけど頼むよ、今日は。古賀さん」
と言っていたが、誰も大谷社長に挨拶など依頼も考えてなかったし、頭の隅にはこの方は出たがりなのだなとあらためて思った。でも今日ではないが、どこかでよいタイミングがあれば、出てもらえば事務局側も楽になるかもと考えを巡らせていた。

 本日の司会は古賀さんであった。この前の大谷社長から馬場社長への課長層ワークショップ、役員層ワークショップの依頼の件など、古賀さんがうまく裏でまわしていたのだったのだろうか。すぐに、あの時のことが擡げてくる。それはそうと、古賀さんは大谷商事の研修なども相当経験している方なので、司会役には全員が古賀さんを推していた。本日の注意事項などを古賀さんが述べると、このワークショップの目的などを加藤さんが話した。 
「今日のこの場の目的などは既に配信されたアジェンダを読んでいるかと思いますので、期待だけを述べさせていただきます。このワークショップだけで組織の問題などは解決できるはずもありません。皆さんが、本日の内容、気づいたこと、感じたことを持ち帰って、皆さん自身が何をするかということです。誰かが、『こうすればよい』『上司がこうしたら解決できるよ』、とかいった解決方法では解決できない問題がほとんどかと思います。しっかりと当事者という意識で、誰を巻き込んだらよいのかなどの戦略も練りながら、自身の組織の中で議論してほしい。対話を重ねてほしい。三社集まったからこそ、いつもとは違ったヒントや、気づきがあるでしょう。今日はその大きなきっかけの場としてほしいと思います。きっと皆さんなら、新しい何かを生み出すことでしょう。迷ったら、悩んだらメールでもチャットでもよいので連絡してください。解決方法は出しませんが、支援はいたしますので。事務局メンバーでも構いません。会社関係なく、我々も含め巻き込んで結構ですので。今日は終わった後の皆さんのしっかりとやるんだという意志があらわれた目を見たいと思っています。期待しています」
全体を見渡すと、参加している課長たちの目が少し変わったようにも見える場面であった。

 本日のグループには、あの三人のうち、安藤茂と、山本亜紀が参加していた。安藤茂はBグループ、山本亜紀はFグループであった。三社から一人ずつのAからJの10個のグループがあった。私は安藤、山本のグループを横目で見ながら、少しずつ近づいて様子を見ることとした。

 自己紹介で安藤は
「私を見てみなさんどう思いますか?第一印象は?聞いてもいいですか?・・・皆さんが思った通り、自分は大柄で、何気に力持ちに見えて、懐が大きい、精神的にタフ、なんて見られますが、実は繊細なんです。みなさん、アンコンシャスバイアスに気を付けましょうね」
などと、自己紹介はさておき、自分のペースで進めていた。ただし、すごく周りの反応を見ながらコミュニケーションをとっているようにも見えたりして興味深く感じていた。また、自分の世界に引き込むテクニックはあるなという印象を受けた。
「本日の期待を述べるということとなっておりますが、自分のポジションが、ほかの会社の方々の中でどの程度なのかを知りたいと思っております。なかなかそういう機会はないからですね。自分の強みとかが活かせるかも試したいと思います。今日のアジェンダにほかの会社の方々の自らの組織のゴールを聞くなど、自分にもためになると思っていますので期待の塊ですね」
と、自分中心の言葉にも受け取られないでもないが、自分軸をしっかりもっているからこそ、話ができる内容なのかもなと、頭をよぎっていた。

 加藤さんが手招きした。
「どうです?」
「そうですね、安藤君、自分をわかったうえで話を進めていますね。人に合わせることもできそうですが、うまく場をコントロールできる人物と察しました」
「村田さんも、人を見る腕がすごいね」
と加藤は言った。
「それだけで、3年間やってきたようなものですから・・・」
たしかに3年間、組織風土改革などを御旗に行ってきたが、実際は、組織は「人」である。よって、組織を、また、人を十分に観察してきた。
加藤さんは
「人事の人よりも村田さんは営業や、購買や、様々な部署を経験してきたから、人事メンバーよりも鋭いね。うちの役員連中も組織の経験が一つか二つの部門しか経験していないからちょっと偏りがあるかなと思っているんだ。課長のうちに経験を積ませないとな」
加藤さんは、メモで渡した三人、安藤、山本、星野をどうしようとしているのだろう?

 Fグループのところに行ってみた。ちょうど、自己紹介などの時間が終わり、司会の古賀さんから
「課長自身、組織においての自らのゴールは何かを語ってください。組織におけるミッション・ビジョンでもいいでしょう、自身と部下がもつ大切なものでもかまいません。ただし、20年後とか30年後では、ちょっと将来すぎることにもあるので、本日は3年後とおいてください。できるだけ相手に伝わるように、理由、その背景なども具体的にお願いします。相手の方は、わからない場合は、その理由をもう少し教えてもらっていいですか、など質問していただいて結構です。まずはここまで一人五分ずつでまわしてみましょう。予備の時間いれて20分です。お願いします」
と「組織のゴール」についてのスタートの合図があった。

 山本亜紀は、大谷商事の影山さんへ質問をしていた。影山さんは、ミスター体育会系というような上半身は筋肉の塊といった感じであった。後で話したら中学から社会人の今もラグビーを続けているそうだ。そんな影山さんに遠慮の言葉もなく、山本亜紀は、
「なぜ、影山さんは、そういう思いがあるのであれば、大谷商事の枠から飛び出さないんですか。なぜなのでしょう」
決して詰める感じではないが、その前に影山さんが話したゴール(クラウドでの新サービスを思いついているのでそれを実現したい。そのことで、困っている人の課題を解決し、世の中がよくなるのであればと思っている。しかし、ちょっと今の会社ではできそうにないのかもしれない、などと述べていた)について質問していた。
影山さんは
「そうですね、今の会社で達成したいと思っているのは・・・」
山本は返事を待っていた。
「できそうにないと言ったのは間違いかもしれません」
「はい」
影山は
「なぜなら、部下が六人いるんですけど、このサービスの話をしたときに、やりましょうよ、課長!と言われたことを思い出しました。ちょっとお酒の席だったこともあるので、みんなどこまで覚えているかわかりませんが・・・。この部下たちとなら、やれるかもです。というか、部下と一緒にやっていきたいのかもしれません」
山本は間をおいて言った。
「では、ゴールはなんでしょう?」
「部下と一緒に新サービスを立ち上げて、生活者とWIN-WINになっていることです。会社も含めたらWIN-WIN-WInですね」
と影山さんは話した。
 マイケルジャパンの方は少し呆気に取られていたが、そのサービスについて詳しく教えてくださいと懇願していた。

 また、加藤が寄り添ってきた。
「加藤さん、質問力、すごいですね。彼女」
「ああ。俺と同じコーチングスクールに通っていたんだ。実はそこの同期生さ」
「えっ、そうなんですか。まあ、うまいと思いました、初対面の方に対して冷静でしたね」
「村田さんのお目にかかって、彼女も光栄だな。言っておくよ、同期だから」
そう話した加藤さんはうまく山本亜紀を育てていきたいんだろうなと思った。遠くから、そういう目で眺めていたように感じた。



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