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「小説 組織風土改革推進委員会」第24話:人事異動

第24話:人事異動

 10月1日、急な異動が言い渡された。本来ならば1ヶ月前の内示が通常であったが、10月10日付で「新事業会社準備室」に異動ということだ。そこに自分の名前があがっていた。「新事業会社準備室」とはなんであろう?いままでやってきた、新たな改革、マイケル、大谷商事との次の動き、組織風土改革推進委員会はどうなるのだろう?

 10月1日、その日は、朝九時に加藤さんから会議室に呼ばれた。
「村田さん、ちょっといいかな」
という本当に軽い感じであった。いつもと同じ雑談が始まるような雰囲気で、空いていた会議室に入っていった。いつもと違うのは、しっかりと扉を加藤さんが閉ざしたことだった。その瞬間、なにか、違うとは気づいていた、

「まだ内密な話だけど、来年1月から、新しい会社をつくって事業を行う。既に、マイケルジャパンと、大谷商事と話は出来ており大丈夫だ」
一体、なんのことか?と思った。三社で事業展開するからということか?一体何を?俺の頭の中はグルグルとまわった。言葉もすぐには出なかった。また、来年には56歳を迎える俺に何をいまさらと思った。
「すまない、村田さん、あなたは副社長だ」
「いやいや、唐突すぎませんか?加藤さん、なんのことだか、さっぱりわかりませんが」
「うん、こういうのはスピードが大事だからね。話をすると、今年の頭に、事業の申し入れがマイケルジャパンからあったんだよ。組織を可視化するツールを生成AIでつくったそうだ。社員の全ての行動、コミュニケーションを生成AIがフィードバックしてくれるんだ」

「機能としては
◇組織の風土関連のスコア
︎◇エンゲージメントの施策のレコメンド
︎◇顧客も含めた対話、その質について
︎◇1on1ミーティングの質
︎◇コミュニケーション度合い
などだ。詳しくは俺も知らないが、その販売にあたって我々組織風土改革推進委員会のメンバーにコンサルタント業務にあたってほしいと。そして大谷商事さんの役割は主に彼らの販売のネットワークを利用したいということだ」
「いや、全く見えていないんですけど。まだ」
と、今の時点では、この内容では、咀嚼できないことを伝えた。
「村田さんには、私はこれっぽっちも心配してませんから大丈夫ですよ」
「なにをおっしゃるんですか。大丈夫って? その会社は、加藤さんが社長なのですか?」
「申し訳ない。社長は古賀さんだ。まずは、一年交代でやっていこうと、各社長の話し合いで決まったそうだ。仮の話だけど、まあ、そこは」
少し俺の様子を見ながら、言葉を一つひとつ自分でも確かめながら加藤さんは話を続けた。
「実際は、これからのことなのでわからないのですが、体制は古賀社長、村田副社長、君の直下にカスタマーサポート本部があって、村田さんはその本部長兼任だ。それに青山さんがコンサルティング本部長、大谷商事さんから営業本部長、マイケルジャパンさんからシステム開発本部長のいう体制で、本部の下にまずは五名ほどがつく形だ。来年一月にはもっと増えることになるけどな。それはそうと、まだ準備室もできていないが、明日からマイケルジャパンさんがつくったAIシステムの研修も始まるそうだ」
「あのう、生成AIの研修、私も受けるんですか?」
とっさに研修について確認してしまった。
「そうだよ。でも大丈夫だから。誰でも触れるみたいだから。要は自動で判定したり判断したりするみたいだから」
と加藤さんは答えた。
「加藤さん、うちの会社の、今の組織は?」
「組織風土改革推進委員会は、私と香取さんでリスタートする。それに人事から荒木さんに来てもらうこととしたよ。だいたい、今の時代に組織風土改革っていって、男性だけの組織とかしれたら笑われるよね。まあ、君たちの仕組みを使うので、そんなに手間はかかることないし、君たちがコンサルタント役もすることとなってくれるだろうから、こっちは、本当に楽だよ」

 加藤さんはさらりと言った。本心なのかわからなかった。男性だけの組織とか言って、自分が全社の異動の権限がある人事本部長ではないのかと思った。マスコミにも八木沢たちはたびたび登場しているし、男性ばかりの組織と世間もわかっているのにと思った。かなりイライラしていたが、段々と、頭の中が冴えてきた。待てよ、この年の初めに八木沢、荻野、香取、青山が本務となったのは、この辺りのことが既に決まっていたのか。そうだ、いきなり五人が、組織風土改革推進委員会の本務、つまり専任となった。そういきなりだ。今までのことって何だったのだろうと。

「先日の課長層研修であるスコアが高かった人たちを、古賀さんが内容を確認して引っ張るらしい。その方たちが、各本部の現場のリーダーとなる。コンサルティング本部には荻野さんと八木沢さんにも行ってもらうが。彼らは部長級での待遇だから悪くはないかも」
「では、今から彼らの内示ですか?」
「そうなんです、だからゆっくり村田さんと話せないんだ。悪い。青山さんを今から呼ぶから」

 なるほど、社長直下で、こういうことも、強引に進めるために役員研修をおこなったのか。その開催によって、これから起こることにも前向きに対処することを戒めたのか。確かにあの役員層ワークの次の日は取締役会だったから色々と動きがあったのだろう。あれから今日まで、加藤さんは社長室にこもりきりだったしなあ。課長層研修も、人選が目的だったのかと思うと納得した。一人ひとりのことを報告させてきたりしたし、いろんな人に確認をしていたなあ、加藤さんは。
 それと、古賀さんが人選していくということは、彼女も新会社の動きを、ほぼ知っていたということか。あの時、課長層、役員層という形を提言したのも全て新会社を準備するためということなのか。

 しかし、そんなことを思っている暇はなかった。生成AIのクラウドの仕組みを販売していき、自身はカスタマーサポートで、顧客への使い方のレクチャーと組織課題の解決を行うこととなる。売れるのだろうかという不安ではなく、こりゃかなり忙しくなるなあと、疑念は残っているが、半分は腕まくりする気分であった。その夜は青山、香取、荻野、八木沢と集まり、最後の晩餐ではないが、今後のことを話し合った。

「まいったなというより、してやられたなという感じだな」
青山は何か悟っていた。
「青山さん、この際、コンサルティング本部盛り上げていきましょうよ!」
荻野が、ビール追加を指差しして頼みながら、青山に伝えた。
「青山さんはコンサルタント似合いますねー。いいですね。八木沢さんは大丈夫ですか?」
香取の一言は八木沢にとっては的をついているようだった。
「そうなんです。私がコンサルタントとか似合いませんよね。青山さんに迷惑かけないようにしなきゃ。それより副社長、大丈夫ですか?」
「あー、大丈夫だろうよ。加藤さんは初めから上手くレール敷いたな。驚いたよ。加藤さんが社長ならわかるんだけどなー」 

 そうか、加藤さんは来年度役員か。そして今回の役員層ワークでダメな役員を炙り出しているので、次は、その肩を叩くんだろうなというイメージが浮かんだ。人事系の役員として辣腕を振いそうな感じがした。

 「俺たちの進む道はこっちでよかったんでしょうかね」
荻野が、ふとみんなにたずねた。というか、独り言のような感じでもあった。「こっちでよかったのか?」と聞かれても俺にはわからなかった。しかし、ネガティブな感じではなかった、わからいけど、前に踏み出そうという気持ちで充実していた。
「2万人から、これからもっと大きなフィールドになるからいいかもよ。百万人くらい相手にするんじゃないのかな?ねえ、副社長」
青山が言った。青山の言葉には元気をもらった。まだ何も決まってもいないが、フィールドを拡げることができるという点は事実であった。
「副社長は、今日は禁止ね。八木沢さん、荻野さんには良いキャリアになるんじゃないかな。あっ、香取さんには悪いけど」
「いや、自分は大丈夫です。加藤さんの真下で、荒木さんと一緒に勉強しますから」
と香取はこちらを見ながら、明るく前向きであった。
「まあ、みんなポジティブにいこうな」

 今年度やろうとしていた三つの企画も進んでいくことになろう。一つ目の各職場のボトム活動と、エンゲージメントサーベイを結びつけて、課題などを職場で解決していくながれは、香取が窓口で動くが、我々もコンサルなどでフォローしていく形になるのではないかと思った。二つ目で考えていた、ボトムアップ活動と、サーベイスコアの数値を参考に、新企画の「Xアワード」を行っていこうと考えていたが、これは香取主導で行うこととなる。審査には我々も携わっていくだろう。思い切り、香取を支援したい、三つ目に案としてあがっていた、ほかの企業と一緒になって、社内の組織風土改革研修をアップデートして、新たな視点で組織カルチャーを変えるための事業展開、サービス展開を図ろうという企画は、まったく想定していない方向だったかもしれないが、今回の三社合同の新事業という形となった。

 実際は、裏側で、色んな動きが1月から決まっていて、そのレールにも気づかずに前進してきたが、みんな、そんなことに対してのクレームもなかった。古賀さんのこともあり、俺が一番引っかかっていたようだった。加藤さんとは良い意味で一緒に半年間進んできたなと。そんな時に加藤さんからのチャットが届いた。「みんな一緒だよな、いいかな?行っても?10分で着くと思うから」と。
「加藤さん、来るんだってよ。あと10分で来るからって」
「あれ、ここに来るって伝えていましたっけ?誰か言いました?」
八木沢がたずねた。
「わかるんじゃないの、きっと、この焼鳥屋か、向かいの中華だろうって」
青山の言う通りだった。俺だって、逆の立場だったらわかる。加藤さんも気を使ってるんだなとあらためて思った。我々に対して、「ずっと黙っていて申し訳なかった」と言う加藤さんが目に浮かんだ。あっという間の半年間だったなと、感傷に浸っていた。こんなに夢中になったのは何年ぶりだったのだろうか、この3年半は無駄ではなかったという思いが込み上げてきた。加藤さんが店に来るまでの時間は長かった。

「大将、今焼いている焼き鳥、全部プラス一本にしといて。一人増えるから」
「ということは、加藤さんかい」
「そうそう、俺たちと飲んでいるときは加藤さんくらいしか来ないよ」
荻野が気を利かせて追加オーダーしていた。加藤さんが来ると聞いて、またみんな盛り上がっていた。店の中も俺たち以外に10名くらいの客が入っていて、焼き鳥の煙がもくもくとしていた。隣の客も、軽い仲間内での歓送迎会に近い雰囲気であった。お店の中は元気だった。しかし、飲めば飲むほど、俺だけはなぜか、一人で感傷に浸っていた。



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