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「小説 組織風土改革推進委員会」第25話:新会社

第25話:新会社

 今日から研修だ。これから1ヶ月、午後は毎日新宿にあるマイケルジャパンの研修センターに集まることとなった。月曜日、14時に新宿西口のアイランドビルに皆、集合した。

 三社とも急な辞令だったことから、集まることができるのは約40名のうち、半分ほどかなと思っていたが全員集合していた。但し、しばらくは準備室と、それぞれの会社の今の仕事との二足の草鞋となる方が多いことを、うっすらと加藤さんから聞いていた。スタートは、まずは顔を覚えることからだ。

 研修前の最初の挨拶は、大谷商事の大谷社長からであった。挨拶が終わってチラッと見られた気がした。大谷社長からは、今日は、新会社の社長になると言われている古賀さんも一緒に経営ミーティングと称した会食と聞いており、大谷社長にも、古賀さんにも、後で色んな話を聞こうと考えていた。あの時、大谷社長が訪ねてこられた時も、きっとこの今の新会社へ向けての確認とか調査のためだったのだろうか。今思えば、大谷社長にあれから数回コーチングしていたのだが、なんとなく恥ずかしくもあった。それに、急すぎる流れで、どういう経営方針でいくのかなども確認できていなかった。明日の16時には三社の社長と、古賀さん含めて経営方針についてのミーティングがあるとは聞いていたが、前もって確認しておきたかった。

「大谷商事さんはいつからこの話に参画していたんですか?」
唐突に聞いてみた。社長との古くからの付き合いがあるから聞けるのだが、今日は真面目な会食の席だ。
「村田さんは、全く知らされていなかったんだね。どこかで途中、加藤さんから聞いているかと思っていましたよ。でも、研修というか、ワークショップの時にそういう気配が見えないから故意にそうしているのかなとも思っておりました。はっはっは」
いや、ここは笑うところではないだろうと真剣に思った。きつい言い方であったが、隣に座っていた古賀さんに向けて尋ねた。
「古賀さんは?」
「すみません。最初の段階から聞いておりました。今年の一月にマイケルさんから営業網についてのヒアリング依頼があり、とんとん拍子で進みました。御社に話があったのも同じタイミングかと存じますが。でも全てを教えてもらってはなかったので・・・・・・七割くらいでしょうか」
「えっ、そうなんですね。私だけ何も知らなかったみたいですね。うちは社長、専務、加藤が中心だったのですかね」  
古賀さんは、申し訳なさそうな顔で切り出した。
「村田さん、私からははっきりとは言えないのですが、だいたいのところは、ご推察の通りです。でも、いつも加藤さんからは、今は、みんなモチベーション高くやっているからこのままのムードで準備室を迎えて、そのまま新会社に移行させたいと聞いておりました。ミーティングが終わった後も、本当にみんな主体性をもってやっているから、余計なことを考えさせたくはないと。そう、加藤さんがおっしゃってました。私もあの方のお気持ちがよくわかりました」
と、いつもの流暢な司会の古賀さんも、今回の件についてはまわりくどい感じで、加藤さんをフォローするような話し方であった。

大谷社長は、 
「村田さん、私があなたを副社長に推しました。今回、うまく古賀さんのサポートが出来るのはあなたしかいないだろう。また、カスタマーサポート的な部分も、あなたなら相手に寄り添って色んなアドバイスなどが出来る方だと思ってね。そっちも私が推しといたんだ。多分、コンサルタント部門はあなたたちの会社のメンバーが得意なところだろうから、何かあれば、そっちもリカバーおねがいしますね」
「まだ、私は何も聞いておりませんが、五年後の目標値とか、三年後に目指している姿とかゴールとか、今年はここまでとか、何か決まっているのでしょうか?」
「それは明日、話が出るでしょう。しかし、私個人の意見では、皆さんで何を目指していくのかといった具体的なところや、数字の目標とか、様々な指標を決めてもらえないかなと思っています」
「我々で」
「そうです。あなたたちの会社ですからね。主体性のある人を育てるのが村田さんのパーパスでしたよね。今回はこのチャンスをご自分で活かしてもらえますか」

 まだ、何も聞いていないのに、ここで今、「主体性」と言われてもと思ったが、本日の研修でわかったことは、日本企業を、AIをベースにコミュニケーション、働き方、マネジメント、そして組織風土を変えていこうという大きな仕掛けだ。その一端を担えるのは嬉しい限りである。

 翌日、八木沢、荻野、青山と一緒に東中野の駅近くの洋食屋でランチを済ませ、研修場所の新宿へと向かった。洋食屋では、昨晩の話をかいつまんで行い、今日の夕方から経営ミーティングがあることを告げた。

 青山からは
「日本の企業を変えていくって素晴らしいことですよね。うちの会社だけでとどまらない動きになりましたね」
と。八木沢も、
「スケールについては自分たちで考えろってことですよね。多言語機能や、他の国のカルチャーもAIに学習させれば、グローバルにも使えるってことですよね」
荻野も続けて、
「そうじゃなきゃ三社も集まらないし、こんな急展開にならないよ」 
俺は、まわりに人がいないなと、気を使いながら、
「おそらく、10日には三社でニュースリリースうつだろうから、そこにも書いて来るだろうな。先日は三社で提携して、風土改革調査の実証展開をしていくとしか書いていなかったからな。新会社起こすとも、まだ書いていなかったしな」

 実際は10日の準備室設立に、ニュースリリースが出るなどは知る由もなかったが、確かにグローバル展開を視野にくらいのメッセージは打つであろう。そうなると、カスタマーサポートとしては多言語展開の準備も大変だなと思った。この辺りもAIなのだろうと内心思ったが。

その夜、経営方針について聞かされた。
◇ゴールは、AIをベースとした組織アセスメントシステムで、日本企業の働き方を変える、マネジメントを変える、コミュニケーションのあり方を変える 
◇システムスタイルは、大企業向けのエンタープライズコースと、中小向けのコース、スタートアップ企業向けの三つのスタイルに別れている
◇当面、年末までは体制づくりと、エンタープライズトライアル企業を六月までに100社募る
◇来年度はエンタープライズ向け500社を目指す 
◇三年後には、国内でデファクトと呼んでよい仕組みとなる
◇五年後までにアジア展開し、アジアで500社を目指す

 三社合わせれば圧倒的な取引先の企業数となるだろう。しかし、後発の我々の仕組みにのってくる企業がどれだけあるだろうか?やってみなくてはわからないが、まだ組織が変わったという実績がない。そもそも、三社でもトライアルとしてスモールスタートするというが、今年度、100社も、この話にのってくるのだろうか?

 ミーティングが終わって、そっと加藤さんに
「実績がまだこれからなのですが、その目標値をあげるのに根拠はあったのでしょうか」
「実はマイケル側では裏側の仕組みで色んなデータをとってやっていたんだよ。うちも、大谷商事さんも。社名は言えないけど十数社の人事には声かけて、全てではないけど実証してるんだ。かなり内密にね」
そうか、知らない間に進んでいたんだな。まだ知らないことばかりだなと思った。どこまで加藤さんは俺に話してくれているのか、大谷社長も、古賀さんもそうだ。まだまだ信頼に足りないのか俺はとも思った。

 この秋は、年末まであっという間に過ぎた。年末から既に営業が受注に向けた水面下の活動しており、正式な、そして俺たちの会社が1月5日にスタートした。既に各本部は、10名以上の体制となり、総勢60人ほどの会社となっていた。俺たちは「日本の働き方、マネジメント、コミュニケーションのあり方を変えていくんだ」という熱い気持ちだった。

 もう今年で56歳になるのに、こういうチャレンジをさせてもらって非常に会社には感謝している自分がいた。今日は朝の7時半に会社に来てしまった。新宿のアイランドビルの20階のフロアの窓際で外を見た。西新宿の高層ビルが朝日で眩しい中、青山が近づいてきた。何も言わずに隣に立っていた。本当に良い仲間ができた。
「おはようございます」
元気な声で八木沢が、荻野が出社してきた。


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