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「小説 組織風土改革推進委員会」第19話:根回し

第19話:根回し

 5月末、今日は最終日の31日、俺は加藤さん含めた全体ミーティングだった。東京は湿度は高いまま、真夏日が続いており、そろそろ雨が恋しかった。梅雨入り予想日まで一週間はきっていた。まあ、朝、歩いているとそうでもないのだが、会社に到着すると、なんだか、じわっと汗が噴き出てくる。まだエアコンが効いておらず、室温が高いため、皆、席に着くなり、パソコンをONにしたとたんに、うちわや扇子であおいでいる。そして、段々、上着を着ることもなく、シャツも半袖の社員が多くなっていた。

 今日の全体ミーティングでは三つのワーキンググループの共有と、方向性を絞っていこうというのがゴールだった。完全に一つにするというところまでは行かなくても、考え方、方向性のベクトルは同じにしておこうとなった。組織WGとして、八木沢がみんなに話をした。施策としては、三社間での課長層ミーティングの開催であった。

最終ゴールは、

  • 積極的に他社の取り組みを学んで、自責の視点で自身の組織を見直す

  • さらに各社、各組織、期限を決めて組織課題を解決する(期限は、最長一年として、測定できる形でマイルストーンを設定する)

内容としては、ワークショップ形式で三社の課長層に集まってもらい、

  • 事前に提出した自己紹介カードをもとに自己紹介、且つ、本日の期待を話す

  • 入口の問い→他の会社の課長が何を考えているかを捉える問い→課長自らの組織のゴールは何か?を語る

  • メインの問い→各自に、

  1. そのゴールに向かって、何をしているのか? 

  2. 何が足りていないのか? 

  3. 今後何をやろうと考えているか?を語ってもらう

  • それを他の会社から見てどう感じたか、もっと良くするならばどうするかなどをフィードバックする

  • 振り返りの問い→本日の内容で良かった点を話す

というものであった。
また、課長層だけではなく、役員層にも同様のことをやってもらうというのが本題となっているとの話をした。

「おいおい、この案は、課長層はわかるが、役員層も入っているのか」
加藤さんも苦笑いしていた。この瞬間の表情を見て、加藤さんは賛成派だなと俺は感じた。 
「大谷商事さんもマイケルジャパンさんも賛成なのですか?これは、村田さんの案ですか?」
と香取がたずねた。
「いや、村田さんの案ではありません。みんなの案です。また、最初に提言してきたのは大谷商事の人材開発リーダーの古賀さんでした」
青山は真面目な顔をして、
「いいんじゃないかな。課長層と、役員層の感じているギャップもお互い見れて、やること自体に悪い要素は一つもないように感じますね。やってみる価値はありますよ」
珍しくクールな青山が身を乗り出しての賛成意見だった。俺は加藤さんの顔つきを、その後もゆっくりと見ていた。これは大変だなという感じで、表面的には、まだ苦笑いを崩してなかったが、加藤さんが反対意見することはなかった。

 青山、香取チームはサーベイ結果をもとにということであったが、この課長層、役員層のワークショップにサーベイ結果を盛り込んでいけば、議論や考えの材料に使えるのでよいのではとの意見だった。また、三ヶ月後、半年後の結果数値も大切にしていきたい、定点で見ていくことが大切であり、その中でスコアが上昇した組織の活動、行動、考え方などを形式知化していくということでワーキンググループの中では結論に至ったとの話であった。かなり、組織風土WGの内容を補完する形でもあり、非常に良いのではないかと感じた。

 人事グループは、人事部の荒木と野村であった。うちの会社でもこの二週間、彼女たちの元気な姿を見てきた。やる気に満ちていることが伝わってきていた。彼女たちのワーキンググループではどんな制度があればという視点で捉えていた。
「私たちのグループでは、どんな制度がどう行動や成果に寄与しているかを議論してきました。そこでの現状の結論というか仮説は、画一的な制度では、今後の大きな成果には繋がらないかもということで、今後は一人ひとりが自分に合った制度、自分が目標達成に向けて、キャリアパスを描けるような制度を、引き出して活用していくことが肝要ではないかかということに至りました。例えば、マイケルジャパンに吉田さんという方がいたら、彼女はどんな制度を活用してここまでのキャリアを経験してきたか、今後、吉田さんのゴールに向けて、どんな制度があればよりよき会社生活が送れて、会社も持続的な成長出来るかを披瀝する場、さらに、まずは管理職で考える場をつくりたいと考えました。先ほどの八木沢さんの話を進めるとして、青山さん、香取さんのサーベイ内容を材料、きっかけとして使えて、私たちの制度の視点で考える時間も与えてもらえれば、多様な視点で三社が対話出来るのではないかと感じました」
と荒木が話した。野村も、
「盛り沢山になってフォーカスするところが漠然となってはいけませんが、実際のワークの時間などを大括りで分けるとか、最初にインプット与えてから始めるようにとか、工夫は必要ですが」
とフォローした。確かにいきなり課長層に色んなことをぶつけても、受け取りきれないかもなと感じた。

 荻野が、
「ちょっと生成AIに聞いてみましたよ。現状考えていること、目的、ゴール、施策内容を打ち込んで、三社の課長層のワークの立て付けを整理してもらいました。ちょっとWordに貼ってみなさんにチャットで送りますね。それから、ここまで話し合えていたら、其々のグループミーティングよりも全体でやったがよいかもですね」
と提案した。

 加藤さんも賛成のようで、大谷商事、マイケルジャパンへと連絡して、来週のミーティングをリアルとオンラインのハイブリッドのスタイルで開催してはどうかと連絡に奔走した。

 同じような議論の状況だったのか、早めに三社とも全体ミーティングを開催したがよいという話となり、今度は、マイケルジャパンへ、皆、訪問となった。みんなが思っていたのは、早めに全員対象ではないとしても、課長層や、役員層の合同ワークを行うのであれば、早期に日程や、場所、アジェンダを連絡して、コンテンツ作成の必要があることを認識していたからだ。早くても、正式に各社が連絡して1ヶ月後ということとなるので、早めに合意決定しようというわけだ。ギリギリ感はあるが、皆、やる気に満ちていた。

 ふと、加藤さんは俺を呼んで、
「鶴田専務にも方向を報告しておこう。今は、まだ会社にいるから」
「説明資料はないんですが?」
と、思わず口にしたが、
「村田さん、エレベーターピッチだ。三十秒から一分で伝えよう。鶴田専務を味方にして、役員層まで広げよう。大谷商事の大谷社長にも話は上がるだろう。大谷社長は大賛成だろうな。専務からマイケルジャパンの坂口社長にも連絡しておいてもらおう。専務と坂口社長は大学の同期だから仲が良いからな。こちらも三社合同の件を聞きましたからと伝えてもらおう。坂口社長も安心するだろうから」

 話しながら役員室に入り、加藤さんと専務室の手前まで来ていた。ちょうど、馬場社長も部屋から出てきたところで呼び止められた。
「おう、加藤さん」
「はい」
俺は少し焦っていた。専務よりも社長に報告してよいのかと。加藤さんはそうでもなかったかもしれないが。
「先ほど大谷社長から電話あったよ。三社のイベントお願いしますと。なんか役員層までやるんだって?大谷社長、張り切っていたよ」
「そうですか。情報が早いですね、馬場社長」
「いやいや、大谷社長が早いだけだよ。鶴田専務にも話しておいたよ。君からも伝えておいてくれたまえ」
「承知しました」
加藤さんは無駄口を叩かずに、一人で専務室へ入っていった。話がついているならば詳細説明の必要もなく、スマートに加藤さんのみでよいだろうと、納得した。まあ、わずかの時間で根回しは終わった。専務は、その場で電話され、マイケルジャパンの坂口社長も承知されたようだ。

 加藤さんのスピード感には頭が下がる思いであった。物事を決める時はこうなんだな、この人はと思った。なかなか、こういう人と一緒に仕事はしたことがなかった。もっと早く出会えていれば、どんな会社人生だったであろうと考えた。

 それと、少し不可解ではあったが、その前に大谷商事側も動いていたことを思い出した。俺と一緒に早期に決断し、経営側へ動いた加藤さんよりも早く、自分の会社の社長を突き動かして、さらに、うちの馬場社長へ連絡がすでにきていたのだ。こんなに早く経営に上申して、決断を得られるものなのだろうか?古賀さんとは一体何者なのだろうという疑念も湧いてきた。あのショートカットが浮かんできた。


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