「小説 組織風土改革推進委員会」第16話:キックオフミーティング
第16話:キックオフミーティング
5月の晴れ渡る月曜日、三社の協働ミーティングが開催となった。我々のメンバーは東中野の本社に集合して、午前中に、本日の打ち合わせを終えて、14時からのミーティングへと出た。
大谷商事は四谷にあり、ドアtoドアでも、総武線で25分も要しない。みんな揃って、ダークスーツでネクタイ締めて、このイエローカラーの電車に乗るのも変な感じである。まあ、初回ということで、いつもは締めないネクタイをしている。この日は、やけに暑く感じた。加藤さんを含めて8人での訪問だが、人事部所属、人材育成のリーダーである荒木と制度関係のリーダーである野村の二人の女性リーダーも一緒だ。まあ、男ばかりのメンツではなかったのか救いであったし、彼女たちのベージュ系のジャケットが、ダークカラーの中に光って見える感じでもあった。
大谷商事に到着した。本日は、大谷社長としては部下がやりづらいだろうということで、ミーティングには出て来ない約束となっていた。しかし、言い出しっぺの大谷社長は、居ても立っても居られないのか、玄関にわざわざ降りて来て、周りの社員から
「社長、今日は、やはり参加したいのですか?したいなら、したいと言ってもらわないと」
と、冷やかし半分で言われていた。
大谷商事のビルの4階にある会議室に案内された。もうすでに、マイケルジャパンのメンバーも六名来ていた。大谷商事側は人事本部長含めて七名だった。「本日は宜しくお願いします」といった挨拶と名刺交換が始まり、大勢が、グルグルとまるでオクラホマミキサーのような儀式が始まる。どういう周り方が効率的か見極めながら隊列を組んでまわっていくのである。
前もって本日のアジェンダと、ワーキンググループの名簿はもらっていた。
本日のアジェンダ
· 自己紹介
· 三社協働プロジェクトの目的と意義
· 各社の取り組み紹介
· ワーキンググループ毎のミーティング
となっていた
自己紹介は各自、自己紹介カードをパワーポイント一枚に書いて提出していたので、それに沿って発表となった。大谷商事のメンバーは、吉岡、久保田、木村、川崎、末次の人事部メンバーと、古賀、深田の人事部人材開発グループの合計七名で、古賀、深田の二人が女性だった。実は、顔を合わせるのは久しぶりだったが、久保田、木村とは仕事でも顔合わせしたことがあり、先方も気づいており、自己紹介の時は、じっと、なぜかこちらを見て話して来たので笑うのに我慢してしまった。
マイケルジャパンの六名は、全員が人事部所属であるが、長浜、大橋、野間、井尻といった女性メンバーと、原、土井の若手男性メンバーだった。外資の方はなんとなくそれっぽい雰囲気を出しているなと感じていた。
同じ組織風土メンバーの大谷商事の末次さん、古賀さん、また、マイケルの野間さん、井尻さんの話はじっと聞けた。末次さんは大手メーカー人事部から転職して来たばかりだが、海外人事も経験しており有能な感じだ。五十手前くらいだろうか。古賀さんは人材開発リーダーとして様々な研修改革、育成改革に取り組んできたそうだ。古賀さんはショートカットでキリっとした顔立ちだ。30歳と言われれば30歳だし、40歳と言われればそう見えてしまう感じの方であった。マイケルの野間さんは営業から人事、井尻さんはシステム開発から人事へとキャリアパスをきちんと描いて、社内公募で人事に来ており、今回のプロジェクトが楽しみで仕方ないらしい。二人とも35歳と自ら紹介があった。俺はこの年齢の頃は、目の前の仕事以外、眼中になかったなと思いつつ、今はみんなキャリアについて考えるんだなと尊敬の目を向けていた。
自己紹介タイムも終わり、目的と意義について、大谷商事の吉岡役員から話があった。
三社でそれぞれの組織課題について議論して、
第一フェーズは
・他の会社から見て、どういう視点が足りないか
・施策をもっと良くするには、どうしたら効果が最大化出来るか
を意見交換していくことで一ヶ月半。
第二フェーズとして、
・それぞれの会社でそれを二ヶ月ほどテスト的に実行してみる
・結果をまとめて共有する
第三フェーズとして
・効果的な取り組みをさらに他社からヒントとしてとり込んでアップデートしていくというものである。
しかし、あくまでガイドラインであり、まだミーティングも行っていない中で、この通り決めた流れではなくてもよいとの話であった。そもそも、せっかく3社で行うのである。吉岡役員の話を少し聞き流しながら、「新しい企画提案もありというのなら、そこを視野に考えたい」と俺は思っていた。
今後進んでいく中で、横の連携は、人事制度ワーキンググループ、サーベイワーキンググループ、組織風土ワーキンググループに分かれて検討し、共有しながら、アップデートしていく。其々の会社での取り組みについては、各ワーキンググループから出された施策内容を如何にとり込んで行けるかなどの検討を行い、社内に落とし込み、実行していくといったものだ。正直、このフロアにいる人たちは、思いがある人たちの集まりであり、会社の中の人事系の部門としてやれなかったことを、この機会にやり遂げてやろうという気概が感じられた。
各社の取り組み事例の時間では、我々がトップバッターであった。今日は香取が説明した。過去三年間の取り組み、今後の三社で行う協働への思いについて話した。香取は話すうちに段々と熱がこもって来た。
「過去三年もやって来て満足も何もないが、組織を良くしていけば、みんながそう思いながら主体的な行動を起こしていけば、必ず業績にも繋がると思っています。そのためにも自由闊達にゴールに向けて意見が言い合える環境を全てのチームにつくりたいと考えています。サーベイも展開し始めましたが、それを対話のきっかけに使ってもらえればと。真の組織の問題は気づいていないところにある適応課題が大きいと言えますので。また、経営層へも認識一致をしてもらうために、エンゲージメントのどの項目が組織に如何に影響しているかをデータとして測って提言をすすめてまいります。さらに、三社間で進めていければ、多様な解が出てくることになるだろうと。まだ先になりますが、最終的には他社にも売れるようなパッケージにもしたいと考えているので、テストのお願いの時は、是非、フィードバックなどお願いいたします。また、逆に我々も皆様方に、みなさまの会社に貢献できるようにこのプロジェクトを進めてまいりたいと思います」
説明というよりも、香取の演説であった。加藤さんが
「香取さん、説明資料は使わなくてよかったかな?」
香取は、思いをぶつけられたという感じで、少し余韻に浸っていたのか、慌ててパワーポイント資料を立ち上げて、香取は五枚の資料を使って過去やって来たことなどのポイントを説明した。
大谷商事は、ショートカットの古賀さんが発表した。古賀さんが主導したと思われるここ数年の改革内容が投影された。大谷社長は悩んでいたようだけど、こうやって古賀さんのように改革を進めている方もいるんだなと感じていた。香取の熱さとは、また違った雰囲気であった。冷静な中に視線を集中させて周りを見渡す女帝にも見えた。とある政治家と重なって見えていた。その立ち振る舞いは、誰にも媚びず、それでいてみんなを包み込むようなオーラを纏い、なんとなく加藤さんを女性にした感じであった。
マイケルは長浜さんが発表した。長浜さんも評価制度改革を行い、個人の業績のみの評価だけでなく、チームへの貢献度合いを評価する仕組みへとシフトさせていた。そのあたり、「どうやって評価していくのか」など聞きたいことが頭の中にどんどん湧いてきていた。また、外資ということからか、管理職にはコーチング研修を全員に受けさせているとの話だった。驚きなのは、さらにマネージャーの1割は、コーチングの国際資格をとっていると聞いた。俺も、スクールの認定コーチではあったが、まだ国際コーチング連盟の認定コーチでもなかったので、羨ましくも感じた。実際、そのあたりは、資格取得補助などの制度もあるようだった。会社としても、コーチングが大切だということで、そこまでとことんやる姿勢がすごいなと感じた。
時間がおしていたので、次のワーキンググループの時間で、質疑を行うこととなった。ワーキンググループは末次さん、古賀さん、野間さん、井尻さん、それに八木沢、荻野、と私の7人だった。早速、質問した。
「マイケルさんは個人からチームへ評価制度に変えたとうかかいましたが、チームへの貢献度はどうやって評価しているんですか?」
マイケルの野間さんが答えた。野間さんはてきぱきと答えてくれた。
「チーム評価は課単位での360度評価、さらに部の枠での360度評価をとり入れてます。業績評価を3割、課の単位の評価の重さを4割、部の単位の評価を3割です。この評価の中に、貢献度、チャレンジ度合い、リーダーシップ度合いなど数項目があります」
さらに続けて聞いた。
「たとえば管理職の評価に、サーベイの評価は含んでますか?」
野間さんは、頭の中にすべてのことがインプットされているかのように、
「それをやると、本来のサーベイの意味がなくなる恐れがあるのでやっておりません。但し、何かこの管理職の部門は問題があるのではないかなどのヒアリング対象にはしています」
と的確に教えてくれた。さらに聞きたいことは浮かんでくる。
「私一人ですみません。もう一つだけいいですか?三百六十度度評価に変えて、明らかに変化度合いが大きかった人もいたかと存じます。どんなフォローをされているんですか?」
「実はテストを四半期で2回、半年間行い、その評価ギャップある管理職には、あくまでテストの結果ではこうなのですが、と提示しております。半年で変われない人は仕方ないと判断しています」
隙がないなマイケルジャパンは、いや野間さんは・・・・・・と感心してしまった。三社で行うと、いろんなヒントがありそうだと感じていた。
少しそういう質疑が進み、このワーキングで何をおこなってくかのアイデアラッシュからしていった。基本のフェーズに合わせて、このグループで行なっていくことは、まずは第一フェーズの一つ目として、各社の組織課題についてヒアリング。それぞれの課題の背景を理解しようとなった。二つ目にアジェンダに、進め方の例として、各社の取り組みなどからピックアップして好事例を集めて分類していくとあったが、それには各社アグリーであった。そして各社の組織課題に対して、何か参考となることをそこから抽出していけないかを話し合うこととした。これを六月末までに進めようとなった。そこから課題解決案を各社で三つ挙げて、最低一つを、次の第二フェーズで実証してみようとなった。それには他のワーキンググループの内容とのすり合わせもあるが、各社の中でそこは調整していくこととなった。実証、テストは2ヶ月ということで8月がリミットとなる。第三フェーズは、ここから結果を共有して、さらにブラッシュアップしていこうとなっている。ここでさらに三社で意見交換を行い、チームとしての良い取り組み、管理職の良い行動、それを後押しする会社としての施策について形式知化していこうとなった。
但し、ミーティングを重ねていくごとによいアイデアも出てくるだろうし、多様な中で話していると、新しい何かが浮かんでくるだろうということで、今日の流れにとらわれずにいこうということとなった。確かに俺もなんとなく机上で考えられるようなものではなく、変化のある方向で行きたかった。次のミーティングでたしかにいろんな方向性が出て、このあたりは実際は変わっていくこととなった。
他のワーキンググループも、約2時間の話し合いを終えてメインの会議室に戻ってきた。皆、他の会社とのプロジェクトなので、意気揚々としている感じがした。
「青山さん、どうだった?」
「みんなやる気満々だったですね。僕らのグループは、各社、サーベイをやっているけど、そこからの組織課題をまずは各社見ていき、それを他社も交えて三社で話し合っていこうという感じになりました。さらに、サーベイから見えてくる課題解決の施策を一つでも二ヶ月テストしていこうと」
「お互い頑張らなきゃな」
なかなか、他の会社とのプロジェクトというのは、通常の取引以外は、八木沢も、荻野も、香取もそんなに経験がなかったようで、ここはベテランの二人が引っ張っていかないとなと、青山と話していた。荒木も野村も経験はないが、やる気だけは満ち溢れていた。
「村田さん、人事ワーキンググループもどんな制度がいかに組織風土改革やエンゲージメントに寄与しているか、今後どんな制度が必要かを議論していくので、どんな組織を目指していくのかを、みんなともっと共有しておきたいと思いましたので、よろしくお願いしますね」
と荒木が声をかけてきた。
「さっき、演説した香取先生にみんなで習ったがいいかもな」
と返事をしていると、後ろで聞いていた香取が
「ちょっと人事部全員に講義をしたがいいようですね。セミナー講演料でももらわないとね」
「生ビール一杯でお願いします、香取さん」
と荒木が答えると、
「では、会社に戻らずに四谷で飲むか」
と、加藤さんが入ってきた。
みんなで帰る準備をしていると、大谷商事の社員が
「お疲れさまです」
と大きな声で挨拶する声が聞こえてきた。
もしやと思ったら、そこに大谷商事の大谷社長がやってきていた。
「マイケルさん、それに加藤さんたち、本日はありがとうございました。もう、17時になりましたし、ちょっと食事の店をとってますので懇親会ということでいいですよね。今日は私も参加を我慢しておりましたので、懇親会だけは参加して、皆様から学びたいと思っております。よろしいでしょうか」
大谷商事の社員は困った顔をしながら、なんとなく、我々に賛同を促すそぶりの目つきをしていた。
「もう、既に17時半で予約していますので、みなさん、行きましょう。四谷駅に向かったほうの中華レストランですが・・・・」
誰も、大谷社長を止められる者はいなかったし、みんなで懇親会というのは悪くもなくおそらくみんな賛成であった。多少、そういう催しがあるのではないかと思って、荒木さんや野村さん、また、うちのメンバーには伝えていた。ないとしても、メンバーで飲みに行こうとは伝えていた。
