山下達郎が作った「フジロックの伝説」と、彼への批判について。
山下達郎、フジロック、そして「許す」ということについて。
2025年7月26日(土)、フジロック最大規模の「GREEN STAGE」に山下達郎さんが登場しました。
デビュー50周年を迎えた本人にとって、これが初のフジロック出演。今年のフジロックは久しぶりに複数チケットがソールドアウトし、1日券は彼が出演した土曜日だけが売り切れていました。
僕個人の体感としても、朝日新聞の取材記事的にも、好調の大きな要因は「山下達郎の出演」ではないかと思います。
そして、それは現地参加者のSNS投稿を見ても間違っていないでしょう。
山下達郎マジで動員数すごい
— RIN (@rin_gtr_) July 26, 2025
グリーンステージ後方で身動き取れないとかあるんかよ
ていうか後方の音良すぎるんだよ pic.twitter.com/cpqwzZWeyt
もしかしたら過去最大の動員記録かもしれません。
さらには、そのパフォーマンス内容も大絶賛一色。
おそらくアーティスト側からの要望によってめずらしくフジロック撮影禁止を通達したことも話題となりましたが、それでも動画などは出回るもので、それらを確認しても本当に素晴らしい楽曲・演奏・サウンドでした。
僕は自分が運営しているYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」でも、寄稿した音楽メディアでも、出演したJ-WAVEのラジオ番組でも、「絶対に観たいアクトは山下達郎」と明言し続けてきたので、現地でライブを目撃できたオーディエンスが本当に羨ましい限りです。
けれど、その熱狂の渦中で、必然的にある問いと向き合うことになりました。
筆者プロフィール:照沼健太
編集者・ライター・YouTuber。テレビ東京やNetflixのメディア運営、レディオヘッドら数々のアーティストのCD封入解説文、HIKAKIN、米津玄師、押井守、藤本タツキなどのクリエイターや多くのビジネスパーソンの取材を担当。2023年末からはYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」を運営(2025年2月末時点でチャンネル登録者数約5万人)。
あの発言を、私たちはどう受け止めるべきか
それは言わずもがな、山下達郎さんが自身のラジオ番組『山下達郎サンデー・ソングブック』2023年7月9日放送回における彼の発言に基づく「山下達郎キャンセル運動」とも呼べる流れと深く関係しています。
ここで山下達郎さんの言葉は、「私の人生にとって一番大切なことは、ご縁とご恩です」に代表されるように、数々の性加害を犯したジャニー喜多川氏を擁護したとも取れる内容となっていました。
これと関連して「山下達郎ボイコット」の流れがSNSで生まれ、フジロックへの山下達郎出演が発表された暁には「フジロックで山下達郎にブーイングしよう」といった運動?予告?もXに投稿されていました。
そんな流れがあったことから、今回の山下達郎フジロック現象とも呼べる大騒ぎについて、それを批判する投稿を見かけることも少なくありませんでした。
というか、それ以前から「フジロックでは山下達郎が観たい」と話すことすら憚られる空気は確実にありました。それは僕のようにメディアに出演して言葉を発する人間なら、尚のことです。
彼の話をすると、なんかみんな微妙な表情をする。「あ、話していいのかな?」みたいな感じ。
僕はこの「空気」に非常に疑問を抱いていました。
普段「同調圧力」に批判的な、個人の自由を尊ぶ人たちが、なぜか口をつぐむように/空気を読むように要求してくる。それってダブルスタンダードそのものではないのか、と。
ラジオでの山下達郎さんの言葉には「被害者への配慮が足りない」「加害構造を肯定しているのでは」という批判が寄せられていましたし、確かにそれは僕も理解できます。
しかし、それはあくまで「気持ちの上では」です。
「山下達郎ボイコット」呼びかけのファシズム性
誤解のないように言えば、僕は山下達郎さんの発言を積極的に擁護したいわけではありません。
あの発言が、被害者にとって深い傷を抉るものであったことは想像に難くありませんし、大衆に音楽を届ける表現者としての責任を問う声が上げられるのもおかしくないと思います。
ただし、僕は個人的に「それでも山下達郎の音楽を聴く」という選択をしています。見知らぬ土地に行って車を運転する時はいつも彼のベストアルバムをBGMにしています。
なぜか?
それは僕がザ・ビートルズが残した楽曲を、フィル・スペクターが手がけた作品を、今も聴いているからです。
ジョン・レノンはインタビューで「女性にDV/暴力を振るっていた」と明言しています。また、フィル・スペクターは2003年の殺人罪で実刑判決を受け、獄中で死亡しました。
さらにビートルズのアルバム『Let It Be』や、ジョン・レノンのいくつかのソロアルバムは、フィル・スペクターがプロデュースを手がけています。
あの世界平和の象徴のような楽曲「イマジン」は、殺人犯フィル・スペクターがプロデュースし、妻を殴っていたジョン・レノンが歌っています。
世界最高の一曲、ロネッツの「Be My Baby」はフィル・スペクターなしでは絶対にあり得ない楽曲です。
僕はこれらの楽曲を、アルバムを、今も聴いています。
最近は一周回って「作品と表現者を切り離さない」動きが強まっているのも承知の上ですが、僕はそれでも作品至上主義であり、作品は作家と別軸に存在すると思っています。作品そのものが他者を侵害しないのであれば、尊重されるべきだと考えています。
そして、直接的に暴力や殺人を行なっていた彼らと比べ、山下達郎さんはそうではありません。
山下達郎をボイコットするなら、ビートルズを、ジョン・レノンを、フィル・スペクターをボイコットするのがまず先だと思います。
少なくとも、僕にはそれはできない。する気もない。
(その上でですが、もしビートルズもフィル・スペクターもボイコットをしていたとしても、そもそも3人を並列に語るべきではありません。フィル・スペクターはマジでレベルが違います。殺人犯です。そして、繰り返しますが、山下達郎さんは犯罪者でもなければ、DV加害者でもありません)。
数々のフィクションで「復讐の連鎖は悲劇しか生まない」というメッセージや「許す強さ」などが語られる一方で、犯罪者でもない人間に対して「許さない」という言葉が軽々しく使われるのが現実です。
……もちろん、被害者心理への配慮なども考えれば、これが竹を割ったようにロジックで語れる話ではないのはわかります。
しかし、だからこそロジックで語らなければ、全てが感情論や多数決の空気で決まってしまいかねないのも、また事実ではないでしょうか。
そして、僕は山下達郎さんの音楽がとても好きです。
(照沼健太)
↑この記事についていただいた反応への補足などしています。よかったら!
いいなと思ったら応援しよう!
いただいたチップはより良いコンテンツ制作に使わせていただきます!