イップス克服に向けて028:勝つためにやるくらいならトレーニングしないほうがいい?
ご回答ありがとうございます。
一つ気になったのですが
強くなるためにトレーニングするのは欲ですか?
坐禅をしたり、ウエイトトレーニングしたり、ゼロ式のトレーニングするのは勝つためじゃなく強くなるためにトレーニングすれば欲にならないのでしょうか?
それとも、何も考えずただひたすらやるしかないのでしょうか?勝つためにやるくらいならトレーニングしないほうがいいのでしょうか?
回答
▶「勝ちたい」などと考えないこと
百歩譲ってトレーニングを始める動機として、「勝ちたい」とよぎるのはいい。
しかしいざやり始めたら、そんなことは一切考えずに集中して取り組みます。
結論を言えば、「勝つと思うな思えば負けよ」の『柔』です。
メカニズムをご説明しますね。
▶ボールが大きく見えるメカニズム
たとえば集中するのに慣れてくると、針の穴に糸を通すのも、一発でできるようになってきます。
なぜかというと、針の穴に目のピントがピッタリ合って、アリアリとその輪郭が見えるからです。
集中が深まると、針の穴が大きくさえ感じられます。
それは細かな部分に目のピントがしっかり合うと、相対的に周りが大きく映るからです(関連記事「『幸せアピール』の人といると苦しくなる理由」)。
これは集中力が高まるとテニスボールが大きく見えたり、ゴルフのパットでカップがバケツに見えたり、バスケットボールでリングがフラフープ大に見えたりするのと同じです(関連記事「ボールを客観的に見るか、主観的に見るか」)。
▶意識すると、パフォーマンスは下がる
ところが1つ目の設定として、針の穴を通す「タイム」を計るとする。
つまり、「より速く通そう」と意識するようになる。
そうすると、焦ったり、緊張したりするから、タイムは落ちます。
▶勝とうとするから、遅くなる
さらに2つ目の設定として、相手とどちらが速く通せるか競争する。
つまり、勝とうとする。
そうすると、プレッシャーがかかるから、さらに遅くなります。
この時、針の穴に目のピントは合っていません。
速く通そうと意識することと、針の穴に目のピントを合わせることとは、前回申し上げましたとおり、別物だからです。
別物どころか、集中を「ジャマ」するのです。
▶焦り、ビビリは、自ら招く
前回も触れたとおり、ご自身としては、強くなるために、勝つために、努力しようとしています。
しかし今見てきたように、上手くやろうとか、勝とうとかする設定は、焦り、緊張、プレッシャーを生むストレスになっています。
その結果、針の穴に糸を通す精度・速度は落ちてしまう。
つまり、自分で自分にストレスをかけて「自滅」するのです。
▶集中するのが「いちばん簡単」
逆に言えば、強くなりたいとか、勝ちたいとか、意識せずに、集中するのが「いちばん簡単」なのです。
ですから、おすすめしています。
あえて自分にストレスを与えてしまうジャマがありません。
▶イップスも自滅
ところが多くの人は、強くなるために、勝つためにと、自らいろんな設定をし、あえて難しくしている。
焦り、緊張、プレッシャーを、自分でも気づかぬうちに強いている。
スイングなんて、振るだけです。
トスなんて、上げるだけです。
考えなくてもできます。
それなのに、「持ち方」とか「振り方」とか「手放し方」とか、いろんな設定をするから、できなくなったのがイップスです(関連記事「そこまで無能ではない!」)。
違いますか?
▶本番で実力を出せなくなる理由
前回、受験の話を引き合いに出しました。
勉強も、「受かりたい」など意識せず、集中してやるのが、いちばん成績が良いのではないでしょうか?
ところが、時間制限の設定があったり、合否がかかる設定があったりするから、「本番では実力を出せなかった……」と悔やむ。
つまり「自滅」なのです。
▶ビッグ3のライバル関係
こういうと「テニスゼロは最近、こんなふうに言ったばかりではないか!」と、いぶかる向きもあるかもしれません。
「フェデラーもナダルもジョコビッチも、自分1人だけでは、こんな高みに進化しなかった」と(関連記事「『切磋琢磨』すると化学反応が起こる」)。
ライバルに勝つことを意識したから、3人は強くなったのでしょうか?
そうではないのです。
▶日本にいるから、日本語を話せるようになる
そこで申し上げました「環境」とは、私たちが日本にいるから日本語を話せるようになった例で確認したとおり、普段は意識に上らないところで影響を及ぼすものです。
「勝とうと思わない」といったら語弊があるかもしれないけれど、トレーニングや試合中にも、基本的には意識しません。
そうではないとしたら、これも何度も引き合いに出している動画ですが、勝ったことに気づかない合理的な理由が見つからないからです。
https://youtu.be/njvK_EII2GI
錦織のショットがネットミスしてアンパイアがゲームセットを告げたにも関わらず、まだ試合を続行しようとするフェデラー。
勝敗のことなど、そっちのけのようです(笑)。
▶「明日もトレーニングはしていますよ」byイチロー
そういえばイチローも、引退会見で言っていました。
「明日もトレーニングはしていますよ」と。
試合もないのに、誰に勝つためだというのでしょうか?
百歩譲ってトレーニングを始める動機として、「勝ちたい」とよぎるのはいい。
しかしいざやり始めたら、そんなことは一切考えずに集中して取り組みます。
▶「欲望がやる気を高める」と勘違いする
勝ちたいという気持ちが、やる気やモチベーションを高めるなどと考えがちかもしれませんけれども、勘違いですよ。
勝ちたいから、練習する。
合格したいから、勉強する。
痩せたいから、トレーニングする。
こういう思いは、“want to”ではなく“have to”ですから、モチベーションを下げるのです(関連記事「“have to”か“want to”か? 「今の人生」の横に走っている「別の人生」がある(諦める力)」)。
練習、勉強、トレーニングそのものを、楽しめるように「集中する」のです。
▶「自分へのご褒美」は、不幸の始まり
「自分にご褒美をあげて、この仕事を頑張るモチベーションを高める!」という人も、なかにはいるかもしれませんけれども、まったくおすすめではありません。
ご褒美を設定すればするほど、「この仕事」は嫌になるのです。
時節柄、新社会人に向けて言うとすれば、「休みの土日があるから、平日の仕事を頑張ろう」とは、しないこと。
そうすると迎える月曜日が、余計ブルーになるのです。
▶仕事そのものを楽しむ
そうではなくて、平日の仕事そのものを楽しむのです。
ではどうすれば、仕事が楽しくなるのか?
集中するのです。
集中と楽しみはセットだからです(関連記事「『なんで、私が東大に!?』」)。
普段は気にも留めない生活音も、集中して聴くASMRだから楽しくなるのでしたね。
▶売り込むから、売れない
営業さんなら、お客さんの話を集中して聴いてください。
売ることばかり考えるから、やりとりするコミュニケーションが楽しくないし、お客さんも売り込まれるのを警戒して、ガードを高めます。
ご自身も店内を見て回っているとき、店員さんに声をかけられると、逃げたくなったりしませんか(笑)。
▶営業の成約率を高める方法
相手の話を集中して聴けば、楽しくなります。
とはいえお客さんも話のプロではないから、その「内容」を聴いていても、あまり楽しくないかもしれません。
ですから相手が話す声の大小・高低・清濁に聴き入るようにすると、音も諸行無常ですから、無限のバリエーションを楽しめるのです。
そうして「音」として聴いていると、何を話そうかと自分の頭の中で考える「セルフトーク」も鎮まるから、結果的に相手の話を、より鮮明に聴けるようにもなるのです。
すると、成約率が高まるのも必然です。
▶ご明察「何も考えずただひたすらやる」
答えはご自身でおっしゃっています。
「何も考えずただひたすらやる」のがいちばんです。
「勝ちたい」「合格したい」「痩せたい」などと欲望すると、今・ここ・この瞬間にやることへ向かわせる集中力が破壊されるから、楽しくなくなって、仕事も勉強もダイエットも、ぐったり疲れるストレスなのです。
禅ではよく、次のように説かれますね。
お茶を飲む時には、ただお茶を飲めばよい。ご飯を食べる時には、ただご飯を食べればよい。日常生活のその時、その場のことを、一所懸命行(おこな)えばよいのである。
ですから「何も考えずただひたすらやる」は、まさにご明察。
別の例では「一瞬、唖然とする良寛のことばに、悲しみを乗り越える術をみる」とあります。
それが、「災難を逃れる上手い方法」なのだと。
災難に逢う時節には災難に逢うがよく候
死ぬ時節には死ぬがよく候
これはこれ災難をのがるる妙法にて候
--良寛
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