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開かないドア、そば粉、12月はじめのあれやこれや

散歩から帰ってきたら、玄関のドアが開かない。

そんなわけはないだろう。
ドアに鍵をさしこんだまま考える。

今週から早朝散歩を始めた。
先日、夫からお父さん役をしてくださいと頼まれたからだ。


スペインでは、毎日の子どもの登下校に親が付き添う。
朝、スペインでいうところのお昼ごはんどき、そして夕方(学校により異なる)、校門の前は子どもを待つ大人で溢れる。
場合によっては、高校生でも車の送迎がある。
遠いし、と言う高校生に、日本では電車に乗って通学する小学生もいると言ったら、ははは、そんなバカな!と笑った。

そんなわけで、「お父さん役をしてください」とは、夫の仕事先まで送ってほしいという意味だった。私は車も自転車も持っていないので、この場合、一緒に歩いて送ってほしいということだろう。


そういうめんどくさいことはしない。


断った後、少し考えた。

在宅仕事は、外に出る機会がなかなかない。
外で仕事や読書がしたくても、静かなバルやカフェがない。
というか、カフェがない。
カフェといえば、地元の人たち憧れのスターバックスは、この町にはない。
どうしてもスターバックスに行きたいときは、皆おめかしして車で大きな町へ出かけてゆく。
友人は、スターバックスのロゴが入ったマグカップを部屋に飾っている。

多くの地元の人たちは一人でバルやレストランに行かない。
食事は皆でするものだから、ということらしい。

日本では一人でカフェやレストランに行く人も多く、私もほぼ毎日一人で昼ご飯を食べていたと言うと、「そんなにさびしかったんですね」と日本語クラスの学生さんに同情されてしまった。


私はさびしかったんだろうか?

どちらかというと、一人で行ってもゆっくりくつろげるカフェやレストランがない今のほうが少しさびしい気もする。
一人で行ったとして、もし知り合いがいると、わー、ぎゃーとなって、読書どころではない。もっとも、知り合いがいなくても、他のお客さんやお店の人の声が大きいから、いずれにしてもゆっくり読書どころではない。何かっこつけてんねんお前、ここはバルやとなって終わりだろう。
ああ、アンダルシア。

話がずれた。

お父さん役の話だった。

夫の職場は遠いので、全部歩くことはできない。
しかし、最初の数キロならどうだろう。
まだ暗いうちから出かけるため、朝からフレッシュなスタートがきれそうな気がする。
よい運動になるではないか。

考え直した私は、よし、やってやると夫に言った。

そんなわけで、先週から競歩のように数キロを歩いている。
途中、坂もあるので帰る頃には少し汗をかいているぐらいだ。


そして、今朝帰ってきたら、ドアが開かない。

何度押しても、うんともすんともいわないドアを前に考える。


まだ8時前で、外は暗い。
かばんに夢はいっぱい詰め込んでいるが、
それ以外には、例によってティッシュと現金数ユーロしかない。
これで夕方まではちょっと厳しい。

鍵を抜き、再度差し込んだ。
もしこれで開かなかったら、体当たり作戦に出よう。

すると、ドアも私のことをちょっと考えたのか、それとも体当たりされては困ると思ったのか、三度目の鍵の抜き差しでドアが開いた。

ふー!
ほっとして家の中に入る。

靴を脱ぎながら、思い出した。
そうだ、湿度だ。

ここ最近ずっと雨続きである。
雨のときは洗濯物が乾かないが、それ以外に
ドアが閉まらない、開かない問題があった。

どうやら、雨が続くと木のドアは膨らんでしまうようだ。
昔、留学生として初めてこの町に来たとき、滞在していた家に帰ろうと思ったら、外のドアが開かなくて驚いた。
何度やってもだめだ。鍵を間違えたのかと思った。
どうしようもないので、最終的にドアを叩いて助けを呼んだ。
そのときに教えてもらったのが、湿度のマジックだった。
雨のときには気をつけなさい、と言う。

気をつけなさいと言われたところで、開かないものは開かない。
どうするのかと聞いたら、なんのことはない。皆で押す、つまり力業だった。

その後、こんなに雨続きなことはしばらくなかったので忘れていた。

アンダルシア田舎では、ドアとまでもたたかわなければならないようである。




紅茶を飲んで一息ついていたら、ピンポンと音がした。

配達のお兄さんだ。


さっき、ドアが開かなかったことを思い出し、身構える。

もう一度ピンポンと鳴った。

「少々お待ちください!」

「おおよ!」


ドアノブをまわすが、開かない。

息を止め、右手に全神経を集中させたら、ぎりぎり開いた。

ドアの向こうにいたのは、箱を持って足踏みしているお兄さんだった。


ああ、これで3回目。

お兄さんに申し訳ない。



先日、そば粉を注文した。

箱を開けると、袋が破れていた。
目の前をそば粉が舞っている。

正確には、箱を開ける前から白い粉が玄関を舞っていた。
箱にも穴が開いていたからだ。

お店に連絡すると、袋が破れていたことがわかる写真を送ってくださいとある。

写真を送ると、謝罪の言葉とともに商品再送の連絡が来た。

数日後、再び同じ配達のお兄さんが来た。

ありがとうございます、とお礼を言い、箱を開けた。


これは、そばの実だ。


粉じゃない。

しかも500gもある。


こういう場合はどうしたらいいのかなと思ったが、とりあえずお店に連絡してみることにした。

「商品再送通知には、そば粉の写真が添付してあります。ですから、お送りしたのはそば粉のはずです」


届いたのが本当にそばの実である証拠写真を送れという。

なんだか私が嘘をついているみたいになってしまった。

何回か見たが、これは絶対にそばの実だ。

粉じゃない。

しょうがないから、また写真を撮って送る。

月曜日、「そば粉」を再送しますと連絡があった。

そして届いた、三度目の正直。


今度は粉!


今回こそは正真正銘の粉だった。

配達のお兄さんからしたら、なんで数日おきに注文をするのだ、しかも2回目からは小さい箱で、小分けにしすぎじゃないかと思っていたかもしれない。

でも、ジャイアンみたいなお兄さんはとても優しかった。

「ほらよ、荷物な!」

笑顔で階段をたたたっと駆け下りて行った。




先週は、ルイスの奥さんのぺパがレモンを持って来てくれた。
こないだルイスからもらったばかりだが、追加でとれた分らしい。

「今年はこれで最後だから!」

ありがたく頂戴する。


ブラックフライデーなる戦術にはまり、ネットで買い物をした。

外出する予定があったので、自宅配送ではなく、近くのお店の取り置きにした。

日本ならコンビニ受け取りが主流だろうか。


アンダルシア田舎では、金物屋受け取りになる。

いつものアンヘルのお店じゃなくて、新しい金物屋さんだ。

商品がお店に届きましたと連絡があったので、地図片手にお店に向かう。

先客がいた。

おじいさんは、ねじを購入していた。

金物屋さんでは、ねじを一本から購入できる。

おじいさんは二本購入することにしたらしい。

不思議そうな目で何度か私を見た後、おじいさんはねじをティッシュに包んで帰っていった。


さて、私の番。

「おはようございます。荷物の受け取りに来ました」

「ああ、今日届いたやつ?」

「はい、さっき届いたと思います!」

「あの、あれやろ? 〇〇(違うお店)のやんな!待っとけ!」

「あ、それじゃなくて、ZARAのです」

「ZARAか!君、名前は?」

「唐草です」

「かー!らー!くー!さー!そりゃ君、スペインの名前じゃねーな!!」

「ええ、違います」

お兄さんは上機嫌だ。

日本から来たので、と言おうとしてやめた。
この日はサッカーワールドカップのスペイン対日本戦の翌日だった。こんなときに日本から来たなどと言って、初対面のお兄さんの神経を逆なでしてはいけない。万が一、お兄さんの機嫌を損ねて荷物を受け取れなかったら、ここに来た意味がない。

このような小さい小さい草の根外交というか、日々のあまり内容のないたたかいや遠慮やめちゃくちゃに意味があるのかわからないが、まあ、こういう毎日の積み重ねも大事であると思うことにした。

おそるべし、ブラックフライデー。
この後サイズが合わなくて何枚か返品しにいき、
正気に戻った。


雨はまだ降っている。

降ったかと思えば、5分後には止む雨の機嫌を取りつつ、洗濯物を出したり入れたりしている。

さて、もう一杯紅茶を飲もう。


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