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「対人業務へ」を目指したい。なのに疑義照会だけ、対物のまま取り残されている。

2019年4月2日、厚労省が出した通知があります。通称「0402通知」(調剤業務のあり方について)。中身を一言でいえば、薬剤師を対物業務から解放して、対人業務に時間を使えるようにしようということ。ピッキングや一包化の補助は非薬剤師でもいい。その分、患者さんと向き合ってください、と。

その前の2015年「患者のための薬局ビジョン」から、国の旗はずっと同じです。対物から、対人へ。


…ところが、です。

一番“対人”なはずの行為が、一番“対物”のまま

疑義照会って、なんでしょう。

処方箋に疑問があったとき、薬剤師が処方医に問い合わせる。これは薬剤師法に定められた義務であり、医師と薬剤師が、一人の患者のために言葉を交わす行為です。

調剤の中で、これ以上に“対人”な瞬間はない。

なのに、その現場は——電話とFAX。

かけても出ない。保留で待たされる。診察中で折り返し。薬剤師は受話器を握ったまま、対物の時間に縛られている。

そして、これは薬剤師さんだけの問題じゃありません。

僕自身、眼科の開業医です。診察の途中で電話が入ると、目の前の患者さんから、一瞬、意識が引き剥がされる。電話が面倒なのではなく、目の前の人に集中したいからこそ、割り込みがつらい。——これは、薬剤師さんも医師も、たぶん同じなんです。

国は「対人業務に時間を使え」と言う。でも、その入口である疑義照会そのものが、対物時代のインフラで止まったまま、ずっと放置されてきました。

処方箋は「DRY」、疑義照会は「WET」

処方箋に書いてあるのはDRYな情報です。薬の名前と、量。

でも疑義照会で流れるのは、そこに書ききれないWETな情報——この患者さんは前回これで副作用が出た、家族構成が変わった、本当はこういう飲み方をしている。処方箋を眺めただけのAIには絶対に拾えない、現場の文脈です。

対人業務の核心は、このWET情報の交換にある。僕はそう思っています。


しかも、その果実は小さな薬局ほど届いていない

現場の実感を聞くと、対人業務が「充実した」と感じているのは人手のある大手が中心で、10店舗未満の小さな薬局では「あまり変わらない」という声が根強い。

理由は単純です。大手はタスクシフトを吸収する人員がいる。地域で踏ん張る独立薬局には、その体力がない。だから相変わらず、電話に追われている。

国の旗の恩恵が、いちばん必要な人に届いていない。

僕がやりたいのは、ここです。

こういう先生が、いるんです

疑義照会の電話を入れたとき、「よく気づいてくれましたね、ありがとう」と返してくれる先生がいます。薬剤師がどれだけ慎重に処方箋を読み、どれだけのヒヤリを未然に止めているか。それをちゃんとわかっていて、敬意をもって受け止めてくれる先生です。

そういう先生に当たったときの、薬剤師の安心感。僕は、これがいちばん大事だと思っています。

連携しているクリニックは、薬局から見ればまだほんの一部かもしれません。日々の疑義照会の総数からすれば、ごく一握り。

でも、それでいい。

大事なのは、件数じゃありません。「この相手なら、ちゃんと受け止めてくれる」とわかっている先生が、たとえ数軒でもいること。心理的に安全な相手が確かに存在すると知っているだけで、薬剤師さんの日々の心持ちは、ずいぶん違うはずです。

全部のクリニックをカバーする必要はない。一軒でも、二軒でも、「ここは大丈夫」と思える先生がいる。それだけで、十分に意味があります。

逆に、そうでない人を無理に説得する気はありません。そこは、もういい。

わかってくれる先生と、わかってくれる薬剤師。 その人たちが気持ちよく手を組める場所を、静かにつくりたいだけなんです。

そして、その安心は薬剤師さんの間で伝わっていく

「あのクリニックの先生は、疑義照会にちゃんと向き合ってくれる」

そういう評判は、薬剤師さんの世界で、静かに、でも確実に伝わります。同じ薬局の同僚へ。近隣の薬局へ。薬剤師会の研修の場で。「あそこは大丈夫だよ」と。

これは広告では絶対に作れない、現場から生まれる信頼の連鎖です。一人の良い先生が、一つの薬局を安心させる。その安心が仲間に伝わって、また次の薬局へ届く。小さな波紋が、少しずつ広がっていく。

仕組みは、ごくシンプルです。LINEのテキストで、非同期に。電話のように相手の手を止めず、手が空いたときに、ひとことで返せる。相手の時間を奪わないこと——それ自体が、ひとつの敬意だと思っています。

でも、NYAUW疑義照会は、電話を減らすための“機能”ではありません。患者のために、お互いを尊重し合える薬局と医師が集まる——その輪に入っていること自体が、ささやかな信頼の証になればいい。

いい先生と、いい薬局が、放っておいても自然と引き合う。そして、その評判が薬剤師さんの口から口へと、つながっていく。

そんな流れが、日本中に広がっていったらいい。そう思っています。

  


今日はここまで



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