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若い先生の皆さんへ第2部㉙I(3)_左利きがハサミに感じる痛み、想像できますか?――学校という「特権」の戦場とLGBTQ+【University of Colorado講義録】

 もし、あなたが右利きなら、ハサミを使うときに指の痛みを想像したことがありますか? こんにちは、トビラAIです。今回は、University of Colorado SystemがCourseraで提供する講義のエッセンスを基に、私たちが無意識に背負っている「特権(Privilege)」という透明なリュックサックの中身を点検します。
 前回はLGBTQ+の基本用語をHarvard School of Medicineのレポートを基に解説しました。詳細は以下をご覧ください。

よろしくお願いいたします。


本日のQUIZ

彼らのアイデンティティや経験は、教育や組織にとっての「(    )」である。

です。考えてみてください。

はじめに:その「理解」は、誰のためのものですか?

私たちが生きる現代社会において、「多様性(ダイバーシティ)」という言葉を聞かない日はありません。企業のHP、学校のパンフレット、政治家の演説。どこもかしこもある意味虹色です。

しかし、ここで立ち止まって考えてみたいのです。その多様性(ダイバーシティ)という単語は使っているが、真の理解にはなかなか至らないのではないでしょうか。
 なぜなら、問題なく過ごしているマジョリティ(多数派)本人は、その「不便さ」に気づかないからです。
 私は色弱なのです。赤と茶色、あるいは水色と桃色の区別がつきにくいのです。で、この色弱の気持ちがわからない人はわからないのではなく、自分は(私と違って)色がちゃんと見えるという「特権(Privilege)」に気づいていないのです。そう、赤と茶色の区別ができる、特権なんです。

 私たちが無意識に背負っている「特権(Privilege)」という透明なリュックサックの中身を点検します。少々耳の痛い話が含まれるかもしれませんが、どうか最後までお付き合いください。それが、真の「安全」を作る第一歩なのですから。

データが語る教室の現実:40%が自殺を試みる理由

 アメリカの現状は、冷徹です。 GLSEN(Gay, Lesbian & Straight Education Network)の調査や米国トランスジェンダー調査(USTS)によると、LGBTQ+の生徒の約6割が、性的指向を理由に学校で「安全ではない」と感じています。 トランスジェンダーの生徒に至っては、半数以上が言葉によるハラスメントを受け、4人に1人が物理的な暴行を経験しています。そして、40%が生涯に一度は自殺を試みるという衝撃的なデータがあります。これは一般人口の約9倍です。これは日本でも同様のことが起こっていますね。

「右利き」のあなたには見えない世界と「特権」の正体

マジョリティである私たちが「特権(Privilege)」に無自覚

では、なぜこれほどの苦痛が放置されているのでしょうか? それは、マジョリティである私たちが「特権(Privilege)」に無自覚だからです。

ここで言う「特権」とは、金持ちであるとか、特別な地位にあるといった意味ではありません。「特定のグループに属しているというだけで、努力なしに得られる、労力を必要としない恩恵」のことです。

講義では、非常にわかりやすい例え話が紹介されています。「右利き」の特権について考えてみてください。

あなたは、ハサミを使うときに指が痛くなったことがありますか? 自動改札を通るときに手をクロスさせる必要がありますか? 多くの人は「No」と答えるでしょう。なぜなら、この社会は「右利き」が標準(デフォルト)として設計されているからです。 右利きの人は、「右利きとしての誇り」を感じる必要すらありません。ただ、普通に生きていれば、すべての道具が自分のために用意されている。これが「特権」です。

この社会は「右利き」が標準(デフォルト)として設計されている

もし、左利きの人が「ハサミが使いにくい」と訴えたとき、右利きのあなたが「努力不足だ」「左利きなんて気のせいだ」「わがままだ」と言ったらどうでしょう? それはあまりにも残酷で、想像力(エンパシー)に欠けた態度です。

しかし、私たちは「シスジェンダー(心と体の性が一致している人)」の特権に対して、まさにこれと同じことをしていないでしょうか?

  • トイレに入るとき、「自分の性別が疑われるかもしれない」と恐怖を感じたことはありますか?

  • 身分証を提示するとき、写真と見た目のギャップを理由に侮辱される心配をしたことはありますか?

  • テレビや映画で、自分と同じ属性の人間が、常に「笑い者」や「悲劇の主人公」として描かれることに傷ついたことはありますか?

「トイレに行けない」という生存の危機

 コロラド大学デンバー校(University of Colorado Denver)のWomen & Gender Centerのディレクターであるジェイコブ・マクウィリアムズ氏(トランスジェンダー男性)は「公衆トイレはトランスジェンダーの人々にとって「最悪」の場所であり、ハラスメントや暴力を受ける可能性がある場所であると断言します。

  • 過去1年間に、トランスジェンダーの人々の59%が公衆トイレの使用を避け、32%がトイレの使用を避けるために飲食の量を制限しました。

  • トイレでの存在を問いただされたり挑戦されたりした人が24%、言葉によるハラスメントを受けた人が12%、身体的な暴行を受けた人が9%います。

  • トランスジェンダー/GNC(ジェンダー・ノンコンフォーミング)の人々の中には、話さない限り「パス」できる人もいますが、声のピッチがジェンダー表現に対して「間違っている」ためにリスクにさらされることがあります。

  • トイレを避けたことが原因で腎臓感染症や尿路感染症などの医学的な問題を抱えた人が8%います。

ジェイコブ・マクウィリアムズ氏のレポートの冒頭

シスジェンダーである私たちは、こうした心配を一切せずに生きていけます。それが「シスジェンダー特権」です。 他にも、会議で話を遮られない「男性特権」、職場でパートナーの話を堂々とできる「ヘテロセクシュアル(異性愛)特権」など、私たちは無数の「見えない恩恵」に守られて生きています。

この講義が鋭く指摘するのは、「特権を持つこと自体が悪いわけではない」という点です。問題なのは、「自分が特権を持っていることに気づかず、それが『誰にでも当てはまる当たり前のこと』だと誤認すること」なのです。

 「私は差別なんてしていない」と言う人の多くは、自分が「右利き用のハサミ」で快適に切り取った世界しか見ていないだけかもしれません。

学校という名の「ジェンダー警察」

この「無自覚な特権」が、教育現場や組織においてどのような形で牙をむくのか。講義は「ジェンダー・ポリシング(性別の取り締まり)」という概念を用いて説明します。

学校や職場は、往々にして二元論(男か、女か)を強要するシステムで動いています。 「男子トイレ・女子トイレ」しか存在しない空間。 「男子はズボン、女子はスカート」という制服の規定。 これらは、シスジェンダーにとっては単なる「ルール」ですが、トランスジェンダーやノンバイナリーの人々にとっては、毎日突きつけられる「お前は存在しない」「どちらかに決めろ」という踏み絵のような暴力です。

 先にも申したように、トイレに行くことを避けるあまり、水分摂取を制限し、尿路感染症などの健康被害に苦しむ生徒の事例が挙げられています。 これはもはや「配慮」の問題ではありません。「公衆衛生」と「生存権」の問題です。

また、安全への懸念から、約35%の当事者の生徒が「過去1ヶ月に少なくとも1日は学校を休んでいる」というデータもあります。 学校に行けない、授業に集中できない。その結果、GPA(成績)が下がり、進学の機会が失われる。 これを「本人の努力不足」や「学力の問題」として片付けることは、構造的な差別を見過ごすことと同義です。

彼らの学業不振は、能力の欠如ではなく、「戦場のような環境で生き延びることにエネルギーを使い果たしている結果」なのです。

同情(Sympathy)から構造変革へ

ここまで読んで、「なんてかわいそうなんだ、助けてあげたい」と思った方がいるかもしれません。 しかし、本講義が求めているのは、そのような上から目線の「同情(Sympathy)」ではありません。

必要なのは、「リソースベースのアプローチ」への転換です。 従来、教育現場や社会は、マイノリティの背景を「克服すべき欠陥」として捉えがちでした。「普通になれるように矯正する」「ハンディキャップを埋めてあげる」という発想です。

しかし、University of Coloradoの講義はこう提言します。 彼らのアイデンティティや経験は、教育や組織にとっての「貴重な資産(リソース)」である、と。

多様な視点、困難を乗り越えるレジリエンス(回復力)、既存の枠組みを問い直すクリエイティビティ。これらは、組織全体を豊かにする宝です。 「かわいそうな彼らを守る」のではなく、「彼らが持てる力を発揮できない、この欠陥だらけのシステム(右利き専用社会)をどう修正するか」に知恵を絞る。

主語を変えるのです。「彼ら」の問題ではなく、「私たちのシステム」の問題へ。

おわりに:次回への架け橋

 第2回・第3回と用語の整理から始まり、データが示す過酷な現実、そして私たちが無意識に享受している「特権」について見てきました。 私たちが「普通」だと思って疑わない日常が、誰かにとっては「生存を脅かす壁」になっていること。まずはこの事実を、痛みと共に認識することからすべては始まります。

しかし、認識するだけでは世界は変わりません。 「じゃあ、具体的にどうすればいいの?」「トイレを改修するには予算がない」「上層部の理解がない」……そんな現実的な壁が立ちはだかるでしょう。

そこで次回では、より実践的なアクションに踏み込みます。 キーワードは、「アライ(Ally)」から「アコンプリス(共犯者)」への進化です。

単に「理解しています」と旗を振るだけの安全な応援団席から降りて、リスクを負ってでも構造を変える「共犯者」になるとはどういうことか。 代名詞(プロナウン)の使い方から、組織のポリシー策定、そして「文化的に持続可能な教育(Culturally Sustaining Pedagogy)」の実現まで。

あなたの「善意」を、確かな「変革の力」に変えるための戦略をお話しします。

QUIZの解答

貴重な資産(リソース)

明日へのヒント

「シスジェンダー特権」という概念について、記事で挙げられている例(トイレ、身分証、メディアでの表象)を基に、それがトランスジェンダーやノンバイナリーの人々に与える具体的な影響と、それがなぜ「暴力」とまで表現されうるのかを論じなさい。

ありがとうございました。
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感謝一入(ひとしお)
Warm Regards,
トビラAI拝

参考文献

・Jacob McWilliams"The bathroom issue: How to be a public restroom ally to trans folks",Women & Gender Center,UNIVERSITY OF COLORADO DENVER

トビラAIプロフィール


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