釣れない夜と走る午後の島時間【島小②#39】/離島の小学校編Season2 39
2004年も2月に入りました。
船の時刻が変わり、島へ向かう時間にも少しだけ余裕が生まれます。
港では季節の漁が始まり、学校ではいつもの行事が進んでいきます。
穏やかで、変わらないように見える日々です。
けれどこのあと、子どもたちの学びが思いがけない形で反響として広がり、通信環境も大きく揺らぐことになります。
まさに急展開が待っています。
この回は嵐の前の静けさとも言える時だったのかと今なら感じます。
その一つ一つは、またこの先で書いていこうと思います。
1 イワシを追いかけた夜
1月の終わり、久しぶりに釣りに出かけました。
港にイワシが入ってきているらしい、それも脂がのって太っているという話を聞きつけ、教頭先生ともう一人の先生と一緒に竿を出しました。
こういう「いい話」は、たいていその通りにはいかないものです。
最初に2匹のイワシが釣れたときは期待が高まりましたが、そのあとはタカベばかりがかかりました。
タカベは関東では高級魚で、塩焼きにするとおいしいと聞きます。
ただ、自分には少し味が強く感じられて、どうにも好みではありません。
釣れてもそのまま海に返すことにしました。
結局、持ち帰ったのはイワシ2匹だけ。
宿舎に戻り、近くにいた猫に放り投げてやると、あっという間にくわえていきました。

冬にイワシが大漁、そんな展開になれば日記のいいネタになると思っていたのですが、そううまくはいきません。
それでも、港の空気の中で過ごした夜は、どこか満ち足りた時間でした。
2 30分遅れの船がくれる余白
2月に入り、本土と島を結ぶ連絡船の時刻が変わりました。
これまで16時15分発だった便が、30分遅れて16時45分発になりました。
この30分の差は思いのほか大きく、自宅で過ごす時間にゆとりが生まれます。
慌ただしく支度をして飛び出していたこれまでと比べると、ほんの少し生活のリズムがやわらぎました。
一方で、この変更に気づかず、以前の時刻のつもりで港へ向かう先生も出てくるのではないかと、なんとなく思っています。
こういう「ちょっとした変化」は、意外と日常に引っかかるものです。
そういえば、以前の時刻表では2月は16時発でした。欠航も多く、船に振り回されることも少なくありませんでした。
それを思うと、新しい船になってからはずいぶんと安定し、島と本土の距離が少し近づいたようにも感じます。
3 アワビ解禁、島の季節が動き出す
その日曜の夕方、時刻の変わった便で島に戻りました。
港から宿舎へ向かって歩いていると、顔なじみのおじいさんに声をかけられます。
「今日からアワビが解禁やけどな、今年は初日があんまりやったなあ」
その一言で、島の季節が動き出していることに気づかされました。
そうか、もうそんな時期かと、少し遅れて思い出します。
島の人たちは、素潜りで海に入り、ノミのような道具で岩からアワビをはがしていきます。
ここに来るまで知らなかった営みが、当たり前のように語られていくのが、この島での暮らしです。
昨年の送別会の頃、旅館で出されたアワビの踊り焼きを思い出しました。
殻の上で身が動く様子に少し戸惑いながらも、しっかりと味わった記憶があります。
刺身もいいですが、火を通した方がやわらかくなると教えてもらいました。
また近いうちに、どこかの席で出てくるのでしょう。
そんなふうに、食べ物を通して季節が巡っていきます。
4 雨に止められた大会、つながる地域
翌日は朝から雨になりました。
冬の雨にしては珍しく、午前中いっぱいしっかりと降り続きます。
午後に予定されていた持久走大会は、迷うことなく翌日に延期となりました。
天候ひとつで予定が変わるのも、この島ではごく自然なことです。
この大会は、一昨年までは駅伝形式で行われていました。
町内を1周し、たすきをつなぐリレーで、保護者もチームの一員として参加していました。
しかし、昨年からは形を変え、子どもたちだけで自分の目標を決めて走る持久走大会になりました。
保護者の高齢化という現実もあり、少しずつやり方を変えていく必要があったのです。
それでも、地域とのつながりは残されています。
当日は町内放送が流れ、沿道にはおじいちゃんやおばあちゃん、保護者の方々が応援に出てきてくれます。
車のほとんど走らないこの島だからこそ、学校行事がそのまま地域の行事として成立している。
そんな光景が、今も続いています。
5 走る子どもたちと、島の応援
翌日、持久走大会は無事に実施することができました。
昨年度と同じように、自分は最後尾の子どもについて一緒に走ります。
コースの途中には、あちこちに応援の人たちの姿があります。
普段は静かな道に声援が響き、その場所に差しかかると、子どもたちの足取りが目に見えて軽くなります。
少し苦しそうにしていた子も、応援の声を受けると表情が変わり、もうひと踏ん張りとスピードを上げていきます。
その変化を間近で見ながら、自分も同じように背中を押されている気がしました。
結果として、全員が自分で決めた目標タイムを上回ってゴールしました。
数字だけ見れば小さな達成かもしれませんが、その一人一人の走りには、地域のまなざしと支えが確かに重なっていました。
島の冬は、静かです。
けれどその静けさの中で、人と人との距離は、確かに近く保たれています。
ここまで読んでいただきありがとうございました。。
次回に続く・・・👇
前回の話👇
◆本シリーズについて(初めて読んでいただく方へ)👇👇
約25年前の2002年、船が生活のすべてを左右する離島の小学校に赴任しました。
予定通りにいかないことが当たり前の中で、学校と暮らしが地続きの毎日を過ごしていました。
そんな環境の中でも、子どもたちに自信をもたせたいと考え、総合的な学習の時間に取り組んでいました。
▶ 離島の小学校編Season1〜教室とくらしの物語
マガジンこのシリーズでは、当時の日記をもとに、島での仕事の大変さと、その中にあるささやかな温かさを綴っていきます。2年目2003年の、Season2(2年目)3学期のお話です。
※本文中の地名・固有名詞は一部仮名としています。
離島の小学校編Season2👇👇👇
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