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欠航の翌日、島は走り出した【島小#25】/離島の小学校編 25

冬休み中に開かれた一輪車大会が、島の子どもたちの年明けをにぎわせました。
その勢いのまま三学期が始まり、今度は持久走大会に向けて島の空気が少しずつ動き始めます。

しかし本番前日、思いもよらない出来事が港で待っていました。
冬の海と向き合いながら迎えた翌日、島の午後には、忘れられない光景が広がることになります。

前回の話👇

離島で勤務することとなった1教師の奮闘記です。
今から約20年以上前の2003年(平成15年)1月頃のお話です。

※注:本文中の一部地名や固有名詞等は仮名(かめい)にしています。

私が勤務したのはこんな島です。👇👇


1.新しい年を乗せて、島へ向かう

冬休みの一輪車大会が終わり、島にも静かな三学期がやってくる頃でした。
前の学期始め、欠航で島に渡れなかった苦い記憶があったので、今回は万全の態勢で昼の便に乗りました。

始業式の前日というものは、いつになっても緊張します。
島のメールアドレスは島でしか読めないため、机に向かってメールの返信をひとつずつ片づけながら、「今年はどんな実践ができるだろう」「学校をどう動かしていこう」と気持ちが引き締まっていきました。

1月1日よりも、1月8日の始業式のほうが“新しい年の始まり”に感じられたのは不思議です。
3学期、子どもたちとまた新しい景色を見に行こう。そんな思いで島に渡りました。


2.寒さと音楽と、朝のトラック

翌週から、恒例の「朝のかけ足」が始まりました。
気温こそ低いものの、走り出すと体の芯からじんわり温まってきます。
グラウンドをおよそ10周、ペースはまだ初日らしくゆっくりです。

走っているときには、軽快なBGMが流れます。
昨年度は『ロッキー4』の“Burning Heart”。
今年は気分を変えて、80年代のヒーローものはどうだろう──そんなことを考えながら走りました。
ただ、流した瞬間スクールウォーズが頭をよぎりそうで、それはそれで悩ましいところです。

TVドラマ「スクール・ウォーズ」(あまり持久走と関係ない)

翌朝はさらに寒さが厳しく、ときどき雪がちらつきました。
トラックを半周すると強烈な向かい風。
前を向いて走ると呼吸が止まりそうになるほどで、思わず笑ってしまうくらいでした。

夏の暑さと冬のこの風。
当時,太陽光発電と風力発電をすれば,電気代が節約できるのでは?と真剣に考えていました(笑)


3.走る距離をつくるという仕事

持久走大会に向けて、今年は大きな変更を加えました。
これまでの駅伝方式をやめ、一人ひとりが“自分の目標タイム”と向き合う大会にしたのです。
そのためには、距離測定が欠かせません。

島には車がほとんど通らないので、検尺器をコロコロ転がしながら道路を歩くという、離島ならではの測り方ができます。
低学年は約1キロ、高学年は約2キロ。
そのルートを「花子」(一太郎とペアであった図形作成アプリ)で地図化し、職員会議用の資料に仕上げるまでがひと仕事でした。

1月末の全校体育では、町内を走る試走を行いました。
自分で立てた計画ながら、私は伴走係です。
本番を前に密かに気持ちを引き締めていました。


4.冬の港で、時間が止まった

持久走大会前日の2月2日(日曜日)。
私はいつものように16時の3便に乗るつもりで、少し早めに港へ向かいました。
到着したのは15時20分頃。
すると、すでに教頭先生が来ていて、「今日は早いですね」と声をかけながら一緒に船を待つことにしました。

3便は、島を14時半に出てこちらへ向かってくるはずです。
しかし、待っても待っても船の影が見えてきません。

「波が荒れて遅れているんですかね」 そんな雑談をしながら、冬季特別勤務で2便に乗って先に島へ行っている先生へ電話をしてみました。
「3便、出ましたか?」
「たぶん…」
どうもはっきりしません。

冬季特別勤務の解説については,この回に👇

念のため、島の用務員さんへ電話を入れると── 返ってきた言葉は、思ってもみないものでした。

「3便は欠航していますよ」

さらに詳しく聞くと、なんと1便も欠航しており、この日は2便だけが辛うじて出たとのことでした。

ちょうどその頃、同じ3便で島へ渡る予定だった校長先生と養護の先生が港に到着しました。
私と教頭先生で状況を伝えると、校長先生はすぐに島へ電話をかけ直し、2便で島に渡っている先生に翌朝の自習内容を急ぎで連絡する段取りをしました。

見た目には大きく荒れていない海なのに、実際には島と港を切り離すほどの波が立っていたのです。
自然には逆らえません。
島が目の前にあるのに渡れない──そんなもどかしさを胸に、私たちはその日、自宅へ引き返すしかありませんでした。

往復3時間。
せっかく持ってきた一週間分の食料が、いつもより重く感じられた夕暮れでした。


5.走る姿が島をあたためた日

翌朝の1便は島のすぐ近くは結構揺れました。
島へ渡り、ほっと息をついたのも束の間、今日はもう本番です。
持久走大会は 5校時 に設定されていました。
冬の日差しが少し傾き始める時間帯。
島の午後は、子どもたちにとっても大人にとっても特別な走る時間になります。

今年度から、持久走大会のあり方を大きく変えました。
それまで行われていた駅伝形式は、一人が走る距離が短く、人数を補うために保護者──特にお母さんたち──に参加をお願いすることも多かったと聞きます。
しかし子どもたちの年齢も上がり、保護者の負担も小さくない。
子どもたち自身の体力づくりを中心に据えるべきではないか──そう考えて、思い切って 個人走・目標タイム制 に改めました。

そのために1月から距離を測り直し、高学年コースと低学年コースを新たに設定し直したのです。
島の道は狭く短いですが、だからこそ「子どもたちが自分の力と向き合う」コースが必要だったのです。

ただ、駅伝の頃から続く「島らしい良さ」はどうしても失いたくありませんでした。
漁協の町内放送で大会を告知してもらい、沿道にはおじいちゃんやおばあちゃん、保育所の先生や小さな子どもたちまで、たくさんの島民が応援に出てきてくれます。
島全体が、子どもたちの挑戦を見守る午後なのです。

そして5校時。
私は最後尾を走る子に寄り添いながら、ゆっくりとコースを進みました。
カーブのたびに、「がんばれ〜!」「あと少しじゃ」と声が飛びます。
小さな島の道が、まるで大きなマラソン大会のようでした。

子どもたちは自分で宣言した目標タイムを胸に走りました。
結果、全員が目標タイム以内で完走。

なかには、わずか3秒差という“奇跡の精度”でゴールした子もいて、思わず拍手が広がるほどでした。

島の冬風は冷たくても、そこに集う人たちのまなざしはあたたかいものがありました。
大会が終わったグラウンドには、「やりきった」という子どもたちの充実した表情が広がっていました。

▶離島の小学校編26へ続く

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