坂道ダッシュ!冬の一輪車大会へ【島小#24】/離島の小学校編24
冬休みの日直で島へ渡ったあの日、子どもたちは寒さの中でも一輪車の練習を続けていました。
その姿を思い返しながら迎えた年明け。
いよいよ、3連覇がかかる一輪車大会が目の前に迫っていました。
前回の話👇
離島で勤務することとなった1教師の奮闘記です。
今から約20年以上前の2002年(平成14年)12月〜2003年(平成15年)1月のお話です。
※注:本文中の一部地名や固有名詞等は仮名(かめい)にしています。
勤務していたのはこんな島です。👇👇
1.冬休みの向こうに見えた“最後のチーム”
12月が近づくころ、教室の空気が少しだけピリッとし始めていました。
理由は、市の一輪車大会がすぐそこまで迫っていたからです。
島の学校は、わずかな人数ながら団体戦3連覇中。
「今年も勝ちたい」という思いと、「もう後がない」という緊張が、子どもたちの胸の奥で静かに揺れていました。
というのも、来年は6年生と3年生でチームを組むことになるため、今の5・6年メンバーで挑めるのは今年が最後。
高学年の部として組める人数とこの仲間で走るリレーは、これで本当に終わりなのです。
島では、一輪車は特別な乗り物ではありません。
車の通らない道だからこそ、登下校は一輪車。
釣り竿を持ったまま港へ向かったり、雨の日には傘を差して器用に漕いだり──そんな日常の延長線上に、彼らの“強さ”が育ってきました。
そして、今年の大会にはいつも以上の期待がかかっています。
子どもたちの自信にもつながりますし、試合当日には保護者が漁船で応援に来るほど、周りの期待も大きいのです。
大人たちの思いも、冬の風と一緒に子どもたちの背中を押していました。
だからこそ、ただの“日常の延長”では終わらせたくありません。
全校体育の時間、そして体育のない放課後も、タイムトライアルを中心に大会仕様の練習を重ねていきました。
どうなるかは誰にもわかりません。
けれど、できるだけのことをして、本番を迎えたい。
子どもたちの表情には、そんな決意がそっと宿っていました。
2.島だからできる、冬のロード練習
ある日の体育、5・6年生を連れて、学校の外へ出ることにしました。
もちろん、移動手段は一輪車です。
なにしろ、車の走っていない町だけに交通事故の心配がありません。
島だからこそできる、ちょっとした特別な練習です。
私は自転車にまたがり、子どもたちの後ろを追いかけながら、橋へ向かいました。
学校から5分ほどで、隣の小さな島へと続く橋に着きます。
その橋を渡りきったところは、緩やかな下り坂になっていて、そこから上へ向かって続く坂道があります。
この坂道こそ、今日の練習のポイントでした。
一輪車で坂道を“下から上までのぼる”── シンプルですが、バランスも力も必要な、なかなかのトレーニングです。

「よーい、スタート!」 子どもたちが一斉に踏み出すと、冬の冷たい風を切りながら、黙々と坂をのぼっていきました。
タイムを計っていると、風で耳が痛くなるほどでしたが、子どもたちはどこか楽しそうでした。
島の外の景色を感じながらの練習は、子どもたちにとっても新鮮だったのでしょう。
いつもの校庭とは違う空気が、少しだけ気持ちを軽くしてくれているように見えました。
3.銀世界の朝、いよいよ本番へ
年が明けて,大会当日の朝。
冬休み中のカーテンを開けると、一面の銀世界が広がっていました。
もし中止になれば連絡網でまわってくることになっていたので、10時までは自宅で待機。
けれど、いつまで経っても電話は鳴りません。
どうやら予定どおり大会は行われるようです。
ほっとしながら、まずは港へ向かいました。
大会会場へ向かう保護者と子どもたちを迎えに行くためです。
港は県の南部にあるため、車を走らせていくと、道沿いの雪がだんだんと少なくなっていきました。
自宅付近よりも南へ下りていくぶん、景色の白さが少しずつ薄れていく──それだけの、シンプルな冬の変化でした。
港で保護者と子どもたちを迎え、昼食を済ませてから会場へ。
寒風が吹く中、いよいよ大会が始まりました。
保護者と本土にいる先生方全員の応援の中,子どもたちは練習の成果を出すべく懸命に走り出します。
個人種目では、優勝・準優勝のワンツーフィニッシュ。
子どもたちの頑張りがはっきりと結果に表れた瞬間でした。
しかし・・・4連覇がかかった団体戦リレーでは、惜しくも入賞を逃してしまいました。
敗因はいろいろあるのでしょうが、最大の理由は一輪車の“車輪の大きさ”でした。
個人戦は障害走なので、小さな車輪が軽快で有利な場面もあります。
ところが、団体戦リレーは純粋なスピード勝負。
ここでは、大きな車輪が圧倒的に有利です。
優勝校は、リレーメンバー全員が大きな車輪の一輪車をそろえていました。 その差が、そのまま結果に出てしまったといえます。
とはいえ、終わったものは仕方がありません。
子どもたちは本当にベストを尽くしました。 雪の朝から始まった一日は、悔しさも誇らしさも含めて、“いい思い出”として心に残ることでしょう。
4.大人たちの夜に灯った、子どもたちの余韻
大会が終わったあとの夜、応援に来ていた同じ学校の先生方と新年会に向かいました。
本土の先生ばかりなのに、「本土で一緒に飲むのは初めて」という不思議なメンバーです。
繁華街の焼肉店に着くと、店先から温かな湯気がふわりと流れ出てきました。
冷えた体に、その匂いだけでほっと力が抜けるようでした。
「今日はお疲れさまでしたね」
「子どもたち、よう頑張ったですよ」
そんな会話を交えながら、豚トロを初めて口にしました。
噂には聞いていたけれど、想像よりもずっとおいしくて、思わず笑みがこぼれました。

一輪車、冬の坂道、銀世界の朝、港、応援の漁船── そのひとつひとつが、煙の向こうで小さく輝いて見えました。
こうしてこれまでの大会までの毎日を思い出しながら,長い一日が、静かに、あたたかく終わっていきました。
もうすぐ,怒濤の行事ラッシュになる3学期の始まりが近づいていました。
▶離島の小学校編25へ続く・・・👇👇
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