年の瀬、冬の航路を行き返す【島小#23】/離島の小学校編 23
スプラッシュマウンテンのような荒れた海を越えた終業式の日。
それから間もない年の瀬には、冬の海が嘘のように穏やかで、島が「またおいで」と手招きしているように感じられました。
冬休みには日直で島へ渡る日もあり、そして私は、この冬の海をもう一度渡ることになります。
前回(伊勢海老)の話👇
離島で勤務することとなった1教師の奮闘記です。 今から約20年以上前の2002年(平成14年)年末のお話です。
※注:本文中の一部地名や固有名詞等は仮名(かめい)にしています。
私が勤務していたのは,こんな島です。👇👇
1 年末の島は、小さな仕事の山
終業式が終わって数日。
久しぶりの出勤は“日直”という名の、島に戻る小さなきっかけでした。
せっかく行くのだからと、私はこたつを抱えるようにして港へ向かいました。
冬の島暮らしにとって、こたつは“設備”ではなく“必需品”です。
大きくて扱いにくい箱を抱えながら、「これで少しは冬が過ごしやすくなるだろうか」と、そんなことを考えていました。
島に着くと、すぐに前日の先生からの伝言が待っていました。
教育委員会へ修学旅行の補助金申請の明細を至急送ってほしいとのこと。
朝は子どもたちの一輪車の練習も見ていたので、明細が完成したのは昼過ぎでした。
FAXを送り終えたとき、冬の光はすでに午後の色に変わっていました。

午後は職員室で、いつものように細かな仕事が積み重なっていきました。
文書を整理し、そのあと自分のパソコンの内蔵ドライブを、 CD の書き込みができる“コンボドライブ”に付け替えました。
同時にライティングソフトもインストールします。
これまでの外付けCD-R だけでは、どうしても不便でした。
今回のドライブは RW にも対応しているので、データを RW で持ち運べそうです。
16MB のメモリースティックでは容量が足りなかった・・・
そんな2002年らしい小さな事情を思い出しながら、黙々と作業を進めました。
気づけば、インターネットは“仕事納め”のように16時過ぎで切断され、 私は教室でひとり、子どもたちの作品をスキャンし続けていました。
窓の外はすっかり夜。
19時を回ってから宿舎に戻り、こたつの組み立てをし、年賀状をつくり、録画番組をDVDに移す作業までこなしました。
日直当番は“当番”というより、いつもの生活がそのまま延長されたような一日でした。
2 冬の二便、ただ一人の帰路
翌朝は、前日の慌ただしさが嘘のように澄んだ空でした。
年の瀬とは思えないほど優しい陽気で、海も静かにゆれています。
この日は、いつものように朝一番の便では帰らず、 宿舎の片づけを少しだけしてから帰ることにしました。
“大掃除”というほどではありませんが、 棚を拭き、いらない荷物をまとめ、焼却場へゴミを運び、空き缶を出す……
そんな小さな作業を終えると、宿舎にはもう誰も残っていませんでした。
どうやら、この日の二便で帰るのは私ひとりだけのようでした。
港へ向かい、静かな船に乗り込んだとき、ふと数日前の海を思い出しました。
あの“スプラッシュマウンテン”のような荒れ狂う波の上を、必死で越えていった冬の海。
本当に海の表情というものは、日によってまるで違います。
荒れている日は、自然の力に圧倒されるほどの驚異を感じるのに、今日の海は、まるで別人のように穏やかで、こちらの肩の力までそっと抜いてくれるようです。

同じ海なのに、これほど違う顔を持つ・・・
離島で暮らすということは、毎日その表情の変化に寄り添うことなのだと、海を眺めながらあらためて思いました。
本土の港に着くと、校長先生が待っておられました。
頼まれていた荷物をお渡しし、少し会話を交わす。
年末の冷たい空気の中で、そのささやかなやり取りが 不思議と気持ちを整えてくれるようでした。
3 大晦日の小さな往復
その数日後。
12月31日の朝。
私は再び港に立っていました。
理由は・・・忘れ物です。
総合的な学習の時間のまとめをしていたとき、子どもたちのデータが一人分だけどうしても見つかりませんでした。
あの子のページがなければ、図鑑は成立しない。
年が明ける前にどうしても見つけたかったのです。
「今日中に行って、今日中に帰る。」
そう決めて、朝一番の船に飛び乗りました。
島に着くと、二便まで出航までのタイムリミットは,わずか一時間。
その短さは、冬の島では“挑戦”にすら思えるほどです。
私は学校に走りました。
職員室の棚、引き出し、作業机・・・。
息を整える間もなく探し回り、ようやく、見つけた瞬間は胸の奥がじんわりと温かくなりました。
宿舎にも寄りました。
玄関に鍵がかかっている宿舎を見るのは、久しぶりのことでした。
ふだんは誰かが残っているので“閉まっている宿舎”という存在に、妙な年末感を覚えました。
置きっぱなしだったノートPCを抱え、荷物をまとめ、再び港へ。
二便に間に合うように歩きながら、冬の風が頬に刺さりました。
気がつけば、本土に戻ったのは昼。
半日だけの“年末の帰島”。
それでも、あの1人分のデータが手元にある安心感は、何よりも大きいものでした。
資料を抱えて船を降りると、年の瀬の空気がすっと肌を冷やしました。
この冬休みのうちに、図鑑はできるところまで私が整えておくつもりでした。
子どもたちが戻ってくるあの教室で、また一緒に続きを紡いでいくために。
▶離島の小学校編24へ続く
これまでの話は,離島の小学校編マガジンで(※更新中)👇👇
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